時の流れと技術の進歩
帰宅途中、ヘッドホンをつけている女の子を見かけて、恋人がノイズキャンセラ付の奴を欲しがっていたことを思い出した。
最近は、俺が多忙なので、半月ぐらい会えない状況だ。
ノイズキャンセラねえ…。
高校の頃、俺は物理同好会の会長をやっていた。ちっとも仕事しない会長だったが、稀に思い出したように実験したりしていた。
その稀な実験で干渉実験をやったことがあった。
「騒音も打ち消せるかなあ。」
「理論上可能だけど、どうやって実現するんだよ。」
「俺らがじいさんになる頃には出来てるかもな。」
なんて、そのときは冗談のつもりで言っていた。
あれから、もう15年近く経つ。
みんな、社会人になり、結婚したり子供産んだりし、立派な大人となっている。
俺は、「髪の毛が薄くなってきたなあ。」だとか、「最近腹回りに贅肉が付きやすくなった。」だとか、「疲れやすくってね。」とか、「腰痛い。」だのそんなことばかり言うようになり、テレビを見ても若いアイドルの見分けもつかないという、時代の流れにすっかり取り残されているおっさんの完全体になってしまった。
まあ、ノイズキャンセラも実現されるわけだなあ。
成長したなと思うところを、強いて言うなら、若かったときの大きな欠点の一つ ――負けず嫌い過ぎるところ―― がなくなってきたところぐらいだろうか。
しかし、相変わらず欲望には弱くって、振られたり、大怪我したりと散々な目にあっているのに、大酒ばっかりは止められそうにない。
俺も周りの言うことにいちいち気を取られなくなってきたせいか、仲の良い友人たちも、恋人も、最近はどうにも諦めている節があるようで、溜息すら聞こえなくなってきた。
どうも最後の負けず嫌いで、俺自身に最先端の技術であるところのノイズキャンセラを実装してしまったようだ。
みんなごめんね♥