くろいぬの矛盾メモ

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谷崎とか川端だって、遊女とか病死とか、そんなんばっかりだぜ?


これは、さすがにケータイ小説への冒涜じゃないかと思う

「あたし彼女」現代語訳
某人が「あたし彼女」を5ページで挫折して読めなかったそうなので、かんたんに現代語訳してみました。
(中略)
私はアキ。23歳です。

わりと顔がよくてモテる方なので男をとっかえひっかえして生きています。

過去に子供を2回ほど堕ろしたり、不倫して相手の奥さんに刺されたこともありますが…まぁ過去のことです。

実家暮らしで、その時の男の稼ぎに頼ったりもできるので、働いてはおらずいわゆるニートです。


※「あたし彼女」の原文はコチラ


小説ってのは、文体変えちゃダメだってば。
テーマやモチーフなんて、何千年前から変わらない。
恋愛と失恋、略奪と闘争、愛するものの死、結婚と妊娠、友情と家族愛などなど。
要は理不尽な世の中への憤りと、人間関係の矛盾や葛藤、そして赦しがあればいい。


そもそも名作ってのは陳腐なテーマだからこそ、時代や国を超えられるわけだ。
一方で、同時代性を映しこんだ特異な文体こそが、その時代に書かれる必然性
を示すもので、まさに作家表現の核となる部分。


この現代語訳を読んで、全部わかった気になってる人が多くてびっくりした。
これじゃ映画のストーリーを要約して手書きのパラパラ漫画で書き直したようなもの。
それ観て納得されちゃ、作者もたまったもんじゃないだろう。


恋空の時に同じようなことを書いたので、引用してみる。

恋とホストのケータイ小説のが、熟年不倫小説よりも文学だよ

小説ってのは、本来フトコロが広いメディアだ。
散文を主体に構成されていれば、どんな文体でも、どんな構造でも、どんな媒体に載せても成立し得る、もっとも広義な表現形式が小説の魅力だ。
別に、文語体で社会性のあるテーマで、なんて条件は無い。つうか、昭和時代の文壇の老人かよ。


逆にケータイ小説って、自称本好きが良く読む凡百の推理小説なんかより、よっぽど私小説で純文学っぽいんだけどな。
それとも、表現形式が書簡(この場合は、メールね)や手記(ブログね)をベースにした口語体の純文学っぽいのに、扱っているテーマが高校生の恋愛とかホスト話とかで、低俗で陳腐って言う批判なのかな。


でも、思春期の悩みなんて、いつの時代もおんなじだろうに。みんな昔は中高生だったことを忘れちゃうんだな。
テーマが恋愛とホストと風俗と病死ばっかり、って意見があるけど、谷崎とか川端だって、遊女とか病死とか、そんなんばっかりだぜ?

一番言いたいのは、これ。

谷崎とか川端だって、遊女とか病死とか、そんなんばっかりだぜ?


今ってたぶん、史上最大の素人小説ブームなんだよね。
百万人以上の若者がケータイで小説書いてる状況って、異常だ。
まあ、今までノートに密かにポエム書いてたのが、ネットに移った
だけかもしれないけど。


もっと競争して、この時代ならではの表現が磨かれて行くといいなあ。
それまで、生暖かく見守って行こうよ。