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「特殊レンズ・スーパーマニアックス」シリーズ の続編記事の第7回。 今回は、近年(2019年~2020年)に発売された COSINA Voigtlander(注:フォクトレンダーの 変母音省略。本/旧ブログ全般で毎回変母音省略) 製の交換レンズである、 *APO-LANTHAR 50mm/F2(2019年) *NOKTON 60mm/F0.95(2020年) の2本の、レビュー(評価、説明)記事とする。 丁度、本補足編第4~第5回の「高評価レンズ」 編で両レンズを取り上げているのだが、各々1枚 のみの実写掲載であったし、あまり詳しい特徴に ついても、記事文字数の都合で記載できていない。 今回の記事では、この2本のレンズについて、 じっくりと紹介(分析)していく事とする。 ---- では、まずは、1本目のレンズ。 レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 50mm/F2 Aspherical (新古品購入価格 104,000円)(以下、APO50/2) カメラは、SONY α7S (フルサイズ機) 2019年に発売された、Eマウント用(および、 後に、ライカMマウント互換=VMマウント版や NIKON Zマウント版が追加)のフルサイズ対応 MF(小口径)標準レンズ。 発売当時(今でもか?)の、キャッチコピーは 「フォクトレンダー史上最高性能の標準レンズ」 である。 実際にそうなのであろうか・・? すなわち、 他に同社製(同ブランド)の優秀な標準レンズは、 過去には存在しなかったのであろうか? しかも、フォクトレンダー社の歴史は非常に長く、 18世紀にオーストリアで創業、後にドイツに移転、 さらには戦後での東西分断からの、ツァイス傘下 となった事、そして操業停止。ローライ社による 商標購入と、ローライの倒産。その後に、日本の コシナ社が商標使用権を獲得(1999年~) ・・というのが、ざっくりとした経緯だ。 (参考:約265年も続いた江戸幕府よりも長い) (より詳しくは、多数の過去記事でも紹介済み、 近年の記事では、以下を参照されたし。 *続・特殊レンズ超マニアックス補足編第1回記事 「旧フォクトレンダー社のレンズ名」編) そうした長い歴史の中で、新旧フォクトレンダー が発売した「標準レンズ」群としては、 「ヘリアー」「(カラー)スコパー」「ノクトン」 「ウルトロン」「(アポ)ランター」がある。 これらは旧フォクトレンダー社での名称(商標) であるが、新フォクトレンダー(日本製)でも ほぼ、そのままの名称の使用が継続されている。 旧フォクトレンダー時代のレンズは、設計も古いし そもそもカメラの環境が異なるので、今更の比較や 説明は無意味であろう。以降は、新フォクトレンダー の時代での「標準レンズ」(全て単焦点MFである) のみ取り上げてみる。 1)一眼レフ用マウント版(SL系)標準レンズ ・ULTRON 40mm/F2系 ・NOKTON 58mm/F1.4系 →この2本(系列)のみの発売。いずれも一般的な 変形ダブルガウス型構成による標準レンズであり、 ULTRONは、非球面レンズを1枚追加使用。近年の バージョンでは寄れる事とNIKKOR風の外観が特徴。 このULTRON銘は開放F2前後のレンズに使われる。 NOKTONは元々は1960年代のTOPCOR 58mm/F1.4 の復刻限定版レンズ(2003年)であったが、後の 時代に外観変更を施し、一般的な変形ダブルガウス 型構成の大口径標準NOKTON58/1.4として再発売。 描写力は、開放近くでは球面収差が残り、甘い印象。 (↓写真はTOPCOR58/1.4で撮影、エフェクト使用) 追記:2023年に、NOKTON 55mm/F1.2 SLⅡs が、一眼レフ用標準レンズとして新発売された。 こちらはクラッシックな光学系と外観を主眼と したレンズである。(現状、未購入) 2)ミラーレス機用標準レンズ ・NOKTON 25mm/F0.95系(μ4/3機専用) ・APO-LANTHAR 50mm/F2(FEマウント等) →μ4/3機向けのNOKTONは、開放F0.95の超大口径 である事を主目的として設計されたもの。 初期のF0.95シリーズであるので、特殊硝材等を 使っておらず、あまり高い描写力を持たない。 特に、開放近くでは諸収差が大きく、低描写力。 APO-LANTHARは最新設計であり、高描写力を主眼 としている。