2024年間ベスト

 

つべこべ言わずにはじめるぞ。

 

12. DEXCORE「Still Alive」

Still Alive

Still Alive

  • DEXCORE
  • メタル
  • Â¥255
  • provided courtesy of iTunes

日本の4人組ロックバンドのシングル。ロッカバラードです。歌詞は周りの人間の死を契機に「まだ自分を変えることができる なぜなら自分は死んではいないんだから」と、メメントモリ方式で自身を鼓舞する内容。ベタなテーマであるにも関わらず、何度聴いても心震える。V系メタルコアを標榜するだけあって演奏には非常に迫力があり、曲のダイナミズムががっつり伝わってくるし、何より叫びたいことがあるから歌を歌うんだというようなピュアな心根がシャウトによってそのまま心に噛みついてくる。この感覚はメタルコアの「コア」の部分、つまりパンク由来の直球さ、切実さ故に得られるものでしょう。固唾をのみながら、何度も力をもらいました。誰に伝えても解決されない弱音は、そのままにしておけば腐臭を漂わせてやがては心ばかりか身体までものっとってしまう。そんな人体腐朽菌こと絶望を、こんな風に蹴り上げる大地の凝固剤へと化学変化させられたれたら。これもまた、蓋し音楽が持つ力なり。今年は静岡にツアーでやってくるそうで、是非拝みたい。

https://www.youtube.com/watch?v=NM4LPSzsyjc

 

11. ブランデー戦記 「悪夢のような1週間」

A Nightmare Week - EP

A Nightmare Week - EP

  • ブランデー戦記
  • ロック
  • Â¥1275

日本の3人組ロックバンドのEP。「Musica」のスマッシュヒットで躍進中のバンド。グランジを基調にしたサウンドに歌謡曲的なこってりした情念漂うメロディが乗っかる。往年の佐藤千亜紀を思わせるような声質のボーカルが気にいっていたのですが、表題曲「悪夢のような」ではほんのりエロスをまとう魅惑の声色も披露。シティポップ的なチルアウト感がありつつも、そこに元来のグランジ要素が加わることで、洒脱だけに向かわず退廃を想起させる仕上がりとなっているところが好みでした。2025年はフルレンスも出るそうで更なる羽化の目撃が待ち遠しい。

https://www.youtube.com/watch?v=zhzP4APzFLc

 

10. Ghostly Kisses 「Darkroom」

Darkroom

Darkroom

  • Ghostly Kisses
  • ポップ
  • Â¥1528

カナダのシンセポップデュオ。遡ること5年、とあるブログで彼女たちの存在を知り、凍える部屋で膝を抱えながら聴くべし、美麗な演奏・佇いに一夜にして恋に落ちた私。孤独感や寂寥感に浸れる音楽大好きな私にとって本当に好みど真ん中だった。その後メジャーデビューを決め、エレクトロ要素が強まった前作を経て本作は、より強固となった4つ打ちビートが印象的なダンスポップ中心の内容。聞くところによるとファンから寄せられた数々のハートブレイクエピソードからインスピレーションをもらい制作したとか。傷つきやすい寂しがりやの心の持ち主から好まれるだろう彼女の音楽性や、プロジェクト創始時の目的が心理学の履修を活かして人間心理を音楽化することだったことを踏まえれば、この創作方法には彼女たちの本質、あるいは表現への誠実さが表れている気がする。ライブ本当に最高だったのでどうかまた来日してください。

https://www.youtube.com/watch?v=CI6v8VcUCow

 

9. Nala Sinephro 「Endlessness」

Endlessness

Endlessness

  • Nala Sinephro
  • ジャズ
  • Â¥1528

ロンドンを拠点とするベルギーのエクスペリメンタル・ジャズ・ミュージシャン。話題作であった前作と音楽的には地続き。モジュラーシンセが奏でる様々なアルペジオあるいはドローンがほぼ全編に渡って存在し、そこに包み込まれる、あるいはそれに感応するようにサックスやドラム、ピアノが鳴る。10曲それぞれ持っている個性は異なるが、1つの細胞が全ての遺伝子情報をもつように、どの曲からも同じ心象宇宙が見えるような気がする。それは決して似ている曲ばかりという意味でなく、まさに全は個にして個は全なりとでも言わんばかりの有機的な繋がり。あまりに自然であり、泰然としているから、ふとこの作品が彼女によって構築されたものだと思い出すと畏怖の念すら抱きたくなる。魔性の魅力。

https://www.youtube.com/watch?v=IyvqVDAGU0s

 

