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美食を愛した三川基好のために、かつて三川にも一部送つたことのあるリヨンの食日記より。
一フランはほぼ十八円の時代。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 10月7日 フランスのレストランは一人では入りづらいので、(トイレの前の席とか壁際の狭いところなどにすわらせられる)、最近は節約もあつて自炊をしてゐます。中華も作りますが、元気だと洋風。魚、ノルウェーの生鮭がやけにおいしいので、フランス風味つけにして、サラダとスープなど、それにバゲット、チーズ、ワインといふ食生活です。昨日はメルランといふ鱈の一種をバターでいためて、それにルイユといふ香辛料の入つたソースをまぶして食べました。ワインは冷たく冷やした、ちよつと珍しいボージョレの白。前菜はサラダと魚のスープ。フランスは花が安いので、食卓にはきれいな花を飾り、蝋燭を灯しての食事です。まあ一人暮らしではありますが、一応。 10月9日 疲れると外食よりも自炊、洋食よりも日本食といふことになるのは年のせゐかもしれませんが、中華街が至近距離にあるので、昨日の昼は「錦」といふカリフォルニア米を買つてきて、鍋で炊き、もやしと豚肉を炒めて食べました。豆腐もまあまあおいしいものが4フラン(1フラン、約18円)弱、もやしなどは3フランでかなり大きな袋入りが買へます。今日の昼は余つた豚肉を使つてカレーを作つて食べたところです。納豆も売つてゐたけれど、こちらは日本から輸入したものを冷凍にして売つてゐて、ふたパック15フランくらゐするので、さすがに高いと思つてゐたら、あとから店に入つてきた日本人の若い女の子の二人づれ、納豆を見つけると、「あつたあ! えーと、300円ぢや安いジャーん」と言つて、いくつも抱へるやうにして買つてゆきました。 ところで、昨夕は近くのレストランで食べたのですが、なんとマダガスカル料理店。ご飯を皿の中央にきれいに盛りつけ、海老、豚肉、鱈の仲間の魚、鴨を適当にとつて食べるもので、なかなかおいしいものでした。ビールはマダガスカルの、Three Horsesなる銘柄。軽口の呑みやすいビールでした。お店の女の子たちがきれいで、びつくりしました。家に帰つてマダガスカルについて調べると、1996年現在で、平均寿命は51〜53歳とのこと。乳幼児死亡率が93パーセントに達していることが原因なのでせうか。それとも……。 10月10日 今日はBoeuf Bourguignonを煮込む間のメールです。 今台所からことこと玉葱と牛肉の煮える音と、ワインの匂ひがしてゐます。肉は近所で見つけた評判の肉屋でブルギニョン用の牛肉を310g(200gといつたのに、どさつとはかつて、いいですか?といふのでウイと答へたためにさうなつてしまつたのでした。でもそれで12F=200円ちよつと)買つて、大量に玉葱を炒めて、赤ワインで煮てゐます。それも近所のワイン屋の主人と仲よくなつたので、ブルギニョン用に勧めてもらつたCôtes du Ventoux。この方が高くて21F。あと一時間くらゐ煮込むつもりです。パンはちやんとBoulangerieと書いてあるパン屋で買つたバゲット。4F。聞いたところによると、最近は冷凍のバゲットを売つてゐる店が増え、それらはBoulangerieの名前を用ゐてはいけないといふことで、Croissanterieその他の名称を用ゐてゐます。パン屋を出て花屋の前を通りかかつたら、薔薇が25本で50F=900円と格安だつたので、それも抱へて帰つてきました。25本の薔薇といふのはなかなか壮観です。食卓に飾つて、蝋燭をともしながらの食事です。フランスは蝋燭の種類も多く、かつ安いので(たぶん以前は電気代が高かつたせゐではないかしらん)、まあア・ラ・フランセーズにといふところでせうか。かう書いたからと言つて、嫌みに思はないでくださいね。ふつうのフランス人がしてゐることを一人暮らしではあるけれどしてゐるだけですから。