The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

不安と期待でタイトル負け? モンスターズ/地球外生命体

 大予算大スター出演というのが「ウリ」になればその逆もありで低予算無名俳優のみ、というのもまた作品のウリとなりうる。
 低予算映画で話題のものというのは「こんなに凄いのに金かかってないのか!」という驚きがある。少し前まではオーストラリア映画「マッド・マックス」が「もっともコストパフォーマンスの高い映画(少ない制作費でたくさん稼いだ作品)として知られていた。それを越えたのが1999年の「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」でここからおもにホラー映画において「POVポイント・オブ・ビュー」と呼ばれる登場人物が劇中でカメラ回してて、その視点で描かれる物語、というのが流行った(元祖、かどうかは知らないがこの手法はイタリアのモンド映画「食人族」が有名で僕はこの形式で取られる作品を食人族スタイルの映画と勝手に呼んでいた。最近POVという言い方を知った)。有名どころではゾンビ映画の神様ジョージ・A・ロメロ御大も「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」でこの方式を取っているし、怪獣映画では「クローバーフィールド」がこの形式だ。
 本作「モンスターズ/地球外生命体」も低予算映画であるが、厳密にはこの形式ではない。が、当初はこの形式で取られるはずだったそうで、また、低予算ゆえカメラが不安定というのもあって感覚的には近い。

物語

 地球外生命体の痕跡が発見されNASAは探査船を送ったがサンプルを積んだ探査船は地球に帰還時、大気圏突入時に事故に合い、メキシコで大破。地球外生命体はメキシコで繁殖してしまう。アメリカとメキシコの国境地帯は巨大な壁で封鎖され危険地帯とされてしまう。
 6年後、カメラマンのコールターは自分の所属する新聞社の社長の娘サマンサを連れ帰る任務を負う。ハプニングが起こり海路からアメリカに戻れなくなった二人は仕方がなく陸路からアメリカを目指すのだが・・・

 実を言うとこの作品には最初からそれほど高望みはしてなかった。ただ、この作品の監督がこれで認められ、(エメリッヒ版とは別の)次回のハリウッド版「ゴジラ」の監督に抜擢されたと聞いていわば上から目線で「これはゴジラにふさわしいかどうか俺が確認してやろうじゃないか」という気分で観に行ったのである。
 で、結論。正直この作品はきつかった。いや、最初から低予算で、ゆえになるべくクリーチャーを見せないようにしている、というのは知ってたし、スタッフが5人だけで主役二人以外の役者は全部現地の一般人だった、とかも知ってたんだけど、見てて辛かった。というのもやはりこれはタイトルが悪い。だって「モンスターズ(MONSTERS)」って言われたら期待するじゃん(原題も一緒)。少なくとも主役は怪獣って思うでしょ。いわゆる怪獣映画と違って、この世界のメキシコではこの6年間で増えた怪獣(ほぼ巨大な蛸)と軍(アメリカ空軍らしい)の戦いとそれに巻き込まれる一般民、というのが日常になっている世界なのだがそのほとんどが死体としての登場なんだよね。
 後はやはりカメラが低予算ゆえか安定していなかったのでドキュメンタリーのようなリアルな雰囲気は出せた一方、大作映画のような神の視点ではなく、背後にカメラマンがいるんじゃないか、と思わせてしまう。これなら最初からPOV方式にした方が良かったのではないかとおもう。主役の一人はカメラマンという設定なのだからそれでも違和感はないだろうし。
 
 監督のギャレス・エドワーズはドキュメンタリーのVFXマンらしく、最初は「ドキュメンタリーのVFXってなんだ?」とか思ったのだが、再現VとかのVFXらしい。クリーチャーを見せない(あるいはクライマックスまで取っておく)という手法は別段珍しいものではない。ただ、ならばこそ普通のドラマ部分で見せなければいけないのだが、確かに主役二人の道中はつまらなくはないし、会話とかも面白いんだが、アクションがないんだよね。低予算映画といえばロバート・ロドリゲスの「エル・マリアッチ」を一番最初に思い挙げる僕としては、ならばこそ人間アクションを見せて欲しかったと思う。「クローバーフィールド」(あれも怪獣映画としては低予算のほうである)も逃げ惑う、というシークエンスの中で飽きさせないアクションを見せてくれたし、もう少しアクションが欲しかった。それこそ低予算映画でも可能なものだともう思うし。その辺はドキュメンタリー出身の弱さかな。
 
 これだけだと貶してばかりなのでいい部分。主役二人は良かった。男の方はテッド・バンディ風の俗っぽいハンサム。女性はショートカットの似合う健康的な美人。ホットパンツが標準装備なので太ももが悩ましい。二人とも若い男女でありながら最初のうちに互いの立場(男は別れた彼女とあいだに子供あり、女は婚約者がいる)を理解しているため男女の中になることはないのだがラストがトンデモ。
 後はビジュアル。特にティオティワカン風の遺跡から見る国境地帯の巨大な壁とかは美しい風景。また、随所に見られる廃墟と化した建物とかも廃墟の美とでも言うべきものがある。アメリカに入ってからの廃墟と化した町並みはアメリカならハリケーン被害にあった住宅などを想像させるが当然今なら津波被害にあった日本を想像させるだろう。
 そしてメキシコの一般家庭などあらゆるところで見られるTVのニュース越しのクリーチャーの映像や様々な表示。「ここより危険地帯」といった表示看板とかが随所にあってその子細な部分にはうならされる。中には米軍の空爆に反対するものなどものあって、もしかしたらこの地球外生命体との共存も可能なのか?と思わせる。
 
 肝心のクリーチャー、モンスターは簡単に言うと巨大なタコなのだが、これが知性を感じさせる部分と逆の部分の狭間という感じで面白い。ラスト(だったのね)でどうやらオスとメスのタコちゃんが触手で触れ合ってコミュニケーション?てか下手すりゃ交尾?を取っちゃうんですね。で、それを見てもう後は救援待つだけの二人が「帰りたくない」とか言って急にキスとかしちゃうのは理解不能でした。その前に家族に会いたいって電話してたじゃん!
 
 最近の低予算映画は昔とは趣が変わってきているように思う。おもに本作も「スカイライン」もそうだがVFXマンが中心になっているため、CGによるクリーチャーだけは素晴らしかったりする。最近話題の「コリン」も低予算が話題が呼んだ作品だがゾンビの特殊メイクに関してはプロが無料でやっている。少し前の本当にアイデア勝負だった低予算映画(「エル・マリアッチ」「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」)に比べると特撮部分でそれなりにしっかりしてるためパッと見は大作と遜色なかったりする。
 とにかく、低予算ながらもB級感を出したくない、という思いは伝わってきた。なるべくリアルに、高尚に、という感じ。でも僕はやっぱり例えB級でも着ぐるみ然としててもいいからモンスターを見たいのだ。だからこれはタイトルが悪い。「恐怖の国境越え」とかそういうタイトルだったら別に期待しなかったのに「モンスターズ」というタイトルでモンスターに期待しないわけにはいかないではないか。
 とはいえ、「ゴジラ」の監督としてはどうかというと期待は保留。予算が増えてきちんと怪獣を出せるようになるならば面白くなるかもしれない。