24時間テレビのファクトチェックと、チャリティー本売上の全額寄付報告
24時間テレビへの寄付は100%地球を救うのか?
24時間テレビ。出演者に高額ギャラが支払われてチャリティー活動としての意義を問われている中、系列局による募金横領(8年間)が発覚。そしてよせばいいのに「愛は地球を救うのか?」という誤解を煽るようなサブタイトルを付けるなど、自らつけた信用の傷口に塩を塗るような行動に出ました。
しかしそれをもって、24時間テレビを善意ピンハネ番組と捉えるのは陰謀論者に踊らされる浅はかさなのかもしれません。実は2013年12年1日、活動の透明性を高めるため、彼らは公益社団法人24時間テレビチャリティー委員会を発足させていました。そして、その公式サイトで「経費を差し引くことなく、支援活動に活用」と公言しています。この宣言は2014年6月14日時点の公式サイトで既に確認できます。つまり、昨年2023年に発覚した不祥事を機に是正したとかではなく、少なくとも10年以上前から一切ピンハネをやっていないのでした。
なぜあの水卜アナによる謝罪放送の時、その肝心なことには一切触れず、ヘンなサブタイトル発表ショーにしてしまったのかは、理解に苦しむところです*1。
当研究所は今年、100%寄付の同人誌を頒布
私達は、金沢の大学や研究スタッフ、学生とも繋がりのある研究活動をしていたため、今年元日に発生した令和6年能登半島地震を受けて、何かしらの支援できないかという思いが強まりました。そこで当研究所(同人サークル)としては、本の売上(厳密には頒布で預かったお金)を被災地域に寄付するという活動を企画しました。
印刷代を低く抑えられる2月に本を製造して活動を開始し、8月18日のコミティア149で用意した分がすべて無くなった(頒布完了した)ため、改めて活動のまとめと報告をします。
売り方(頒布方法)と結果
詳しいことは前回の記事で書きましたのでここではおさらい程度に記すことにします。
チャリティー本として頒布した本は、「先生、わかりません!(1.3版)」
という本です。これは、大学の授業で実際にあった、UNIX系OSにおける初歩的な質問やミスを綴った本です。UNIXビギナーにとってみれば典型的な躓きポイントとして参考になる内容ですし、上級者にとってみても入門者を指導するにあたって彼らがどこで躓くか、そしてどう教えるべきかが予めわかるという意味で便利な本だと思います。
そして、これを頒布する際には次の三つのルールを設けました。
- 経費を差し引くことなく、「全額寄附」と明言
- 購入者が価格を決められる(募金もそうだから)
- 0円でもいい(他所で寄付する or したなら)
「経費を差し引くことなく」というルールは、今の24時間テレビと同じですね。そして3番目のルールは今回のチャリティー企画における最大の特徴です。購入額(=寄付金)をうちに託してもらっても残念ながら(2014年以降の24時間テレビのように)寄付金控除は受けられないですし、そもそも最終的に被災地域に届けばよいわけですから、うちを経由させる必要もないというのが理由です。逆に少しでも話題性を持たせて、寄付行動を促せればとも思いました。
そして、活動の結果です。もし、ルール2が裏目に出ていれば*2原価を下回る金額しか寄付金を集められないことになってしまって、本なんか作らずに印刷代金分を直接寄付した方が効率的だったからです。
ふたを開けてみれば、この本の最終的な売上高(=寄付総額)は102,850円(通販やPDF版の注文分も含む)。印刷代は27,440円だったため、最初に投じた寄付金の原資(=印刷代)が3.75倍になった計算です。
イベント会場で買ってくれた来場者の皆さんがいくらずつお金を出してくださったのかもまとめました。前回の記事で報告した理由により、夏コミでは会計毎に寄付額を記録していたのですが、1週間後のコミティア149でも同様に記録したため、両イベントで集計しなおした分布図を掲載します。
購入者数は両イベント合わせて51人で、購入額(=寄付額)の平均値は1,028円、中央値は1,000円でした。1,000円札1枚、次いで500円硬貨1枚という方が多かったです。その次は、他の本(チャリティーではない本)を買ったお釣りを寄付額(200円、300円)にしたり、それだと心もとないといって別途1,000円を追加したりという方が多かったように思います。中には、「趣旨を理解しました」といって、5,000円、3,000円など、本の元値を大きく上回る額を寄付してくださった方もいました。
一方、これは夏コミとコミティア149のみならず、2月の頒布開始から無くなるまでを通しての話ですが、0円という方は1人だけでした。趣旨を理解しつつも、商品に見合った金額を払わないことに抵抗を感じる人が多かったという印象です。私も逆の立場だったらきっとそうだと思います。
チャリティー企画に参加してくださった皆様、ありがとうございました。
8月29日、寄付のため、石川県東京事務所へ訪問
令和6年能登半島地震に係る石川県への災害義援金の寄付方法は、石川県の災害義援金受付情報ページ
に記載されています。それによれば全国の金融機関から銀行振込によって寄付することができます。しかしながら、本件では本を購入された皆さんに対して預かった寄付金を全額寄付したことを証明する責任があると考え、それが確実に行える窓口の一つである石川県東京事務所に行ってきました。
石川県東京事務所訪問記
以下、写真主体で報告します。
寄付した事実は、第三者も確認できる
当研究所が寄付した事実は、先ほど紹介した石川県災害義援金受付情報ページ内の「(2)義援金をお寄せいただいた方々」の中で近日中に公開される見込みです。
9月5日追記
公開されました。
令和6年(2024年)能登半島地震に係る災害義援金の受付について > 「1 義援金の受付状況について」 > 「(2)義援金をお寄せいただいた方々」 > 「[PDF]義援金をお寄せいただいた方々(確認順6,001から)」
のリンク先の11,801番です。お確かめください。
通常あ版の「先生、わかりません!」本は値下げして頒布中
「先生、わかりません!」のチャリティー企画は終了ですが、能登半島地震からの復興はこの先何年もの月日を要するでしょう。ですから、今後も何らかの形で支援を続けていきたいと思っています。そのためにも、通常の活動が重要だと考えますので、最後に本の宣伝をします。
この記事で話題にした「先生、わかりません!」には実は、通常版が存在します。チャリティー企画が終了したため、通常版(1.2版)の頒布を再開しています。1.2版は、チャリティー版(1.3版)に比べると本文で紹介しているUNIXビギナーのつまずきポイントの数が若干少ないのですが、追加料金無しで配布している電子版を1.3版(つまりチャリティー版)にしました。とはいえ、冊子は1.2版であることに代わりないため、頒布価格を100円値下げしました。
UNIXビギナーにとっても上級者にとっても参考になるつまづきポイントが多数記述されているので是非一冊いかがですか?
