『エルフ転生からのチート建国記』 月夜涙著  タブーを軽々超える主人公のシリル君はどこへ行くのだろう?

エルフ転生からのチート建国記(1) (モンスター文庫)

評価:★★★3つ
(僕的主観:★★★☆3つ半)


てれびんが読んでいたので、ふと読んでみた。いわゆる異世界転生オレTUEE系ですね。やっぱりこの系統の作品は、ライトナルシシズム全開の全能感で楽しいですね。この系統で最初に読んだのは、『ウォルテニア戦記』だったかなー。今のところ下にあげたのもわせて、この系統の物語類型は凄く好きで、読み始めたらハマってひきずりこまれちゃうんだけど、★3つを超えるものはないなー。やっぱり、これって主人公がすべてを持って異世界から転生して、ある種の植民地的な視線で、文明の格差を利用したチートさで、転生した先の世界での問題を解決しようとするんだけど、長く話を読んでいくと、結局は、本人や作者の努力というか、アイディアというわけではなくて、すべて文明の格差を使った解決に慣れてしまうので、物語が単調になる気がするんだよね。いってみれば、イノベーションが全くなくて、いまあるアイディアで改善をし続けている製品みたいなもの。『まおゆう』の時にも書いたけれども、これって結局は、中世から近世の世界に、現代の技術を持ち込んで格差を利用している物語なので、その大規模な展開はすべて歴史の事実なので、読めてしまうんだよね。ましてや大がかりな類型としては、ほぼすべて『まおゆう』が展開しきってしまっているので、それ以上というの難しい。だとすると、やはり、ライトナルシーな全能感、、、オレTUEEを感じさせる部分が重要になるんだとすると、最初の走り出しが面白くて、その後は惰性になってしまうんだろうと思う。時がたてば格差が少なくなるので、その落差の強さの体感が失われるからだろうと思う。そういう意味では、オレTUEE系ではないとはいえ文明の格差を利用しているにもかかわらずその臭みを感じさせずに話を展開できている『本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません』って名作なんだなーと思う。


『本好きの下剋上 〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』 香月 美夜著  対等な目線感覚が、異世界転生のチートさの臭みを消去する
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20140719/p1

本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 第一部「兵士の娘II」

ああ、過去の記事を見ると★4をつけているの初期の段階で、、、いまだったら★5になるかもなー。うん、そういう意味では、やっぱり僕の見る視点は一貫しているね。やっぱり、ライトナルシシズム的な全能感の処理という部分で失敗すると長く読み続けられないものなんだよね。『エルフ転生からのチート建国記』も面白いんだけれども、そこを少し超えないな、と思う。いま4章が終わったところなんだけれども、主人公のシリルくんは、やっぱり自分しか見えていないよね。他人と対等であるという関係が存在しない。もちろん、その苦悩、力あるものの苦悩はあるわけで、読んでいて不愉快ではないので、僕は好きでさくさく読んでしまうが、それでも『本好きの下剋上』と同じように、対等な目線まで主人公が落ちることがないと、どうしても本来的な異世界転生の持つチートさ(卑怯さ)を克服できない感じがする。。。。。。勘違いしないでほしいのですが、対等な目線を獲得しなければ、正しくない!といっているわけではないんです。物語にはバランスがあって、チートで独善さを貫いて突き抜けるという面白さもありうるので、僕はそれを否定しないし、そういう傲慢さを見てみたいし、面白いとも思うので、対等が正しい答えではないです。けれども、シリルくんのルシアへの思いの在り方って、凄く対等目線で純粋性があるものだと思うんだよね。これが、前提にあると、ハーレムがハーレムとしてあるのが、なんだか、凄く苦しくなってしまうんだよね。一線を超えなければ、三角関係ものとして見れるのかもしれないけど、なろう系はあっさり超えてしまうので、、、。


