テーマ:食事とアンドロイド
創作文章(ショート・ストーリー)を募集します。
ルールははてなキーワード【人力検索かきつばた杯】を参照してください。
締切は11月7日(日)朝6時、締切後に一斉オープンします。
「ねぇ、お兄ちゃん。なに食べているの?」
妹が僕に尋ねてきた。
「これはハンバーガーだよ。前に説明しただろ?
パンとひき肉でできてるんだけどね。」
そう答えながらも、内心僕はドキドキしている。
実はこの手の質問は苦手なのである。
どう苦手であるのかといわれれば、その先の問答が難しくなって
いってしまう可能性に対してついつい心配してしまうことが大きな
原因だと思っている。
妹を好奇心旺盛な性格にしてしまったのは完全に僕のせいだし、
妹の前で安易に食事を取ってしまうのも改めないといけないと
思いつつもついついやってしまう。妹とはほとんどの時間一緒に
過ごすし、腹が減ってはしょうがない。
その結果、似たような質問をたびたび受けてそのたびに適当に
お茶を濁しつつ、話を逸らしてフェードアウトってのが何度も
あったのだ。
「私も一回食べて見たいんだけど」
顔を僕の鼻先まで近づけ、上目遣いで懇願する妹の愛くるしい
仕草を見て僕の心が揺らぐ。食べさしてやれるものなら、美味しい
物をいくらでも食べさせてやりたいと常々思っている。実行に移せ
ないのは物理的な要因なのだ。時間が無くってハンバーガや牛丼
などのジャンクフードを食べることが多い僕だが、本気を出せば
高級レストランのコース料理二人分ぐらい毎日食べたってなんら
問題ないぐらいの稼ぎがあるんだから。
「う~~ん。食べてもいいんだけどね。これはちょっと女の子には
向いていないっていうかなんていうか、、、」
前にも使ったけど男女間での性質の違いで逃げ切ろうと試みる。
「向いてなくても、食べちゃだめってわけじゃないんでしょ?」
そう言われるとなかなか切り返すのが難しい。早くも最終手段に
訴えることにしよう。僕は残っていたハンバーガーをすばやく口に
入れ租借する。ついでに残っていた炭酸飲料も全部飲み干した。
もちろん氷もガリガリと噛み砕く。
「あ~~!!また全部ひとりで食べちゃって。けちんぼ~~」
そうは言われても妹には飲食機能を組み込む前に、追加したい機能が
幾らでもある。
高度抽象的推論機能もバージョンアップさせたいし、触感フィードバック
機能だってごく初歩的なものしかまだ装備させてやっていない。
しかたなく僕は妹のシステムをダウンさせ、一人孤独に仕事に励むことにする。
が、ちょっと気が向いたのでアンドロイドカスタマイズセンターの
カタログで、飲食関係の機能について眺めて見ることにした。
小腹がすいたので非常食のポテトチップスを齧りながら、数ある関連機能を物色する。
飲食機能も低レベルのものであれば、比較的安価だから、付けてやれない
こともない。でも、味を理解できるような高機能なオプションをつけると
なると、とっても高価でおいそれと購入するわけにはいかないのだ。
やっぱり物が食べれても味がわからないなんて、悲しい状況に妹をさらす
のは気が引けた。低レベルの飲食機能でも空腹感だけは感じてしまうんだから
なおたちが悪い。アンドロイドの足元を見た販売戦略だとつくづく感じてしまう。
などといろいろ考えながら、僕は味のしないポテトチップの最後のひと欠片
を口にほおり込んだ。
fin
仁は遊園地に行って、
安藤と出会って、仲良くなった。
ある時仁は安藤を自宅に連れて来た。
仁の母は、食事を作って仁と安藤に食べなさいねと言ったが、
安藤は、食べようとせず、ガソリンが欲しいと言った。
すると、仁の母は、「ごめんね。今ガソリンは家に無いのよ」と言った。
仁は「ガソリンは体に悪いから、コーラでも飲んだ方がいい」と言ったが、
安藤は「コーラは飲めなくてごめんね」と言った。
母は、「食べたくないなら無理に食べなくてもいいから」と言った。
少しして、安藤は帰りたいと言ったが、仁と母は、来たばかりじゃないかと言って引き留めて、
ゲームをした。
その後、安藤が倒れて動かなくなった。
そこで仁と母は、安藤を病院に運んだ。
