しばいがかってる

「メイ・ディセンバー ゆれる真実」を見た。

演じるということについての映画だ。ある事件の当事者を演じるためにその人に密着する。観察し、取材し、自分にその人を取り込んでいく。ある人になろうとする。そして境界がわからなくなるほどに似てくる。途中、女優が取材で行った学校で特別授業をすることになり生徒の「セックスの演技をしたことは?」というフザケ半分の質問に真剣に答える。機械的に演じているはずが、実際には裸に近い身体を寄せ合って、感じているフリをしているのか、本当は感じているのに感じてないフリをしいるのか、その境界がわからなくなると。映画はそれを描いている。ある女性を自分に取り込もうとする女優の話。実際にあった事件を元にした映画である。実際は、この映画は1人の女性を2人の女優が演じている。ある女性に扮した女性と、その女性を演じようとした女性。ただ実際は、どちらも1人の女性を2人の女優が演じている。実に繊細で多重な構造を持った映画だ。とにかく主演2人の演技のシンクロがすごい。本当に溶け合っていくようだった。ただこの映画にはさらに多層な構造が用意されている。映画を観ている最中、ずっと変な違和感がある。ドラマチックで、わかりやすいサペンス映画のような音楽がかかる。演技の繊細さをぶち壊すようなぎょうぎょうしい曲調で、わかりやすいというより、不自然に曲が場面を支配する。繊細さが台無しなる。この違和感の正体が何なのかずっと考えていて、ラストのラストで腑に落ちる。一気に言葉になる。「芝居がかった世界」だ。何とも皮肉で、辛辣なラストだった。そうかブラックコメディだったのか…。見ている間なぜか「ザ・ルーム」という映画が頭をチラついた。ある意味この映画の対局にあるような史上最低の映画と呼ばれている1作だが、どういうわけか思い出した。

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