「先生、わかりません!(通常版)」購入フォーム
(書影は1.3版)
先生、わかりません!(冊子1.2版+PDF1.3版)
2024年2月25日 発売(1.3版の日付)
頒布価格: 700円→600円(PDF単独は300円)
A5版・76ページ(1.3版のページ数)
カゴに入らない方は、お手数ですが本店ページでお求めください。
夏コミ新刊「逃し弁コマンド」購入フォーム
この場を借りて、夏コミ(C104)の新刊も紹介しておきます。
これは、標準入力から勢いよくデータが到来した場合に、それが一定以下の流量になるように一部のデータを別のファイルディスクリプターに逃がす(または破棄する)というコマンドを作った話と、その使い方や実装アルゴリズムを解説した本です。
「逃し弁コマンド」
2024年8月12日 発売
頒布価格: 500円(PDF単独は200円)
A5版・44ページ
こちらもカゴに入らない方は、お手数ですが本店ページでお求めください。
頒布価格を購入者が決められる本を、C104来場者はいくらで買ったか
コミックマーケット104(C104)参加者の皆様お疲れさまでした。6年ぶりくらいにここに記事書きます。
久しぶりなので自己紹介
私は同人作家です。コミケには毎回出展しています。副業(?)としてプログラマーと大学講師をやっています。なので、出展ジャンルは「同人ソフト(213)」で、主に「技術書」に分類される同人誌を作ってます。そして、このブログの過去記事を見てもらえばわかるように、作るものは本のみならず、(プログラマーなので)プログラムはもちろんのこと、売り方含めて作っています。
「売り方を作る?」……と、疑問に思う方は「分割金利手数料はジャパネットが負担」を想像してください。売り方を作るというのは、例えばああいうことです。作品というのは商品本体のみに非ず。売り方を含めて作品だと私は思っています。
さて本題(購入者が値段を決める本を作った話)
今回の夏コミ(C104)では、売り方に作品性を持たせた作品(同人誌)を売ってきました*1。その同人誌の名は「先生、わかりません!(1.3版)」。
能登半島地震がきっかけ
この同人誌は、石川県地域の大学・専門学校向けに開講しているUNIXプログラミング(シェルスクリプト)の授業が元ネタです。学部問わず履修者を募っているため初歩的なミスや質問が多く発生するのですが、中・上級者からすると「なるほど、そんなところで躓くのか!」という意外な気づきを与えてくれます。それが大変興味深く、また彼ら入門者にとってみても躓きポイントが網羅された内容になる、ということで、2022年に同人誌化したものです。内容は、下記の紹介ページ
をご覧ください。
この本は久々によく売れました。平行して授業も毎年実施していますので、何度か内容を追記しながら改訂してきました。そして迎えた2024年、ご存じのとおり能登半島地震が発生しました。その影響は担当している授業にも及び、履修者の中にも欠席者が出ました。また、先生方や研究スタッフの方からも過酷な状況が伝えられ、被害の重大さ痛感しました。
部外者の私が今できる一番効果的なことといったら資金援助かなと思いました。東日本大震災で被災した親族の話を思い返してみてもそう思えました。そこで思いついたのが石川にゆかりのあるこの同人誌のチャリティー頒布企画でした。
作品性を持たせた頒布方法
よく売れた本とはいえ新刊ではないので、今となっては作品性が薄いことは否めません。作品性が薄いということはあまり売れないということなので、被災地支援という当初の目的には効果が薄いということになります。そこで、売り方に作品性を持たせてこの弱点を補おうと考えたのです。
ここで作り出した売り方の作品性は次の三つです。
- 全額寄附とした
- 購入者が価格を決められる(募金もそうだから)
- 0円でもいい
三番目の「0円でもいい」というルールを不思議に思うかもしれません。このようにした理由は、「お金を被災地域に届けることが目的であって、そのためにうちのサークルを経由する必要性が無いから」です。例えば、ふるさと納税で被災自治体に寄附をすれば、寄附した人は所得控除を受けられて一石二鳥になります。
どれくらいの効果があったのか?(売上レポート)
通常であれば、作品性を持たせるのは「自己表現のため」でしょうが、今回は被災地支援としてお金を送ることが目的ですので、自己表現で終わっては意味がありません。つまり、作品性を持たせたことによってより多くのお金が送られなければ意味がありません。ということで、売上レポートを発表します。
原価(印刷代)を下回っては意味がない!
