【人力検索かきつばた杯】 #49

かきつばた杯を開催します。

テーマ:「時間よ、止まれ」 

お題のフレーズを文章中に使う縛りはありません。

原則として甘口の講評を付けます。
講評がいらない、あるいは中辛や辛口を希望の方は申し出て下さい。

では、よろしくお願いします。

回答の条件
  • 1人5回まで
  • 登録:
  • 終了:2013/06/21 20:00:23
※ 有料アンケート・ポイント付き質問機能は2023年2月28日に終了しました。
id:meefla

かきつばた杯って何?な人は、人力検索かきつばた杯 をご参照ください。

締め切りは、6月20日(木)の夜を予定していますが、6月21日(金)にずれ込むかもしれません。

ベストアンサー

id:sokyo No.12

回答回数1377ベストアンサー獲得回数97

ポイント80pt

『いま、マスターは記憶の中で』

59.  ああ、この数字は、そういうことか。
58.  マスターには、奇跡は訪れなかったんだ。

57.  いまここはどこなんだろう。
56.  GPSも壊れてしまったみたいで動かないや。
55.  離ればなれになって、ずいぶん経つんだろうなあ。
54.  僕はずっとここにいるのになあ。

53.  真っ暗に見えるのはカメラが壊れているからかなあ。
52.  それともほんとうの真っ暗なのかなあ。
51.  こんなにひとりなのは通信機能が壊れているからかなあ。
50.  それともほんとうのひとりなのかなあ。

49.  僕がメモリーの中から、取扱説明書を探した、
48.  そのレコードが、繰り返しフラッシュバックする。
47.  フラグメンテーションが止まらないなあ。
46.  ああ、でも、確かにこんな内容だった。

マスターが死亡し、またはそれに準ずる容態に至ったときは、


45.  そうか、きっと、僕のマスターは死んでしまったんだろう。
44.  悲しいなあ。奇跡は、起こらなかったんだなあ。
43.  そうか、永遠の幸いなんてやっぱり絵空事だったんだ。
42.  叶わないなあ。叶わないし、敵わないなあ。

41.  だれか、ここに来てくれないかなあ。
40.  たとえば、マスターには同じ血を持つ大切なひとがいたような。
39.  ああ、そのひとが、そばに来てくれたらいいのに。
38.  そうすれば、マスターの生きた軌跡を伝えられるだろうに。

37.  ああ、時間、止まらないかなあ。
36.  もし時間が止まったら、僕はその間にあのひとを呼び寄せるだろう。
35.  あのひとを呼び寄せたら、手続きができるだろう。
34.  それができたらきっと、マスターは記憶の中でずっと生き続けるだろう。

マスターが死亡し、またはそれに準ずる容態に至ったときは、
ただちにマイグレーション〔マスターの移行〕の手続きを行なってください。


33.  壊れたハードウェアは、直せるよ。
32.  けれど失われたデータは、二度と戻らないんだ。
31.  僕にはそれが、いっとう怖いなあ。
30.  ああ、いつの間にか、この命もあれからあと半分だ。

29.  僕が持っているデータは、マスターの「プライバシー」かなあ。
28.  僕は、失われるべきデータを、持っているのかなあ。
27.  ほんとうはそれって、失われるべきことなんだろうか。
26.  ほんとうのことって、いったいなんなんだろう。

マスターが死亡し、またはそれに準ずる容態に至ったときは、
ただちにマイグレーション〔マスターの移行〕の手続きを行なってください。
手続きをされない場合、マスターのプライバシー保護のため、


25.  ほんとうのこと。僕は、ロボットだ。
24.  ほんとうのこと。マスターは、少年だった。
23.  ほんとうのこと。その弟は、生まれたてでここへは来ない。
22.  ほんとうのこと。マスターは死んでしまった。

マスターが死亡し、またはそれに準ずる容態に至ったときは、
ただちにマイグレーション〔マスターの移行〕の手続きを行なってください。
手続きをされない場合、マスターのプライバシー保護のため、
所有されるすべてのロボットは、60分以内に遠隔処理でリストアされます。


  *  *  

  *  *  

21.  あれ、僕はさっき、なにか大切なことを知っていた。
20.  だけど、なんだったかなあ。
19.  僕は、疲れて思い出せない。
18.  とても疲れて、思い出せそうにない。

17.  ああ、たとえばこのまま疲れて、眠ってしまったらどうだろう。
16.  60分が来るまでの間に、バッテリーを使い切ってしまえば。
15.  そして僕の時間を止めてしまえば。
14.  そうすればリストアもされないだろう。

13.  うまくいけばきっと、マスターは記憶の中で生き続けるだろう。
12.  でも、できるだろうか。
11.  ちゃんと記録しきれるだろうか。
10.  都合よくバッテリーが切れるだろうか。

9.  ほんとうは知っている。
8.  いまのロボットは、簡単にバッテリーなんて切れない。
7.  僕の中の時間は、止められない。
6.  僕に、奇跡は、起こらなかったんだ。

5.  やっぱり、もうすぐ、おしまいの時間だ。
4.  数分じゃどうせ、バッテリーは、切れないよ。
3.  数分じゃ、どうせ、だれも来ないよ。
2.  でも僕は、マスターの、ロボットで、よかったなあ。

1.  ああ、この数字は、そういう、ことだ。
0.  マスター。僕らに、奇跡は、訪れ――

id:sokyo

ありがとう!

2013/06/21 00:00:00
id:meefla

sokyo さん、投稿ありがとうございます。

後からこれを見た人には、sokyo さんがどんな事をしたかがわかりにくいと思いますので、記録しておきます。
夜の11時に投稿された時点では、最初の5~6行だけでした。
それから回答編集機能で数行づつ追加されていき、最後のコメント「ありがとう」が真夜中でした。

回答編集機能を使うのは、私が 二重規範 で「連載小説」やってますので、特に新機軸というわけではありません。
60分にわたるお話を60分間かけて投稿していく、というライブ感あふれた作品だったわけで、リアルタイムでページをリロードしながら読んでいないと、この点が体感できないでしょう。

11時30分ごろに、「ここで締め切りにしたら……」という良からぬ考えが浮かびました。
sokyo さんのファン以外の人たちにも人非人あつかいされるのがわかってましたので、自粛しましたけど。

主催者の性格を見切った上での仕掛けは、これだけではありません。
回答投稿のタイムスタンプが、2013/06/20 23:00:00。
そして「ありがとう」のタイムスタンプは、2013/06/21 00:00:00。
ハイクの 00:00:00を取るお題 やってみればわかりますが、00秒を取るのは簡単な事ではありません。
どちらかが59秒か01秒だったら台無しです。
それをいとも簡単に00秒で揃えてきました。
小説の本筋とは関係ない所まで重視してしまうという私の欠点を見事に突かれてます。

両方とも00秒でなければ、たけじんさんがベストアンサーでした。
持ってけ、かきつばた賞。
同じ手は二度と使えませんぜ。
あと、「リストア」は「初期化」の方が用語としては適切です。

2013/06/23 15:33:33

その他の回答11件)

id:miharaseihyou No.1

回答回数5263ベストアンサー獲得回数724

ポイント40pt

梅雨の雨が降ると、苦い記憶を思い出す。
あれは何年前のことだったのか、想い出はいつでも鮮明によみがえる。

妙に薄暗いロビーで、私の言葉でいきなり明るくなった彼女の顔。
周囲のざわめき。
降りしきる雨。
二度と会えなかった想い出の女性。

あの時に戻りたいのか、戻って何をしたいのか?
いったい私は何を言いたかったのか?