すると医師は安藤の体を診ると、電話をかけた。
すると電気屋さんが病院に来て、
安藤の髪をかき分けて、「ここに非常用電源があります」と言って
スイッチを押すと安藤は目を覚ました。
そして電気屋さんが、コップに入れたガソリンを安藤に与えた。
すると安藤はガソリンを飲んだ。
電気屋さんは、「ガソリンあげなきゃ駄目だよ」と言った。
アンドロイドに食事は必要なのか。
アンドロイドならば、食事などしなくても
燃料さえあれば駆動する。
しかし、アンドロイドを身の回りの大切な
ものとすると、話は別だ。
アンドロイドを実用化したものとして考えると、身の回りの大切な所にあるものを大切に扱いたいという気持ちはあるものである。
そういったことの場合、アンドロイドにも食事は必要とイエナクモない。
………こんな感じでいいでしょうか。
食事とアンドロイド
彼女の名前はアンドロイド・イブ。
通称はアンディー、そう、いわゆるアンドロイド=人造人間だ。
彼女の一日は早い。朝は体内に埋め込まれた原子時計が5時を刻んだ瞬間に起きる。ただし、寝ている状態といってもエネルギーを消費しないように機能停止しているだけで、人間の「起きる」とは厳密には異なる。
ただし造物主の趣味もあってベッドで布団にくるまり、横にはなっている。
アンディーは服を着替える必要はないが、一応身だしなみを衛星撮影でチェックし、伸びることのない栗毛を右側頭部やや後方でワイヤーで括る。
造物主はアンディーにより人間に近い生活を要求した。
アンディーは朝ごはんに目玉やきをつくり、ご飯を炊く。和食に合うのは食後の珈琲だからと、造物主に言われてからは毎朝ドリップを使って2杯分を淹れることにしている。
食後は食事の後片付けをした後、昼まで造物主の犬の散歩に出かけ、帰宅時に昼食と夕食用の食材を持ち帰る。造物主は一日三食の社会で育ったため、アンディーもその習いを踏襲している。
食卓に並べる二組の器。
気さくな造物主はアンディーにも定席を作り、食卓時には自分の向かいに座るよう教えた。アンディーはその教えを忠実に守っている。今日もいつも通り、造物主の向かいに腰掛けた。造物主の席は窓を背にしているので昼食時はアンディーは集光装置、人間でいうところの"眼"の絞り値を数メモリ上げる必要がある。
そういうときはカーテンを閉めろ、と造物主は口煩く言っていたが、アンディーはそういう手間がかかる行為の意味が理解できず、造物主が口を出さなくなってからはカーテンを開け閉めしなくなってしまっている。
そんなアンディーにとっては食事自体が最も効率の悪い行為になるのだが、彼女はそれを辞めようとはしなかった。彼女のエネルギー源は体内に内臓している小さい部位だけで、数百年は持つものな上、造物主に擬似睡眠の習慣を言い付けられてからは、一日の起動時間が2/3になっているので更に長く駆動可能だからだ。当然口腔に当たる器官は見た目上はギミックとしてついているが体内部分には繋がっていない。
それでもアンディーは今日も夕食の準備をする。
きっちり造物主と二人分。
食卓に並べた後、両手を揃え彼女はいつも口ずさむ。
「いただきます」
その言葉の意味をよく知らない彼女は、軽くお辞儀をした後、続けて、
「ごちそうさま」
とも口にする。
そして席から立ち上がると、二人分の食器の片付けを始める。
この夕食で百十五万千九百四十回目の片付けを。
僕が小学生の頃の話です。
グルメトレインという電車に乗りました。電車の中に調理ロボットがいて、ロボットが豪華フランス料理を作ってくれるというのがウリの電車です。
料理を食べるのを楽しみにしていたら、急に変な格好の男がやってきて、調理ロボットにケチをつけはじめました。
その男は自分の事を「ロボコック2」と名乗りました。1があるのか、と思いました。全身に鍋やまな板など調理器具を取り付けて、ロボットみたいな見かけをしています。
背中に土鍋が付いていて、その土鍋からマニピュレータが伸びて、食材を調理するという能力を持っていました。
別の少年が、ロボコック2に戦いを挑みました。
どちらの料理が美味しいのか、判定する事になりました。