よく、街頭募金で立っている人に対して「募金の呼びかけで時間を浪費してないで、同じ時間アルバイトして自分のバイト代を募金に充てろ!」と言う人がいますが、その理屈で言うなら、「(価格の決定権を購入者に与えたせいで)印刷代を下回らせるリスクを負うくらいなら、そのまま印刷代を寄附しろ!」と、私も叱咤されることになります。なので、まずは印刷代を上回ったかどうかを報告します。
印刷部数と印刷代
今回、チャリティー仕様に改訂して注文する部数は100としました。これまで何度か改訂・増刷してきたので、これくらいが限界だろうと見積もりました。そして、瑕疵分の予備も含めて106部納品され、幸いなことに不良品は0でした。
これに対する印刷代は27,440円でした。印刷業者の閑散期を狙ったり、文章を削ってページを減らすなどの努力をして比較的安く抑えられたように思います。
結果、一冊当たりの原価は約259円でした。
初売りからC104までの総売上と寄附金倍率(暫定)
チャリティー仕様の「先生、わかりません!」は、おかげさまでC104終了時点で残り5冊になりました。イベント主催者に対する見本誌提出によって3冊消費したため、ここまで正味98冊売れたことになります(納品106冊-提出3冊-残5冊)が、101冊なくなったことに代わりはないため、101冊売れたものと見なすことにします。
そして、現時点での総売上は94,650円です。ということは、投じた原価(印刷代)はおよそ3.4倍になって返ってきたことになります。まだ残り5部ありますし、それに0円で購入した方はどこかで寄附しているはずなので実質的な寄附金倍率はもう少し高いと思います。参考までに、なくなった部数で割れば単価が出ます。計算してみると、現時点での本書に対して購入者が与えた価格の平均は966円でした。
まずは、投じた資金が無駄にならずに済んでよかったです。被災地支援としてみればこの金額は微々たるものであることはわかりますが、チャリティー活動の方法論として他の方の参考になれば幸いです。
購入価格の分布(C104の場合)
頒布価格を購入者に任せると、一体どんな価格をどのくらい人が付けるのか気になりますよね?これに関しては、今回の夏コミについてだけ、知ることができました。
コミケ以外の即売会イベントではこれまで、専用の募金箱を用意して、他の本とは別に集金していました。購入者一人一人がいくら出したのかの記録は付けていなかったので、単に合計額がわかるだけでした。しかしコミケでは、来場者数が多いことに警戒して、専用の募金箱を使うのを避けました。他の本との合計額で払われた場合に、お金を崩して募金箱に入れるオペレーションで注文を捌ききれなくことを恐れたためです。その代わりに、購入者がこの本の分として払った(or 払うといった)金額を付箋にすばやくメモし、それを専用募金箱に放り込んで後で数えることにしたためです。
といことで、夏コミ(C104)における購入価格をグラフ化したものをお見せします。
夏コミでは44人の来訪者に購入していただけましたが、一番多かった値付けは1000円、次いで500円でした。この値付けは単品買いの場合によくなされ、キリのよい金額ということで多かったのだろうと思われます。
一方、他の本とまとめ買いする方は、他の本に対するお釣りの額や、そのお釣りに+1000円、+500円というのが主なパターンでした。例えば、200〜400円の価格帯のところの多くは700円の本を買ったお釣りである300円でしたし、1400〜1600円の価格帯のところはすべて500円の本を買ったお釣りに1000円を上乗せしてくださったというパターンでした。
また、単品買いでは、2000円、2500円、3000円、5000円などの高額購入された方もいました。「趣旨に賛同したのでこれくらい出します。役立つことを願ってます」と、おっしゃる方もいました。本当にありがとうございます。
ところで、反対に0円で購入する方は今回まったく現れませんでした。私としては0円でも構わない理由をしっかり説明したつもりですし、それで実際に納得してくれた方は多かったと感じています。しかし、その趣旨を理解した上で、「どうしても責任を感じてしまう」などと話して、結局0円で持っていく方はいませんでした。中には、「これの原価はいくらですか?それ以下だとやっぱり申し訳ない」と話す方もいました。そのようにして、来訪者からの正直な気持ちを伝えられると納得します。私が買う側だったとしたら、やっぱり0円で持っていくのは勇気がいるなぁと思いました。なお、C104以外でも、0円で購入された方は記憶している限り、一人しかいませんでした。
改めまして、お買い上げいただいた皆様に、心より感謝申し上げます。なお、お預かりしたお金は、年内(石川県の義援金の締め切りまで)に責任をもって石川県に送ります。
最後に、通販用の商品ページを貼っておきます
売り方に作品性を持たせた話を強調しましたが、本の内容も面白いと思うんです。なので興味があったら皆さんも是非お買い求めください。寄附をしながら。
なんと、ここはブログなのに「カゴに入れる」ボタンが設置できちゃうんですねぇ。そう、私はプログラマーでもあるので、こういうシステム開発に対しても作品性を持たせたがるのです。(ただ、サードパーティーCookieをオンにしてもらわないとボタンが効かないのですが……。ボタンが押せない方は、本店ページで是非)
