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『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』は華麗な異色のドキュメンタリー

『ムーンエイジ・デイドリーム』ってどんな映画?

 

dbmd.jp

いよいよ日本でも公開となるデヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』である。吉井和哉による「上映わずか3分で大号泣」というコメントがキャッチコピーとして使用されているが、これはおそらく誇張ではない。上映開始から3分後と聞いて、私も「ああ、あのシーンだな……」と納得した。確かに、号泣するならそのタイミングだと思う。私もちょっと泣いたかもしれない。

開始3分の時点で、我々の前に、デヴィッド・ボウイが現れる。それはまさに「現れる」と言いたくなるようなシーンだった。まるで目の前にいるような、驚いてしまうような近さを感じ、鳥肌が立った。映像の鮮やかさと演出の妙によって生み出されたこの決定的なシーンを見るためだけにでも、映画館に行ってほしいと思う。

 

コラージュとしてのドキュメンタリー


ところでこの映画は、普通の、よくある形式のミュージシャンのドキュメンタリー映画ではない。

ボウイの誕生から晩年までを順を追って見せてくれるわけでもないし、まんべんなく作品を紹介してくれるわけでもない。つまりこの映画を見ても、ボウイのキャリアの全貌は分からない。これはそういう映画ではないのだ。

言ってみればこの映画はひとつの映像/音楽作品というか、一本の長大なイメージビデオのようなものだ。「ジギー・スターダスト」の時期を中心としたたくさんのライブ映像を軸に、インタビュー映像やその他様々なフッテージがコラージュのように貼り合わされ、配列され、そこにボウイのモノローグがかぶせられる。観客はボウイの音楽と言葉、様々な姿とそれを取り巻く風景を矢継ぎ早に全身で浴び、濃密なボウイの宇宙に浸ることになるのだ。

また重要なのは、ボウイがパフォーマンスする映像に、様々な過去の映画や絵画、あるいは作家やアーティストなどの人物のイメージが挿入されることだ。それはボウイがその音楽を生み出すにあたって参照し、影響を受け、その源流となったイメージ群に他ならない。ボウイが様々な文学や芸術を参照しながら創作活動をしていたことはファンなら承知のことと思うが、この映画はそれらのイメージをモンタージュすることによって、まるでボウイのそのような創作過程そのものを追体験するようなものとなっている。(ただし説明は無い)

あまり親切な映画とは言えないが、しかしボウイファンにとってはこの上なく贅沢な映像体験だし、挑戦的な形式の音楽映画でもある。是非劇場で見てほしいと思う。

 

 

映画を見る前にざっくりボウイのことを知りたい!という方にはこちらの新書がお勧め。著者の野中モモは英米の音楽やカルチャーに関する訳書を多数手がけています。

 

そしてボウイの世界にどっぷり漬かりたい方は田中純によるこちらをどうぞ。過去に紹介記事を書いておりますのでご覧ください。

pikabia.hatenablog.com

 

 

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ポストコロニアル/熱帯クィアSF

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