(今回紹介レンズ) なお、「超高解像力」を特徴とするレンズの為、 本来は、今回、母艦としているピクセルピッチの 広い「SONY α7S」は適切な組み合わせでは無い。 理想的には、α7R系等の高解像度機を母艦と するのが望ましい。まあでも、残念ながら、現状 α7R系機体は所有していないので、本記事では ピンチヒッター的な扱いでα7Sを使用していると いう次第だ。(α7を母艦とするケースも多い) <Eマウント用ノクトン系> ・NOKTON 40mm/F1.2 Aspherical (/SE) ・NOKTON 50mm/F1.2 Aspherical (/SE) →いずれも未所有につき詳細不明。 非球面レンズ等を用いた近代設計レンズである 事は確かなので、まあ高描写力なのではあろう。 ただ、大口径化での収差補正が、どこまで行き 届いているか?そのあたりは不明だ。 3)レンジファインダー機用標準レンズ(主にVMマウント) <スコパー系> ・COLOR-SKOPAR 50mm/F2.5(Lマウント) ・S SKOPAR 50mm/F2.5(NIKON Sマウント) →元来、スコパーとは、テッサー型3群4枚構成を 示すものであったが、新フォクトレンダーでは、 開放F値が暗い(F2.5以上?)のものを指して いる模様だ。これらのレンズは変形ダブルガウス型 の一般的な構成であり、元来のテッサー型では無い。 しかし、小口径化した事で、収差補正は行き届いて おり、そこそこの高描写力だ。ただし、レンジ機用 での距離計連動制限により、最短撮影距離が長く、 あまり実用的とは言えない。 (↓写真はCOLOR-SKOPAR50/2.5で撮影) <ヘリアー系>(VMマウント)(限定発売品を除く) ・HELIAR 50mm/F3.5 101th Limied ・HELIAR Vintege Line 50mm/F3.5 ・HELIAR 40mm/F2.8 Aspherical (2系統あり) ・HELIAR classic 50mm/F1.5 →F3.5系2本は3群5枚のオリジナルなヘリアー構成。 F2.8版は、第二群レンズを非球面にしたもの。 F1.5版は、第二群も貼り合せの3群6枚構成。 所有本数は2本のみだが、上表の上2つは、恐らく 同じ光学系であり、高い描写力よりも、むしろ クラッシックな描写の雰囲気を味わう為のもの。 50mm/F1.5は、強烈な収差発生型レンズであり、 極めて特異なレンズだ。 (追記:このカテゴリーは最近コンプリートできたので、 いずれ「ヘリアー特集」記事で紹介する) <ノクトン系>(VMマウント) ・NOKTON 50mm/F1.5 Aspherical ・S-NOKTON 50mm/F1.5 Aspherical(NIKON Sマウント) ・NOKTON 50mm/F1.1 ・NOKTON Vintege Line 50mm/F1.5 Aspherical ・NOKTON 40mm/F1.2 Aspherical ・NOKTON 50mm/F1.2 Aspherical ・NOKTON Vintege Line 50mm/F1.5 Aspherical Ⅱ ・NOKTON classic 40mm/F1.4 ・NOKTON 50mm/F1 Aspherical →所有数ゼロにつき、描写力等の詳細は不明。 いずれも大口径であるので(注:元来のNOKTON とは、開放F値がF1.5以下のものを指す) 非球面レンズを追加して(=Asphrical銘)収差 の補正を施しているものが多いと思われる。 これらのレンズを買わない理由は、レンジ機用に つき、最短撮影距離が長い為、せっかくの大口径 を生かす事が困難であるからだ。(参考:本来の レンジファインダー機で使用時は、絞りF2以下か 又は、撮影距離2m以下の、いずれかの条件により 「コサイン誤差(セカント誤差)」が発生し、ピント が合わず、なかなか使い難いレンズとなってしまう) <アポランター系>(VMマウント) ・APO-LANTHAR 50mm/F2 →今回紹介レンズと、ほぼ同等のVMマウント版。 こちらの最短撮影距離は、距離計連動制限により 70cmと、Eマウント版よりも寄れない仕様である。 (注:VMマウント版を買っておき、ヘリコイド付き アダプターを用いる事で、Mマウント機と、 FEマウント機(又はZマウント機)で併用する事は 可能であり、ヘリコイド使用で近接性能も向上する) (以下、APO50/2での写真掲載に復帰) これらの非常に多くの、新フォクトレンダー (1999年以降)の標準レンズ群は、個人的には そう多くを所有している訳では無いのだが・・ 全般的に、なんらかの設計コンセプト、すなわち 復刻、大口径化、小型軽量化、クラッシック描写、 デザイン上での拘り等があった為、本APO-LANTHAR 50mm/F2を除き、高描写表現力を主眼として設計 されたものは少ないと思われる。 つまり、本APO50/2について「フォクトレンダー 史上最高性能の標準レンズ」というキャッチコピーは これらの同社製の標準レンズ群の範疇で言えば、 まあ、確かな事実であろう。 では、その「最高性能」は、何を所以(理由)として 得られているのだろうか? 以下、2点を挙げる。 1)8群10枚という、旧来の「変形ダブルガウス型」 等とは全く異なるコンピュター光学設計であり、 かつ、10枚中5枚が異常部分分散ガラスレンズ、 2枚が非球面レンズという贅沢な部材を採用し、 諸収差を徹底的に低減した設計仕様である事。 ただし、この構成については2017年に発売された MACRO APO-LANTHAR 65mm/F2 Aspherical の前群5枚と全く同等であり、 同レンズの前群を 25%縮小設計して引用したものだと思われる。 でもまあ、「なんだ、使い廻しか!」とは思わずに、 「優れた設計が出来たので、それを応用(横展開)した」 と考えておく事が無難だ。 特に、マクロと標準レンズでは、常用する距離域が 異なるので、後群の設計は全く別モノとなっている。 2)開放F2、最短撮影距離45cmと、あえてスペックを 欲張らず、平凡な仕様とした事で、大口径化による 諸収差の指数的な増大を避け、かつ近接撮影領域を 犠牲にした事で、使用範囲全域での高画質を保証 していると思われる。 まあしかし、地味なスペックである。銀塩時代の 同等スペックのMF小口径標準レンズでは、本レンズ の1/10倍程度の定価であった次第で、本レンズ は高価すぎるようにも感じる。 開放F値は、F1.9やF1.8にする事も、恐らくは 本レンズの基本性能であれば容易であっただろう。 でも、あえてそれはしていない、その理由は2つあり、 A)前述のようにMAP65/2の前群設計を踏襲したから。 (口径比が決まっているので、F2より明るくし難い) B)ライバルレンズとスペックを同一にしたから。 (具体的には、Leica APO-SUMMICRON-M 50mm/F2 ASPH.である。そのレンズは110万円以上もする 高額レンズだ。しかし本レンズは、同等のスペック で、かつ描写力もライバルと同等、と想像できれば、 その価格の1/10程度で買えるレンズに、マニア層は 魅力を感じるであろう。本レンズも定価12万円+税と 高額だが、「ライカのレンズの1/10」という 事実を見て、価格感覚を狂わされ、「安い!」と 思ってしまう次第だ) ・・という訳で、この2つの理由はあくまで想像だが 大きくは違っていまい。マニア層の心理を巧妙に 突いた、老獪とも言える製品戦略であり、マニアで あればあるほど、この戦略に乗せられてしまう(汗) また、こういう製品企画は、マニア的な豊富な知識量と、 技術的な裏づけの両者を理解していないと出来ないので 設計技術者自身がカメラ(レンズ)マニアであるのか? 又は、企画部門と技術部門の打ち合わせや連携が綿密に 行われている結果だと思われる。 いずれにしても「巧妙」だ。なお、この話が「単なる 推測」とも言い切れないのは、このケース以外でも 近年のコシナにおいて、非常に高額なライバル他社製 レンズの仕様に、モロに被せて(ぶつけて)きて、 より安価なレンズ(しかし実際には高価)なものを 企画・開発した例が、少なくとも他に7組はある。 私が知らないだけで、他にもあるかも知れず、そうで あれば、マニアであれば、ある程に、レンズの知識が あれば、ある程に、コシナの戦略に翻弄されてしまう 訳だ。まあでも、ユーザーは、購入時はそう思った としても、購入後は、それを微塵も後悔する事は 無いであろう。「高性能なレンズが安価に買えた」と むしろ喜び、また次の新製品に目が行ってしまう(汗) つくづく「巧妙で老獪な」製品戦略である。 どこかでこの連鎖を断ち切らないと、毎年のように 高価な新製品レンズを買わされてしまう次第だ(汗) ・・・という事で、本レンズが「最高性能」である 理由は、それなりにあるのだが、ただ単に高性能で ある事だけにとどまらず、それを(マニア層等に) 買わせる仕組み(仕掛け)が背後にある事が重要だ。 