寄附したい額だけ「寄附チケット」をカゴに入れてご購入ください
以下、商品をカゴに入れるボタンがありますが商品自体の価格設定は0円です。その代わり、寄付チケットもありますので、これを是非一緒にカゴに入れながらお買い上げください。もちろん、他所で寄附する方(した方)は0円でも構いませんよ。
以下、商品ページ
*1:正確には「頒布」ですけど。
チップスター図鑑 冬コミ(C95)で頒布(カップスター本と共に)
チップスターをコレクションした本を、作りました。(冬コミで頒布)
公式ページには数種類しか載っていないものの、よーく探すと……あるわあるわ。季節限定、コンビニ限定、地域限定、そしてさらには新幹線限定なんてものまで。この一年、集めに集めて33種類発見しました。
内容についてもう少し詳しく
もともとは、2016年8月をもってヤマザキナビスコがナビスコブランドを返上しなければならないことがきっかけでした。「あぁ、もうナビスコチップスターが買えなくなるのか……」と。名残惜しさのあまり、その時お店に並んでいたものを買い揃えようとしたのが間違いだった。(笑)
探し始めると、あるわあるわ。「え、そんなもの。あれ?こんなものまで!」と、そしてヤマザキナビスコからYBC(ヤマザキビスケットカンパニー)に改名してからも、続々と登場するのです。「あ、このコンビニにしか売ってないやつがあるじゃん」とか果ては東海道新幹線に乗っている時に車内販売に見慣れないチップスターがあって度肝を抜かれました。
公式ページにのってる商品紹介とは何なんだ。
と言いたくなるほどです。
そして、図鑑を作成
パッケージの絵柄もさることながら、原材料欄や注意書きを見ていても面白いのです。例えば、「〇〇味」を作るには想像もつかない原料が入っていたり、同じ商品がマイナーチェンジすると原材料が微妙に変わったり……。などなどのことから、各商品について次のような項目を設けて紹介しました。
- パッケージ写真
- 中身の写真(食べ物こそ主役!パッケージなど額縁でしかない)
- 原材料欄
- 栄養成分表示
- 注意書き
- 入手困難度などの主観的評価
- コメント
- などなど……
まさに図鑑ですね。
巻末にはなぞの写真集
そして、オマケとして巻末にチップスターのミニ写真集を掲載。あ、メインのページも写真を載せていますが、それらとは趣が違います。
チップスターは食品で、食べられたら消え、用済みの箱は捨てられる運命にあります。そんな儚いチップスターの刹那の美しさを写真に収めたかったのです。フラワーアレンジメントにしてみたり、バラ園ロケしてみたり……。とにかくご鑑賞あれ。
冬コミ(C95)3日目、P30abでお待ちしてます。"ab"ということで合体サークルです。しかも、隣はなんと「カップスター」の本!(東相模原研)。チップスターとカップスターの夢のコラボが実現します。こんな感じ(↓)。カップスターのあのギザギザが再現されているんですって。電子書籍では味わえない楽しさ!
【告知】#C95 新刊「#実食カップスター」執筆当時で購入可能なカップスターをレビューしました。現在はなくなってしまった表面の凸凹とした手触りを表紙で表現しています。12/31(3日目)東P30b「東相模原研」です。合体サークルで、お隣はチップスターの本です。あわせてどうぞ #評論情報系同人誌告知 pic.twitter.com/B52FFhOtqJ
— みっぱら@東相模原研▶️8/18(日)コミティア149東6ホール・さ12a (@higashisagamiha) 2018年12月21日
「けもフレ×ネットカルチャー×プログラミング」な本の第二期を作り、その後をニコブロで報告中
まず、冬コミで頒布した作品の購入ボタンを置いておきます。
ひとことで言うと、Twitter上で発せられた「けものフレンズ」を大量収集し、分析した本で、その2ndシーズン(2017.08〜12)です。1stシーズン(2017.03〜07)の在庫は少なくなってきましたが、両方ともこのブログ(ショッピングカート)で絶賛頒布中です。
また、下記の同人誌ストアでの委託販売もやっています。
内容についてもう少し詳しく
2017年に、奇跡の人気を博し、社会現象にもなったアニメ「けものフレンズ」。この作品のファンになった人々(フレンズたち)は、どんなことを思い、どんな行動をとったのか、その様子をTwitter上に投稿された大量のツイートから解き明かそうというのがこの本です。
分析の結果、第二期(2017.08〜12)ではこんなことがわかりました。
- 再放送、特に北朝鮮ミサイルによる特別報道体制にも負けずに放送された最終回に対するフレンズたちの反応
- 9月のミュージックステーション特番で、47組のアーティストの中での強い人気を見せ付けたこと
- たつき監督降板騒動発生後の、国内・海外のフレンズたちの思い
- その後も、どうぶつビスケッツ(+かばん)×PPPは、音楽番組で変わらぬ人気を維持していたこと
- グレープ君を偲び、数々のメッセージやイラストを投稿したフレンズたちの様子
- 国内・海外を問わず、各地の動物園やサファリパークにフレンズたちが聖地巡礼に訪れていたこと
- けものフレンズがーでんが、いかに愛されていたかを示す位置情報付ツイートのデータ
普通のけもフレ本とは違う内容に関心を持たれ、テレ東の番組Pにもお買い上げいただきました。
買わせていただきました!
