ネットで有名な「オフチョベットしたテフをマブガッドしてリット」した料理を食べてきた
こんにちは、Togetterオリジナル編集部のToge松です。今日は中目黒駅に来ています。

本日、中目黒を訪れた理由は、「オフチョベットしたテフをマブガッドしてリット」した料理を食べに来たからだ。
え、意味がわからない…? ネットではミーム的に有名だと思っていたが、知らない人も多いかもしれない。食事に誘った友人も若干イラッとしていた。

「オフチョベットした~」というワードは、2019年に放送されたテレビ番組『相席食堂』で出てきた一節だ。
「インジェラ」というエチオピア料理のレシピを紹介する際、現地の番組制作会社から届いた日本語訳をそのまま掲載したため意味がまったく伝わらず、当時大きな反響を呼んだ。
私は以前からこの「オフチョベットした~」という工程で作られる「インジェラ」を食べてみたいと思っていた。
今回、都内で食べられる店があると知って、中目黒にあるエチオピア料理店「クィーン シーバ 」にやってきたのだ。

音楽フェスとも縁が深い「クィーンシーバ」
「クィーンシーバ」の開業は1990年。日本におけるエチオピア料理店の草分け的存在として知られている。音楽好きの友人によると、「フジロックのフードブースに毎年出てたお店」としても有名らしい(現在は出店していない模様)。
地下1階にあるお店は、エチオピア由来と思われる装飾がいっぱいでエキゾチックな雰囲気。
今回は予約して行ったが、来店後すぐに満席になった。騒然とした感じではなく、落ち着いて会話を楽しめる素敵な空間だった。

メニューブックには多彩な料理が書かれていたが、今回の目的は「インジェラ」なので「エチオピアントラディショナル盛り合わせ」というコース(1名3630円※税込)を注文した。

個性的ながら食べやすいエチオピア料理
コースは全8品。サラダ、サモサ、チキンとヤギの串焼き…と、順番に料理が提供される。
サモサは、レンズ豆などを具材に詰めた揚げ餃子のような料理。お店では「エチオピア風春巻き」と紹介していたが、味も見た目もインド料理で見かけるサモサとよく似ている。
串焼きはチキンもヤギも美味しかった。ヤギ肉は羊肉に似て風味に独特のクセがあるが、スパイスとほどよく調和していて食べやすい。
肉の間に挟まれた長ネギがネギマみたいで、肉との相性もピッタリだった。

串焼きをいただいた後、いよいよメインディッシュの登場。見知らぬ料理が盛られた大きな皿が出てきた。
皿には「エチオピア風シチュー3種」と「インクラル」が盛りつけられ、みんなでシェアするらしい。
そして、これらを食べるために欠かせないエチオピアの主食「インジェラ」と、現地ではパンという意味の「ダボ」も一緒に出てきた。


いよいよ「インジェラ」を食べる
初めて見る料理ばかりで戸惑っている我々を見て、お店のスタッフさんが料理を紹介してくれた。
それぞれの料理名は以下のとおり。どれもスパイスたっぷりらしい。

さらに各料理の内容と味は以下のとおり。エチオピアでは、これらの料理を「インジェラ」と一緒に食べるそうだ。
カイワット:ビーフの辛口シチュー。この中で一番辛い
ヤベグアリチャ:ラムのシチュー。辛くない
ミスール:レンズ豆のシチュー。辛くない
インクラル:エチオピア風スクランブルエッグ。辛くない
物は試しだ、さっそく食べてみよう。
インジェラはくるくるとロール状に巻かれているので、適当なサイズにちぎり、手巻き寿司みたいな感覚で料理を包んで食べてみた(実際はつけて食べるのかもしれない)。
…おお、これは不思議な味だ…!!!



まずインジェラ単体の味でいうと、第一印象は「酸っぱい」だ。
インジェラをつくる工程が「発酵」を経ているためで、テフ(インジェラの主原料となる穀物)を何日もかけて自然発酵させることで、乳酸菌による酸味が生まれる。ヨーグルトやザワークラウトといった発酵食をイメージすると分かりやすい。
また、乳酸菌由来による生地内の気泡をつぶさないよう丁寧に蒸し焼きにするため、インジェラの表面には無数の細かい凹凸ができる。そのためモッチリしつつもシュワッと軽い口当たりで、舌の上で溶けていくようだ。

この独特な風味と食感を持つインジェラに、エチオピア風シチューのうま味や辛味が混ざり合うと、口の中はお祭り状態になる。
「カイワット」はこってりとした味わいで、シチューの中で一番辛い。逆に「ヤベグアリチャ」「ミスール」「インクラル」はどれもマイルドな味わいだが、それぞれラム、レンズ豆、卵が主役なので風味が異なる。
自然と「カイワット→ミスール→カイワット→インクラル」などと三角食べのような現象が起きていた。
個人的には「カイワット」と「インクラル」を一緒にインジェラに包んで食べるのが一番のお気に入りだった。

インジェラってどうやって作るの?
インジェラの作り方を解説するためには、冒頭で出てきた「オフチョベットしたテフをマブガッドしてリット」について説明しなくてはいけない。
それぞれの言葉の意味は『相席食堂』で取り上げていたが、以下の通りとなる。
オフチョベット:粉末状にすること
テフ:イネ科の植物でエチオピアの主食。栄養豊富でスーパーフードと言われている
マブガッド:水と混ぜること
リット:(上記でつくられた)インジェラの素となる生地
要は「粉末状にしたテフを水と混ぜて生地にする」ことを指すようだ。
後でお店の方から聞いたのだが、エチオピアの公用語「アムハラ語」の発音をカタカナで表記すると、「オフチョベット~」といった少し変わった書き方になってしまうのだそう。
レシピはさらに「アブシィト(酵母)」を加えて発酵させ、「ミタッド(土鍋)」で焼くらしい。実はものすごく手間ひまをかけた料理だった。
また、「ダボ」はテフと大麦、スパイスを混ぜて焼いたパンの一種。味も通常のパンに似ているが、スパイスの香りが鼻を抜ける感じで、同じくスパイスたっぷりのシチューと相性バッチリだ。

メインディッシュを食べ終えた後は、デザートとコーヒーで締めて終了。友人も満足そうで良かった。
余談だが、コースの最後に出てきたコーヒーに、見慣れない草が入っていた。この草がコーヒーに柑橘系っぽい爽やかな風味を与え、スゴく個性的な味わいだ。
スタッフさんに聞いてみると「ティナダム」というハーブの一種で、コーヒーで客人をもてなす「コーヒーセレモニー」という文化を持つエチオピア独特のスタイルらしい。

みなさんも話のタネに、ぜひ一度「オフチョベットしたテフをマブガットしてリット」した料理を食べてみてはいかが。
奥深い未知なるエチオピアの食文化に、ズッポリとハマってしまうかもしれない。