30年は一世代だといいます。SFCの30年の節目は、100年に一度ともいわれるパンデミック（世界規模の感染症の流行）によってかき消されました。もともと、20年、25年を大々的に祝っていましたから、30年はゆっくり1年かけて、いろいろな試みをしようと話していました。そのほとんどはできませんでした。

しかし、この100年に一度の混乱と危機を乗り越えれば、その後には明るく活気のある時代が来るでしょう。そして、多くの変化が到来し、それに伴う多くの社会課題も出現するでしょう。1980年代後半の大きな変化の中でSFCは構想され、1990年に開設されました。私たちは2020年代にまた新しい課題群に直面するはずです。それにひるむことなく、取り組むキャンパスでいましょう。

30年後、このキャンパスはもっと周辺地域との結びつきを強めているはずです。これから本格化する藤沢市の「健康と文化の森」づくりでは、キャンパスと連携する施設やサービス、ビジネス、そして暮らしが周りに広がるでしょう。若者たちが長期滞在するレジデンシャル・キャンパスから、地域と一体となって広がるガーデン・キャンパスへの取り組みが始まります。そして、世界の人々が訪れる教育・研究の拠点でもあり続けるための取り組みも続けていきましょう。

1990年、任天堂はスーパーファミコン(SFC)を発売しました。格段に向上したグラフィックスとサウンドを下敷きに、多くの名作が生まれ、ゲームを文化として定着させるきっかけとなりました。カートリッジを差し込んで遊んでいた時代から30年、e-Sportsを本職とする人々が現れるとは誰が想像しえたでしょうか。

1990年、WHOは同性愛を精神疾患のリストから削除しました。30年ほど前までは同性愛は病気とみなされていました。さらにその30年前の1960年頃まで遡ると、同性愛は犯罪行為でさえあったのです（計算機の父 アラン・チューリングは同性愛の容疑で逮捕され、化学的な去勢を受けさせられ、それがきっかけで命をたったと言われています）。LGBTという言葉が普及した現在では想像できないようなホモフォビアの時代がかつて存在したのでした。

30年という時間の中で、技術は新しい文化と経済をつくりだし、科学は普遍性を更新し、常識は次々に上書きされました。時の力の凄まじさを改めて感じます。このような長い時の試練を経て、いまだに生き延びているSFCスピリッツは、我々の最大の資産かもしれません。変えるべきものと守るべきものをしっかりと見極めながら、これからの30年をともに歩んでいきましょう。

ちょうど１年前のいまごろ、SFC創設30年を祝して、いろいろなイベントやグッ ズなどを準備しようという話で盛り上がりつつあった。ほどなくCOVID-19のことで、それどころではなくなってしまった。大切な「節目」だったのに、予期せぬ形で出鼻をくじかれたまま。そんななか、SFC30のサイトができた。オフィシャルロゴも決まった。

だが、じつは、お祝いする気持ちにオフィシャルもアンオフィシャルもない。一人ひとりが、それぞれのかかわりのなかでSFC30を祝福すればいいのだ。このサイトが、さまざまな「おめでとう」の気持ちを軽やかに束ねていく場所になればと願っている。年が変わっても、あたらしい年度になっても、これからの30年を考えながら、「SFC30」を唱えよう。