— 細谷伸之@テレビ東京 (@nobutx_0517) 2018年1月1日
ありがとうございます!
すごい情報量!
3rdシーズンも出したかったのですが
買われた方々からの評判もよかったので出したかったんですけど、今の状況だと正直まったく目処が立たないです。昨年9/25、アニメ版の功労者たつき監督が不本意さを滲ませながら降板報告をし、12/27には福原Pからも2期担当は叶わなかったという最終報告もなされ、その間にも憶測に基づく様々な風評が流れました。世の中の関心が薄れて、まとめるほどに十分なデータが採れ続けるかわかりらないからです。
そこで、とりあえず本で発表する形式への拘りはやめて、観測できている間はブログで報告していくことにしました。ただ、ここではなく、ニコブロです。
けもフレに関する出来事がある度にニコ動上の第一話にコメントが溢れるほど、けもフレといえばニコニコ動画が拠り所になっていることに敬意を表して……。
けものフレンズプロジェクト公式の番組も続いていますし、新たな企業コラボやゲームアプリも控えていて、まだまだ存命コンテンツだと思いますので、それらが続く間は観測を続けようと思っています。
「けもフレ×ネットカルチャー×プログラミング」な本できました
新刊ができたので、商品の購入ボタンを置いておきます。いや……そうじゃなくて紹介記事置いておきます。
「これはボス、あなたこれがだんだんボスに見えてくる」と言われたらもうそれにしか見えなくてもうどうしようもないペトロナスツインタワーの表紙が素敵なけものフレンズの本です。
でも、かわいいフレンズたちの絵とかマンガとか一切ありません。フレンズ化した人々(各界著名人含む)が巻き起こした行動や名言、起こった出来事をTwitter上で観測した本です。
くわしく
まず、特殊なソフト(いや、全然特殊じゃない)を使ってTwitterで①ツイートの大量検索を実施します。その時に使った検索条件式が次です。
けものフレンズ OR けもフレ OR けもふれ OR ケモフレ OR じゃぱりぱーく OR ジャパリパーク OR "サーバルちゃん" OR "かばんちゃん"
これが、この本をフレンズ化した唯一かつすべての要因です。
次に、そうして取得した大量のツイートから②表計算ソフトでグラフを作ります。どういうグラフかというと、「何時何分に1分あたり何回のツイートがなされたか」
すると、特定の日時にものすごい勢いでツイートをされる箇所がたくさん見つかります。ものすごい勢いでツイートが飛び交っているということは、何かフレンズたちをザワつかせる事件があったに違いありません。ということで、③物凄い勢いでツイートが飛び交っていた最中のツイートを観測します。すると……、
- その時,どんな出来事が起こっていたのか
- どんな名言が飛び出したのか
- その出来事に対して、皆どんなリアクションをしていたのか
などが、手に取るようにわかるという仕組みです。それが右上に貼ったグラフ例です。
多彩なグラフ
グラフはそれだけじゃありません。例えば、フレンズたちが固唾を飲んで見守っていた最終話放送中などは分単位ではなく秒単位でグラフ化してどの時分秒の何のシーンに盛り上がったのかを調査しましたし、どうぶつビスケッツ×PPPがミュージックステーションに出演した際には他の出演者と比べてどれくらい多くツイートされたのか集計しましたし、ツイートに付随している位置情報をマッピングしてフレンズたちがどこへ足を運んだのかも可視化しました。
メイキングも公開
一応うちはコンピューター技術を取り扱うグループですので、技術解説パートも用意しました。
これらのツイート収集や分析、一体どういう機材を使って行ったのか?
じつは、一台のUNIXコンピューターと家庭用インターネット回線、そしてUNIXコマンドだけなのです。Rなどの高級言語もいらなければ,Firehose等の特殊な契約も必要ありません.