しかし、それを理解したとしても、その戦略に抗う 事は、マニア層には難しいかも知れない。レンズを 作っている人がマニアであるならば、もうそこは 心理的には同じレベルであろうから、欲しいレンズも 「まるっきり、お見通し」な訳だ(笑・・・汗) まあ一応、本APO50/2にも小さな弱点はある、 そこを3点だけ挙げておこう。 1)非常に地味なスペック(50mm、開放F2、MF、 最短撮影距離45cm)であり、とても12万円+税 もするレンズの性能仕様(諸元)とは思えない。 すなわち、コスパがとても低く感じる。 (注:非常に高い描写力で、ここは相殺できる) 2)絞り値F2.8で円形絞りとなる特殊形状の絞りを 搭載しているが、F2.8に近い、前後の絞り値 では、絞り羽根形状が大きく乱れてしまう。 この為「円形絞りでなくちゃ嫌だ」という心理が 働き、本来、F2.5やF3.5で撮るべき(被写界深度 やボケ質の問題で)シーンであっても、「そうそう F2.8にするのだったな」と、レンズ側の特性が 撮影者の意図よりも優先されてしまう。 つまり「レンズに撮らされてしまっている」事と なり、撮影者の主体性を持ち難い。 3)MAP65/2の前群設計を踏襲し、後群を本レンズ 独自のものとしたのだが、フローティングではない 固定構造である。後群にも非球面を入れて補正したの だろうが、1つは最短撮影距離をあまり短く出来ない 構成となってしまっただろうし、もう1つは、この 構成においては、僅かにオーバインフ(無限遠を 超えてピントが廻る)状態となってしまった。 この為、MFでの遠距離撮影時に、ピントリングを いっぱいに廻す、という基本技法が使えない場合が あり、速写性にやや劣る。特に、高解像力レンズ であるから、ピントはしっかりと合わせたい訳で あるので、オーバーインフは少々気にかかる。 まあ、弱点はそんなものである。 ただ、1)と2)の弱点は軽微なものでもあるし 物理的な弱点ではなく、心理的なものなので、 実用上は問題はない。 (しかし、3)についての前半部、設計踏襲の話は、 「では何故2017年のMAP65/2は、あまり大きな 話題にならなかったのか?」という疑問も残る。 --- 「APO-LANTHAR」という名称が、当該レンズで 久しぶり(十数年ぶり)に採用され、しかもその 名称を、コシナでは「高描写力レンズの称号」の ように扱いたい(他社での、Lとか★とかと同様) 戦略を立て、さらには、高性能な前群光学系設計 を実現した次第だ。市場やユーザー層は、もっと それを高く評価してもしかるべきだったと思う。 --- あるいは、この戦略が逆に作用してしまい、 一部の層において、「APO-LANTHAR」と名が付く 昔(2000年代)の希少レンズの相場高騰を 招いたのも、丁度この時代だったかも知れない。 だが、2000年代の「APO-LANTHAR」は、異常 低分散ガラスを1枚、またはせいぜい2枚を採用 するオーソドックスなレンズだ。単に名前が同じ だけで「幻の高性能レンズだ!」等と思い込む 事は、あまりに単純すぎる話であろう・・) さて、総括的には、本レンズのコスト高を容認 するか否か?という判断になるだろう。 前述のライカ銘レンズの存在の話を抜きにしたと しても、最高性能のレンズを知りたい、持ちたい という要望(ニーズ)があるならば、この値段は 容認せざるを得ないかも知れない。それほどまでに 本レンズの描写力は、近代レンズ群の中でも 飛びぬけて高い次第だ。 ちなみに、実際の実用上でのライバルレンズは SIGMA 40mm/F1.4 DG HSM | Art になるだろうか? そのレンズも、本レンズと同等の超高描写力であり、 入手価格も同等の約10万円(税込み)であった。 ただ、A40/1.4は、非常に大きく重いレンズであり ハンドリング性能は劣る。また、日中屋外の使用 では逆光耐性の低さも気になる。すなわち屋内の スタジオ等で業務撮影に使う専用レンズであろう。 (↓写真は、SIGMA Art 40mm/F1.4による撮影) それと、本APO50/2は、発売以降、中古相場が 結構下落している。地味なスペックなので、 最初に本レンズの凄さを見抜いて購入したマニア層 以外の一般層に対して、後から売るには、流通側と しては売り難いレンズなのかも知れない。 だとすれば、コスパ評価点も少し改善されてきて いるとは思われ、実ライバルのSIGMA A40/1.4 よりも、買い易いレンズと成り得るであろう。 ---- では、今回2本目のレンズ。 