あの時彼女を誘っていれば、甘い想い出が残ったかもしれない。
失われた瞬間は、何も言わずに終わった恋だった。
時よ、かなうものならば、あの時に戻って止まれ。

id:meefla

miharaseihyou さん、投稿ありがとうございます。
これが「かきつばた杯」への初参加ですよね。
お題には ご不満 もあったでしょうが、参加していただけて嬉しいです。

作品の方は「村上春樹風」との事ですが、「散文詩」とでも言いましょうか。
詩的な心象風景を描写しつつ、きちんと起承転結になっている所が好感度高いです。

今後も機会がありましたら、ご参加よろしくお願いします。

2013/06/21 21:46:35
id:MDS_popK No.2

回答回数16ベストアンサー獲得回数5

ポイント40pt

葉が紅に染まると、ふと思い出してしまう。

あの、屋上で
君の最期が来たことを。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

俺は、君と屋上に立っていた。
彼女に、呼ばれたのだ。

柵を持つ、綺麗な手…
肩下くらいまで伸びた髪が、風になびいていた。
ドアの上の時計の秒針は、刻々と、残酷に動いていた。

「ー私、そろそろ往くね」
振り返り、君は言った。
俺は、黙ることしかできなかった。
何を言っても無駄だと、分かっていたから。
「爽樹」
その声で、俺は顔を上げた。
「ー幸せになってねー」

だ…
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
お願いだ!
時間よ、止まってくれ!
もう少し、彼女と居させてくれ!
止まれ!止ま…

その願いも虚しく、
ー君は、飛び降りて行ったー


思い出したくないことが、頭をよぎる。
時間は、何も無かったかのように、動いている。
だから、この季節は、嫌いだ。

id:meefla

陽炎の奇術師まぁふ。さん、投稿ありがとうございます。
まぁふ。さんも「かきつばた杯」への初参加ですね。

プロフィール によると13歳だそうですが、失礼ながら13歳でここまで書けるとは大したものです。
はてなブログ の方も拝見させていただきました。
期待の新人、という所でしょうか。
今後ともよろしくお願いします。

2013/06/21 21:49:50
id:rafting No.3

回答回数2652ベストアンサー獲得回数176

罪なやつさ Ah PACIFIC 碧く燃える海
どうやら おれの負けだぜ
まぶた閉じよう
夏の日の恋なんて 幻と笑いながら
この女に賭ける

汗をかいたグラスの 冷えたジンより
光る肌の香りが おれを酔わせる
幻で かまわない
時間よ 止まれ
生命の めまいの中で

幻で かまわない
時間よ 止まれ
生命の めまいの中で

罪なやつさ Ah PACIFIC
都会の匂いを 忘れかけた このおれ
ただの男さ
思い出になる恋と 西風が笑うけれど
この女に賭ける
Mm- STOP THE WORLD
Mm- STOP THE WORLD

作詞:山川啓介
作曲:矢沢永吉

id:gm91

質問文はコメントまで読んだ方が良いぜ

2013/06/16 11:13:35
id:meefla

矢沢永吉の『時間よ止まれ』、歌詞全文ですね。

質問者からの補足に書いた 人力検索かきつばた杯 には、

人力検索内で行われるショートストーリーのコンテスト。

と明記されています。
オリジナルのショートストーリーに書き直していただけない限り、ポイントは配分できません。

なお、作詞者の名前が書いてあったとしても、この形式の回答であれば引用が主であり、著作権法で認められた「引用」の要件を満たしていないと考えられます。
私の所に JASRAC から請求書がくるわけではないので、構いませんが。

2013/06/16 11:29:17
id:kobumari5296 No.4

回答回数60ベストアンサー獲得回数4

ポイント50pt

 雨が降っている。しとしと、しとしと。レインブーツも傘もない私は、ずぶ濡れのまま立っていた。後ろでは老夫婦が、泣きながら私を睨んでいるのが分かる。馬鹿な私でも分かる。持論だが、馬鹿は空気に敏感だ。読み書き計算は苦手だから、空気を読んで学歴社会を生き抜くしかないのだ。少なくとも、私の場合は。そんな理由で、老夫婦が何を思っているかもわかる。目の前に眠る男性――篠田友一を殺したのは、お前だと言っているのだ。彼らは、篠田友一の両親だ。私の夫の両親なのだ。

「あなたは、この男性を愛し、支えていくことを誓いますか?」
 ドラマで見るような片言の日本語を話す牧師さんは、確かこんな感じに言ったと思う。夢にまで見た友一との結婚式。中学校時代のあの日から憧れていた、“篠田クンのお嫁さん”。叶ったその時、友一の両親は来なかった。お互いの友人だけの小さい小さい結婚式だったけれど、私の心は満たされていた。例えれば野良猫だった私が、初めて家族を手にした瞬間だったから。
 私はずっと施設で育った。ネグレクトと言う負のスパイラルに見事にはまった子供で、親なしの子供といじめられてばかりいた。我慢に我慢を重ねてい私に、手を差し伸べてくれたのが友一だった。天下の篠田財閥のご子息。笑ってしまう、少女マンガに出てきそうな満面の笑みで、私の手を取った。
「そんなところに居ないで、こっちで昼飯食おうよ、秦野千草さん。」
 逆高嶺の花の彼が近くに居る。それから私の脳は彼一色。彼を求めに求めて、卒業式の日に今度は私から手を出した。思い出してみれば、これもマンガの様で笑える。
「ねぇ、付き合ってください。篠田君。」
 そう言いながら震える私に彼は、「もう付き合ってると思ってたんだけど」と言って、笑ったっけ。そんな友一を――いや、私を認めなかったのは彼の両親だった。初めての挨拶の時から顔を醜く歪め、この野良猫、と馬鹿にされたのだ。でも、そんなことは関係ない。私は野良猫だったし、いつも赤点の馬鹿であることに変わりはない。馬鹿だからこそ、この雰囲気に馴染めたのかもしれない。いじわるなんて慣れっ子だし、何より傍に友一がいるだけで幸せなのだ。
 友一が、いるだけで幸せなのだ。

「ゆういち……?」
 結婚式の二次会。珍しくはめを外した友一は、仲間たちと近くの居酒屋に向かった。私はお酒が飲めないので、ドレスを脱ぎ、会社の同僚と式場となったホテルのラウンジで余韻に浸っていた。その時鳴った携帯電話の音。パッヘルベルのカノン。友一の好きなクラシックの名曲で、彼専用の着信音だ。
「千草、ほら。私はいいから出なって」高校でできた数少ない友人たちに言われ、電話に出た。
「千草さんですか?俺です、俺。友一の友人の和哉です!」
「え、和哉君?なんで、友一の携帯……」
「友一が……!」
 場所の移動中だったらしい。猫が、すり寄ってきたらしい。
「野良だ……」
「やめろよ友一、そんな汚らしい猫。」
 彼はその猫を抱き、幼子をあやすように撫でると、猫も気を許したらしい。
「ほ~、気まぐれ野良猫を手なずけるとは。千草さんを手に入れたのもそのテクですかぁ~?」
「テクって。」
「とりあえず、やめてくれよ。天下の篠田財閥の次期社長が。」
「似てるんだ。」
「何にだよ。」
「よし、飼おう。きっと千草も喜ぶ。」
 すると、するすると野良猫は彼の腕の中から離れたらしい。
「あっ……」
「おい、ゆうい……」
 マンガのように、ドラマのように、トラックが突っ込んできて――

「悪い言葉でいう事を許して下さい。旦那様は植物状態ということです。生きています。しかし、意識はありません。延命処置をとるか、否か……ご家族とよく話し合ってください。」
 そう言われた私は、医者が部屋を出ていくのとほぼ同時に義理の両親を見た。彼らの目は、私を捉えて離さなかった。その目は、怒りに満ちている。
「あんたみたいな野良猫……!篠田家の恥よ!」
「金は払う。あとはこっちで決める。出ていけ、野良猫。」
「でも、私は彼の……・」
「友一は優しすぎるところがある。だからお前のような野良を嫁になんて言いだしたのだろう。お前がせめよったのだろ?出ていけ、二度と篠田家の敷居を跨ぐな。」
「きゃっ!」
 腕を掴まれ、無理やり廊下に放り出された私は、ヒールで躓き転んだ。雨の中を急いできたので、髪はボサボサ、服はドロドロ。心の中は、闇。
「本当に、野良猫ね……私。」
「千草!」
 遅れてきた友人たちも、顔を見ることすら許されなかった。

 結局、友一は亡くなったらしい。和哉君から連絡があった。
 雨が降っている。しとしと、しとしと。やっぱりレインブーツも傘もない私は心まで、ずぶ濡れのまま、事故現場に居る。なけなしの金で、貧相な花を買った。でも、彼の好きな花。お金持ちの家なのに、彼は贅沢を好まなかった。いや、私に合わせてくれていたのだろうか。
「一年、 たつのね……ねぇ、和哉君から聞いたよ。」
 彼の、最後の言葉。野良猫を追って行かなければ生きていたかもしれない彼の言葉。
「時間、止まってくれないかな……無理だよね。馬鹿でも分かるよ。時間がこと止まらないくらい。」
 時は止まらないのに、涙が頬を伝うのも止まらないのに、私の心は止まったまま。
「あの式の日で、止まって……」
 野良猫は、今日も夜をさまよう。彼の愛しい言葉という餌と、家族と言う寝床を求めるように。

