加藤民男先生のご逝去を知らせてくれた後輩は、学生の面倒見のよいすぐれた仏語教師であるとともに、仕事も翻訳もいい仕事を積み重ねてゐる俊英である。
その彼から重ねてメールが届いた。そこには加藤先生の最後の様子も書かれてゐた。それをここに記すことはできないが、ただ、先生があらゆる延命治療を拒み、ご自分が亡くなつたあと、それを知らせるな、偲ぶ会のやうなものも開くなとご家族に厳命してをられたといふことだけは書きつけておきたい。そこまでご自身に厳しい先生はしかし、学生に対してはどこまでも真摯に向き合ふ教育者だつた。後輩が書いてきた言葉に私は深い感銘を覚えたので、彼の迷惑にならない程度に絞つて紹介したい。
あるとき、その後輩は先生に、やる気のない学生をどう指導したらいいでせうかと伺つたことがあつた。
加藤民男先生のお答へはかうだつたといふ。
「学生を諦めてはだめだよ。しつかり向き合はないと」。
還暦を過ぎるまで教師をしてきた私をこのお言葉は厳しく打つ。師はいつまでも師であられる。それを実感するばかりである。