その具体的な手順をチュートリアル形式で紹介していますので、あなたも今日からツイートのデータ分析が始められるようになります。夏休みの自由研究にピッタリですね。
コミケ1日目 た24bで初売り
コミケ合わせで作りましたのでコミケで初売りします。初日た24bです。この日は、たつき監督も隣のホールに出展しているらしいですよ。フレンズのみなさんは、ぜひついでに立ち寄ってください。
それから、3日目も東SOKEN(S40a)さんとこに委託しますのでそちらでもぜひ。
2017年、POSIX原理主義は世界に進出する
この記事はPOSIX原理主義 Advent Calendar 2016の最終日です。
Advent Calendar 2016完走のご挨拶
さて、このAdvent Calendarを読破してくださった皆様、そして当番の日に執筆してくださった皆様、この25日間おつきあいくださりありがとうございました。主催者でもない私が挨拶するのもおかしなものですが、POSIX原理主義という考え方を提案した張本人として、こういう場を用意してもらえたことに心から感謝します。
まだ埋まっていない日もありますが、当番の方が読み応えのある内容で後日必ずや埋めてくれるはずですの期待してお待ちください。
後日埋まるはずではありますが、節目の25日を迎えたということで、POSIX原理主義を来年どうしていくかの抱負を語り、一足先に完走のご挨拶に代えたいと思います。
今年は、大きな一歩を踏み出した年
POSIX原理主義という考え方。これは、私の中で2014年頃に生まれました。それまでもPOSIXに準拠すると何だかラクになるなぁというぼんやりとした思いはあったものの、一つの概念としてしっかり命名したのはこの年でした。また同年、PHPカンファレンス2014に参加したのが公の場でのデビューでした。なぜPHPのイベントだったかというと、この年のPHPconでは、言語を問わないLT大会が催されたからでした。
あれから2年。POSIX原理主義に基づくソフトウェアを書き貯めつつ、今年は学術論文を発表したり、Bash on Ubuntu on Windowsの登場によるOSの壁崩壊という大革命に合わせてPOSIX原理主義の理論を完成させ、その内容で商業出版を果たしました。
でも、今年何より大きかった出来事はPOSIX原理主義の支持者が現れ、仲間ができたことでした。私も、提唱者とはいえ一人の人間。気が付かない間違いや辿り着けないアイデアがあり、そして一つの体ではやりきれないこともたくさんあります。そこを補完してくれる人というのは今後の発展のためには欠かせない存在です。
今年もついに、できなかったことがあった
POSIX原理主義はとても切れ味の良い、優れた理論であると思っています。現代ソフトウェアは、目先の性能や利便性ばかりを追求し、長持ちさせるという発想がどこかへ抜けてしまっているものばかりですが、長持ちさせたいというニーズに応えられる貴重な解であり、パラダイムシフトを起こす存在だとさえ思ってます。そして優れたコマンドもいくつか作ってきました。
- ただコピーするだけで、WindowsでもMacでも、もちろんUNIXでも、多くの環境ですぐ使えるTwitterクライアント
「恐怖!小鳥男」 - 同様にして、多くの環境ですぐ使えるのはもちろん、既存のソフト以上にUNIXとの相性がよいCSV, JSON, XMLテキストパーサー&ジェネレーターの
「Parsrs」 - 2020年の東京五輪まで動き続けることを目標に、制作から2年以上経った今でも無修正できちんと動き続けている東京メトロ車両位置情報案内アプリ
「メトロパイパー」
どれもヒットしてもおかしくない出来映えだと思っています。JSONパーサーのjqやジェネレーターのjoなど、starが何千個もついているわけで、それよりも優れた出来である自信があるので当然もっとstarが付いてもよさそうなものです。
しかし現実には2ケタの差があります。同じように疑問を持つ方もいらっしゃいます。
makrj.shが自分の中ではかなり良くて、昔でいう「外人4コマ」みたいにガッツポーズしてるくらいなのだけれど、検索しても反響が全くなく一体どういうことなのか、私は別の世界線に存在しているのだろうか
— div_jp (@div_jp) 2016年9月21日
これが、今年できなかったこと。つまり、優れているのに全然普及しなかったということです。なぜなんでしょう?
この本が、できない理由を教えてくれた
オライリー・ジャパンが発行している
という本に答えが書いてありました。じつは、数年前に購入していた本だったのですがの本棚に挿したまま読んでいませんでした。良いソフトだとおもうのに流行らないのは「何でだろう」と思うようになっていて、この本を読んでみたらあっさり答えに辿り着きました。ちなみに、この本のすべての内容はWebでも読めます。
この本は、書名のとおりオープンソースソフトウェアを普及するための枠組みを作るための作法について書かれたものです。特徴的なのは、「こうやると失敗する」「こうやらないと失敗する」ということを具体例を示しながら解説している点です。
そして、POSIX原理主義ソフトウェアが流行らない理由に対する答えは、第2章「さあ始めましょう」に書いてありました。
「手持ちのもので始めよう」節より
フリーソフトウェアプロジェクトの立ち上げ時に最も厄介なのは、 個人的なビジョンをみんなにわかる形に置き換えることです。 あなた (あるいはあなたの属する組織) にとっては何がやりたいのかは明白でしょう。 しかし、そのプロジェクトの目標が何なのかを一般にもわかるように表明することは、 それなりに大変な作業です。しかし、 かならず時間を割いてそれをやらなければなりません。
つまり、「限られた時間の中で、ドキュメント作りと新たなコード作成どっちに時間を割く?」と問われたら、後者を選びたくなるけどそれが罠だと言っているのです。
しかも、
インターネットのデフォルト言語が英語となっている という事実を無視することはできません。
といって、英語を前提をすべきことまで示唆されていました。
我々の作ったソフトウェアを振り返ってみるとどうでしょう?ドキュメントはほとんどありません。シェルスクリプト中のコメントはまぁまめに書いていますが、ほとんど日本語です。
ドキュメントがないということは、空気も同然です。つまり、見えないということです。見えないということは、使う人も現れないのはもちろん、プロジェクトに参加しようとする人も現れません。参加しようかどうしようか、迷うことすらできないのですから。
来年はPOSIX原理主義のコミュニティーを立ち上げる!
というわけで本の教えに従って、来年は次の活動に力を入れます。
(1) コマンドのマニュアル、POSIX原理主義のドキュメントを整備します
まずは、本で指摘されれいた罠に見事にハマっていたことを反省し、これまで作ってきたコマンドのドキュメントを作っていきます。まずは母国語たる日本語で書いてフォーマットの確立や説明シナリオを確立し、次々英語に翻訳していきます。
特に完成度の高いと感じている「Parsrs」や「小鳥男」を優先してドキュメント化していきたいです。
並行して、POSIX原理主義を実践していくうえでのドキュメントの整備・翻訳も進めます。具体的に言うと、
のことです。さらに、このAdvent Calendarに寄稿してくださった有用なTipsも対象にできれば理想です。
「満足に英語使えるのか」ですか? 幸い今年、
というニュースがありましたし、たぶん大丈夫でしょう!