どちらも美味しかったです。
結局、同点になりました。
そこでやめればよかったのに、なぜか次の日の朝食で再勝負になりました。
次の日の朝食で、また変な男が入ってきました。
「怪傑味頭巾」というおじいさんで、多分TVに何度も出ている「味皇」とかいう人だと思うのですが、僕以外は誰一人正体が判らないフリをしていました。お母さんに「ねぇ、あの人、味お……」というと「シッ!」と言われました。大人になればわかる、といわれました。
結局、ロボコック2は金髪の普通のお兄さんでした。
アンドロイドではありませんでした。
味将軍の味包丁7人の1人との事でしたが、あと6人もこんな変な人がいるのかと思いました。
私はリック・サザンフォードA。行動心理学者だ。
私たちにとって、そして私個人にとっても、この学問は非常に重要だ。
なぜなら、私たちは目に見えることからしか、人の心を推し量ることはできないのだから。
あの日、私は同僚のメイリン・ランド博士とチャイナ・レストランにランチに来ていた。
「ごめん、今日は私に選ばせて」
何を頼むのかあらかじめ決めていたのか、彼女はメニューを見ててきぱきと注文していく。その音楽的な声に心を奪われながら私は尋ねた。
「あれから足の調子はどうですか?」
「不便でしょうがないわ。あなたと違ってすぐに取替え、ってわけにもいかないからね。あー、私も変えちゃおっかなぁ」
「え、そんな、そ、それだけのことで、ですか!?」
「冗談よ、すぐ本気にするんだから」
そういうと彼女はちょっと肩をすくめた。こういった仕草が、いちいち魅力的で癪に障る。
「私も懐と相談しないことにはすぐに取替えというわけにもいきませんけどね。その点、貴女のほうがお金もかからなくてよいかもしれませんよ。」
こんなくだらないジョークにも、彼女は笑ってくれる。
奇妙に思うかもしれない。しかし、そう、私は彼女に恋をしていた。
やがて次々と料理が運ばれてきた。
テーブルに並ぶ紅焼猪脚、鳳爪飯、金華火腿のスープ…。こういった、ちょっと変わった料理にもだいぶ慣れた。消化器系のバージョン・アップは安月給には少し痛かったけれども、こうして彼女と同じ時間を過ごせるのであれば高い買い物ではない。
でも。
「やぁ、メイリン。あの話はどう?今度返事を聞かせてよ」
「こんにちは、メイリン。今日も綺麗だね」
「メイリンさん、この前は楽しかったね。また遊びに行こうよ!」
通りすがる何人もの男たちが、彼女に声をかけていく。そして彼女はその度に、笑顔をふりまいている。
私には彼女が分からない。彼女の心が、わからない。でも、しかし。
胸の辺りでなにかが、きしむ音がする。
かぶりをふって無限ループをkillすると、ふと思い当たったことを聞いてみた。
「今日の料理ですが、なにかお考えがあってのことですか?その、なんというか気のせいか…。」
「あ、気づいた?これよ、これ」
そう言って彼女はギブスをまいた足をぽんっと軽くたたいた。
「ほら、怪我とか病気とかしているときは、悪いところと同じものを食べるといいっていうじゃない?あれよあれ。」
「だから、足の料理、ですか。」
「そうそう、意外と昔からの言い伝えも馬鹿にならないんだよ?」
胸の辺りでなにかが、音を立てた気がした。
私はリック・ランフォードA。行動心理学者だ。
私は人の心が知りたい。ただ、知りたかっただけなんだ。
私が知りたかったその人は、もういない。
《了》
…アシモフ先生、ごめんなさい。
ダッシュが使えないので、代わりに「ーーー」と書きます。
ブルルルルル…ブルルルルル…
耳元で鳴り続ける携帯。
うるさいうるさい、俺の安眠を妨害する気か。
ブルルルルル…
なおも鳴り続ける携帯。
なんだなんだ、こんな朝っぱらから。
今の俺は試験明け、どんだけ徹夜したと思ってやがる。
オマケに今日は日曜だ。ちったぁゆっくり寝かせてくれ。頼む。
だがしかしこれ以上安眠妨害の電波を発する機械の存在を無視することはできず、ぼんやりした頭のまま電話を取った。
「もしもし」
「うぉーい、造か?あのな、今日昼から」
「断る。じゃな」
さて。