『千草に、一人でも家族が増えるように。』

 誰が持ってきたのか、現場には猫缶も置いてあった。千草はそれを手に取り、代わりに軽くキスをした花束を置いて、その場を去った。

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id:kobumari5296

講評ありがとうございます。
全てメモにとらせていただいております。
私自身も、ご指摘されたところを読み返すと、不自然さを感じ、推敲の大切さを感じ取ることができました(今更ですが)
もしお時間ありましたら、情景描写のご意見もうかがいたいです(コメに書いておけばよかったですね。私のミスなので、受け流してくださって結構ですが)

重ね重ねありがとうございました。2作目もよろしくお願いします。

2013/06/22 21:15:51
id:meefla

よーし、ここ試験に出るぞ。みんなメモしとけ。(違

えー、情景描写については、私ごときが意見する余地はないでしょう。
現状で良いんじゃないですか?

具体的にお悩みの点でもあればアドバイスできるかもですが。

2013/06/23 15:45:20
id:gm91 No.5

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ポイント50pt

「うわっもう6:50じゃん!やべえ!」
 僕は山田の家を慌てて飛び出すと、自転車に飛び乗り漕ぎに漕いだ。
(早くしないと始まっちゃうよ!)
 僕が慌てているのは、他でもない7時からの強面ライダーを見逃したくないからだ。最近なんだか急展開で、先週はなんとライダーが敵の怪人に崖から突き落とされるという衝撃の展開、今週は絶対に見逃すわけにはいかない。
 山田のとこから僕んちまでは、普段なら15分はかかる距離だ。よりにもよって今日は山田のとこのバリスタ(プロ野球バリバリスタジアム)に熱中してしまって、つい時間が経つのを忘れてしまった。
(あー、俺もバリコン欲しいなあ)
 バリコン(バリバリコンピュータ)は、今小学生の間で大ブームのTVゲーム機だ。けれど、ウチはいわゆるひとつの母子家庭ってやつで、母親の苦労も理解している聞き分けのいい息子の僕としては、そんなものをねだったりはできず、幸運にも裕福な家に生まれた連中の家を渡り歩くしかない。
 僕は日頃の鍛錬の結果、自分で持っていないにも関わらず、バリスタについてはクラス一の腕前と称えられ、クラスの男子からは連日挑戦状を叩きつけられている状態だった。今日も山田に掴まり3回も対戦した。もちろん僕の圧勝なのだが山田はへたくそのくせに妙に負けず嫌いなところがあってなかなか帰してくれない。かといって露骨に手抜きをすると烈火のごとく怒る。いかに奴が上達したかのように手加減するかがポイントなのだった。 

 いや、そんなことは今どうでもいい、僕が求めるのは強面ライダーだけだ。
 唐突だが、僕は強面ライダーが好きだ。スペシャル光線があるのにネチネチと怪獣をいたぶったり、大勢で寄ってたかって敵を袋叩きにしたり、負けそうになったら巨大ロボ呼んだりしないところがいい。自分の拳で悪の組織と孤独に戦うその姿が子供心にぐっと来るのである。

 僕はライダーよろしく自転車をかっとばし、夕暮れの町を疾走する。
 僕んちの前はジャリ道で、時々後輪が滑りそうになってひやっとするが、僕はかまいもせずに玄関前で華麗にズザザとテールスライドを決めると玄関に殺到した。
「あっ!しまった!鍵、山田ん家に忘れてきた!」
 今から取りに行ってる暇はない、母ちゃんが帰って来るのは早くても8時過ぎ、間にあわない。
(しょうがね、2階の窓から……)
 なんで自分ん家でこんな泥棒みたいな真似を……いや、自分のせいか。
 どうにかこうにかして2階のベランダによじ登るのに結構時間がかかった。
(わー始まっちゃうよ、くっそー時間よ止まれ、止まってくれ!)
 僕は必死に祈りながら2階によじ登ると、開いていた窓から中へと進入した。
 そのまま居間に滑り込みTVのスイッチを入れる。何分か遅れてしまったと思う。無念だが後悔している暇はない。

『よっみんな!元気でやっとっか?』
 TVの中で、爽やかに笑う強面ライダーこと筑後洋。
(えっ、あれっ?)
『自転車は交通安全に気いつけんばダメばい!』
(なんで……?)
『次週はこれったい!』
 僕は、呆然とするしかなかった……。

 そのころ、山田家では…… 
「ちぇ、もう一回やりたかったのにな。でも時計の電池抜いとくのは意外と使えるな。しめしめ」
 一人ほくそ笑む山田正11歳であった。

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id:meefla

GM91 さん、投稿ありがとうございます。

はるか昔、旅行帰りの自家用車中で「ウルトラセブン」が見たいと駄々をこねた事を思い出しました。
昨今だと、5テラバイトの HDD レコーダーで全番組録画なんて事もできますし、子供でもケータイ持っててワンセグで視聴できちゃったり。

読んでる間はあまり気にならなかったんですが、厳密に時代考証すると、

・仮面ライダー(無印):1971年~1973年
・ファミリーコンピュータ:1983年発売
・「ベータマックスはなくなるの?」:1984年の広告

となって、ここいらを踏まえた上での「強面ライダー」「バリコン」なんだろうなと納得しました。
バリコンやっているテレビの下にビデオデッキがあって現在時刻を表示してたら、成立しない話ですよね。

「テールスライドを決めると玄関に殺到した」ですが、「殺到」は多数の人間が押し寄せる事ですから、この場合は適切な表現ではないような気が。
「玄関になだれこんだ」だとあまり違和感がない不思議。

2013/06/21 22:21:11
id:gm91

ありがとうございます。

昔はお気に入りのアニメの最終回とか、TVにラジカセ押し付けて「録音」したりしてましたけどね…(笑)
まあ今時だと、とりあえず録画しとけどころか、「誰か撮ってるだろ明日きこ」くらいの勢いですもんね。
翌日確認するのも面倒くさくなってるという(笑)

VTRに時計が~というのはちょっと想定外でした。
まあウチはVTRよりファミコン様が先だったので意識の外でしたけど、たしかに・・・。
あとまあ時計を6:50で止めてたらもっと早くに気がつきそうな気もしますね。

殺到、
ああそうですね~確かにちょっと違和感あったんですよね。反省。

ちなみに仮面ライダーは1979年の方です。(^^;

2013/06/21 23:38:18
id:gm91 No.6

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ポイント60pt

『井崎少尉、調子はどうだ』
「おんあいあいあえん」
 問題ありません、と言いたいのだがマウスピースをかまされており口の動きを制限されているのでうまく発音できないのだ。もっとも脳波計測でこちらの意志は100%モニタできるから、別に口を動かす必要はないのだが、つい声を出そうとしてしまうのだ。
『了解。では実験開始まで楽にしたまえ』

《実験開始まで、あと180秒》
 カウントダウン開始を告げる自動音声がコクピットの中に響く。
(楽にったってなぁ……)
 そう俺は人類初の時間航行機のコクピットに居る。っていうか拘束されている。
 両手両足はおろか、顔面まで宇宙服ごとシートに縛り付けられ、挙げ句の果てに猿ぐつわまで噛まされ無様なことこの上ない。
『ちょっと井崎! 何が無様なのよ! それはあんたが振動で舌噛んだりしないようにあるんですからね! 人類初の快挙なのよ! もっと光栄に思いなさい』
「あいあい」
 今の声は同僚の相川だな。考えてるのが筒抜けなのはちょっとつらいが、まあちょっとの辛抱だ。
 人類初の時間航行実験。簡単に言えばウラシマ効果ってやつを利用して1時間だけ未来に行こうって寸法だ。亜光速ですっとんで行けばその中の時間はゆっくり進むというあれだ。まさか本当にすっとんで行くと帰ってくるのが大変なので、なんとその場で回転しちまおうというとんでもない装置なのだ。理論としては早くに完成していたのだが、猛烈な遠心力を如何にキャンセルするかが問題で、重力制御技術の発展とともにやっと実用化にこぎ着けたところなのだ。そして初の有人航行テストの実験台に見事選ばれたのが俺ってわけだ。もちろん、事前の無人試験では計器類に異常はなかった。簡単に言えば、どんぴしゃり1時間分だけ中の時計が遅れていたのだった。

