ジローの部屋

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【短編小説 神様が仕掛けた、忘れ物①] 離れても大丈夫、なはず

ご訪問ありがとうございます。

いつもたくさんの星、ブクマやコメント、本当にありがとうございます!



さて、今回は、筆者としてはかなり久しぶりの短編です。
テーマなどについては、末尾の昨日記事のリンクからご確認を。

今回のお話は3話ものとなります。


では、どうぞ。



















 小学校の6年間で、5年間同じクラスになった石野早矢香(いしのさやか)は、衣笠正太郎(きぬがさしょうたろう)にとって何でも一番話せる仲だった。
 一番話せる仲が異性だというのはおかしいのだろうか。3、4年ぐらいまではそんなこと気にもしていなかったけれど、最近なんだか周りが
「お前ら付き合きあってんのか」
と聞いてくる。どういう関係が「付き合っている」というのか、正太郎にはよくわからない。
 
 早矢香からも何回か「〇○に告白された」という話を聞いた。その度に、「モテるねぇ」と茶化すけれど、そういう話をするときの早矢香は、どこか表情が暗かった。


 正太郎達の小学校は、二つの中学校に進学する。
 校区を東西に横切る国道があって、その国道の南側には正太郎が住んでいる地区ともう一つの地区があり、その二地区だけが南中学校へ。
 早矢香ら国道の北側に住んでいる大多数の者は北中学校へ。


 部活の話になり、ブラスバンドに興味のある早矢香はとてもイキイキしながら音楽の魅力について話してくるが、専門的な話が増えてきて、正太郎には言っていることがよくわからない。でもまぁ、早矢香が楽しそうに話しているからそれはそれでいいのだと思う。

「正太郎は何部に入りたいの?」
 急に話をこちらに振られて、正太郎は
「サッカー部かな、やっぱり」
と答えた。
 
「うんうん、やっぱり。
 正太郎はサッカーが似合うと思うよ。私もそう思う。」
 なんだか達観しているみたいな感じの早矢香の言い方が母親に言われているみたいな気がして、正太郎は
「わからんけど」
と抵抗してみた。しかし、早矢香は
「正太郎なら選抜から絶対に声かかるよね。うまいし。私が監督なら絶対に選ぶと思う。それでさ…」
と続けている。その勢いに呆気にとられていると
「高校はどこに行きたい?」
と早矢香は次の質問を繰り出してきた。

「正太郎はサッカーで有名な高校に行くんだろうな。だってあんなにうまいんだから絶対声がかかるよね。そうなったら電車通学になるのかなぁ…」
と、早矢香の勢いは止まらない。
 だから正太郎は
「早矢香はどこの高校に行きたいん?」
と話を変えてみた。


「うち?うちはねぇ、西高に行きたいんよ」

 正太郎達の小学校区が市内の東端にあるのに対し、西高は市内の中心から西側にあって、早矢香の家からはけっこう遠い。そして正太郎の姉が言っていたが、市内でもかなり賢い学校らしかった。
 でも成績優秀な早矢香からすれば、全然いける高校なんだろう。むしろ、一番上の家から近い東高に何で行きたいと思わないのか、わからないくらいだ。

「なんで東高じゃないん?全然いけそうだし、そっちの方が近いやん」
「遠いから、いいんやん。彼氏ができたらさ、長く一緒に帰れるし」


「彼氏ねぇ…。万が一できたとして、彼氏と家が反対方向だったらどうすんの?」
「あ"…」


 笑っちゃ悪いんだけど、でもおかしいから仕方がない。早矢香は顔を真っ赤にしていたが、こっちに釣られたのか笑い出した。

 そして、一通り笑い終えて早矢香は遠くを見てつぶやいた。

「でもさ、うちの夢、なんよねぇ」





 卒業式で正太郎は泣かなかった。
 今は皆、スマホを持っているから、学校が違ってもすぐに連絡をとることが出来る。また、会おうと思えば会えるのだし。
 早矢香はというと、案の定、涙を流していたがこちらの視線に気付いたのか、ハンカチで涙を拭ってから微笑んできた。正太郎は、ピースサインを作って返事をしておいた。


 黒い筒を持って、最後に使うランドセルを背負って、歩いて帰ることにする。何人かの集団で帰っていたが、枝道にきて1人、2人と別れていった。
「みんな、いなくなっちゃったね」
と、隣で早矢香がつぶやいていたが、なんとなく話が続かない。


 大きな国道の交差点。
 正太郎の家はここを渡って、少し住宅街に入ったところにある。隣で歩いていた早矢香は鼻をグスグスと言わせてばかりいた。
 
 ポンポンとしながらショートボブの髪に正太郎が触れると
「また、連絡するから。絶対に連絡するからっ!」
と、早矢香は泣きながら言葉を振り絞った。

 ちょうど、南北の信号が赤から青に変わる。

「じゃあ」
と言って、正太郎は早矢香の涙を軽く曲げた左手の指の背で拭いて、振り返り走リ出した。

「また連絡するからねー!」
という声が背中に刺さってくる。渡り終えて振り返ると、向こう側に右手で頬をおさえながら早矢香が思いっきり左手を振っている。

 その前を三車線分の車が走りだした。
 早矢香の姿は途切れ途切れにしか見えなくなっていった。


「またね」
と聞こえるはずもない声で答えて、正太郎は家に向かって歩き出すと、スマホから通知音が鳴った。
 ポップアップの通知が画面いっぱいに表示されている。
『連絡しちゃった』
というメッセージと共に謝っているアイコン。

「連絡、早すぎだろ。」
 思わず、フフッと笑ってから正太郎はツッコんだ瞬間、頬に一筋の滴が伝っていった。

 卒業式でも感じなかったこの気持ちは、一体なんなんだろう。




第2話へ続く。

surrealsight.hatenablog.com




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ブクマコメントありがとうございます!
>まっこおばさま(id:makkosan70)
卒業してからの展開に乞うご期待!あぁ、言いたいけど言えない。そして、この展開にどう思われるのか、聞いてみたいけど、まだ言えない。

>Storyteller(id:black-orchid)さん
大人の階段を上り始めた中学生の感覚、おぉ、突いてきますねぇ。しかし、後2話あるんです。ここからこの2人がどうなるのか、なんですけどはてさてStorytellerさんの想像を裏切られるのか、その通りなのか笑

>テイルズ(id:MyStory)さん
おかえりー!そうなんです、こちらのテーマでトライしてみました。さてさて、響くものが出来るのかどうか、散りばめたものがどうなっていくのかがテイルズさんならきっと気付かれるはず。

>育児猫(id:ikujineko)さん
アオハルど真ん中、です笑
そして、リアルさを追求していくと、という展開になっていきます。後2話でかなりアオい世界をご賞味下さいませ笑

>Pちゃん(id:hukunekox)さん
アオハルです、アオハル。あぁ、戻りてぇ、という読み手の方の声も聞こえつつ、本日第2話へ参ります。この展開は皆さんの想定内なのか、それとも裏切ることが出来るのか笑

>山田ひかる(id:myuhikaru)さん
あれから、満月ママさんとは連絡とっていないんです。でも、元気にされていると思います。きっと先日の満月もおこさんとお祈りしているはず。
このお話は淡いアオハルですけど、お楽しみ下さいませ。

>ユゥヨ(id:byte0304)部長
楽しみにして下さってありがとうございます!こういう反応がいただけると、めちゃくちゃ書き甲斐がありますよ。昔を思い出しながら、お楽しみ下さいませ。