実際に、ルシエちゃんにしても、クゥちゃんにしても、めっちゃいい娘じゃん。しかも、限界ギリギリのところを生きている。クゥちゃんにいったては、火狐の一族は民族浄化の対象で皆殺しにされているし、、、、それで流浪になった民のリーダーとして難民をひきいてたりするわけじゃないですか。14歳の女の子が。この子の持つ苦しさに比べると、どうしても、シリルくんの苦悩って甘くない?って思っちゃうんだよなー。もちろん、シリル君の悩みが、真摯で、マクロの為政者というか、リーダとーして全責任を背負う気がいは、やっぱり清々しいし、とても胃がキリキル来るような苦しみなのは、読んでいて伝わってくるんで、、、、まぁ、こんな辺境の一部族で生産力も技術も何もない国が、巨大な帝国相手に反乱をすれば、そうもなるわなって思うんだけど、まぁそのリーダーとしての責任感の重さと深さのおかげで、深刻さが伝わってくるんで、卑怯とは思わないんだよね、、、確かに。なので、楽しく読める。


文明の格差を利用したってことは、過去の文明の再現みたいなものなので、メープルシロップで甘みを再現する話とか、思わずメイプルシロップを買ってきちゃったもん(笑)。なんでだろう、、、、凄い勉強しているし、この作者、凄い博学だと思うんだよね。でも小川一水さんの『導きの星』とかのようなSF的なセンスオブワンダーになりにくいのはなんでだろう。。。。


とはいえ、ああ、なんというか、それと、一つ気に食わないというか、ナルシシズムだなって思うのは、、、そうかわかった、、、おれ、クウちゃん好きなんだ(笑)。でも二番目でいいか?みたいな問いかけなんだけど、こうしたハーレム形成って凄く難しいのは、やっぱり納得度合いだと思うんだよね。現実世界ならば当人たちだろうけれども、小説だと読んでいる方が何だよね。。。この状況下で、二番目の妻としてってのは、クウちゃん自身の選択は、そりゃーそうだろうと思う。子を産む奴隷というか機械にされるような末路を考えれば、幼馴染のそれなりに好きだった男の子と結婚できるなら、それに勝るものはないと思うよ。けどねー。なんか僕は、それにつけこんでいるような気がして仕方がないんだよなー。主人公が。そりゃ返せるよ、負債というか、、、、だって、クウちゃんの一族を守ってあげられるわけだからさ。でもそれは、帝国への抵抗のために民族融和ををするためには必要ないってでもあることを考えると、、、それに守ること自体は彼のチート能力との引き換えであって、これ自身の苦しさや対価ではない気がするんだよね。なんか、すげぇ年上の金も権力もある中年男性が、若い女の子の経験のなさで虜にしているような感じがしてしまうんだよなー。いかにとりつくろっても。。。。そんで、正妻のルシエにしても、なんか、クウがいなかったときは、彼女の純粋さが、主人公を支えているのはよくわかったけれども、、、、クウが出てくると、ヒロインへの依存度というか存在感が二分されるので、なんかいるだけになってしまう感じがする。。。。たぶん、そういうところが、うーむと感じてしまうんだろうなー。っていっても、面白いけれどもね。読んで読むの止まらずに一気に4章終わりまで読んでいるんだから。でも、繰り返しは読まない気がするなー。


八男って、それはないでしょう! 1<八男って、それはないでしょう!> (MFブックス)

評価:★★★☆3つ半
(僕的主観:★★★★4つ)

それに比べると、『八男って、それはないでしょう!』は繰り返し読むとまではいわないけれども、なんというか、ちょっと違った魅力がある気がする。というのは、主人公は、あれ、忘れたけれども、、、5−6人ぐらい奥さんが現在いて、ハーレム状態になっているんだけれども、なんか、それが、ああ申し訳ないなーというか、胸がいたいなーとか、ちゃんと奥さんたちを平等に愛せているのだろうか?というような、一夫一婦制的な倫理観の疼きが読んでいて全く感じないんだよね(笑)。それは、読んでいて気持ちいい。

ふと思うのだが、ハーレム系の話でも、読んでいて、仮に都合のいいことを受け入れて楽しむのが物語だと思うので、ナルシシズムというか全能感的な欲望解放が悪いとは思わないんだけれども、『エルフ転生からのチート建国記』は、なんか、、、うーん、僕は倫理的にうしろめたさを感じて仕方がないんだよなぁ。ヴェル君には、まったくそういう感じを抱かないのに、なぜなんだろうか?。ハーレムもので、倫理的にうーんと悩んでしまうのと、イケイケ欲望全開に行ってくれー!と思う(笑)ものの差は何があるんだろうか?。なんか凄い気になります。