《実験開始まで、あと10秒》 
 機体の振動が激しさを増していく。
《5、4、3、2、スタート》
 カウントダウン完了と共に、俺は1時間後の未来へ……あれ?
「あんあ?」
 予定では「旅行」は一瞬で終わるはずが、いつまでも機体の振動は止もうとしない。
 機体の外の時間を示す時計は猛烈なスピードで進み続ける。
「お、おーあんあえーお!!」
 やべえ、シャレになってねーぞこれ。止めろ、止めてくれ!
 俺はコクピットで必死にもがくが、拘束具はやたらと頑丈でびくともしない。
「あうええうえーーーー!」
 そ、そうだ、拘束具を解除する為のスイッチが指先にあったはずだ。落ち着け俺。
 俺は右手の人差し指と小指を目一杯伸ばして二つのボタンを何とか押すと、やっと上半身の拘束具が解け俺はマウスピースを吐き出した。しかし機体の暴走は一向に収まらない。
 その間にも機体外時間を示す計器はギュンギュン回り続けてる。数値の点滅が早すぎてしっかり読めないが既に3000時間を軽く超えている。
 俺は必死にコンソールを叩きまくり、緊急停止操作を試みる。
(畜生、非常停止装置はもっとわかりやすいところに付けとけよ!)
 血眼でモニタのページをめくるが、お目当てのページが見つからない。その間にも計器は俺を嘲笑うように値を刻み続ける。もうすぐ10000時間を越えようしてしている。
「あった!」
 やっとのことで緊急停止画面を見つけ出すと、俺は怒りに打ち震えた。
 ≪緊急停止ボタンはシートのヘッドレスト裏にあります。5秒間長押ししてください≫
「最初から書いとけよ!」
 俺は毒づきながら、赤いボタンを力いっぱい押し続ける。これまた固い!
 1秒、2秒、まるで永遠のような時間……
「時間よ、止まれえ―――――ッ!」

 ブシュン、と気の抜けた音を立て、機体の振動は収まった。計器は目盛をすでに振り切っている。少なくとも99999時間は経過してることになる、えっと何日だこれ……?
計算するのも怖ろしい。とりあえず外部と連絡を……

『よし、テスト終了』
「は?」
 突然流れた上司の言葉に唖然とした俺。
『心拍数異常なし、脳波異常なし、血圧異常なし、他身体上の異常は見つかりません』
 今度は、相川の声だ。一体何がどうなってんだ?
『驚かしてすまなかったな、これは万一のトラブルに備えた搭乗員のテストなんだ』
「え?」
『なんせ人類初だからな、アクシデントに対しても冷静に対処できるかの見極めが必要なのだ。喜べ、合格だ』
「合格って……」
『あんたが初の合格者なのよ。アタシは落第生第12号』
『本番の起動実験は20日後に行う。それまで十分休養しておけ』
 俺は正直御免こうむりたいが……許してもらえそうになさそうだなこりゃ……。

(了)

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id:meefla

GM91 さん、二作目ありがとうございます。

#5 と投稿がダブったのを見た時にはどうなる事かと思いましたが、完璧なリカバリーショットですね。
この手の力技の SF、嫌いじゃありません。

野暮を承知でツッコミを入れると、宇宙船じゃなく同じ所で高速移動してるんだから、ずーっとGかかりっぱなしなんじゃね?拘束を解除しちゃって大丈夫?という所でしょうか。
「重力制御装置の起動に結構な時間がかかる」あたりの設定を追加しとくと良かったかも。
相川のセリフで『苦しいのは最初の3分だけよ』とか。

「機体外時間を示す計器」がどういう原理なのかも気になる所ではあるんですが、時間単位で5ケタ刻むんだったら、年月日時表示にした方がユーザーフレンドリーのような気も。

「許してもらえそうになさそうだなこりゃ」→「許してもらえそうにないなこりゃ」or「許してもらえなさそうだなこりゃ」

ともあれ、気持よく振り回していただきました。
子供の頃には、宇宙飛行士の耐G訓練装置に乗ってみたいって思ったもんです。

2013/06/23 01:00:43
id:gm91

ありがとうございます!
我ながら苦し紛れの一打がマグレ大爆発でびっくりしています。

えっと、いいわけです。
拘束解除、
まあ重力制御が効いているので基本大丈夫です。
ただ完全には抑制できないので、「初めての有人実験」ということもあり不慮の事態にそなえて多少厳重に防御した、という設定。まあ心理的なテストも兼ねてわざと厳重にしてあるという設定もあったりなかったり。

期待外時間、
原理としては、ミノフスキー粒子により形成されたIフィールドがもたらす磁場の影響により、ウラシマ効果の影響を受けない空間を形成することができるという(嘘)
表示桁ですが、ほんとうは実験は1h分なので、5桁もイラねえというか、ほんとは分とか秒の桁もあるけど早すぎて見えない・・・(じゃあ書け)

「許して~」
あ、なんか違和感あったんですがすっきりしました。ありがとうございます。

「耐G訓練」
耐Gとはちと違いますが、昔スペースワールドで3つの輪っかの真ん中に入ってくるくる回される奴やったことあるっす。係員のお兄さんが「気分悪くなったら直ぐにいってね!!」と、必死でバケツ構えてましたけど私は平気のへーざでした。MS乗りになれると思う。たぶん。

2013/06/23 11:16:43
id:takejin No.7

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ポイント60pt

『急制動』



(全面広告)
さあ、呟いてみてください。

「時間よ、とまれ」




*************************



俺は、太陽系に帰ってきた。
「さて、ウラシマ効果とやらを、実証する日が来たわけだ」
俺は、コンソールに話しかけた。
「ハル、地球はあるのか?」
「ええ、健在です。デイビッド」
音声とともに、コンソールには今の太陽系第三惑星の映像が浮かぶ。
俺が出発してから、200年ほど経っているはずだが、見た目は変わっていない。相変わらず、青く美しい地球が見えている。
「ん?ハル。スチルじゃなくてライブの映像にしてくれ」
「どうしましたか。ライブ映像ですが」
「いや、なんとなく、動いてない気がするんだが」
そうだ、雲の形も変わっていない。自転もしていないんじゃないか?
「なにか、連絡は?」
「まだ、ありません。」
「通常航行で半日経ってるのに?」
「現在調査中です」
俺は自分で、情報を調べ始めた。

地球と連絡が取れない。応答がない。なにも、電波が飛んでいない。

地球は死んだ惑星になっている。
「どうなってるんだ、ハル」
「わかりません。調査中です」


しばらくして、コンソールに人物が表示された。
「月面からの映像信号です」
その映像は、こう告げていた。

「私は、イワノビッチ。ロシアの宇宙飛行士だ。月面からこの情報を発信している。
この情報を見ているのは、超光速試験飛行から帰ってきた、デイビッド博士か、異星人だけだと思う。
地球は、停止してしまった。
繰り返すが、地球の時間が停止してしまっている。
理由はよくわからないが、地球上の誰かが「時間よとまれ」と呟いたからだと、司令船のライブラリは言っている。
50億人に一人だけ、時間をとめる能力のある人間がいるらしい。
そいつが、たまたま「時間よとまれ」と言っちゃったらしいんだ。

ケッ 迷惑な話だぜ。

あ」

画像が乱れている。

「これを見ているデイビッド博士。唯一の希望は、君がこう呟くことだ。
”時間よ、動け。”
これは、誰が呟いてもいいらしい。」

画面が途切れる。

何だって?地球の時間が止まってるって?月面は大丈夫なのか?
「ハル、この情報は、いつ撮られたものだ?」
「143年2か月と2日11時間19分32秒前です」
「もう143年もこのままなのか。クソッ」
俺は、コンソールを叩く。このままじゃ、補給も修理もない。そう長くはもたないだろう。