(2) POSIX原理主義のWebページを作ります
ドキュメントを作ることは確かに重要ですが、それらを一覧的に見られるWebサイトも重要です。そもそもPOSIX原理主義は思想が大事ですので、そういう話を語る場所が必要になります。
案の定、そういったWebサイトが必要であることも同じ本の同じ章に書かれています。もうこれはさっさと作るしかありません。それでもう名前は決めてあります。
posixism.org です。
POSIX fundamentalism、略してPOSIXismというわけです。もうドメインは押さえてあります。始めはほとんど中身のないサイトだと思いますが、できたらアナウンスします。
(3) POSIX原理主義のコミュニティーを作ります
POSIX原理主義の今後の構想をすればするほど、もっと多くの仲間が必要だなと感じます。ドキュメント整備やコード開発の仕事を手伝ってくれる仲間になってくれる人がいるとありがたいところですが、始めからそんなことは望みません。
一緒にPOSIX原理主義を楽しみ、実践してくれる仲間を増やしたいです。だいたいどんなプロダクトもそうですが、利用者の数が多いほど価値が高まります。
そのために、どこかのつてを探して定期的な勉強会など開けないかと画策します。見事開催が実現したら
などの意見交換をしたいと。例えば、先日のAdvent Calendar 21日目でシェルショッカー総統の321君が、「revやseqコマンドはなぜ優れているのか」ということを語っていましたがまさにああいう議論であり、意見交換をしていきたいです。
今でもTwitter上などで何となくは議論していますが、オフラインで本格的にやりたいですね。
英語……。うーん英語圏の人とも議論できたら理想ですね。
世界を“Great!”と言わせ、日本人に「すごい!」と言わせる。
今年は
が大ヒットしましたが、このコンテンツのヒットの経緯を見ても、日本人は自力でいいものを見つける力が弱いんじゃないかと思います。なぜ世界レベルのコンテンツ力をもった作品が海外を経由しないと流行らないんでしょうね。
技術も同じです。青色LEDもそうですし、既に八木・宇田アンテナが発明された時代にこの気質はありました。日本発のソフトウェアで有名なものはほとんどありませんが、よーく調べてみると、日本人の目に留まらかったことで、優秀なのに消えて行ったり、海外に流出してもともと日本で生まれたものだともはや誰にも知られていないものが意外に多く存在します。
POSIX原理主義がドキュメントの英語化に拘るのもこういう意図があります。海外で認知されなければ、国内ですら生き残れないという危機感です。
だから我々は、POSIX原理主義で世界を“Great!”と言わせ、そして日本で「すごい!」と言わせなければならないと思うのです。
というわけで来年、POSIX原理主義は世界に進出します。どうか応援してください。あわよくば、仲間になって一緒に“Great!”と言わせようじゃありませんか!
「大岡裁き」ならぬ「POSIX裁き」
この記事はPOSIX原理主義 Advent Calendar 2016の9日目の記事です。
今日のテーマは、POSIXという規格で起こった一つの事件とその裁きを、大岡政談(大岡裁き)になぞらえて紹介します。
大岡政談とは何か
そもそも大岡政談とは何でしょう?それはあの水戸黄門と共に時代劇の定番となった大岡越前をモデルにした(ほぼ創作上の)事件簿です。
実際の水戸黄門も諸国漫遊をしておらず、あれは創作物語だったのと同様に、大岡越前の名裁きとされる逸話も史実だと確認できているものは今のところ一つだけ*1で、あとは落語の囃と言われています。
創作であろうものの、その中でも特に有名なのが「三方一両損」
昔、大工の吉五郎という男が小判三両を無くした。それを左官の金太郎が拾い、幸い財布に吉五郎の名が入っていたことから善意で届けたところ、恥に感じた吉五郎は受け取りを拒否。やがて喧嘩になり、町奉行大岡様の白洲(法廷)にて決着をつけることに。
白洲でも相変わらず互いに主張を譲らぬ二人であったが、そんな二人を大岡は謙虚であると、たいそう褒めた。そして大岡は吉五郎が頑なに受け取らぬ三両を代わりに受け取り、そこに懐から取り出した自分の一両を加えてこう言った。
「その方らは謙虚ゆえ、褒美を出す。この手元にある四両を二両ずつ受け取るがよい。吉五郎、その方は届けられた時点で受け取っていれば三両が戻っていたもをその謙虚さから二両しか戻らず一両の損。金太郎、その方は拾った時点でそのまま受け取っておれば三両得したものをその謙遜さゆえ二両しか褒美を貰えず一両の損。この大岡忠相も、その方らに褒美を授けるために一両出し、一両の損。三方一両損。これにて一件落着」
さらにこの話には「三方一両得」という続きがあり、「なるほど同じ騒ぎを起こせば大岡様から一両貰えるのか」と悪巧みした二人組をこれまた巧妙な裁きで懲らしめるというものなのですが、いずれにしてもウィットに富んだ名裁きとして語り継がれています。
「アーカイバー一命令損」事件
さて、POSIX規格にも過去、二つのコマンド(命令)が削除されるという一大事が起こりました。過去との互換性を何よりも尊重するはずのPOSIXという規格が、なんとコマンドを削除したのです。しかし、そこはPOSIX。単に削除したわけではなく、ウィットに富んだ名裁きを行って決着を図ったのです。
この事件を、三方一両損になぞらえ、「アーカイバー一命令損」と呼ぶことにしますが、その経緯を見ていきましょう。
tarコマンドとcpioコマンド