8. The CURE 「Songs of A Lost World」

愛しのロバスミちゃん率いるイギリスの大御所。ポストパンクの残り香色濃い時代に現れた彼らはキュートでスイートなポップロックを右端、ゴス/ゴシックの雛形となった陰影深いアートロックを左端に携えながら、一貫して迷える厭世少年を救ってきたらしい。本作はそんな彼らの道程を総括するようなパーフェクトな内容。どこを切り取ってもキュアーとしか言いようがない確立されたオリジナリティに眩さに目を細め、鉄壁の演奏陣による生き生きしたサウンドに身体を揺らす。今更だけど、こんな重厚にシンセと生楽器が絡むことある?彼らを最初に聴いたのは高校生の頃。最初はJ-POPと違い明瞭な起伏を持たない楽曲に何がいいんだとうなりながら聴いていたのも今は昔。乾いた土地に降り注ぐ優しい雨のようにすっと心に浸透する。にやにやが止まらないパーフェクトゴシックつやつや黒曜石。

https://www.youtube.com/watch?v=sx9SVAtMkJM

 

7. Lava la Rue 「STARFACE」

STARFACE

STARFACE

ロンドンのラッパー/SSW。デヴィッド・ボウイの名作を下敷きにした地球にやってきたクィアなエイリアンというイかしたSFコンセプトのフルレンス。ヒップホップ、R&B、ロックと幾らでもジャンルが思い浮かぶところですが、ジャンル云々ではなく、すべてはコンセプトの、あるいは肉感・快感の表現に奉仕させることが目的。魅惑のサウンドメイクにとろけそう。ボウイもそうですが、ペルソナの設定の仕方そのものでもあまりに魅力的なのに、次にどんな手が飛んでくるか分からないこのワクワク感ったらもう。桃色恍惚万歳!

https://www.youtube.com/watch?v=yG2ej-AbrrY

 

6. cali gari 「17」

17

17

日本の3人組ロックバンド。古き良きものに学び、今に自分たち流にアウトプットする。所謂温故知新に自覚的で、優れたセンスを発揮するバンドであるからして当然に、昭和をテーマにした本作も最高。ニューウェーブ由来のエッジィで煌びやかな音作り、楽曲ごとに様々な音楽ジャンルを横断する手付きの鮮やかさ。これらは従前からの彼らの強みでしたが、近作で一番とも言えるポップさも相まって、高揚感、郷愁感、孤独感といった楽曲の持つ表情がよりストレートにハートに激突してくる。インタビューを読むとやはり本作でも死生観だったり、死を見据えて今何を演るのかという点が彼らの意識の中心にあるらしい。そんな差し迫った問題意識発信の表現が、彼ららしい(いい意味で)万人受けしない歪な棘を保ったまま、「粋」になっているというのが、ちょっと意味が分からないくらい格好いい。ほんとに芸に秀でたヴィジュアル系バンドだこと。

私が受け持っている業務は夜の街を相手にする類のものなのですが、帰り道、ついさっきまで向き合ってた廃れたネオンの灯りを横目に列車に揺られながら本作を聴くと、自分を含めそこで息をしている人々の生活への愛憎半ば想いに溢れてしまう。誤爆しまくる生活や人々の感性の重みに物理的に息が苦しくなり、すべて吹き飛んでしまえばいいと何度も思う。ほんとはやさしくありたいのに。このアルバムはそんな思いも掬い上げてくれている気がする。こんな日々もいつか私の「粋」になってくれたらいいな。

https://www.youtube.com/watch?v=wZ3wXwJaKPc

 