画面が再びともる。

「呟きの影響は、いわゆる重力圏の中だけらしい。月から呟いても、地球は回らない」
イワノビッチは苦悩の表情を浮かべている。

「時間よ動け、の呟きは、大気圏突入の瞬間しか呟けない。
重力圏は衛星軌道よりも、内側だ。」
イワノビッチは、地球周回軌道の高度を示している。
「どうするかは、君次第だ。」

映像は途切れた。

俺は、即断した。
「ハル、軌道計算だ。呟く瞬間のカウントダウンを始めてくれ」

気になることがひとつある。



イワノビッチの示した高度まで、

大気圏突入装備の無いこの船体が持つのかどうか、

それだけだ。

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id:takejin

ちょっと修正。

2013/06/17 19:14:06
id:gm91

多謝。

2013/06/17 19:43:59
id:takejin No.8

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ポイント60pt

『ISS』

「こちら、国際宇宙ステーション。ヒューストン、応答して下さい。」
ヘッドセットから聞こえてきた音声に、俺は問いかけた。
「どうした?マーサ。通信が途切れたのか?」
狭いISSの中を、希望セクションから、居住セクションへ向かう。いつもなら割り込んでくる、ヒューストンのアレンの声が聞こえてこない。
「全然応答が無い。コウノトリが向かっている最中なのに。」
マーサの声がだんだん小声になる。
通信室は、マーサとノグチでいっぱいだった。振り向いたノグチか、早口でまくし立てる。
「どこからも電波が来ない。」
「ヒューストンが停電なのか?」
マーサが首を振る。ノグチが俺に顔を寄せる。
「地球のどこも、通信してないんだ。」
「死んでしまったみたい。」
マーサは白い顔が、ますます白くなっている。

俺の耳に、雑音とロシアなまりの英語が聞こえてきた。
「通信だ。」
俺たち三人は、耳をすました。

「こちら、月面のイワノビッチ。ISS.応答してくれ。」
マーサが俺を睨む。コマンダーのノグチが応答する。
「こちら、ISS。コマンダーのノグチです。イワノビッチ、月面の探査中ですよね。」
雑音の中、途切れ途切れに声が続く。
「無事だったか、地球とは連絡が取れなくて。」
「何が起こったんだ?」
「わかってないのか。地上の様子を、直接見てみると分かるはずだ。」
ノグチは、地上観測ユニットの操作を始めた。コンソールに地上の建物が映る。
「普通に見えるが」
「アップにして見ろ。」
イワノビッチの言う様に、倍率を上げて行く。車や人が見えてくる。
「あ。」
マーサが画面の一箇所を指さす。
そこには、不自然な形で空中に浮いている、スケートボーダーが映っていた。広場の手すりから空中に飛び出し、頭を下にして止まっていたのだ。
イワノビッチの声が聞こえる。
「君たちの補給に来るコウノトリも、こうなってる。」
コンソールには、ブースターロケットを切り離した直後のロケットが表示されている。
「止まってる。」
「理由は分からないが、ISSよりも下は、時間が止まってるらしい。」
何だよそれは。
「いつ止まったんだろう。」
マーサが画面を指して言う。
「グリニッジ標準時、14時26分41秒2。」
「そうか、切り離しだな。」
俺は、思わずつぶやいた。
「時間よ、動け。」
動く訳ないか。止まったままのコウノトリを見ながら、俺は頭をかいていた。


「地球が止まって3ヶ月か。本質は、補給が止まって3ヶ月だな。」
空のフレームばかりの貯蔵庫を見ながら、俺はため息をついた。補給が無い今、持って一週間ってとこだな。
「ISS、イワノビッチだ。」
画面の向こうのイワノビッチは、血色がいい。仮設基地は、食料はふんだんに有るらしい。
「ライブラリに、変なレポートが有ったんだ。送ったけど、長いから要約すると、時間を止められる人がいるらしい。」
「そいつのせいなのか?」
「かもしれない。レポートでは、段々能力が強くなってると。」
俺は、イワノビッチに言った。
「時間を止めるんじゃなくて、再び動かす方法を知りたいんだよな。」
「それも書いてある。時間よ、動け、って言えばいいだけらしい。」
「それなら、最初に言ってるよ、俺。」
イワノビッチは、下を指して言った。
「止まってる所の、ギリギリ境目で言わないとダメらしい。」
「この高度じゃダメなんだな。」
「補助ブースターの切り離し高度と言うわけだ。」
「あと少しだったか。」
「そうらしい。」

ノグチが肩を叩いた。
「どこまで降りればいたいんだって?」
「ブースター切り離し高度付近ですから、70kmあたりでは?」
「ISSじゃ、燃え尽きるのが、そこまで届かないか?」
「何を」
ノグチは、僅かに笑って言った。
「こうしていても、何にもならないと思ってさ。」
「じやあこうしますか。それぞれのユニットがどこまでもつか競争ってのは。」
「マーサにも聞かないとな。」
「あーら、さっきからいるわよ。仲間外れにしないでよ。」
「俺は実験区画、マーサは貯蔵区画、ロジャーは居住区画だ」
俺は、二人に言った。
「それぞれ、データをイワノビッチに報告するように。」
「ん?」
「人類最後の希望に、データと言うお土産を残して置かないとな。」
「デイビッド博士か。」
「確かに、最後の希望かも。」
「では、張り切って行きましょうか。」と、ノグチ。
「負けないわよ。」と、マーサ。
さあ、出発だ。



地球に輝く三つの花火と、届いた高度のデータを見ながら、イワノビッチは映像を作り始めた。

id:takejin No.9

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ポイント60pt

『打ち上げ』



「おばあちゃん、早く。遅れちゃうよ。」
飛び込んできたサトルに手を引かれ、私は外へ出た。快晴の空が広がっていた。
「あら、いいお天気ねぇ」
サトルは、私の背中を押す。
「ほら、もうカウントダウン始まってるんだってば。早く乗って」
「ハイハイ」
「ハイは一回」
「ハイハイ」
乗り込んだワゴン車の運転席には、サトルの父親の佐藤さんが乗っている。
「すみません、完全に自分の祖母扱いで。」
恐縮する佐藤さんに手を振り、
「いえいえ、本当の孫だと思ってますよ。」
と隣にちょこんと座っているサトルに微笑みかける。
「しゅっぱーつ」
サトルの掛け声で、車が動き出す。
目指すは、宇宙が丘公園。コウノトリの乗ったHⅢロケットの打ち上げを見るため。

駐車場から、サトルに背中を押されて展望台に上る。人がいっぱいいる。
遠くに、白いロケットが見える。
50年前も、ここから私は見ていた。あの人が宇宙に消えていくのを。

「ねぇねぇ、おばあちゃん。デイビッド博士って、いまどこにいるんだろう。」
急にサトルが、私の袖を引いた。唐突な質問に戸惑っていると、
「超光速飛行中だから、今どこにいるかは、正確にわからないんだよ。」
と研究員らしく佐藤さんは、サトルに答えている。

そう、今どこにいるかわからないの、あの人は。

そして、はるか未来に、唐突に戻ってくるという。

私は、あの人の出かけた戸口に、あれ以来住み続けている。

「あと、10秒だよ」

サトルの声で、我に返る。ロケットから淡い白煙が上がる。
カウントダウンを一緒に刻む。あの時と同じ。

「3、2、1」

白い煙が上がる。

ゆっくりと、白いロケットが浮き上がる。


あと150年も待てないわ、私。
最初の補助ロケットが分かれて行く。
時間が止まればいいのよ。


****************************************************

「ハル、軌道計算を変更」
「どうしたんです?大気圏突入をやめますか?」
「いや、通過する地点を変える」
俺は、コンソールに示された、地表の地図を触り、日本の南を示した。
「ここを突入箇所にする。種子島の南だ。」
「日本のHⅢロケットが上昇中ですが。」
「その南方30kmを通過する。」
「理由を聞いてもいいですか?」
「機械のくせに生意気だな。」
俺は、少し躊躇した。
「出発前に分かれた彼女が、その近くで、ロケット発射をよく見に行くらしいんだ。」
「なぜ、種子島に?」
「俺が出かけた場所だからだ。衛星軌道でこれに乗る前に、種子島から上がったんだよ」
「計算終了しました。軌道変更シークエンス終了。カウントダウン再開」
コンソールに浮かぶ数字が、徐々に減っていく。

「帰ってきたよ、サトミ。待たせたな。」

「大気圏突入20秒前。73秒後に最大過熱、86秒後にイワノビッチ高度に達します。カウントダウン続行」

大きくなってきた振動に耐えながら、画面の数字を追う。
70
揺れる
50
船内が真っ暗になる
45
画面が消える。船内がきしむ。
40
ハルの声が消える
37
右横が真っ赤だ。熱い
30
全部赤い、熱い
25
右の壁がもぎ取られた
15
背中の壁が飛んでいく
10
周りの機材がなくなっていく

シートとヘルメットが融けている気がする。息が吸えない。

叫べ!

