「響け!ユーフォニアム」の主人公 黄前久美子から考える「作品に作られた主人公」なのか「キャラありきの作品」なのかという考察

 京都アニメーションの「響け!ユーフォニアム」が終わりました。総合すると非常に良いアニメになったと思いますし、見どころ満載でアニメ感想・考察ブロガーさんたちの筆も大いに進んだようです。僕も記事を書いているくらいですから、何かしら心を動かすものがあったのだろうと思います。
 さてそんなユーフォニアムですが、前回に引き続いて主人公の黄前久美子について考えてみたいと思います。タイトルにもあるとおりなのですが、主人公が「作品に作られた主人公」「作品(ストーリー・世界観や設定)ありきの主人公」なのか、あるいは「キャラありき(キャラメイクが先にあってそこに話を肉付けていったとか)の作品」なのかという点です。前回の記事でも触れましたが、主人公の久美子が決して組織の中心にいるわけでもなく、また主体性をそれほど発揮しているわけでもなく、そしてカリスマ性があるとか天才的なところがあるでもない、というあまり主人公らしくない設定、というのが興味深い点でした。どちらかと言えば割と人間臭いことからしても、キャラありきの主人公設定なのかなと考えてしまいます。
 キャラありきで作られたのではないかと思われる作品といえば、主に日常系アニメと呼ばれる作品がそれにあたるかと思われます。京アニ作品で言えば「けいおん!」とかがそうなのでしょうか。もちろんバンドを組むわけですから担当楽器ごとにキャラを作っていった可能性も無きにしもあらずなのですが、どちらかと言えばバンドよりも日常での掛け合いがメインの作品だとも感じましたから、やはり平沢唯というキャラありきの作品だと思います。「たまこまーけっと」はどうなんだ? と考えると……簡単には答えが出ないのですが、「たまこラブストーリー」あたりになるとシチュエーションとイベントだけを与えて、その中でキャラクターたちはどう動くのか? という作り方をしているように感じましたので、やはりキャラありき風の作品だったのではないかと考えるのです。
 ただこの作品については違う見方も出来ます。それはこのユーフォニアムが吹奏楽部の低音パートの楽器である、そのユーフォニアムを演奏するのが主人公である、という設定です。吹奏楽で花形といえばソロパートのあるトランペットとかになるようですし、どちらかと言えば低音パートは地味目だという描写も作中にありました。実際前に出てきにくいところですし、志望者も少ないようですからその通りなのだろうと思います。要は吹奏楽部の中でも主役というよりは脇役的な存在だし役割なんだろうとも思うわけです。主人公がそんな脇役的なポジションにいることで、中心的な存在として描くよりも俯瞰するようなポジションや前に出ない性格設定が生きると思うんですよね。そうすることで、カリスマ性を持たせる必要もなくなり、高坂麗奈のような天才に次第に感化されていくことも描けたのではないかとも思うわけです。つまりそれって「黄前久美子」というキャラクターありきというよりも、この「響け!ユーフォニアム」という作品とか吹奏楽部の一員であるという設定が産んだキャラクターだ、という見方も出来ると思うのです。
 例えが京アニ作品ではないのが申し訳ないのですが、ユーフォニアムと同じく多数のキャラがチームとなって1つの目的を達成していく、というシチュエーションが近いアニメといえば、「ガールズ&パンツァー」や「SHIROBAKO」が挙げられます。京アニとも縁の深い水島努監督でもありますし、常に何か近い作品を作っているという印象もあります(ガルパンやSHIROBAKOのメインキャラクターが5人、けいおん!も同じく5人だとか)。このガルパンやSHIROBAKOの主人公は、確実に作品のジャンルとかストーリー展開をしやすくするための設定から作られたキャラクターだろうと観ています。ガルパンは弱小チームのリーダーですし、そんなチームを徐々に勝たせていくには元名門校で中心的な存在だったことが、西住みほには必要だったのだろうと思います。SHIROBAKOでは制作進行という設定から様々なセクションと関り合いを持ちやすいポジションになってますし、作品の話の進みを円滑にするためには、宮森あおいをデキる子にしないといけなかったと考えています。どちらもかなり作品内容なテーマに沿った主人公の置き方をしてますが、それゆえに一番描きたかったものを存分に描いていたことでより評価が高まったとも思います。
 ユーフォニアムでは、挙げた2作品ほど作品に寄り添った主人公の作り方はしていないようにも思いますが、ユーフォニアムという楽器やパートに合わせたキャラメイクという見方も出来ると思いますし、そのポジションが前回の記事で書いたような味わい深い主人公を産んだ、ということも言えるような気がします。
 どちらが正解というものではないと思いますが、そういう部分を念頭に置いて観てみるのもまた一興かと思います。

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