今を遡ること28年前の1988年。UNIX系OSのあるべき仕様を定めた「POSIXの御触書」が公布されました。その正式名称はIEEE Std 1003.1-1988というものでしたが、そこには当時メジャーだったアーカイバーコマンドであるtarとcpioも記載されていました。つまり、tarとcpioはUNIX系を名乗るOSが持つべきコマンドとされていました。これは、それまでの各種UNIX系OSで双方のコマンドが普及していたことを物語っています。
しかし、両者の仲(互換性)は最悪。それぞれで生成したアーカイブファイルには全く互換性がありません。アーカイブファイルを作るという目的を達成するために、異なるベンダーがそれぞれ独自に開発し、二大勢力になっていたというだけだったのです。各種UNIX系OSの仕様の最大公約数的存在を目指していたPOSIXにおいて、この二大勢力のどちらかを切り捨てるというこは当時できなかったのでしょう。だからこそ両方ともPOSIXに採用されたのだと思います。*2
フォーマットの陳腐化と独自拡張
しかし、時代と共にコンピューターが扱うデータサイズが大きくなると、それぞれアーカイブファイルフォーマットが陳腐化していきました。一つは大きなデータに見合わぬ小ささのブロックサイズ。ブロックサイズが不適切に小さいと効率が悪化してしまいます。もう一つは8GBの壁。当初の規格ではどちらも8GB以上のサイズを持つアーカイブファイルが生成できませんでした。特にファイルサイズの上限問題は致命的です。
これでは使い物にならないということもあり、各ベンダーは勝手に独自拡張を施すようになりました。こうして、細かな派生が生まれ、POSIXの御触書によって維持されていたtar&cpio二大勢力という治安が崩れようとしていまいた。
POSIXが両コマンドに下した裁き
最初の御触書が交付されてから5年後の1993年、庶民(ユーザー)達からの陳情にPOSIX守(ポジックスのかみ)はついに裁きを下すことになりました。
下した裁きはなんと、tarコマンドとcpioコマンドの双方の所払(ところばらい)!ベンダー間で統一性の無い拡張をした以上市中(POSIX環境)には置けぬということで、御触書から削除を命じたのです。
しかしそこは名裁きで有名なPOSIX守、単なる所払ではありませんでした。このままではアーカイバーコマンドが無くなってしまいますから、新たなコマンドをアーカイバーの役に就かせることとしたのです。しかしここでかつての二大勢力と異なる第三のフォーマットを策定しては、今まで作成されたアーカイブファイルが開封できなくなってしまい、庶民達が混乱してしまいます。そこで、新たなコマンドにはtar、cpio双方の形式を踏襲させつつ、ブロックサイズやデータサイズの上限問題を克服できるよう仕様を拡張させたのです。
そして、新アーカイバーコマンドに与えた屋号(名前)はpax。ラテン語で「平和」を意味します。POSIX上でアーカイバ―コマンドが二つ減って一つ増えて……、これぞまさしく「アーカイバ―一命令損」。めでたしめでたし。
今のPOSIX文書に、裁きの跡が残されていた
この裁きがあったことを物語る記述が、「POSIXのお触書」2008年版(IEEE Std 1003.1-2008)のpaxコマンドのページに残されています。
"pax"という名には、packs(「梱包する」という動詞の三人称単数現在)の意味と同時に、アーカイバーコマンドの覇権争いを終わらせて平和を築こうという願いが込められていたのです。何という名裁きなのでしょうか。
paxコマンドを試しに使ってみる。
そもそもpaxって皆さんご存知ですか?POSIX守の願いがいまいち届かずあまり有名ではありませんが、POSIXの御触書にありますのでお使いのUNIX系OSにはまず間違いなく入っていると思います。そして、実際にtarやcpioとファイルの互換性があります。
さすがに、「paxでアーカイブファイルを作ればtarでもcpioでも開ける」ということはありませんが。どちらの方式のアーカイブファイルも作成できますし読めます。そして、現在の大抵のtarコマンドは(たぶんcpioコマンドも)paxコマンドが作成する上位互換アーカイブフォーマットを読めます。
というわけで、試しにpaxコマンドでtar形式の上位互換であるustar形式アーカイブファイルを作成し*3、それをtarコマンドで開いてみようと思います。
# 1)テスト用のディレクトリーを作って入る $ mkdir ~/test $ cd ~/test # 2)paxでアーカイブ作成 # ・-wオプション + 対象ファイル名... # ・結果は標準出力に出るのでリダイレクト $ pax -w /usr/share/man > man.tar # 3)tarでアーカイブ展開 # ・paxは絶対パスを取らずにアーカイブを作るので警告が出る $ tar -xf man.tar tar: Removing leading '/' from member names tar: Removing leading '/' from hard link targets # 4)生成ファイルを確認 $ ls total 33944 -rw-rw-r-- 1 rich rich 34713600 Dec 9 03:14 man.tar drwxrwxr-x 3 rich rich 4096 Dec 9 03:14 usr $
ちゃんとできました(古めのCentOS 5で確認)。
というわけで、これからはtarに代えてpaxコマンドを使いましょう。POSIX守に感謝しながら。