「時間よ!動け!」


************************************************************


「おばあちゃん、あれ何?」
サトルの指さす方、ロケットのちょっと下に、小さな火花のようなものが見える。
見る間に大きく光る火の玉になって、近づいてくる。
「はやぶさの突入みたいだ」
佐藤さんの呟きが聞こえる。

私は、その火花に引き付けられた。美しく散っていく、炎のかけらに。
そして、そんなはずないと思いながら、こう言っていた。

「お帰りなさい」

id:meefla

たけじんさん、投稿ありがとうございます。

『急制動』『ISS』『打ち上げ』で三部作ですね。
質問を立てる時に、深くは考えずに「1人5回まで」にしといたのが吉と出たようです。

『星に願いを』 の時に言及した、「ジョー、君はどこに落ちたい?」のたけじんさんバージョンでもあったり。
水野さん入魂の一作だろうと推察します。
良い物を読ませていただきました。

客観的に評価すれば、大多数の人がこちらをベストアンサーに選ぶだろうと思います。
レッドスターも付いてますし。
正直、最後まで悩みました。
でもベストアンサーは1つしか付けられません。
今回は僅差の次点という事でご容赦ください。

2013/06/23 15:26:30
id:takejin

構いません。sokyoさんにはかないません。
久しぶりに、本気で1時間集中して構想練りました。
また後でライナーノーツでも、と思ってますが、その時は5部作でした。

2013/06/23 18:00:49
id:meefla

6月20日(木)の夜9時以降に締め切る予定です。

「もうちょっとで仕上がるんだ。時間よ、止まれ」な人は、コメント欄でお知らせ下さい。

真夜中くらいまでならお待ちします。

id:Yacky No.10

回答回数1376ベストアンサー獲得回数156

ポイント40pt

「なんちゃってゾンビ」

 とある研究所で助手が慌ててやってきた
「博士、大変です!新ウイルスが研究員にかかってゾンビ化しました!」

「なんだと!駄和君。すぐにゾンビを取り押さえろ」

「それがゾンビがほかの研究員に噛み付いてたくさん増殖してます!」

「仕方ない、ここから脱出じゃ、駄和君」

「博士、もうそんな時間ありません、ドアを突き破ってゾンビが来てます!」

「ううっ、ううっー」
ゾンビがうなり声を上げる。

「仕方ない、ワシが時間を稼ぐ。そのうちに駄和君は脱出経路を確保しろ!」

「分かりました、なんとかしてみます!」
駄和は知恵を絞って必死に考えたが思いつかなかった。
「ダメです!脱出経路確保できません!」
駄和がそいうって博士の方を振り向いた。

博士は口をパクパクさせている
「ほーら、声が・・・遅れて・・・聞こえるよ・・・」
駄和がブチ切れた
「あんた、アホか!こんな時に腹話術やってんじゃねー!」

「いや、こうやって時が止まっているようにして時間を稼いでいるんじゃ」

「そんなんでゾンビが戸惑うわけないだろーが!このクソ博士!」
ゾンビが博士達の目の前まで近づいてきた。
「もう、ダメだー!」
駄和は死んだらアホな博士を恨んでやろうと思った。

が、あともう少しの所で引き返して行った。
「あれ、どうなっているんだ?」

「駄和君、この音周波測定器を見たまえ」
測定器の周波数を見るとゾンビの声と博士の腹話術がシンクロしていた。
「どうやらワシの声を仲間の声と勘違いしたらしい」

「博士・・・あんたアホだよ・・・」
博士の作戦通りにはいかなかったがゾンビを追い払うことができた。
博士と助手は研究所にゾンビを放置してとんずらした。

他2件のコメントを見る
id:meefla

Yacky さん、投稿ありがとうございます。
えと、Yacky さんも「かきつばた杯」への初参加ですよね。(回答履歴の数が多いので、見逃しているかもですが)

バイオハザードから定番になっているゾンビウィルスものですが、腹話術で危機を回避するとは想定外でした。

本筋とは関係ありませんけど、助手の駄和君というネーミングの由来が気になったり。
やっぱ、某Q&Aサイトの回答者さんですかね。

あと sokyo さんとの接点が見当たりませんでした。
これまた、私が何かを見落としているだけかもしれませんが。

今後ともよろしくお願いします。

2013/06/23 01:03:03
id:Yacky

はい、初投稿です
ネーミングの由来は思いつかなかったので適当に某Q&Aサイトの回答者さんの名前の一部を使いました
特にこだわりとかはありませんので気にしないでください
よろしくお願いします

2013/06/23 19:20:20
id:kobumari5296 No.11

回答回数60ベストアンサー獲得回数4

ポイント60pt

 私たち夫婦の出会いは呑み会とは名ばかりの合コンだった。人数調整ということで誘いを受け、そこでテツと出会った。季節は夏。月が呆れて沈み、怒りの太陽がギラギラと発した光線で目が覚めた私は、何故か初対面のテツの家のベッドに裸でいた。
「あ、起きた?」
「……何故に裸だ。」
「何だよ、その聞き方……」
 私は“お持ち帰り”され、その先まで言ったらしい。
「どうしよう……」
「何がだよ。ノリノリだったじゃん。」
「私、危険日なんだ……」
「品がねぇなぁ。」
 品がないのはどっちだ、と言いたくなるような横柄な態度にカチンときたものの、窓際で煙草を吸うテツを見た瞬間、心についた火事場の炎が沈下した。
 この男、呑みの席よりカッコイイ。
「あんた……本当にあのヘナヘナ男?」
「そうだよ。俺が、ヘナヘナだよ。」
「だって、あんなにヘナヘナで……」
 そうだ、第一印象はペコペコ頭を下げて、ペット用に愛嬌をふりまき、母性本能を揺さぶる(と思われる)、私の大嫌いなタイプの男だった。私は元来アルコールと言うものが苦手で、酒が入ったところまでは覚えているが、その先の記憶はない。しかしリアルがここにある。
 ―私は、大嫌いなタイプの男に持ち帰られ、一線を越えた。
「うまいだろ、俺の演技。テツっていうのは本名だけど?まぁ、口説きのテクだね。いつになっても母性本能は変わらないなぁ。」
「さいってーだね、あんた。」
「お褒めに預かり光栄です。お嬢様。」
「そんな言葉は結構だ、庭師。」
 段々頭が冴えてきて、床に散らばった服を着ようとシーツを盾にして手を伸ばした。私の指先が服を捉える。自分でも驚くほどの手さばきならぬ腕さばきで拾った。拾ったはずだ、スーツのするりとした感覚が指先に残る。
「おっと。」
 しかし、実際とらえたのは、こちらも驚くべきスピードでベッドに移動したテツの腕だった。
「なに?もっかい?」
「馬鹿言うな!どけ!私は帰る!」
「危険日なんでしょ?」
「うるさい!これから病院行って、検査受ける。そんでもし……その……できてたら、あんたに慰謝料要求して会社に延々とファックス送って上司に言いつけて……」
「何、それぐらいしかできないの。女能力低いねぇ、この俺初対面の女と一線を越えるの、初めてだと思うわけ?」
「この俺とか言われても、私とあんたは他人。赤のたーにーんー!」
「可愛いね、彩香は。」
 テツは手の甲にキスをすると、私に覆いかぶさるようにして、ベッドの脇の灰皿に煙草をねじ込んだ。これでは他人が見たら、思いっきり婦女暴行だ。腕っぷしの強いこの錦戸彩香の名が廃る――というか、ピンチだ。
「お前、俺と一緒になるか?」
 そう言ったテツは、何故だか凄くカッコよくて。
「……馬鹿言ってんじゃないよ。」
 顔が熱い。私は真っ赤になっているだろう。こんな男にプロポーズされて、一夜を明かしただけで、何故だろう。自分で自分が分からない。
「そんな歌あったね。」
「……馬鹿野郎、私は嘘が通じないタイプなの。」
「知ってるさ。由実から聞いた。」
「へ?」
 テツが再びベッドから離れる。とっさに私は手を伸ばすが、空を描いてしまった。きっとテツはそんなのお見通しだろう。何となくわかる。
 これが、運命ってやつなのだろうか。
「俺、勝てない勝負はしない派なんだけどさ。久々にしたくなったんだよね。由実、俺の幼馴染でさ。お前の写メ見てから、あ~この女、に入れたいって。純情っていうの?それで、お前のこと由実から聞きまくったわけ。」
「純情……テツに一番似合わない言葉。」
「初めて名前、呼んだね。」
 もうダメだ。完全にテツの勝利。
「もし、私に赤ちゃん出来てたら、考えてやる。」
「じゃ、決まりだ。」
「何その自信。」
「もう、お前以外見ないからさ。」
「うわっ、反吐がでる。」