5. Still House Plants 「If I Don’t Make it , I Love U」

初手「MMM」を聴くだけで涙が出そうになる。言葉や意味でなく、もっとプリミティブなところ、音が鳴っている喜びそのものに触れたような感動。ドラム、ギター、ボーカルという編成故か、どこまで即興でどこまで作曲されたものか区別がつかないようなソングライティングがそう思わせるのか、あるいは1弦1弦が弾かれる音まで聞こえてきそうな音作り、録音によるものか。なんにせよ、ここに収録された音楽は中心が分かりにくい、歌が中心かと思えばギターが中心と思えば、ドラムが…。どれでも同じである。(強いて言えば歌なのでしょうが。)三つ巴のアンサンブルはトライアングルの中心よりもただ3者が存在している事実を強調している。表題もそういう中心不在の感覚を言っているような気がする。生きているから「ある」。心惹かれるから「好き」。理由が中心にあるわけではない。そういう順番で生まれた音がパッケージングされた作品。

https://www.youtube.com/watch?v=DTem2c3lUUw

 

4. Leoniden 「Sophicated Sad Songs」

Sophisticated Sad Songs

Sophisticated Sad Songs

  • Leoniden
  • ロック
  • Â¥1935

ドイツはキール発の5人組ロックバンド。底抜けに明るいポップパンクの雨嵐。では歌詞はと覗くと、先ずアルバムタイトルからして「洗練された悲しい歌たち」。「洗練された悲しみ」ってなんだ。洗練とは優雅な、高尚なものにすること。そのまま受け取れば、そこから安らぎを享受できる、啓示を受け取ることができる悲しみへと自分自身で元の悲しみを再解釈していく作業こそが、悲しみを洗練させることなのではないか。であればと曲を眺めると、「A Million Heartbreak Songs」が分かりやすい。百万回失恋ソングを書ききったら、もう1曲書く。何度でも悲しみと向き合うこと。その意味が変わるまで信望強く向き合うこと。パンクの疾走感はそのための勇気を分けてくれる。さあ、突き抜けて悲しもう。

https://www.youtube.com/watch?v=2X_mz6ndr0c

 

3. Chelsea Wolfe 「She Reaches Out To, She Reaches Out To, She...」

アメリカのゴシッククイーン、5年ぶりのオリジナルアルバム。作品毎に様々な音楽性を横断する彼女。本作はエレクトロ要素を強め、トリップホップに接近。勿論、フォークやドゥームの要素を存分に含んでいるため、彼女でしかあり得ない音のバランス感。特に際立っているのが歌詞で「自己変容」をテーマにしたそれは決意表明にも似た強い意志を感じさせる。ゴス/ゴシック要素がファンタジックな内容をシアトリカルな装飾するのに使われるという定型ではなく、あくまで歌のテーマは現実に即したもので、それに説得力を持たせるために用られる。従前の作品からこの特徴はありましたが、本作ではより一層、歌いたい内容とその表現方法が分かちがたく結びつき、強固な説得力を持っているように感じられます。

望んでいないが、逃れられない現実に向き合うことほど心をすり減らす作業はないかもしれません。ただ多くの場合、不条理への怒りや悲しみが心をすり減らすばかりでなく、自己変容を望む本心があって、実現できない現実との軋轢から生まれる悲鳴が心をすり減らしているのかもしれない。ほんとうにそこから救われるには、あと一歩先を照らすには自分を変えるしかない。繋がりを断ち切れと歌いはじめ、邪念を排したある種の「リミナル」状態を心に作り出すことで深い内省を促し、深い自己受容と共に燃え盛る街を駆け抜ける。「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」ではないですが、吹き溜まりの闇を切り裂くには、その闇を深く理解し、適切な処置をとる必要があるのかも。本作に描かれた自己受容を象徴化した物語は私たちの心の夜を覆う不安を何か確信へと導く漆黒の灯なのでしょう。

https://www.youtube.com/watch?v=Sa37foVGI84

 