レンズは、Voigtlander NOKTON 60mm/F0.95 (新品購入価格 113,000円) カメラは、PANASONIC DC-G9 (μ4/3機) 2020年に発売された、μ4/3機専用の超大口径 MF中望遠(望遠画角)レンズ。 コシナ製のμ4/3機用NOKTON超大口径シリーズ の系譜だが、(他記事でも説明したのだが) 再掲すると以下となる。 2010年:NOKTON 25mm F0.95 95,000円+税 最短17cm、8群11枚、非球面等なし 2012年:NOKTON 17.5mm F0.95 118,000円+税 最短15cm、9群13枚、非球面x1+異常部分分散x2 (余談:日本の大学で開発された「流星観測 カメラ」の搭載レンズとして、宇宙に向かったが、 ロケットの爆発事故により、失われてしまった。 「ああ・・ NOKTONが・・」とニュースを聞いて 勿体無く思ったが、まあロケット全体の金額の 損失からすれば微々たるものだ。 →後年に再挑戦したかも知れない?) 2013年:NOKTON 42.5mm F0.95 118,000円+税 最短23cm、8群11枚、非球面等なし 2014年:NOKTON 25mm F0.95 TypeⅡ 105,000円+税 (2010年の初代製品に対し無段階絞り機構を追加) 2015年:NOKTON 10.5mm F0.95 148,000円+税 最短17cm、10群13枚、非球面x2+異常部分分散x1 2020年:NOKTON 60mm F0.95 145,000円+税 最短34cm、8群11枚、異常部分分散x2 (今回紹介レンズ) これに加えて、SUPER NOKTONが存在する。 2020年:SUPER NOKTON 29mm F0.8 225,000円+税 最短37cm、7群11枚、研削非球面(GA)x1+非球面x1 なお、これらの内、個人所有数は3機種のみである。 で、最初期のNOKTON 25mm/F0.95の企画は、 恐らくだが、これも前述の「ライバルレンズへの 対抗」であり、そのライバル機種は、具体的には CANON LENS 50mm/F0.95(1961年) という世界初の、写真用F0.95レンズであろう。 NOKTON 25/0.95の、およそ50年前のレンズだが そのレンズは中古市場において、希少価値と 投機的観点から、極めて高額である。 μ4/3機に装着すれば、50mm/F0.95相当となる NOKTON 25/0.95は、まさしくそのレンズへの 対抗だ。というのも、開放F値は、別にF1.0でも 頑張ってF0.9でも良かった訳であり、F0.95と ズバリのところを突いて来る事が、確信犯(笑) であろう。 (注:他の理由もある。それはこのレンズが発売 された2010年頃、「μ4/3機は背景がボケない」 と初級中級層が色々と言っていた。理由は、初期 のコントラストAFのみの仕様では、高いAF性能は 期待できない為、標準ズームやG14mm/F2.5、 MZ17mm/F2.8等の被写界深度の深いレンズを キットとしてμ4/3機が販売されていたからであろう。 つまり、μ4/3機用のボケるレンズを売る事が 出来ない世情(技術水準)であった訳だ。 --- だが、マニア層等では、銀塩用MF50mm/F1.4等を マウントアダプターを介してMFで使っていた為、 背景がボケ無いという不満は全く無かったのだが、 画角が2倍に狭くなる点は気がかりであった。 --- そこに標準50mm相当の画角となるF0.95レンズが 発売されたものだから、中級層はもとより、マニア 層に対してもインパクトがある商品となった次第だ) 同様に、SUPER NOKTON 29mm/F0.8も対抗心 からの製品だ。 ライバルは「NIKKOR Z 58mm/F0.95 S Noct」 (2019年発売)であり、120万円以上もする 同レンズに対し、μ4/3機に装着時に同等となる 58mm画角だが、開放F値は遥かに明るいF0.8と なる事が対抗上でのポイントである。 また、SUPER NOKTON 29mm/F0.8開発時に実用化 された研削非球面(GA)の技術を応用し、2022年 にはVMマウントでNOKTON 50mm/F1 Aspherical が発売された。 こちらは、「LEICA NOCTILUX M 50mm/F1.0」 (1975/1976年頃~)の対抗商品であろう。 そのレンズも希少品で、 現在は「時価」となる であろうが、概ね80万円位の高額中古相場だ。 