俺は襲いかかる睡魔に抵抗することなく深い眠りへとーーー
ブルルルルル、ブルルルルル…
着けなかった。
くそ、ここまでくると腹が立つ。断るっつっただろうが。
携帯を握り潰さないように気をつけつつ電話を取る。
「なんか用か?用なら早く済ませてくれ」
苛立つ様子が伝わったのか、相手ーーークラスメイトの高木だーーーは少し驚きつつも話し始めた。
…あまりに高木の話が長かったのでまとめるとーーー
今日、隣町で機械展示会が開かれるそうだ。そこでなんと、世界最高の知能を持ったアンドロイドが公開されるとのこと。
「だからさ、行こうと思うんだ。お前も一緒に来ねぇか?」
なるほど、結構面白そうだ。あくまで機械好きにとってはだが。
「よし分かった、行く」
よっしゃ、と叫ぶ高木。だが一つ疑問が残る。
「お前ってさ、機械とか好きだったか?」
…黙りこむ高木。
「なのに何で行こうと」
「い、いや、お前が喜ぶかなぁと、はははは…」
いまいち分からん。
まぁどうでもいいか、と思いつつ電話を切った。
待ち合わせ場所でボンヤリ待っていると高木が来た。
適当にくっちゃべりつつ会場へ向かう。思っていたより混んでないようだ。
お目当てのアンドロイドを探しに建物内へ。お、奥のほうにあるのがソレか?
すげぇ。その一言だった。
マジで人間だよ、コレ。
建物の中には、薄い笑みを浮かべている美女がいた。あ、いやもちろん人造だが。
今の技術ってすげぇ…
ただ呆けている俺の横ではしゃぎまくる高木。
「すげぇ可愛いなコレ!!ホント…」
ふと思った。
「お前、可愛いい女見たくてここ来ただろ」
青ざめる高木を無視し、近寄る。
ぽかんといている俺をジッと見た美女。
次の瞬間、目線はそのままに俺が持っていた袋ーーー少し前に買った昼飯だーーーを突然引っ張った。
当然無防備だった俺は、焦る間も無く袋を奪われる。
すると美女は俺の目の前で、袋の中のおにぎりやらサンドイッチやらをもしゃもしゃと食べ出したのだ。
とたんに人が増え、唖然としていた俺は人混みに建物から押し出される。
家に帰っても、俺はただ呆けていた。
人造人間が飯なんて食うか?
少なくとも俺はそんな人造人間を見た事は無い。いくら世界最高だとしてもな。
数日後。
俺はあの美女ーーー呼び名はこれにしておくーーーが頭から離れなかった。
何故物を食った?
そう考えると自然に足は会場へ向かっていた。
もう展示会は終わっているだろう。でも、結構大掛かりな会場だったのだ、きっと全部片付けられちゃいないと思う。
何故か、美女は片付けられていなかった…のだが、美女の前に美女そっくりの美女ーーー人造美女と書くことにするーーー人造美女の前に、これまた人造美女そっくりの美女が立っていた。
だが、それよりも物を食うことの真相が気になって仕方がない。俺は食べ物の入った袋を人造美女の前に突き出した。
無反応。
しかし、隣から笑い声が聞こえる。
人造美女にそっくりな美女だ。
彼女はひときしり笑うとこちらを見た。あの時とそっくりそのままだ。
「この前はあんな事してごめんね。色々と事情があったんだけど…」
彼女の話も長かったのでまとめると…
どうやら人造美女が会場に運ばれてくる時に手違いが起き、到着が1日遅れてしまったらしいのだ。
期待して来てくれるお客様に申し訳無いということで、1日だけ代わりを本物の人…彼女が務めたという訳だそうだ。
「突然だったし、お腹がどうしてもすいてて…」
ごめんね、と頭を下げる美女。
こんな真相だったとは。でも、世界最高だしと言われても伝わらない人もいるかもな、俺みたいに。
しばらく考えた後、高木には真相を話さないことにした。
何故かは…初恋についてはまたいつか、ゆっくりと話したいから。
無駄に長くてごめんなさい。
ありがとうございました。
アイポの誕生日
今日はアイポの誕生日。アイポの背中から伸びたUSBケーブルを、パパのMacにつないだ。ちゃんと動くだろうか。僕は息を止めて祈った。パパも息を止めてた。動け。
少しの間があって、iTunesがちゃんと立ち上がった。僕のアイポが1週間ぶりに息を吹き返した。やったぁ。アイポの頭をなでた。体温がある! すごい!
