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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

「クラリスにとってのルパン」という初恋の象徴

 これは、こないだ(五月頃)日テレ系でカリオストロの城をやってたのを観ながら考えていた「クラリス」の話です。
 それを持ちネタとしてオフ会などで語ってみると、結構ウケが良かった(特に女性からの評判が良かった)ので、二ヶ月越しにエントリ化してみますという話。


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 クラリスのルパンへの思慕っていうのは奥が深いもんで。


 以前、『Fate/stay night』における「凜→アーチャー」の関係(カップリングですね)を『Papa told me』の「娘→父」関係に喩えるという話があって、それは何を意味するかというと……、

 間違いなく「初恋」ではあるけれど、相手の男は自分に手を出さない――、つまり男女関係に発展しないことが前提になっていて、でも実らないからといって失恋したことになるわけでもない、ファザコンの延長的なものだから、女の子が「心の指標」として真剣に憧れることで自分が成長するための恋なんだ


……ということ。
 そういう「目上の父性的な男性に憧れて恋をする」少女像というものがある。


 その後、別の場所で女性と話す機会があって、その時にぼくが話していたのが、

 西洋の男性には「我が貴婦人」に愛を捧げる騎士道の慣習や、何よりマリア信仰のように「恋人以外の異性に(時には恋人に対するもの以上に)萌えることで精神の糧とする文化」が充実していて、その極致がダンテのベアトリーチェ萌えとかですよね。


 それと同じことは今のオタク男性もやってる(喪男にかぎらず既婚者でも)んですが、でも女の人の場合はそういう対象を作る文化が表立ってないから、不便なんじゃないですか……


……という内容だったのだけど、そういう意味で「クラリスにとってのルパン」っていうのを考えてみると発見が多い。



 男性視点のアニメオタク文脈では「ロリコンアニメ」と見られがちなカリ城だけど、クラリス視点で観直すとまた違ったものが感じられるのだ。

カリ城を女性視点で観てみましょう

 そう思ってみると、ラストにおける

「とんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」
「……はい(力強く、微笑みながら)」


……の「はい」も、ニュアンス違って聞こえてくるから不思議だ。


 クラリスは父性としてのルパン……つまり「自分を守ってくれて頼りになる紳士的な大人の男性」としてのルパンを慕っているのであって、銭形の「余計な一言」はその意味をちゃんと理解した上で言ってる感じがしてくる。
 銭形も、精神年齢的には「娘を持つ父親」の感覚に近いだろうから、ルパンを慕おうとするクラリスの「少女らしい女心」をそこそこ見抜けていたのかもしれない。


 一般には、この「盗んでいきました」という有名すぎる台詞は「無垢なクラリスにルパンを恋愛対象として意識させてしまった言葉」として「あーあ、言わなきゃ恋も自覚せずに済んだろうに……」と語られがちだけども、そうではなくて。
 もっとシリアスな意味で「一国の王女に札付きの泥棒を憧れの対象とさせてしまったルパンの罪を責める言葉」になっているように聞こえるのだ。


 逆に言うと、この後でルパンに「残ってもいいんだぜ」とか茶化す次元は、いかにも女心わかってない男、っていう感じで微笑ましい。
 ルパンの女好きには特に頓着しない(文句は言わないが関心も薄い)のが、宮崎版における次元の性格だからだ。
 次元は「あの子、お前に惚れてるぜ、もったいないとか思ってんだろ」とか図星を突いたつもりでも、ルパンは自分がクラリスの恋愛対象になりえないことに重々気付いているので、「うるせえよ」と苦い反応をせざるをえない。


 要するに、クラリスにとってのルパンはいつまでも「おじさま」止まりであって、どう転んでも「男」として見る対象ではなかったわけね。


 ちなみに、クラリスをレディ扱いはするけど手は出さない(と、クラリス視点では信頼されていた)ルパンは、「子供扱いした上で性の対象として支配しようとする大人の男」としてクラリスに迫ってきた伯爵の逆位置でもあるのだろう。
 五右衛門も含めてそうだけど、「伯爵はロリコン」という解釈でいい(笑)。