音楽はマックのPowerBookで聞くCDのAstor Piazzola Live at Cine Teatro Gran Rex de Buenos Aires。フランスで、今ごろの季節に聞くとたまりません。ますます好きになりました。最近こればかりかけてゐます。いまこれを書いてゐるときも、バックで鳴つています。 さて、先日書いたLe SudはBocuse du quotidienと言はれる廉価版の姉妹店三軒のひとつ。名前の通り、イタリアからスペイン、マグレブの料理を出します。あとはLe NordとL'Estです。いずれ全部行つてみるつもりです。じつは今日の昼、何を食べようと思つて外に出たのが運の尽き。Le Sudは歩いて七分のところにあるので、そういへばこの間もらつたメニューには、クスクスもあつたなあと思つたらゐても立つてもゐられず、予約はしてなかつたのですが、すこし遅めだからいいかもしれないと思ひつつ、行つてしまひました。Paul Bocuseの直弟子が作るクスクスなんて興味ありませんか? 結論から言ひます。最高です。困つたことになつたと思ひました。こんなクスクスやSoupe de Poissonを食べつけたら、日本に帰つてから食べたくなつたときにどうしようと。 フォークで触れただけでほろりとくづれるほどにやはらかく煮た小羊の骨つき肉が、皿の中央に置かれ、それを囲むやうにして人参、courgettes、エジプト豆、ピーマン、西洋大根がこれまたくづれるがごとくにやはらかく、香り高いスープに浸つてゐます。スムールは別皿で、干し葡萄を入れて炊き込まれてゐて、香りがすこぶるよく、これをスープに少しづつ掬つて入れてかき混ぜると、それだけでのどが鳴りますが、もうひとつそこはこらへて、辛味の香辛料を匙で皿の縁につけ、フォークで混ぜながら口に運びます。香辛料がただ辛いのではなくて味のある辛さで、それが小羊や野菜やスープすべてと調和して、一口目からなんとも幸せな気分にひたつてしまひました。こんなに上品で、しかし気取らないおいしさのエッセンスをスープといふもつとも消化のよいものに溶け込ませて口に入れさせる。Bocuseの名前は伊達ではない。それを実感する一皿でした。ワインは適度に冷やしたカラフのCôtes du Rhone(リヨンでは、pichetとは言はず、Un pot du beaujolais nouveauのやうに言ひます)。ああ、こうして書いてゐてもはつきりと思ひ出せる味でした。 かくまでおいしいものを食べたあとは本屋がいいですよね。そこでFnacとFlammarionに行きましたが、Flammarionの文学書売り場の責任者とプルーストのことで話が合ひ、もちろん、ぼくのフランス語などたどたどしいに決まつてゐますが、それでも30分くらゐ話し込んで握手をして帰つてきました。 なにゆゑにプルーストか。じつはこの七月にガリマールから初めての一冊本の『失はれた時を求めて』が出たのです。プレイヤードの四巻本から本文だけをまとめたもので、2408頁、195Fといふものです。これはぼくには感激でした。ぼくにとつての一冊の本はプルーストであり続けてゐながら、今までは何冊もに分かれてゐたので、ほんたうの一冊ではありませんでした。それが今回、手に乗せて開くと巻頭のことばと最後の言葉がともかくも一冊の本になつているといふ感激。これからは無人島でも監獄でもこれ一冊があればいい。ヴァレリーのプレイヤード版が出たとき吉田健一は、これで世界が手のひらに乗つてゐると書きましたが、いまぼくは思ひます。ここにぼくの書物が乗つてゐると。ぼくの文学がすべてが乗つてゐると。ただ、これはプルーストに傾倒した時間を持たない方にはなかなかわかつて頂けないかもしれません。心あるところをくみ取つてくださればと思ひます。 さて、そろそろブルギニョンが良い頃合ひでせうか。
by romitak
| 2007-10-19 00:36
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