VMのNOKTON 50mm/F1は、完全に同じマウント だし、非球面レンズを入れた近代設計でもあり、 新品でもライバルの1/3~1/4の低価格である。 なお、当然だが、私も、これら「ライバルレンズ」 と書いてある希少高額商品群は全て未所有である。 完全な投機対象商品にしか思えず、実用的には一切 使えないであろうからだ。でも、フォクトレンダーの レンズを買えば、実用的にその高性能(高スペック)が 味わえる訳であり、しかも、それらはオールドレンズ ではなく、完全な新設計であるから、オリジナルより 高性能が期待できる。そして勿論、より安価だ。 ここもまあ、非常に巧妙な商品企画・市場戦略であり マニア層が、コシナのこの戦略に振り回されてしまう 事は、まあやむを得ないであろう。 (「安価」と書いてある事自体が、そうであろう。 ライバルレンズが高価すぎるので、感覚が狂うが、 コシナ製品自体も、かなりの高額商品である) さて、ここから、本NOKTON 60mm/F0.95の話に 進むのだが、実はこのレンズもNIKKOR Z58/0.95 を若干だが意識していると思われ、そのレンズが 発売された事で、F0.95レンズでの最長の実焦点 距離となったのだが、トップの座を奪い返す為に 本NOKTON 60mm/F0.95が、「F0.95レンズ中で 最長の焦点距離」の製品として企画開発されたの だと想像できる。 さもなければ、前機種のμ4/3用NOKTONである 10.5mm/F0.95が2015年に発売されてから、 ラインナップを5年間も放置しておいた空白期間 があるし、その間、μ4/3機の市場は非常に縮退 してしまい、OLYMPUSもPANASONICも、ほとんど 有益な新機種を発売できない状態であった訳だから、 そのままμ4/3用NOKTONは自然消滅してもおかしく 無い状態であった。・・にもかかわらず、あえて 2020年に60mm/F0.95、29mm/F0.8の2機種を 続けざまに発売した事は、Z58mm/F0.95の対抗と しか思えない。 さて、以下は、本NOKTON60mm/F0.95固有の 評価に進もう。 まず特徴だが・・ 超大口径レンズである。そして前述のとおり 実焦点距離が世界最長のF0.95レンズでもある。 おまけに、最短撮影距離が34cmと短く、近接 性能に、とても優れるので、非常に大きな背景 (前景)ボケ量が得られる特徴がある。 (参考:Z58mm/F0.95の最短は50cm) 最短撮影距離34cmは、「焦点距離10倍則」 (=レンズ実焦点距離のmmをcmに変えた値より 寄れるレンズは、近接撮影能力が高いと見なす) を遥かに超えている。 広角を除く他の一部のNOKTON F0.95シリーズも 寄れる性能がある。焦点距離との比(最短 撮影距離÷10÷実焦点距離)を見てみよう。 ・NOKTON 25 mm/F0.95:17cm:0.68 ・NOKTON 42.5mm/F0.95:23cm:0.54 ・NOKTON 60 mm/F0.95:34cm:0.56 最後の数値が1.0ならば、及第点の近接性能。 この数値が小さいほど寄れて、0.5近くともなれば もう異常なまでの近接性能と言える。 マクロレンズでは、勿論この比は高い。例えば 著名なTAMRON SP90/2.8では、最短撮影距離は 30cm程度であるから、上記数値は0.33だ。 でも、NOKTONはマクロレンズでは無い次第だ。 マクロと通常レンズの何処が最も異なるか?と 言えば、例えばマクロレンズでは近接撮影時に 最良の描写力が得られるように設計されていて、 通常レンズでは、無限遠撮影時に高画質となる。 この事は、一般に「設計基準」という用語で 解説される状況があるが、実は、「設計基準」は 数多ある(軽く百を超える)「設計仕様・設計基準」 の内の、たった1つの項目の話だ。 したがって、「設計基準としての、近接優先か 無限遠優先か?」という説明は、技術者の立場から 報道メディアやカメラマンに対して話す場合には 正しいが、話を受けた記者等が、これを誤解して 「設計基準とは、近接か無限遠か?を示す技術用語だ」 には成り得ない。 この話(誤解)は、まるで、その昔、西洋人が カードゲーム(Playing Card、トランプの事)を やっているのを日本人が見て、その特定のゲーム中に 「切り札」を表す「トランプ!」と言う用語を発して いるのを聞き「このカードの事をトランプと言うのだ」 と勘違いして、それが広まってしまった話に近い。 つまり、「カードゲームの中にトランプという用語は あるが、トランプがPlaying Cardを指す訳では無い」 という関係性である。 