ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『図説 英国メイドの日常』の感想




『英国メイドの世界』作者としての感想

村上リコさんの『図説 英国メイドの日常』を読みました。結論から言えば、このレベルの図版(300点以上)を集めた本は、私が確認する限りでも、世界に存在していません。特に以前ブログで書かれていたように(名刺判写真(カルト・ド・ヴィジット)〜『図説 英国メイドの日常』未掲載図版(2))、過去の写真を足で集める発想が私にはなかったので、その発想と費やされた時間に驚きました。



これは「コレクション」です。これほど「メイド服イメージ」と「メイド服の解説」を深めた本は稀です。私が作ってみたいと思ったものの、作れなかった本、ですね。大げさかもしれませんが、この本の客観的な価値を最も分かるのは、同じく資料本『英国メイドの世界』を作った私だと思います。



「本を作る」ということは、私の中では「自分にしか見えない見せ方、光の当て方」で、好きな興味対象の魅力を伝えることですが、その意味でこの本は村上リコさんの世界観を反映し、それだけで私と照らし方が違い、「自分が知らないこと」「自分と違うところ」が目に入ってきて、刺激を受けました。



ページをめくるだけで、楽しいですね。



職業病的に、今回も本書を手にして最初に読んだのは「参考資料」でした。多分、70%ぐらいは私が知っているものです。しかし、基本的に歴史を扱う点で軸とするところは重なりが多いものの、興味の持ち方や情報のまとめ方が異なり、発見があります。たとえば私が「選ばなかったエピソード」が載っていたり、同じテーマの題材を書くときにも情報の濃淡があったりします。



前回、目次を見た時点での印象を村上リコさん初単著・『図説 英国メイドの日常』刊行情報(2011/04/02)にて書きましたが、本を読んでの実際の感想も同じでした。



『図説 英国メイドの日常』は、メイドの視点でメイドを取り巻く環境を照らし、私見では縦軸で「メイドとしての人生」があり、横軸で「その折々でメイドの見る世界」を、「その環境に置かれたメイドの生の声と図版・写真」で伝えてくれます。あるいは、その「メイドの手に届く範囲の物・食事・衣装といった日常」を、「メイドと一緒に歩きながら眺める」というのでしょうか。



コレクションが収蔵された美術館を、キュレーターである村上リコさんのナビゲートで歩いていく、その美術館の図版の前には実在の人々がいて、案内をしてくれるようなイメージです。


『英国メイドの世界』の読者の方へ

『英国メイドの世界』の読者の方には、私が『英国メイドの世界』では実現できなかった、あるいは私にはない視点で描かれているので、オススメします。以前にも書きましたが、「メイド服コレクション・図版編」が読みたいとの要望をいただいてもいましたので。



力点の違いで言えば、『図説 英国メイドの日常』は「最大多数の働く少女の見た世界・生き方」で、『英国メイドの世界』は「屋敷という職場と、当時の人々の仕事・働き方」にあるのかなと、思います。



『英国メイドの世界』は「なぜ、その世界が成立しえたのか」「どんな職場があったのか」「どんな職種があったのか」「どのように働いていたのか」を、実在する人々の生の声と当時の資料から整理・分類したデータベース・エピソード集のようなものです(実在する語り手は100人以上)。英国史に詳しくない人に向けてゼロから伝えることを目的とし、読み終わった後に「人に説明できる論理性」と、「新しい視点で世界を見る」ことを目指しました。



もちろん、最も大きな違いは「メイド」だけではなく、執事やフットマン、ガーデナー、ゲームキーパー、コーチマンといった男性使用人にも大きな重点を割いているところですが、類似と違いはお読みいただくことが一番分かりやすいですね。



いずれにせよ、英国のメイドが多面的に「日本人」によって照らされてきているのも日本のメイドブームの流れで捉えると感慨深いものですし、この世界に興味を持つ人が広がることを願っています。