「本当は脱ぎたくなかった」とか言われても、俺だって本当は働きたくないよ。

労働において「本当は脱ぎたくなかった」なんてどうでもいい

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↑吉岡里帆が本当はグラビアの仕事が嫌だったのかなど、どうでもいい話だ。この世の中にやりたい事だけやっていれば成立する仕事などひとつもない。

「やりたくない事だけど仕事だから仕方なくやった(やらされた)」。社会人でこのような経験を持たない人間など男女関係なく誰一人として存在しない。人によってはグラビア撮影もそのひとつだろう。私だって本当はそもそも働きたくないのに働かされている。私たちは働かされた。5000兆円欲しい。

グラビア撮影は女優の仕事として一般的に想定内の仕事だ。求められることに不自然さはない。どうしても嫌なら仕事を断ればいい。それではライバルたちに遅れを取るといわれても、それは求められる業務で実績を出せなかったのだから当たり前だ。私だって特許出願のノルマなどやりたくないけれど、やらなければ査定を落とされ出世を遅らせられる*1。

それでもどうしてもやりたくないというのであれば、仕事を辞めることだ。仕事を変えることだ。人は仕事を選ぶとき「やり甲斐」「賃金」「精神的報酬」「仕事のキツさ」「将来性」「世間体」その他もろもろの条件を加味してその仕事を続けるか否かを選択する。たとえグラビア仕事はやりたくなくても他の部分で天秤のバランスが取れていたからこそ、彼女たちは女優仕事を続けるという選択を自らの意思で行ったわけだ。私も金のためにやりたくもない仕事を嫌々続けるという選択を行っている。そんなの社会人であれば誰だって同じである。私たちは働かされた。5000兆円ほしい。

それを後から「本当は脱ぎたくなかった」等と言われても知らんがな。なんの同情もできない。そこまで嫌なら辞めればよかった。それだけの話だ。じゃあ私生徒会行くね。




パワハラがあったなら話はまったくちがう

…と、ここまでは事務所や関連会社にまったく落ち度がなかった場合の話。事務所や関連会社のパワハラにより現場で契約や打ち合わせにない過激な撮影が行われたり、脅迫されたり、そもそもグラビアが契約にない仕事だったりした場合には話はまったく変わってくる。これは紛うことなきブラック労働案件である。一刻も早く労基所に駆け込んで欲しい。

芸能界/性労働界隈にブラック労働が蔓延しているという話はしばしば耳にする。であればこれらブラック労働を撲滅するために業界は必要な改革を行うべきだろう。

たとえばグラビアのような揉めそうな業務内容に関しては業務範囲を契約書にキッチリ文書化しておく。水着はあるのか?あるとして露出はどこまでが限度なのか?掲載媒体はどこなのか?これらをキッチリ双方合意の上で捺印し、違反があれば即労基に駆け込めるようにしておく。

無駄に長くて誰も読まない、トラブル防止のためだけに存在する不動産やソフトウェアライセンスの契約書のようになってしまうだろうが仕方ない。実際問題こうした揉め事に発展しやすい契約について、一般社会は現状このようにして対応している。

ジャニーズ事務所の未成年への性的搾取が許されないのもこの理由に拠る。ジャニー氏への個人的な性的奉仕など労働契約に存在するわけがないし(したら法廷ものだ)、奉仕した子供を優先的に出世させていたというのであればド直球のセクハラ/パワハラ案件である。弁解の余地はない。

だがこの場合でもこれはあくまでもブラック労働の問題だ。性労働が悪だったという話ではないだろう。


未成年の場合はどうする?