2. Bat for Lashes 「The Dream of Delphi」

The Dream of Delphi

The Dream of Delphi

イギリスはブライトン出身のSSW。シャーマニックな魅力の際立つヴォ―カリゼーションが魅力の彼女ですが、本作では娘の出産育児を通じて生まれたごくパーソナルな感情にフォーカス。楽曲自体は引き続き歌物、インストを混ぜこぜにした神秘的でスピリチュアル。但し、テーマがテーマだから娘さんのお気に入りの楽曲のカバーを収録するなど彼女の人間味の強く滲み出た仕上がりと言えそうです。歌詞表現に注目すれば「you are gift, you are from me, but you are not mine」(M2:Christmas dayより)など、直球的でかつ穿ったフレーズが印象に残ります。白眉は「At your feet」。牧歌的なピアノ演奏は、森を抜け、扇状の平野に流れる河川を映し、いつのまにかいなくなった雲の余韻を残す青空のまぶしいこと、そんな車窓から眺める景色のように表情を変えていき、心の底から溢れる大切な人への想いと重なる、彼女のボーカルがその一瞬を神秘へと導く。もっとも近い他者の存在、当たり前のように存在するけど存在自体が奇跡的な、心を満たす存在。そんな存在への想いが雄弁に表現されている本トラックは私の今年のベストトラックです。

私に子供はいませんし、子供を産むことはできませんし、それにBat for Lashesでもないので、本作の真意がどこまで理解できているのか分かりません。もしかしたら何も分かってないのかもしれない。それでも、この曲を聴いて思い浮かべる大切な人がいて、その人との陽だまりのような日々の記憶が確かにある。ありがとうとごめんなさいを伝えなくちゃいけない、伝え続けなくちゃいけないと、このアルバムを聴く度に思います。他者と関わることはある側面では私の話で、もう一面では他者の話。それはつまりあなたのことを分かり切ることはできないということ。でもその接点で私が抱く感情はそれ自体正解で、あなたから贈られた一つの花束なんだと思います。あまりに沢山で零してしまってごめんんさい。でも嬉しかったんだよ。産まれてきてくれてありがとう。

https://www.youtube.com/watch?v=XVtT9w-kpvo

 

1. 長谷川白紙 「魔法学校」

Mahōgakkō

Mahōgakkō

  • 長谷川白紙
  • エレクトロニック
  • Â¥1833

日本のSSW。超絶技巧の鍵盤弾き語りと容赦ないブレイクビーツを融合させた音楽性を更に突き詰めた作品。複雑なポリリズム、変拍子だけれなのに単純拍子の楽曲としても聴けてしまうことによる不思議な体感のポップネス、純度120%の美しいメロディ、独創的なのに直観的に理解できるある種の端的さがある歌詞表現。すべて混ざり合って、何が起こってるか分からないまでも、圧倒的な体験をしているということはハードコアにも似たダイレクトな感覚で理解できてしまう大傑作。白紙氏はある音から遡及してある身体を想起する、そのメカニズムに介入したかったとの旨をインタビューで語っていたように思います。私は元来音楽を聴きながら演者を通り越して、それに重ね合わせて自分の新しい身体を想像してしまうナルシストな骸骨ですが、ここに収録された音楽を通じて想像される身体が全く未知のものであると感じられました。すると、ここで得た全く新しい身体をもって、また「外」へ繰り出そうというメッセージも感じられ、聴く度にいたく勇気づけられました。

大大大好きな音楽を聴きながら、その力を借りて現実の自分を変えていくこと。私に限らずそんな風に生き抜いている逃避者は多いのでは?音楽の持つ、自浄作用、レジリエンスを信じて生きて来たし、今更それを失くして生きるなんて想像もつかない。音楽は争いや問題を解決しないし、聴取する行為そのものは決して本質的に人を繋げたりしない。でも聴き手の心持に良くも悪くも影響するパワーがある。もう少し解像度をあげて表現するなら、どんな自分でいるのか/いたいのか発見する内省の時間を提供することで意識や行動を変える作用があるんだと思う。じゃあ、もし全く新しい自分(身体)を想像し続けることができるんだとしたら、私たちにはまだこの生を楽しみ続ける余地があるってこと。それはあまりにまばゆい希望だと思う。自己受容が苦手で、頑固な私でも作品を聴きながらなら、そんな希望を抱くことが出来た。この体験は魔法そのもの。音楽に出来ることを突き詰めた奇跡の作品だと、誇張なく思います。

https://www.youtube.com/watch?v=V-brD8MsdcY

Â