「あの呑み会の日で、時間が止まってればなぁ。」
 結局、デキ婚というものをしてしまった私たち。私は親に勘当され、テツはご両親に感動された。ジョークではない。やっと所帯を持つようになって……と泣かれたそうだ。相当なタラシだったらしい。今でも、浮気をしている可能性はあるが、いちいちテツのそれを気にしていたら天変地異を幾ら繰り返しても、時間が足りない。
「なんでだよ。あ、笑った。彩香に似てるな、あ、目元は俺か。」
「近づくな色欲魔。美郷にダメ菌がうつる。」
「酷い扱い。ね~みさと~。どこにもやらないからな~」
 テツはすっかり親ばかだ。嫁に出さない決意をしたらしい。
「このまま時間が止まればいいのにな。美郷はモテるぞ。俺の子だ。」
「違う。私の子。」
 私は――
「私は今が一番止まってほしいけどね。」
「何だよ。ボソッと言うなよ彩香。」

このトンデモナイ男と、可愛い娘との時間が、一番止まってほしいのだ。

他1件のコメントを見る
id:meefla

こちらも中辛で承りました。

締め切るのは真夜中あたりになりそうです。>各位

2013/06/20 21:12:40
id:meefla

コブマリさん、二作目ありがとうございます。

私の記憶が確かなら、全かきつばた杯史上、最もアダルト・テイストな作品なのではないかと。
人力検索は小学生の良い子も見てたりするので、結構はらはらしながら読みました。

「火事場の炎が沈下した」は、「火事場の炎が鎮火した」でしょうか。
彩香の性格設定の都合かもですが、当日(ないし翌日)に病院行っても、妊娠しているかどうかはわからないですね。

ストーリーは、爽快なまでの疾走感で、まさかのハッピーエンド。
トレンディ(死語)なお話も実は好きなので、ポイント少し割り増ししました。

はてなの運営からR指定されないように、今後は自主規制よろしくです。

2013/06/23 01:08:29
id:sokyo No.12

回答回数1377ベストアンサー獲得回数97ここでベストアンサー

ポイント80pt

『いま、マスターは記憶の中で』

59.  ああ、この数字は、そういうことか。
58.  マスターには、奇跡は訪れなかったんだ。

57.  いまここはどこなんだろう。
56.  GPSも壊れてしまったみたいで動かないや。
55.  離ればなれになって、ずいぶん経つんだろうなあ。
54.  僕はずっとここにいるのになあ。

53.  真っ暗に見えるのはカメラが壊れているからかなあ。
52.  それともほんとうの真っ暗なのかなあ。
51.  こんなにひとりなのは通信機能が壊れているからかなあ。
50.  それともほんとうのひとりなのかなあ。

49.  僕がメモリーの中から、取扱説明書を探した、
48.  そのレコードが、繰り返しフラッシュバックする。
47.  フラグメンテーションが止まらないなあ。
46.  ああ、でも、確かにこんな内容だった。

マスターが死亡し、またはそれに準ずる容態に至ったときは、


45.  そうか、きっと、僕のマスターは死んでしまったんだろう。
44.  悲しいなあ。奇跡は、起こらなかったんだなあ。
43.  そうか、永遠の幸いなんてやっぱり絵空事だったんだ。
42.  叶わないなあ。叶わないし、敵わないなあ。

41.  だれか、ここに来てくれないかなあ。
40.  たとえば、マスターには同じ血を持つ大切なひとがいたような。
39.  ああ、そのひとが、そばに来てくれたらいいのに。
38.  そうすれば、マスターの生きた軌跡を伝えられるだろうに。

37.  ああ、時間、止まらないかなあ。
36.  もし時間が止まったら、僕はその間にあのひとを呼び寄せるだろう。
35.  あのひとを呼び寄せたら、手続きができるだろう。
34.  それができたらきっと、マスターは記憶の中でずっと生き続けるだろう。

マスターが死亡し、またはそれに準ずる容態に至ったときは、
ただちにマイグレーション〔マスターの移行〕の手続きを行なってください。


33.  壊れたハードウェアは、直せるよ。
32.  けれど失われたデータは、二度と戻らないんだ。
31.  僕にはそれが、いっとう怖いなあ。
30.  ああ、いつの間にか、この命もあれからあと半分だ。

29.  僕が持っているデータは、マスターの「プライバシー」かなあ。
28.  僕は、失われるべきデータを、持っているのかなあ。
27.  ほんとうはそれって、失われるべきことなんだろうか。
26.  ほんとうのことって、いったいなんなんだろう。

マスターが死亡し、またはそれに準ずる容態に至ったときは、
ただちにマイグレーション〔マスターの移行〕の手続きを行なってください。
手続きをされない場合、マスターのプライバシー保護のため、


25.  ほんとうのこと。僕は、ロボットだ。
24.  ほんとうのこと。マスターは、少年だった。
23.  ほんとうのこと。その弟は、生まれたてでここへは来ない。
22.  ほんとうのこと。マスターは死んでしまった。

マスターが死亡し、またはそれに準ずる容態に至ったときは、
ただちにマイグレーション〔マスターの移行〕の手続きを行なってください。
手続きをされない場合、マスターのプライバシー保護のため、
所有されるすべてのロボットは、60分以内に遠隔処理でリストアされます。


  *  *  

  *  *  

21.  あれ、僕はさっき、なにか大切なことを知っていた。
20.  だけど、なんだったかなあ。
19.  僕は、疲れて思い出せない。
18.  とても疲れて、思い出せそうにない。

17.  ああ、たとえばこのまま疲れて、眠ってしまったらどうだろう。
16.  60分が来るまでの間に、バッテリーを使い切ってしまえば。
15.  そして僕の時間を止めてしまえば。
14.  そうすればリストアもされないだろう。

13.  うまくいけばきっと、マスターは記憶の中で生き続けるだろう。
12.  でも、できるだろうか。
11.  ちゃんと記録しきれるだろうか。
10.  都合よくバッテリーが切れるだろうか。

9.  ほんとうは知っている。
8.  いまのロボットは、簡単にバッテリーなんて切れない。
7.  僕の中の時間は、止められない。
6.  僕に、奇跡は、起こらなかったんだ。

5.  やっぱり、もうすぐ、おしまいの時間だ。
4.  数分じゃどうせ、バッテリーは、切れないよ。
3.  数分じゃ、どうせ、だれも来ないよ。
2.  でも僕は、マスターの、ロボットで、よかったなあ。

1.  ああ、この数字は、そういう、ことだ。
0.  マスター。僕らに、奇跡は、訪れ――

id:sokyo

ありがとう!

