くろいぬの矛盾メモ

旧・はてなダイアリーから移行しました。現在は「モフモフ社長の矛盾メモ」 をたまーに更新しています。

 リスティング広告(検索広告)業者の真実

昨日のエントリについて、たけくまさんから、お返事をいただきました。

うまい儲け話は無いのは当然としても、証券市場と証券会社を併せたような立場であるGoogleが、データを明示せずに突っぱねるというやり方には疑問がある。
というような内容です(勝手に要約したので詳しくは下記リンク参照のこと)。
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_f503.html#comments


>くろいぬさんは、「プロの代理店を介して運営しろ」とおっしゃいますけど、そもそもグーグルは
>「ネット広告代理店」そのものなのではありませんか。より正確にいうなら、証券市場と証券会社を
>兼ねたような存在だと僕は認識していました。


Googleは、小口向けの代理店機能も持っていますが広告媒体社です。
言ってみれば、テレビ局や新聞社や出版社と同じく広告枠という商品を作って、代理店という問屋経由で売っている業者ですが、Googleの場合は小売もしてますよ、というスタンスです。

何らかの媒体に広告を載せたい時、媒体社に直接掛け合っても取引可能ではありますが、かなり大変です。さらに言えば、広告配信の手続きや効果を上げるための日々のチューニングは相当に煩雑な作業です。
そのため、広告商品を流通し、運用管理をする中間業者がたくさんあります。これはCMや雑誌広告などのリアル媒体だけでなく、個人法人問わず開放されているように思える、ネット広告商品でも同様。


さらに言えば、証券会社という例えは、正確ではないと思います。あれは国際的なルールと法律に基づいて運用されている多くの企業が参加する市場ですが、Google Adsenceの場合、1法人対1法人(もしくは1個人)間の商取引契約に過ぎないので。



>それとも、グーグルとユーザーをつなぐ「代理店」が存在するなら、
>そこにはグーグルはまともなデータを示してくれてるのですかね?


正規代理店には、クライアントに実データのまま明かさないという前提で、より詳細なデータを出しています。
なので、代理店経由ならもう少し納得の行くデータが出て来ます(代理店は、Gooleから見れば大口クライアントなので、直接掛け合う時よりも対応速度も速いです)。



>以上は、アドセンスを貼っていた僕の側の話ですが、広告主であったアンテナハウスさんの件も、
>グーグル側が提示する金額や数値データに不審な点があったのに、その数値の根拠についてグーグル
>側からの明確な説明がない、という点において、同じ問題だと思います。


それを言うなら、広告業界全体が腐っています(実際腐っている、と僕も思いますが)。
何億も掛けたテレビCMの実際の効果や、CM枠ごとの視聴者特性、視聴率が低かったことの根拠なんて、意味のある数値データではこれっぽっちも表に出てきません。
そして、データが出せないことについては、契約内容に明記してあります。
「それでもいいから売ってくれ」と言う企業がたくさんいるので、成り立っている業界です。


検索広告の企業が自社のデータを出さない一番の理由としては、特に検索サイトやアフィリエイト広告の場合、計測の根拠はそのまま検索精度や広告掲載のターゲティング精度を高めるためのアルゴリズムに結びつくため、機密情報ということで明かせないと言うのが現状です。
不正と判断した理由を明確化することにも、大きなリスクがあります。不正を判断する基準を明確化してしまうと、それを抜け穴を探す悪意のユーザーとのいたちごっこになるからです。

もう一つの理由は、ツッコミを入れられまくるから、明かさない。
ある意味TV業界と一緒で、視聴率調査の標本の詳細な属性について明かすのと同じことだからです。
そんな詳細まで明かさなくても、多くの人が競って広告を買ってくれるので、明かさない。
というわけで、人気のある広告枠というのは完全な売り手市場です。