そもそもは1週間前にさかのぼる。僕のズボンのポケット入ってたアイポを、ママが洗濯機で洗っちゃったのだ。アイポっていうのは僕のiPodの名前だ。でもって当然アイポはびしょぬれ。僕はあわてて電源を付けようとして、パパに手をはたかれた。
「アンドロイドを洗濯したら1週間お休みだろ、常識的に考えて」
…というわけで、僕は灰色の1週間を過ごしていたというわけだ。
「久しぶり。お誕生日おめでとう。元気?」
僕はアイポに声をかけた。…っていっても、あいつスピーカーも画面もないから、イヤホンつけないと返事が聞けないんだけど。Macの画面に向かっていたパパが代わりに答えた。
「ん? どうやら排出系がおかしいみたいだ。もう食べ物で充電をするのはできないから、USB給電一本でいくんだろうな」
え?
「お前のiPod、食べ物充電とUSB充電と、2つできるだろ? USBのほうを使えば大丈夫だ」
「え。食べ物で充電できるようにしてよ」
「しかしなあ、中 浸水してるかもしれないし、だいたいiPodって開かないだろ? 直せるようなもんじゃねえよ。AppleだってiPodはたしか、Androidシリーズ含めて修理じゃなくて交換にしてるっていうし」
「いやだ。食べ物で充電できてよ。USBで充電するアイポなんて、それじゃただの音楽プレイヤーだ!」
僕はパパに殴りかかった。わかってた。でもぶった。
ディスクユーティリティでも、ノートン先生でも、僕のアイポは直せないみたいだった。
「しかたないでしょう? もともとただの音楽プレイヤーじゃない」
ママが口をはさんだ。
「まあ、排出ができないだけってことから考えるに、あと1回、食べるだけならできるってことだろうな」
パパが言った。そうだ。ピンときた。今日は僕のアイポの誕生日だった。誕生日には好きなレストランに連れて行ってもらえるのが僕の家のルールだ。
「ねえパパ、ママ、今日は好きなお店に連れて行ってくれるんでしょう? 回転寿司がいい!」
「お寿司…。それがiPodの中にとどまるわけよねぇ…」
ママはあからさまに嫌な顔をした。でも味方してくれたのはパパだ。
「まあ、これで最後なんだからな。せめてうまい寿司を食おう」
かっぱ寿司は混んでいた。3名様ですか? と尋ねてきた店員にパパは首を横に振って、4人席が空くまで僕たちは待った。
「ほら、納豆巻き。あと締めサバ」
僕は席に着くなり、その2皿を取ってアイポの前に置いた。アイポが一番好きだったから。
“食べ物の容量が一杯です”
イヤホン越しにアイポは告げた。これまでにないような冷たい声だった。
「そんなことないって! 食べなよ」
僕は納豆巻きを取って、アイポのクリップのところに押し付けた。ママが顔をしかめた。
“食べ物の容量が一杯です”
“食べ物の容量が一杯です”
ねえパパ。
「リセット?」
「そう。なんかを長押しするとリセットできるんでしょう? それ、やって」
パパは知っているはずだった。僕の家にこのアイポが来てから、一度もリセットなんてしてないこと。それどころか、最初に入れた曲を外したことすらないこと。だって、人の記憶をまっさらにすることなんてできないじゃない。それと同じだ。
「本当にいいのか? データ消えるぞ」
「いい」
「しかも排出系のセンサーがどうリセットされるのかはわからないぞ?」
「いいから。やって」
パパはうなずいた。そして、どっかボタンを長押しした。
“リセットされました”
イヤホンの声が新しくなった。さあ食べろ。
僕は納豆巻きの片方を食べた。アイポの前にひと皿置いた。アイポは、残ったほうの納豆巻きを慎重に吟味した。そして、裏面のクリップではさんだ1/3ぐらいを取り込んだ。クリップが少しもぐもぐして、動作が止まった。
食べた!