写真用語としては、百数十年前の「ヴェス単(ベス単)」 の例もある。これは、「ヴェスト判という銀塩フィルム フォーマットを用いる、単玉(1群2枚メニスカス) レンズを搭載したカメラ群の総称」であるのだが、 後年には特定のカメラ(例:KODAK VPK)の事だ、と 誤解されて広まってしまった。 間違った(誤解した)用語が広まる事には、個人的 には賛同していないので、狭い意味での「設計基準」 の用語は、本(旧)ブログでは使用/推奨していない。 余談はさておき、近接性能を優先して設計されて いる訳では無い本NOKTON 60/0.95だが、では 何故、無理をしても高い近接性能を与えるか?は、 それはもう、「より浅い被写界深度を得る性能を 強調する為」に、他ならない。 最初期のNOKTON 25mm/F0.95が発売された際、 一部の初級マニア層から、やや高価であったそれを 買わない為の「言い訳」としてか? 以下のような ネガティブな評価が流れた、 「μ4/3機だからな・・ 被写界深度は、そんなに 浅くならない。換算で2倍として、50mm/F1.9の フツーの標準レンズのボケ量と同等だよ!」 で、まず、μ4/3機で被写界深度が2倍深くなるか 否かは、あまりちゃんとした通説が無い。 デジタルでの被写界深度は、アナログ(銀塩)の ような、しっかりとした定義が存在しない次第だ。 まあ、小センサー機では、多少は被写界深度は 深くなるだろう、でも私の経験上では、それは 2倍ではなく、「大きな差は無い」という認識だ。 実際、センサーサイズの差による被写界深度の 差異は、ピクセルピッチからなる、銀塩時代での 許容錯乱円的な概念も多少は含まれるのだが・・ より大きくは、センサーサイズの大きなカメラで、 センサーサイズの小さいカメラと同等の画角での 撮影を行う場合、当然ながら、小センサー機では 寄って撮影する事となるので、被写界深度が浅く なる、という当たり前の原理に過ぎない。 しかし、上記のような初級マニア的な意見(批判) が生じる可能性がある事は、コシナ社でも企画時 に懸念したであろう。よって、NOKTON 25/0.95 には、最短17cmという驚異的な近接性能を与え、 「近接撮影に持ち込めば、有無を言わせない迄の 大きなボケ量(浅い被写界深度)が得られる」 というスペックにしたのだと想像できる。 ただ、非球面や異常低分散ガラスを使っていない 初期NOKTON 25/0.95の光学系では、絞りを開放 近く、かつ近接撮影では、諸収差のオンパレード 状態となり、確かに良くはボケるが、甘々の 描写力は、決して褒められたものでは無かった。 しかし、「常にHi-Fi(≒高画質)である事」が 写真に求められる条件では無い。甘い描写力は、 季節の花や、女性ポートレート等には向く特性でも あろうから、このレンズで無いと撮れない表現等も 存在する訳だ。 (↓写真は、NOKTON 25mm/F0.95による撮影) さて、初期のNOKTONは、そのF0.95の超大口径で 非球面も何も使って無いコンベンショナルな光学系 (注:25mmと42.5mmの場合。ちなみに、広角系 NOKTONは非球面等を採用しているが、それに よる効能は、未所有につき詳細不明だ)な事と、 高い近接撮影性能により、確かにボケ量は凄まじ かったのだが、描写力が低い(=球面収差を 始めとする諸収差の補正が行き届いていない) 点が、大きな課題であった。 でも、見るもの全てを、肉眼とはかけ離れた イメージで、背景(前景)を大きくボカし、 注目被写体を浮き立たせるという、「表現力」は 高く評価でき、いずれも個人的には高評価であった。 2010年代を通じ、私の「NOKTON F0.95」シリーズ に対する評価は、そういう感じであり、「表現力は 高いが描写力は低い、まあ近接撮影には向くかも」 という様相であった。 そして、2020年、コロナ禍第一波による緊急事態 宣言の最中、本NOKTON60/0.95が、ひっそりと 新発売された。皆がステイホームの中、あるいは カメラ店舗なども営業を控えている中、本レンズ に関する情報等は、全く入って来なかった。 ステイホームが明け、店舗も営業を再開した頃、 私は、10万円給付金をアテにして、本レンズの 購入に向かった。 やはり「実焦点距離が最長のF0.95レンズ」は すなわち「世の中で最もボケるレンズ」であるから そうした「唯一無二の性能・特徴」に対して、 無反応でいられるマニア層は少ないと思われる。 