広告媒体社と個人や小口で直接取引をすると、とんでもなくムカつくことはたくさんあります。
でも、それは競合との競争が無い独占市場においては、愚痴にしかならない。それに、それらの一方的で不公平な取引条件というのは契約内容に明記されています。
企業倫理や誠意という切り口でなら、いくらでも言えますが、契約内容がそうなっている以上、反論出来ない、というところです。
日本企業の場合は、「そうは言ってもお世話になっているお客様ですので、サービス致します」と言うことが起こり得ます。外資企業の場合は契約内容に忠実に業務を行うため、特例はほぼ無いです。月額数百万円以上の大口取引の企業ならまだしも、月数十万程度のクライアントは冷たくあしらわれると思います。


クリック課金広告の場合、クリックする相手を選べるわけではないので、悪意を持ったユーザーが無駄なクリックを何百回しようが、それは想定の範囲内です。しかし、あまりに苦情が多かったため、明確に不正クリックと思える部分(例えば同じIPからの連続アタックなど)については、Googleが「善意のサービスで」返金してくれているだけです。クレジットカードをスキミングされて不正使用された場合に、その料金をカード会社が返金してくれるサービスと同じです。

日本企業の代理店を間に挟むことで、そんな状況をある程度は回避出来ます。
ネット広告業界では有名な話ですが、Overtureはシステムエラーで掲載がストップしたとしても、責任の所在に関係なく、一切返金をしない言われています。契約書にそう但し書きが書いてあるからです。
返金しない、謝らない、詳細なデータも出さない。何故なら契約にそう記してあるから。
ですが、日本のクライアントはそれでは納得いかないので、大手のクライアントには代理店が自腹を切って肩代わりをして返金したりすることもあります。
くだらない構造だとは思いますが、そういう構造で成り立っています。



独占状態に甘えて、サービス向上の努力を怠っているのは確かに問題です。
でも、それはネット広告に特化した話じゃないし、Googleは広告費用とサービスの内容の比較から見れば、むしろ相当に善良な部類に入る媒体社です。
全部システム化して人件費を極限まで下げているから、あんなに安い単価から広告が打てるのに、人的サービスを向上しろというのは無理な話。100円ショップの店員に対し、接客マナーと商品知識の教育が足りないと憤慨しているようなものです。


それよりも、誰でも気軽に参加出来る場、と見せかけているのがこの手の「ネットで副収入」業界の一番の問題です。
契約の基本も知らないのに、企業と商取引をしようとしていることの危うさに、多くの人が気付いていない。
というよりは、多くの無知な消費者が参加する方が市場が潤うので、あえて気付かせない。
これはネット証券が、にわかデイトレーダーをどんどん呼び込もうとしているのに似ています。
株価をつり上げたい時には最初に飛びついてくれて、暴落する時には最後まで売らずに塩漬けしていてくれる、そういうカモを増産しているようにしか見えない。


契約内容を読まずに、ドライな外資企業と直接商取引をしている方が悪い、とも思えます。
一見するとネットは法人個人を問わずに実力勝負が出来るフロンティアのように見えますが、既に既得権益の塊です。

これだけの資本が投入されている市場で、市場原理なしに商取引が出来るわけがない。
ブロガーもアフィリエイターも、ネット広告業界という、既にルールが固まった市場の中で踊っているに過ぎません。
そこで勝ち抜くためには市場のルールを徹底的に勉強した上で参加するか、市場のルール全体を変えてしまうような革命を起こすか、もしくは全く新たな市場を自ら作り出すしかありません。


場のルールを覚えるか、場のルール自体を変えるか、新しい場を作るか。そのどれかしか無い。
場のルールを覚えないで好き勝手に振る舞うことをアウトサイダーだと勘違いしている人がいますが、それは単に無知なだけです。
野球で打った後に、どうしてもまっすぐ2塁に向かって走りたければ、そういうルールの新しいスポーツを作って広めるしかない。


「場」のレイヤーは何重にも張り巡らされているので、どこまでの範囲の場のルールを許容して、どこから新しく作るか、と言うのがいつの時代にもビジネスの基本だと思います。
とりあえず、法律の範囲内と言うのが一番大きい場なのかな、と思います(大きな影響力を持つ業界なら、法律まで変えてしまう力を持てますが)。


こういうことを考えていると、何とかして場のルールを作れる立場になりたいと思いますね。
どんな世界でも、胴元が一番儲かるんですから。