<社説>辺野古設計変更申請 建設断念しコロナ対策を


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 沖縄の民意に反する上、実現性すら明確ではない工事を強行するのは血税の無駄遣い以外の何物でもない。政府は現行計画を抜本的に見直し、県内移設を伴わない普天間飛行場の全面返還に大きくかじを切るべきだ。

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設で、政府が軟弱地盤の改良工事に伴う設計変更を県に申請した。改良工事が必要な地盤は大浦湾側の約66・2ヘクタールで、総経費は9300億円に達する。そのうち約1千億円が地盤改良の費用となる。
 約4年1カ月をかけ、砂ぐいなど約7万1千本を打ち込む工法だ。県が承認した時点から埋め立て工事を経て米軍の使用開始までに12年かかると見込んでいる。
 辺野古移設が普天間飛行場の早期返還につながらないことが一層鮮明になった。
 防衛省の調査は、軟弱地盤が水面下90メートルに達するとされる地点で、別の3地点の調査から強度を推定し「非常に硬い」と結論付けた。有志の大学教授らでつくる調査団は調査手法を疑問視し、地盤崩落、護岸倒壊の可能性を指摘している。
 工事を前に進めることを優先し、おざなりの調査で済ませた可能性がある。
 前例のない難工事であることに加えて、新型コロナウイルス感染症対策で膨大な国費を投入しなければならない財政事情を踏まえると、完成は全く見通せない。
 政府は2014年には埋め立て工事に要する総事業費を「少なくとも3500億円以上」と説明していた。国民の反発を回避するため過少に見積もったのだろう。現時点の総経費はその約2・7倍だ。
 土砂の投入は18年12月から始まっているが、県の試算によると、数%程度しか進んでいない。完成を見ないまま、工期と工事費だけが膨らんでいく事態が予想される。
 新型コロナのまん延で、日本経済はかつてない危機に直面している。その中で、最終的にいくらかかるかさえ判然としない米軍基地の建設に巨額の血税を投じるのは狂気の沙汰だ。到底、国民の理解は得られない。
 この間、政府は沖縄県民に対して誠意のない態度を取り続けてきた。地質調査でマヨネーズ並みの軟弱地盤の存在を早くから把握していたにもかかわらず、ひた隠しにした。18年3月に市民の情報開示請求で明らかになった後もごまかし続けた。安倍晋三首相が国会で初めて認めたのは昨年1月のことだ。
 全都道府県が緊急事態宣言の対象地域になり、県がコロナ対策に忙殺されるさなかに設計変更を申請したのは大きな問題だ。国民に不要不急の外出自粛を求めている政府の方針にも反する。
 県は感染拡大を防止するため、職員の在宅勤務を推進している。わざわざこういう時期を狙ったのだとすれば悪質と言うほかない。