長所については、とにもかくにも、 「これまでのNOKTON F0.95シリーズとは別モノ と言える、高い描写力」であろう。 あまりに従来のNOKTON 25mm/42.5mmと特性が 変わったので、当初は驚いてしまった。 「また、どうせ、ボケボケのレンズだろう?」と ある意味、たかをくくっていた次第であったのだ。 「異常部分分散ガラスレンズを2枚採用しているから」 という、技術的な理由はあるだろう。でもその程度で あれば、2000年代の同社製レンズでも、そういう 仕様のレンズは存在したが、その事自体が、大きな 描写力の改善には繋がっていなかった。 これはもう、コンピューター光学設計技術の進化、 と新硝材(新しい特性を持つガラス)の発展による ものだと考えるしかない。 特にコシナ社においては、私が言う「2016年代断層」 という用語(仮説)での、「その時代から後に発売 された高級レンズは、従前よりも恐ろしく描写力が 上がっている」という話を地で行く程に、その 差異(改善)が甚だしい。 思えば、旧来のNOKTON F0.95シリーズは、私の 所有しているものは、「2016年代断層」には かからない従前の製品だった訳だ。 この高い描写力は、別の問題として「適切な母艦が 無い」という課題を引き起こした。 つまり、高い解像力や、優れた表現力を活用する 為には、従来から所有しているμ4/3機の基本 性能では(低すぎて)アンバランスであった次第だ。 当初、OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ(2016年)を 母艦とした。これはセンサーのピクセルピッチ等 の仕様上での、NOKTON 60/0.95とバランスは 悪く無かったが、MFレンズの母艦としての操作系に 劣る課題があった(つまり、AFレンズ向きの機体) なので、やむなく、PANASONIC DC-G9(2018年) を、本NOKTON 60/0.95の専用母艦とする為に 新規に購入する羽目になった。さらなる追加出費が 必要となったが、とても優れたレンズであれば、 その為にカメラを買うのは、マニア的な発想では 当然の事だ(→「1対4の法則」、これはカメラより もレンズの価値は4倍も高い、という持論である) 事前に、良く母艦適正を検討しての購入であるので DC-G9とNOKTON 60/0.95のバランスは悪く無い。 (参考関連記事:ミラーレス・クラッシックス 第24回「PANASONIC DC-G9」編) さて、これだけの高い描写表現力と、特徴的な 仕様を持つならば、もう、細かい弱点等は不問だ。 そして、弱点自体も、殆ど見当たらず、細かい 描写力上の欠点を、重箱の隅をつつくようにして あら探しをする必要性も無い。そんな事よりも 遥かに重要な事は、超大口径+高描写表現力に よる、唯一無二とも言えるパフォーマンスだ。 まあ、あえて弱点を言うならば、大きく重く高価な 「三重苦」レンズである事だろう。 MFである事については、本レンズを欲しがるような マニア層においては、課題とはならないであろう。 ---- 最後に、「個人レンズ評価データベース」より、 今回紹介の両レンズの、総合評価点(5点満点) のみを掲載しておこう。 *4.00点:APO-LANTHAR 50mm/F2 *4.20点:NOKTON 60mm/F0.95 両者、個人基準での「総合4.00点を超えれば名玉」 の条件をクリアしている。 いずれも高額なレンズではあるが、弱点はコスパ 評価くらいであるので、うまく中古品等を探して 入手価格を下げれば、コスパ評価の弱点は相殺 できると思う。 (注:APO50/2は、近年、中古流通が盛んだ) 実用(業務)撮影には、MFで歩留まりが低下する 事から、あまり推奨できないが、趣味撮影において マニアックなレンズを使いたい中上級マニア層に 対しては、文句無く推奨できる両レンズである。 両者は、マウントの異なる(FE/VM/Z、μ4/3) レンズではあるが、前述のように「優れたレンズが 存在するならば、新たなカメラを買っても良い」が マニア的な思考法になる為、これらのレンズを 使う為に、あるいは専用機とする為に、特定の カメラを買う事は十分に有り得る話だ。 ---- では、今回の記事は、このあたりまでで終了。 このシリーズについては不定期連載としておく。
by pchansblog2
| 2023-05-27 18:02
| 完了:続・特殊レンズマニアックス
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