piano-treeの日記

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マーケティングはもはや組織の一機能ではなく、一つの思想である

「カスタマーマーケティング」という名前を聞いて、どんな仕事をしているセクションを思い浮かべるでしょうか。英語圏の消費財メーカーでカスタマーマーケティングというと、一般的には小売企業に対するマーケティング活動を意味します。ボリュームインセンティブ(仕入れ数量に応じた割引)の仕組みを考案したり、なるべく目立つポジションに自社商品を陳列してもらうための提案を企画したりする活動です。

消費財企業には、大きく3つのマーケティング機能があります。1つ目は、コンシューマーマーケティング。これは商品コンセプトの開発やメディアでのコミュニケーションを中心とした、消費者、つまり「使う人」を対象としたマーケティング活動です。

2つ目は、ショッパーマーケティングと呼ばれる機能です。店頭で商品を選ぶお客様、「買う人」に向けたマーケティング活動で、POPの作成やトライアルセットの企画などが典型例です。同じお客様でも、商品を利用する「コンシューマー」の顔と、店頭で商品を選ぶ「ショッパー」の顔をあわせもっています。また、商材によってはコンシューマー(ドックフードなら犬)とショッパー(飼い主)がまったく異なる場合もあります。

3つ目が、カスタマーマーケティングで、仕事の内容は上記の通り、小売企業のバイヤーに対するマーケティング活動です。消費財メーカーにとって、商品を直接買ってくれるお客様(カスタマー)は小売や卸のバイヤーさんなので、このような呼称になっています。

いや、バイヤーが相手なら営業だろ、と思う方もいらっしゃると思います。それは販売企画だろ、という方もいらっしゃるでしょう。カスタマーマーケティング、ショッパーマーケティング、コンシューマーマーケティング、何でもいいですが、とにかくどこか一社で「マーケティング○○」「○○マーケティング」と呼ばれている機能を全てマーケティングと解釈すると、きっとかなりの数のマーケティング機能が、皆さんの会社にも存在することになります。

The Economist主催のThe Big Rethink USというイベントにおけるセッションで、Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)のCMO、クリス・ヒュンメルがこんな発言をしています。 

“There is a branding problem in marketing. What is the brand of marketing? What is the value that brings and what is that supposed to do? And I know as I talk to fellow CMOs all over the place, none of us have the same definition, none of us have the same organizational structure, none of us even have the same naming convention for the roles we have. ”

「マーケティングという言葉自体がブランディングの問題を抱えています。マーケティングのブランド、とは何でしょうか。組織にどう貢献するのでしょう。そもそも何をするはずのものなのでしょうか。だからいつもCMO仲間と話すとき、マーケティングについて、誰も共通の定義を持っておらず、共通の組織や、役割についての共通の命名ルールのようなものすらないことに気づくのです」

彼はこの状態を、マーケティングの「アイデンティティの危機」と呼んでいます。しかし、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。「統合マーケティングコミュニケーション(IMC)」という言葉がありますが、統合販売企画とか、統合営業戦略とか、統合経理とか、統合コールセンターなどというものはありません。

それが会社の一機能なのであれば、部門長のもとサブとなる機能が自ずと全て統合されるので、わざわざ統合○○などという必要はありません。このことからも、マーケティングというものが、その他の会社機能とはかなり性質を異にするのがわかります。

そうなると頭をよぎるのは、マーケティングとはもはや「組織の一機能」ではないのではないか、という考えです。今日において、マーケティングの役割は、一言でいえば「あらゆるタッチポイントを通じて商品やブランドにまつわる体験をデザインすること」だと筆者は考えます。

それはもはや、例えばカイゼンのような「考え方」、大げさに言えば「思想」のようなもので、全ての部署に存在することができ、そして存在しなくてはならないものです。逆に「カイゼン事業部」のようなものが存在しないように、マーケティング部という特定のセクションも、その存在意義は果たしてあいまいにならざるをえないのです。

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