難しい問題だ。意見が割れまくるだろう。

これは要するにパターナリズムの線引きの問題である。現代社会は個人がある程度の結果責任を引き受ける事で自由意志による人生選択可能な自由主義システムで運営されている。

この自由意志の前提となるのが「判断能力」だ。正しい判断を行うためにはこの社会に対するそれなりの知識/理解/洞察が必要となる。未成年はこれが不充分だとみなされているからこそ、喫煙/飲酒/選挙権等の自由や権利が制限されているわけだ*2。

未成年は自由意志を行使不可能なのであれば、私が最初に書いた「自らの意志による職業選択」は成立しない。ゆえに未成年には芸能界での労働を禁止するなど、大人よりも手厚い保護や規制が必要となるだろう。

それでは未成年を判断能力充分と判断する線引きは、どこに引くのが適切なのだろう?個人的には18歳(高校卒業)で必要充分、12歳(小学生卒業)では早すぎ、15歳(中学卒業)でグラビア活動禁止など一定の制限付きで芸能労働解禁あたりが適切と考える。だがこの判断は人に拠りまったく異なるだろう。


ネットにデジタルタトゥーが残されてまうんやが?

契約書にその旨を明記し、OKを出した人間だけと契約すればよろしい*3。



世間は性労働をあまりにも特殊な労働とみなしすぎている

ここまでグラビア女優の「本当は脱ぎたくなかった」問題について私見を書き連ねてきた。私の見解すべてに通底しているのは徹頭徹尾「これは労働問題である」ということだ。

他のすべての労働問題と同じように本人の意思を尊重し、セクハラ/パワハラを撲滅し、健全な労働環境を構築する。未成年労働者については保護のため一定の制限を課す。これら労働の場として当たり前の環境を構築する。

性労働だからといって特別な配慮をする必要はなにもない。私が考えるにこの世間は、性労働をあまりにも特殊な労働とみなしすぎているのではないだろうか。


【ブコメを受け追記 2023/6/17 12:30】

「本当は脱ぎたくなかった」とか言われても、俺だって本当は働きたくないよ。 - 自意識高い系男子

本件には「グラビア撮影は女優の仕事として一般的に想定内の仕事だ。求められることに不自然さはない」という社会通念自体がおかしいよね、って批判もありますぞ。この辺は世の中が急速に変化しているところ。

2023/06/15 10:11
b.hatena.ne.jp
「グラビア撮影は女優の仕事として一般的に想定内の仕事だ」について↑の id:rci のようなコメントを多数いただいているけれど、これはその通りだろうと私も思う。

今回の私の記事は女優のグラビア仕事は「正当な業務」の範囲内だろうという現時点での世間の空気を前提にしたものだけれど、グラビアの女優業務としての妥当性には疑問の余地があると私も思う。今後も検討されていくべき課題だろう。不適当だという話になれば、今回私が冒頭に書いた自己責任論は当たらない。第2章の不当契約セクハラパワハラ理論が適用され、そんなわけわからん仕事やらせるヤツが一方的に悪いという話になる。


ただ難しいのはグラビアって要は営業活動なんだよね。グラビアという紙面を利用した広告枠みたいなもんで、実際名を売るのに多少の効果はあるだろう。仕事とまったく無関係というわけではない。プログラマがやきそば焼かされる話とは全然わけがちがう。

グラビア仕事を社内宴会芸に喩えるコメントも散見されたがこれも的外れだ。グラビア女優が媚びを売らされるのは宴会芸における部長ではなく「市場」である。その意味でグラビア女優にセクハラ/パワハラしているのは市場、すなわち社会すべてだという見方もできる。社内部で完結せず直接売り上げが自分に跳ね返ってくるゆえ、この「顧客(=市場)」からの「セクハラ」は異常に対処が難しい。ここは「自分自身が商品」という人気者商売特有のつらいところだろう*4。


このように考えたときグラビアを利用するライバルよりも、利用しない女優が不利な立場に立たされてしまうのはどうしようもない。そのうえで「グラビアをやらない」という選択肢を、脱ぎたくない個人*5がもっと当たり前にやりやすい世間や業界の空気が醸成できればいいよな。半強制的にやらされることなくさ。

*1:契約時このような仕事があるとはひとことも説明されなかった。

*2:犯罪者の精神疾患が認められると刑が軽くなるのも判断能力を喪失していると考えられるからだ。

*3:これも先に書いた「揉めそうな業務内容」のひとつだ。

*4:グラビアを利用する女優はある意味「チート」しているという見方もできる

*5:女優だけでなく女性ミュージシャンや女性声優、女性アイドル、男性のそれも含めという意味で「個人」と書いた。