ちなみに、僕は、アマーリエ義姉さん一択になってきている今日この頃だけれども(笑)。なぜか、すげぇわからんのです。妹好きで、年下好きのはずなのに、なんで年上姉さん系が、、、いやぁ、長く生きていると、何が起きるかわかりません。


これは文明格差を利用したチートというよりは、主人公のヴェンデリンくんの魔力のチートさなので、文明格差の面白さっていうのはないんだよね。この作品の面白さは何だろう、、、、。なんというか『エルフ転生からのチート建国記』とか『ウォルテニア戦記』とかに比べると、圧倒的に世界が優しいよね。統治が安定していて、世界的なマクロの国際政治環境も基本的にバランスしているし、なので主人公も、戦記モノ的な悩みに悩む必要がほとんどない。この系統は、建国というか領主としての国内統治の内政もので、シムシティみたいな系統の物語なんだろうけれども、『エルフ転生からのチート建国記』とかって建国=戦争なんだよね。けど、ヴェルくんの安定した王国内での伯爵ってのは、要は領地経営と改革なので、戦争という風にすぐ話が深刻にならない。


ああ、、、このへんは、戦争が書きたいのか、日常が書きたいのかは、その著者の思考によって凄くわかれてしまうんだろうなー。


僕は、両方がバランスよく描かれているものが好きなんだが、両方をバランスって凄い難しいんだろうと思う。『エルフ転生からのチート建国記』なんかは、仕掛けが弱いくて後付で出てくる感じだけれども、殺すと凄く有用な宝石というかエネルギーがとれるエルフや火狐系統の民族が、どうしても単独で共同体を作らざるを得なかったのは、他者を信用できなかったからだというのはその通りだろう。てことは、それらの種族が融和して暮らせる国家を建設するのが目標になるんだよね。けど、そもそも主人公は、ルシエを守ることという純粋な部分以外は、ほとんど先が見えていない感じがする。少なくともそういう構想力が見えてこない、小説からは。なので、進んでいくうちに、そうなっていくだろうと思うんだけど、、、そういうドラマトゥルギーならば、最初からそういう設定をしていないといけないと思うんだよなー。まぁ、なろう系の小説でそもそも自己セラピーやライトナルシシズムを楽しむオレTUEE系では、最初から構想して書くということ自体がそもそもないので、難しいとは思うけどなぁ。でも、『Re:ゼロから始める異世界生活』のようなケースもあるわけで、やっぱりほんとうにいい小説を、物語世界を作ろうとすると、エンドまで考え抜いた構想は必要だと思うし、できないわけではないと思うんだけどなぁ。



・・・・・・この記事は、数日ぐらいで分割して書いているんだけれども、さっき4章の終わりまで『エルフ転生からのチート建国記』読んだんだけど、、、これ、もしかしたら、も少しで終わるのかな???。もし、がつっと、もう少しで終わるとすると、、、これっていい作品かもしれないって思ってきた。いや、もちろん好きになったし面白いからこうして記事書いているし、読み込んでいるんだけれども、記事にすると目についたところを上げているのでどっちかっていうと、マイナスところばかり書いている感じなんだけど、結局、これって帝国に反旗を振りかざして、どこまでで「終わり」とするか?ってことが見えないまま進むと、惰性になるので、ダメって感じで物語読みとしては構造が悪いなって思ってしまうんだけど、、、、


数々の異世界転生系を見てみても、この話のなんというか、科学の使用へのタブーのなさのエスカレートの仕方とかが、半端ねぇ(笑)。ちゅーか、麻薬とか偽紙幣とか、、、それって、いくらなんでもタブーへの忌避感なさすぎねぇ、という感じのエスカレート気味だよね。これ、凄いかも(笑)。マクロ的に世界が滅びる一歩手前というか、世界が滅びるところまで手をかけてて、これは、一部族の独立の問題をもう超えているよねって感じがする。これを倫理的にほとんど疑問を持たない主人公は、どこかで狂って破滅しないとおかしいと思うよ。というか、もうコントロールしきれないところまで来ていると思う。これで、うまく国が独立して安定するっていう風には僕には思えない。。。と思うと、この話って独立がゴールではないのかもなぁって。だとすると、主人公の輪廻の繰り返しの清算というか脱出の話に、、、、でもそれだと、『スピリットサークル』級の仕掛けが必要だけど、、、、それがあるとはの全く思えないので、、、、うーん、、、よくわからなくなった。