 ルパンがクラリスを抱きしめられなかったのは、手を出した時点で「伯爵と同じレベルの男」に落ちてしまうからだ。


クラリス視点の「リアルな女の子っぽさ」

 そして、銭形から客観的な現実を教えられたクラリスは、「初恋でもあり憧れでもある」その感情を噛みしめた上で「……はい」と頷くのであって、この「……」というタメの部分には、「犯罪者に守ってもらったお姫様」としての自分に対する誇らしさのようなものが籠もっている感じが凄くする。


 その瞬間でもう「男女関係に発展しない、実らない恋」であることをクラリスは完全に了解しているのだけど、最初にも書いたように「実らない=失恋」ではない、という所にこの気持ちの「リアルな女の子っぽさ」があると思う。


 ちなみに監督の宮崎駿は、明らかに女性視点ではなく「男性視点」でカリ城を作っていたと思うけど、本人は「あれから4年…」というアニメージュのインタビュー記事でこう語っている。

 (その後のクラリスは)恋もするでしょうね。非常に能力もあって尊敬もできる、自分と対等の相手とつきあおうとするはずですよ。ルパンとは、対等の関係じゃなかったものね。でも、その一方でルパンのことは忘れやしないだろうとも思いますね。〝会いたいな〟と感じているだろうしね。そして、どこかしらでふたりは会うんじゃないかっていう気もする。会ったときには、クラリスはルパンに対してベタベタした関係をたもとうとは、しない。ルパンという男の限界もよくわきまえた人間に成長してるんじゃないかなぁ。また、それをぼくは望みますね。

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 ここからちょっと現実の女性寄りに考えてみると、いわゆる「女子校文化」や「ヅカ文化」は、「クラリスにとってのルパン」と相通じる所があるのだろう。
 女子校で「お姉様」「王子様」を仕立てあげて女子生徒が慕うという文化は、「男性にとっての騎士道文化」に似ていて、イメージ的な背景も相性がいい。


 そんな「自分を性の対象として支配しようとしないけど、思う存分憧れる(萌える)ことができる存在」に初恋を感じる心理、というものがどうも女の子にはあるらしくて、それは少女の願望充足メディアである少女漫画から類型的に発見できるパターンでもある。
 それだけ需要があるってことなんでしょう。


 女性の友人たちから直接意見を集めてみると、「自分に手を出さない、格好いい憧れの人」として選ばれやすいのはルパンのような「おじさま」や同性の「お姉様」だけでなく、「ゲイの男性」なんていうのもポイントが高いみたいだ。
 命を懸けて守ってくれる、優しくて格好良くて、しかも自分を女じゃなくて一人の人間として尊重してくれる存在……なんていう都合のいい相手にペッタリ甘えたくなるという心情はなかなかエゴイスティックだけど、その心地良さや安心感っていうのはなんとなく想像できる。
 『ふしぎ遊戯』の柳宿とか、そういう視点で読めばメチャクチャ包容力を感じさせるキャラクターだったことが解る。あれはホント女の子の理想でしょうね。*1

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 で、実際、そういう相手を(妄想でもいいから)心の中に持ちつづけるからこそ、女性として自立していける強さを得ていくのかもしれない。
 単に守ってくれるというだけではなくて、別れた後でも「心の指標」、人生の灯台として記憶の中で輝きつづける存在をこそ、ここでは「クラリスにとってのルパン」と呼んでいるわけだ。


 ちなみに『Papa told me』的な、「決して性愛へと発展しない関係性」のようでいて、そこを突き抜けた男女関係を目指すタイプの物語もあります。


 具体的に挙げられる作品が、斎藤けんの『花の名前』や、高野真之の『BLOOD ALONE』などがそうですね。


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  • 『花の名前』は、保護者的な関係を振り切って結ばれる所まで行くのが素晴らしい作品


 しかし父性への憧れや思慕は依存心にも繋がりやすく、だからこそ、「父性」との決別を前提として――、憧れの対象を人生の灯台としつつ、女性としての成長を志して終わる「凜ルートの物語」が評価されるんだろうな、と思います。


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*1:と言いつつ、ウチ自身も柳宿はメチャクチャ好きなキャラだったり