「将棋世界」2012年11月号感想

将棋世界 2012年 11月号 [雑誌]

将棋世界 2012年 11月号 [雑誌]

 それにしても△6六銀はすげかったなぁ(小並感)。というわけで、「将棋世界」11月号を読んでの気ままな雑感をば。

ガムでリフレッシュ対談Vol.1 海堂尊(作家・医師)×羽生善治二冠 「執筆と対局は似ています」

 特にガム会社のスポンサーがついてるわけでもなさそうなのに「ガムでリフレッシュ対談」なのはこれいかに(笑)。それはともかく、少ない紙数ながら作家と棋士の思考の類似性について示唆に富んだ内容の対談です。

海堂 書いてすぐの文章は粗いので直すのですが、書いた直後だと目がすべります。いったん忘れて、あらためて読むと見落としやムダが見えるんです。将棋の場合も見落としってありますよね。それは同じ思考の中に落ち込んでしまうからだと思うのですが、防ぐ方法ってありますか?
羽生 1つの手に限定して深く考えていき、これでよさそうだと思ったら、次に他の手の可能性を確認しています。
海堂 一点集中で積み上げていく思考から、思考の系図を変えるわけですね。
(本誌p12より)

羽生 Ai*1を進めながら、医療の世界の小説を書いてこられて、自分なりに成し遂げたという感覚もおありだと思いますが。
海堂 Aiを進めるのは、詰将棋を解く感じです。少し進めて間違えたら方針を変える。小説は対局に似ています。書いたものを読者に投げかけ、その反応を見て次を考える場合もありますから。
(本誌p16より)

 他にも、「新手受難の時代」や”同じ駒で1手交代なのになんでこんなに差がつくのだろう”という「加速装置」の謎など、将棋ファンはもとより、ミステリ書評ブログである当ブログの読者的にも興味深い内容だと思いますので、興味のある方は是非読んでみてくださいませ。

第60期王座戦五番勝負[第2局]渡辺明王座×羽生善治二冠 「必然の逆転勝ち」はならず

 【将棋速報】 王座戦の三手目で将棋板騒然となってるけど何で?*2などネット上で話題をさらった王座戦第2局についての記事です。ちなみに、羽生二冠(当時)が角交換四間を採用したことについて、渡辺王座の感想ですが、

「そういうこともあるんじゃないかとチラリと思いましたけどね。相手の十八番を自分の得意戦法にしてしまう方ですから」
(本誌p20より)

 これぞ北斗神拳奥義「水影心」!(笑)
 それはともかくとして、本記事は主に渡辺王座の視点を元に構成されています。ネット中継で紹介されていた控え室の形勢判断などは「先手大優勢」といったものでしたが、対局者のそれは決してそのように楽観できるものではなかったことが述べられています。将棋のネット中継は、最近はニコニコ生放送で実況されるなどとても充実したものとなっていますが、それでも、後日の解説の方が精度は上です。ネット中継と専門誌の解説を併せて読めば名局を二度楽しめてさらにお得だったりしますので興味のある方は是非是非。

将棋時評―棋道哀楽― 青野照市九段

 「自分にとっては消化試合だが相手にとって重要な対局であれば、相手を全力で負かす」という、いわゆる米長哲学は将棋界で広く浸透している思想ですが、消化試合どころか負けたほうが有利になる対局があったとして、はたしてそれで全力を出して勝利を目指すことができるのか。
 オリンピックでの女子サッカーの話題*3を枕に、第2期竜王戦敗者組決勝での「勝てば1組昇級の一番なのだが、勝つと1組で小さいワクに入り、負けると2組のまま、大きいワクに入れるのだ。つまり負ければ2勝で本戦に入れるのに対し、勝つと最強の1組で、4勝しないと本戦に入れない。」(本誌p59より)という状況での対局心理が述べられています。ちなみにこのとき青野九段は、「一瞬、序盤から玉が出て行って攻めようと思った」(本誌p60より)そうですが、実際の対局ではもちろんそんなことをせずにしっかり勝利を手に入れていますのであしからず。

新・イメージと読みの将棋観

 毎回、6人のトッププロの読みの能力と独特の将棋観に迫ろうという「将棋世界」ではおなじみの企画ですが、今回のテーマ1とテーマ2はハチワン読者には特にオススメの内容です。すなわち、テーマ1ではリコー杯女流王座戦1次予選にて海外招待選手としてポーランドの大学生、カロリーナ・ステチェンカ選手が指した戦法として▲7六歩△8四歩▲7五歩という序盤が「ポーランド流」として紹介されています。
 ハチワン読者であればすでにお分かりでしょうが、この戦法、実は鬼将会・世界隊のアメリカ最強が谷生さんから教わったという戦法「新鬼殺し」に他なりません。もっとも、6人の棋士の評価とは散々で、ハチワン読者としてはちょっぴり悲しかったりもしますが、何気に専門書も出ている戦法ですので、興味のある方は是非。

将棋奇襲〈2〉新鬼殺し戦法 (MAN TO MAN BOOKS)

将棋奇襲〈2〉新鬼殺し戦法 (MAN TO MAN BOOKS)

 テーマ2は「右四間飛車はなぜ主流にならない?」というわけで、これまたハチワン登場人物の一人である右角の得意戦法がテーマとして取り上げられています。こちらについても、右四間についてのプロの評価は決して高いものではなくて、ハチワン読者としてはまたまた悲しくなってきたりもしますが、「形勢的には難しい」ともいわれています。頑張れ右角……。
【参考】俺はこうやって負けてきたし勝ってきた!!!!*1 - 三軒茶屋 別館

四段昇段の記

 第51回奨励会三段リーグを終えて1位・2位の通過を決めて新四段となった上村亘新四段と石田直裕新四段と、それから次点2回によりフリークラス入りの権利を行使して昇段した渡辺大夢新四段の、三人の昇段の記が掲載されています。昇段を決めての喜びと安堵とこれからに向けての決意とが述べられています。月並みですが、今後の活躍に期待です。

*1:Autopsy imaging(死亡時画像病理診断)のこと。

*2:正確には3手目ではなく4手目でしょうが。

*3:【参考】【甘口辛口】引き分け狙いのなでしこ、海外メディアから皮肉も - MSN産経ニュース