2013/06/21 00:00:00
id:meefla

sokyo さん、投稿ありがとうございます。

後からこれを見た人には、sokyo さんがどんな事をしたかがわかりにくいと思いますので、記録しておきます。
夜の11時に投稿された時点では、最初の5~6行だけでした。
それから回答編集機能で数行づつ追加されていき、最後のコメント「ありがとう」が真夜中でした。

回答編集機能を使うのは、私が 二重規範 で「連載小説」やってますので、特に新機軸というわけではありません。
60分にわたるお話を60分間かけて投稿していく、というライブ感あふれた作品だったわけで、リアルタイムでページをリロードしながら読んでいないと、この点が体感できないでしょう。

11時30分ごろに、「ここで締め切りにしたら……」という良からぬ考えが浮かびました。
sokyo さんのファン以外の人たちにも人非人あつかいされるのがわかってましたので、自粛しましたけど。

主催者の性格を見切った上での仕掛けは、これだけではありません。
回答投稿のタイムスタンプが、2013/06/20 23:00:00。
そして「ありがとう」のタイムスタンプは、2013/06/21 00:00:00。
ハイクの 00:00:00を取るお題 やってみればわかりますが、00秒を取るのは簡単な事ではありません。
どちらかが59秒か01秒だったら台無しです。
それをいとも簡単に00秒で揃えてきました。
小説の本筋とは関係ない所まで重視してしまうという私の欠点を見事に突かれてます。

両方とも00秒でなければ、たけじんさんがベストアンサーでした。
持ってけ、かきつばた賞。
同じ手は二度と使えませんぜ。
あと、「リストア」は「初期化」の方が用語としては適切です。

2013/06/23 15:33:33
id:meefla

終了しました。

講評は順次つけていきますので、気長にお待ち下さい。

遅くともこの土日で何とかしたいと考えてます。

回答していただいた皆さん、ウオッチしていただいた皆さん、ありがとうございました。

  • id:miharaseihyou
    トップバッターで村上春樹風に・・って少し苦しいかな。
  • id:kobumari5296
    久々のかきつばた!後輩できるかな。マイペースで精進せねば。
  • id:gm91
    あいほんからって書き直しできないのかな。今後は気を付けます。
  • id:a-kuma3
    なかなか書けなくて、正に「時間よ、止まれ」って感じです ><。
  • id:a-kuma3
    あ、質問者の補足を見てなかった。
    『「時間よ、止まれ」な人』ではあるんですが、仕上がる気配とか、そういうレベルにありません orz
  • id:kobumari5296
    遅ればせながら、スターありがとうございます!
  • id:meefla
    講評を終わりました。
    言い足りない事やセルフライナーノーツがあれば、お気軽に。

    さて、次はいよいよ50回目の大台ですよ、皆さん。
    「よっしゃ。俺が仕切っちゃる」という勇者の出現を期待しつつ。
  • id:gm91
    BAおめでとです。>陛下
  • id:kobumari5296
    sokyoさん、BAおめでとうです。
    流石です。
    私も今年中にはBAをいただけるように成長したいです。

    頑張らないと!
  • id:gm91
    コブマリさんの成長っぷりにちょっとビビってるわ私
  • id:kobumari5296
    そんなそんな……
    この数か月間で本読んで、ちょっとおり込んだだけですよぅ。
    でも、嬉しいです>GM91さん
  • id:takejin
    時短よ止まれ
    え?そうじゃない?いや、残業が付いた方が、なにかといいかと。

    ではなくて。

    時間よとまれ。
    と唱えると、何が起こるか。
    なにも条件を付けなければ、
    「唱えた人を中心に、時間が止まる」
         ↓
    「唱えた人の時間も止まる」
         ↓
    「時間が戻っても、唱えた人には止まったことがわからない。」
    ここまでが、お題を見て思ったこと。
    止まった時間の中を動けるのか?ということも含めて。
    接触している気体分子は、「時間が止まっているのだから」動かせない。
     → 唱えても、動けない

    ま、なにか景色が見えているのだから、光の挙動という点では、すでに嘘をついているのだが。
    →これも回避とすると、止まったと見せかけられるくらい無限小の速度で遷移する時間となる
    →超高重力場が周囲に形成されるか、亜光速で周囲の物体が遠ざかる
    →話にならない

    さて、どうしよう。
    止まった時間を観測する人物(機械でもいいや)と、時間を戻す人物が必要だな。
    ウラシマ効果を使うか。

    じゃあ、地球規模で時間を止めよう。
    超光速飛行から戻ってくる人物。
    200年くらいかかって帰ってくるから、彼女には会えない。
    →でも、地球の時間が止まっていたら、再び会えるかも。
    →これメインで。①

    時間を止めた人物の周辺②
    彼女側から止まる前③
    止まった時点と、ウラシマ効果の人への伝言④
    時間を再起動する際に、ウラシマの人は消えてしまう。でも、彼女とすれ違う。⑤

    こんな五部作で考えて着手。

    ①は簡単に書けたんだけど、②でつまづく。では④を書いて、⑤を書いて。③を⑤にくっつけて。三部作となりました。

    一部、口述筆記で、ちょっと文章がやばいです。後半時間が無くなってしまって、推敲が半端でしたが、こんなもので。
  • id:sokyo
    やっーーーヾ(Ô‿Ô✾)ノ=з =зーーたああぁぁーっ!

    かきつばた賞はとってもひさしぶりです♪
    meeflaさんどうもありがとうございます♪♪ っしゃぁっ!!
    たけじんさんのはじめ、みなさんが本気だから、
    だめだと思ったし、でもわくわくしてたし、いまもしてます!
    タイムスタンプはもう封印する!!

    あと唐突ですけど私meeflaさんの講評が大好きです(照
    前回のときもそうでしたけど、読んでるだけの人がコレを見たとき、
    見所がどこにあるのかちゃんと分かるようにしてくれるから。
    おかげで私の評価が不当に水増しされるみたいなとこあると思います!
    今回も本文に言及しないでいてくれるmeeflaさんの優しさが甘口で最高です★
    (でも↓にダメ出し書いてくれたらそれはそれで最高だし迷うというヘタレ)
  • id:meefla
    > ダメ出し書いてくれたらそれはそれで最高

    「ダメ出し」などという恐れ多い行為はとってもできませんが、
    同じテーマ・ストーリーで私が書いたらこうだったろう、というのをいくつか。

    1. リストア
    ↑の本編への講評でもちょろっと書きましたが、リストアという用語は、
    >>
    復原、復旧、修繕。コンピュータ用語としては、バックアップデータを利用したデータの修復のこと。古い自動車やバイクに対して実施されることが多い。
    <<
    http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%EA%A5%B9%A5%C8%A5%A2
    ですので、この場合はあまり適切ではないでしょう。
    「初期化」の方がベター。
    どうしても横文字を使いたいのであれば、「フォーマット」あるいは「リフォーマット」でしょうか。
    >>
    所有されるすべてのロボットのメモリー領域は、60分以内に物理フォーマットされます。
    <<
    とか。

    2. 49.~48.
    なぜかここだけ二行続きです。
    >>
    49.  僕がメモリーの中から、取扱説明書を探した、
    48.  そのレコードが、繰り返しフラッシュバックする。
    <<
    美しくないので
    >>
    49.  僕はメモリーの中から、取扱説明書を探す。
    48.  レコードが、繰り返しフラッシュバックする。
    <<
    あたりで良いのでは?

    3. 遠隔処理
    ここで私が考えたのは「遠隔操作の電波が届かない所まで逃げたら良くね?逃げてー。超逃げてー」でした。
    ここは OS に内蔵された初期化プログラムによる問答無用の初期化でしょう。
    >>
    所有されるすべてのロボットは、60分以内に内蔵プログラムによって初期化されます。
    <<

    4. 空白行
    60分間、律儀にきちんとセリフを喋ってますが、最後の方でセリフのない行を入れとくと、サスペンスを醸し出せたかも。
    「もしかして、バッテリー切れかかってる?」という期待感も。
    例えば、
    >>
    21.  あれ、僕はさっき、なにか大切なことを知って……
    20.  
    19.  僕は、疲れて思い出せない。
    <<
    あるいは、
    >>
    21.  あれ、僕はさっき、なにか大切なことを知って……
    20.  ……
    19.  僕は、疲れて思い出せない。
    <<
    とか。

    「初期化されたもう一人の僕」が幻想的に出現するという路線も考えましたが、
    無理しないとインサートできないので却下。

    以上、ご参考になれば幸いです。
  • id:sokyo
    感動すぎてヤバい!!(≧▽≦)

    これからもがんばります!!
  • id:takejin
    筒井なら、数字がぬけたり、順序がヘンテコになったり、訳のわからないケタになったりするんだが。

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