くろいぬの矛盾メモ

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「合法詐欺」か?プリペイドと解約阻止がもたらす企業の蜜月


またしても、たけくまメモでの論争に触発された記事です。
ひとことで言えば、「先払いによって生じる利息」に対する、一般消費者の意識の欠如につけ込んだ、大企業の常套手段のお話です。

【今までのテンマツ】

  1. たけくまさんがPASMOを買ったので、チャージ金額の残ったSUICAがいらなくなり、払い戻しをしに行った。
  2. みどりの窓口で並んだ後に、「全部使いきってから払い戻さないと、返済手数料210円がかかります」と言われた。
  3. しかも、残金が210円以下の場合、返済手数料はとられないが、残金は全額没収!
  4. 購入時の500円のデポジットはこれとは別の単なる預かり金なので、解約すれば全額戻るのだが…。
  5. 解約のために手数料かかるなんて、聞いてない……これって、ひどくない??


で、たけくまさんがPASMOとSUICAの比較とか陰謀論的な仮説も絡めちゃったので、何かねじれて論争に。
JRふざけんな派とか、手数料ぐらい当然だろ派とか、色々混じってます。


http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/suica_087c.html
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/suica.html
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_8a55.html


でも、なんかみんなの論点が微妙に違う。
JRの体質とか手数料自体が問題じゃないだろー。もっと普遍的な企業の利益確保の手段だろー。
と思ったので、このエントリーを書くに至りました。




もう一度繰り返しますが、「先払いによって生じる利息」に対する、一般消費者の意識の欠如につけ込んだ、大企業の常套手段のお話です。


ヨドバシなんかの量販店のポイントカードで、何も考えずに「ポイントを数回分貯めて使う」人が多いことが、それを端的に表しています。


たけくまさんの書かれている通り、JRが手数料を取る目的は自社の利益確保のためで、他の企業も良くやっている「合法的詐欺」の手口です(ただし、PASMO晴天の霹靂云々は、意図的な「ツッコミ待ち目的」でなければ、明らかにブログの文章と言う甘えによる取材不足なので、早めに訂正した方がいい気がする)。



210円の手数料収入を得ていること自体が問題、と読み違えている人がいらっしゃいますが、全く見当違いです。
JRは、こんな210円の微々たる収入自体で儲けるつもりは全く無いでしょう。本サービスを解約すればするほど儲かる仕組み、なんてのはナンセンスです。


多くの場合、実費が明らかでない手数料というのは、「本当はユーザーにして欲しくない手続き」を最大限抑止する目的のために設定されています。


つまり、解約して欲しく無いから、わざと面倒くさくして解約するためのハードルを上げているのです。解約時の説明を明記しないのも、わざと窓口で並ばせるのも、全て同じ。目的は、なるべく解約させないこと。その一点のみ。


同じことを行っている業者はたくさんあります。特に、先払いで現金を預かるサービス、加入しているユーザーから継続した収益が見込めるサービス、月額や年額などの継続的な収益を得ているサービスは、ほぼ100%がこの手のリテンション施策を行っています。
解約のハードルを上げるだけじゃなく、表面的な継続のメリットを提示する施策も多いですね。


例をあげれば、銀行預金、証券口座、クレジット、プリペイド、電子マネー、携帯電話キャリア、携帯サイトの有料課金、各種の有料会員サービス、不動産の更新料と敷金礼金なんかもそうですね。
継続施策で言うと、パチンコの確率変動周りの「期待感煽りシステム」も実は同じことだったり。


経営や会計の感覚が多少でもあればわかることですが、事業の利益を最大化するためには請求は出来るだけ早く、支払いは出来るだけ遅くというのが常識です(支払いサイトって奴ですな)。
100万円の支払いを1ヶ月遅くすれば、その間に100万円を再投資して、150万円にすることも充分可能。


要は、いかに大量の資金を低利子(出来れば無利子)で長期間確保出来るか、と言うことに企業は日々心血を注いでいるわけです。


その点で、プリペイドの仕組みは素晴らしい発明です。
まず、何と言ってもまとまった金額の先払い。だいたい1000円単位なので、これがデカい。
しかもカードを無くしてしまったり、結局使わないまま忘れ去られてしまうケースも大量にあります。その分のチリを数百万枚、数千万枚集めれば、物凄いヤマになるわけです。これは電子マネーも同じですね。


さらにそれを進化させた非常に賢い施策が、SUICAなどのデポジット。


もちろん導入当初は、製造原価の調達や先行投資のリスクヘッジ的な目的も一部あったでしょう。
でも、製造コストが劇的に下がっている中で(ICタグの製造単価は、この数年間で数百円から数円単位にまで下がっています)、そしらぬ顔で500円のまま続けていることと、残額がある場合の解約手数料と窓口手続きでハードルを設けていることで、本来のJR側の意図は明確です。


たけくまさんのおっしゃる、500円×2千万枚分の無利子での資金調達。もちろん、継続利用ユーザーからのコンスタントな先払い金の確保。さらには、死蔵チャージされた金額を死蔵のままにしておくこと。それが、本来の目的です。


携帯サービス業界にも、「寝た子を起こさない施策」と言うのが多々あります。実質は休眠ユーザーなのに、有料課金を続けてくれるユーザーが一番ありがたい存在、ということ(利用しなければ回線やサービス手続きの混雑緩和で、費用削減にもなるし)。



まあ、あらゆる業界で良くある構図なので、JRだけを名指しで食いつくところでも無い、と言うのがありますが、タイムリーで身近な話題であることと、陰謀論に結びつけた(意図的なツッコミ待ち?)ことで多くの人の注目を浴びたのは、たけくまさんの目論見通りで良かったかなと。


これを機に、先払いサービス全般について、その利便性と損得の問題を、色々考えてみるのもいいんじゃないでしょうか。
とかいいつつ、結局は利便性に負けるのが消費者ってもんですな。