牡蠣が食えたら

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国立国会図書館の納本制度と謎の書籍「亞書」

国立国会図書館法

第十一章 その他の者による出版物の納入

第二十五条  前二条に規定する者以外の者は、第二十四条第一項に規定する出版物を発行したときは、前二条の規定に該当する場合を除いて、文化財の蓄積及びその利用に資するため、発行の日から三十日以内に、最良版の完全なもの一部を国立国会図書館に納入しなければならない。但し、発行者がその出版物を国立国会図書館に寄贈若しくは遺贈したとき、又は館長が特別の事由があると認めたときは、この限りでない。

○3  第一項の規定により出版物を納入した者に対しては、館長は、その定めるところにより、当該出版物の出版及び納入に通常要すべき費用に相当する金額を、その代償金として交付する。

第二十五条の二  発行者が正当の理由がなくて前条第一項の規定による出版物の納入をしなかつたときは、その出版物の小売価額(小売価額のないときはこれに相当する金額)の五倍に相当する金額以下の過料に処する。

  • 出版物を発行した者は一部を国立国会図書館に納入しなければならない。
  • 納本した者には出版及び納入に要した費用(通常小売価格の2分の1)が代償金として交付される。

 国立国会図書館法にこのような定めがある。

 この制度を逆手に取って、国会図書館から代償金を受け取るために殆ど価値の無い書籍に高値を付けて大量に発行しているのでは、とネットで噂される出版社がある。


togetter.com

 詳細はこちらのブログで詳しく解説されているので一読してほしい。kininarujiken.blog.jp

※なおAmazonからは既に削除されている。

 本件が違法なのか、不正かどうかという点については、現時点では違法ではないというのが私の結論。出版物は納本する義務があり、これを怠れば罰則もあるのであって、形式的に見れば出版社の行為に問題はない。

 しかし常識的に考えればこれは明らかにおかしい。

 問題は出版社というより制度にあるのだろう。国立国会図書館の統計によれば図書だけで年間24万点にのぼる受け入れがあることがわかる。ひと月あたり2万点の出版物について内容を精査するのはかなり厳しい。そもそも出版物の内容に価値があるか無いか、販売価格が妥当かどうかを判断するのは国立国会図書館の役目ではない。

 代償金目当てに本を作っても儲からない、旨味がない制度設計が必要だと考えるし、"国内で発行された全ての出版物を収集する"という国立国会図書館の在り方自体も改めて見直す必要があるのではないか。


 本件との関係性は不明だが、第25回納本制度審議会議事録が興味深い。

委員: 確認させていただきたいのですが、取次経由が3割で、直接納入が7割というのは、ちょっと違うのではないか、と直感的に思うのですが。それは、逐次刊行物を全部含めた場合の割合ではありませんか?取次経由の書籍は本当に3割しかないのでしょうか。

事務局: 申し訳ございません、本来なら点数ベースでご回答すべきところ、数値が手元にございませんでしたので、金額でのお答えとなりましたが、点数ベースであれば取次経由の割合が大きいです。直接納入は高額の出版物の場合が多々ございます。
ちなみに、高額の物というのは、市場調査報告書とか、通常の書店では販売されていないようなもの、だからこそ、取次にも流れないというのがありまして、そういうものが実は、数は少ないのですけれども、相当納入されています。

委員: 貴重な代償金予算を、本来の出版社ではないところに、こんなに払っていると理解しました。

委員: 正に、オンライン資料についてもよく議論になったところですよね。極めて部数が少なくて、極めて高いというものがありうるということです。

会長: 先日、私のところへ300万円くらいするセットの本の宣伝がありましたけど、そういうものが、金額がその半分だとしても150万円くらいの金を食っているわけですから。

第25回納本制度審議会議事録|国立国会図書館―National Diet Library


以上