でもイヤホンから、また聞き飽きた声が響く。
“食べ物の容量が一杯です”
うるさい。僕は締めサバの半分を食べた。
“食べ物の容量が一杯です”
もう食べないのだろうか。僕はマグロを取って半分食べた。
“食べ物の容量が一杯です”
僕はパフェを取った。
“食べ物の容量が一杯です”
「食べるならちゃんとぜんぶ食べなさい」
ママは言った。でも、残りはアイポのぶんだ。
僕は、流れてくるお皿をぜんぶ取った。レーンを手でふさいだらお皿がどんどんなだれてきた。僕はそれを片っ端から半分だけ食べた。それでもアイポは動かなかった。
「落ち着け。あと、醤油つけて食ったほうがうまいぞ」
パパは言った。でも、そんなのよりずっとしょっぱい味がした。
「ねぇ、お兄ちゃん。なに食べているの?」
妹が僕に尋ねてきた。
「これはハンバーガーだよ。前に説明しただろ?
パンとひき肉でできてるんだけどね。」
そう答えながらも、内心僕はドキドキしている。
実はこの手の質問は苦手なのである。
どう苦手であるのかといわれれば、その先の問答が難しくなって
いってしまう可能性に対してついつい心配してしまうことが大きな
原因だと思っている。
妹を好奇心旺盛な性格にしてしまったのは完全に僕のせいだし、
妹の前で安易に食事を取ってしまうのも改めないといけないと
思いつつもついついやってしまう。妹とはほとんどの時間一緒に
過ごすし、腹が減ってはしょうがない。
その結果、似たような質問をたびたび受けてそのたびに適当に
お茶を濁しつつ、話を逸らしてフェードアウトってのが何度も
あったのだ。
「私も一回食べて見たいんだけど」
顔を僕の鼻先まで近づけ、上目遣いで懇願する妹の愛くるしい
仕草を見て僕の心が揺らぐ。食べさしてやれるものなら、美味しい
物をいくらでも食べさせてやりたいと常々思っている。実行に移せ
ないのは物理的な要因なのだ。時間が無くってハンバーガや牛丼
などのジャンクフードを食べることが多い僕だが、本気を出せば
高級レストランのコース料理二人分ぐらい毎日食べたってなんら
問題ないぐらいの稼ぎがあるんだから。
「う~~ん。食べてもいいんだけどね。これはちょっと女の子には
向いていないっていうかなんていうか、、、」
前にも使ったけど男女間での性質の違いで逃げ切ろうと試みる。
「向いてなくても、食べちゃだめってわけじゃないんでしょ?」
そう言われるとなかなか切り返すのが難しい。早くも最終手段に
訴えることにしよう。僕は残っていたハンバーガーをすばやく口に
入れ租借する。ついでに残っていた炭酸飲料も全部飲み干した。
もちろん氷もガリガリと噛み砕く。
「あ~~!!また全部ひとりで食べちゃって。けちんぼ~~」
そうは言われても妹には飲食機能を組み込む前に、追加したい機能が
幾らでもある。
高度抽象的推論機能もバージョンアップさせたいし、触感フィードバック
機能だってごく初歩的なものしかまだ装備させてやっていない。
しかたなく僕は妹のシステムをダウンさせ、一人孤独に仕事に励むことにする。
が、ちょっと気が向いたのでアンドロイドカスタマイズセンターの
カタログで、飲食関係の機能について眺めて見ることにした。
小腹がすいたので非常食のポテトチップスを齧りながら、数ある関連機能を物色する。
飲食機能も低レベルのものであれば、比較的安価だから、付けてやれない
こともない。でも、味を理解できるような高機能なオプションをつけると
なると、とっても高価でおいそれと購入するわけにはいかないのだ。
やっぱり物が食べれても味がわからないなんて、悲しい状況に妹をさらす
のは気が引けた。低レベルの飲食機能でも空腹感だけは感じてしまうんだから
なおたちが悪い。アンドロイドの足元を見た販売戦略だとつくづく感じてしまう。
などといろいろ考えながら、僕は味のしないポテトチップの最後のひと欠片
を口にほおり込んだ。
fin
このIDが年齢を反映しているのでしょうか。それとも、この回答内容が年齢を反映しているのでしょうか。