『ハーモニー』を見たという記録と雑感

『虐殺器官』があんなことになってしまったけれど、なんとか新しいスタジオ立ち上げて16年の公開を目指しているらしい 故・伊藤計劃の「Project Itoh」。先月の『屍者の帝国』は散々な映画だったんだけど、まあ思い入れもないしな、と割り切っていた。そして「Project Itoh」の2作目となる『ハーモニー』を見てきましたので、ちょっとした雑感。

◼僕の『ハーモニー』原作との距離感
伊藤計劃という作家に関しては、『虐殺器官』『ハーモニー』*1どちらもそこそこ面白いと思っている。まあ、SFクラスタではないのでSF的にどうかとかはわからないのですけど。ただ『ハーモニー』読了後の死にたくなる感じ。いわゆる「虚無(空虚)」そういった雰囲気を味あわせてくれるので、彼の作品では『ハーモニー』が一番好きだ。

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

◼今回のなかむらたかし版『ハーモニー』について(雑感)
さて、全体的な雰囲気だけで言えば悪くなかったように感じれる。あの気持ち悪い日本の都市造形はなんとかならんものかな、と思うが、関心のない世界も産物だとすれば、まあ別にいいのかなという気もする。それと多分ネット上で話題になるのは、原作からの改変。主に百合描写と結末じゃないだろうか。

僕自身原作を読んだのが、大学生のときだったし全てを覚えているわけではないが、百合描写が極端になっていたと思う。妙にミァハのスカートライン、脚を強調したショットとトァンが寄り添うシーン、しかもキスなんかもしてしまったりと、あらら、、あらら、、、と思うシーンが多かった。原作だと、ミァハは崇拝感というか、近いけど遠い感じがした気がしたのだけど。
また結末に関しては、この作品が「恋愛もの」として捉えられていたのではないか?と感じる。今作があーなった経緯としては、ミァハとトァンが学生時代に「恋人同士」まではいかないにしろ、崇拝よりも個人としてトァンがミァハを好きだった…と捉えたからじゃないだろうか。

なかむらたかし監督に聞く「ハーモニー」の魅力 「静かで濃密なフィルムを目指した」 : ニュース - アニメハック

まるで「わたしが好きだったあの人」「今のあの人は昔と違う…。」といったニュアンスに見えた。これってまどマギの『叛逆の物語』でいう、「わたしが好きだった頃のまどか。でも、今のまどかはあの頃と違う。もっと、あの頃のように楽しんでほしい…。」と悪魔になることを選択したほむらのように見えてしまう。非常に個人的なエゴだ。(まあ人を殺すってことはそもそもエゴなのでしょうが)

この改変については賛否両論だと思うが、まあ、個人的にそこまでノイズになることもなかった。ミァハとトァンが再開するシーンからエンドロールへの流れは見事だったんじゃないかな。ミァハが世界から離れた存在になっていて、幽霊感とも言えるこの世のものでない軽やかさを獲得している。ベッドの上を次から次へと飛んでいき、きしむベッドの音。そして、水たまりでくるくる回るミァハ。彼女の運動による躍動感は見ていて心地よかった。

それと、声優だけで言えば完璧な配役だったんじゃないかな。沢城さんのトァンが安定感あったのもあるけど、その分、はっちゃけられた上田麗奈さんのミァハ、これには心底酔えたよ。こんな頭おかしそうな声で、しかも心地よさを感じてしまう声。崇拝されてしまうカリスマ性ってのは十分に感じられた。上田麗奈には10億点ものだね。

◼賛否両論か? 3DCGについて
3DCGについては、昨年話題になった『楽園追放』がありました。僕個人の好き好きでいえば、面白かったけど3DCGでアガるような体験は得られなかったし手描きアニメがなくなっていく…と予見させる作品になっていたと思うので寂しかった。でも、『楽園追放』にはやる気というか、本気感はなんとなく伝わってきたんですよね。(昨年の記事:さいきんのSF 『楽園追放』と『インターステラー』 - つぶやきの延長線上)

『ハーモニー』における3DCGは全編ではなく下記サイトの情報だと3割程度でしょう。最近よく扱われる2Dに見せるセルルックなんかも今回では見られました。

ハーモニー:なかむら監督とアリアス監督が語る製作の裏側 「伊藤計劃イズムに反することなく」 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

3DCGではカメラをぐるぐる回したかのような映像が作りこめますから、アクションの比重が少ない会話ばかりのアニメだと、画が動かないのでつまらなくなってしまう。「じゃあ、回すか」ってなるんだろうけど、これが心底苦手だ。特に嫌なのがトァンとキアンの食事シーンでぐるぐるカメラが360度旋回している。動かないから回そうって、、回して面白いとでも思っているのだろうか。バストショットとロングショットのモンタージュで十分あの雰囲気を作り出せると思うんだけど。特にアニメの本質であれば、モンタージュで繋げていくってのが基本なんだと思うけど、なぜあんな緊張感のないシーンを撮ってしまったのか…。多分、後のことを考えるとミァハがどこにでもいる感を出したかったのだろうけど…それこそカットだけで上手く繋げて欲しかった。これは願望ですけどね…。

それと、ミドルショットくらいだとあまり思わないのですが、トァンのアップがかなり弱い。(上記のシーンはよかった)『ハーモニー』の割に調和してないんじゃないかと思うガタつきを感じる。夕暮れ(だったかな?)のシーンで暗めの飛行機のようなものが浮いているシーンは浮遊感あって結構よかったんですけどね。3DCG寄るとやっぱりまだ弱いよ…。

◼終わりに
『屍者の帝国』よりか遥かにマシだし、ミァハとトァンが再会するシーンはなかなかよかったと思うんだけど、『ハーモニー』を実写化することに成功していたかというと首をかしげる思いでした。忍び寄る3DCGにまた手描きの終わりを感じなければならないのかと、いっそこのままハーモニー発動して何も考えなくさせてくれ…と思ったり思わなかったり。『虐殺器官』はどんな作品になりますかねー。まあ好きな『ハーモニー』が終わったので、あまり期待もせずゆっくり待ちましょ。

映画「ハーモニー」ARTBOOK

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*1:『屍者の帝国』は彼が全て手がけたわけではないので触れません