シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

ちゃんと萌えるには、オタク的童貞メンタリティが必須である

 
 
 今、私は『To heart2 Xrated』を周回遅れでプレイしている。これは良い萌えものだ。学園純愛モノという極めて陳腐なテーマにも関わらず、随所に散りばめられた新規性、(一部の)キャラクターの創りこみ、そして「オタクなら身もだえするであろう」適切な心理描写に唸らされる。エロゲーオタクには馴染みのモチーフが、飽き飽きした印象ではなくある種の安心感に繋がるということは、前作の影響もさることながら、制作陣が「よくわかっていて」なおかつ「丁寧にと描いている」からだと信じたい。
 
 この『To heart2』をプレイしていてとみに痛感させられづけられ、『ひと夏の経験値』『Fate』などを読み返していて再確認させられることがある。それは、ある種のオタクコンテンツ――とりわけ、恋愛感情の絡むオタクコンテンツ――においては、童貞根性というかオタク的な恋愛感情というか、ある種の思春期恋愛感情がなければ十分に楽しめないのではないか?ということだ。
 
 『To heart2』の主人公にせよ、その他の主人公にせよ、恋愛を大きなテーマにしたオタクコンテンツに出てくる男性主人公キャラの女性観にはある種のステロタイプがあって、彼らは

・とても奥手で内気で
・女の子に興味があったり恋慕があったりしても、恥ずかしさや自信の無さ故に表明する事が出来ない
・しかも、そんな自分に言い訳するのが大好きで
・告白することが出来ない
・女の子が傷つくかどうかに過剰だが、実は自分が傷つくかどうかにはもっと過剰(当人は気づいてない)
・体育会系は大抵苦手。かと言って、極端に文化系に秀でているわけでもない

 などなどの特徴を持っている。こうした特徴を持ったキャラクターは、漫画文化圏では「うる星やつら」の時代から(おそらくそれ以前の時代から)観察されていたが、現在はギャルゲー・エロゲー界隈で最も典型的な恋愛男性キャラクター像となっている。
 
 さて、こうしたキャラクターにちゃんと感情移入することはあなたには可能だろうか?もっと言えば、「きちんととキュンキュン萌える」ことが出来るのだろうか?うちのサイトを読んでいるような人は大抵可能のような気がするが、例えば中学生の頃から恋愛しまくっていた男性の場合など、感情移入が難しいのではないだろうか?少なくとも、エロゲーオタクとエロゲー製作者の間で想定されるであろう、ある種の共犯関係は惹起されないだろう。恋愛に対して極端に臆病で、女の子(と自分)の感情に対してナイーブで、体育会系のメンタリティも持っていないような男性キャラクターに感情移入するには、やはりそれ相応の心的体験が無ければ非常に困難なのではないだろうか。また、そんな男の子にかわいらしい幼馴染がいて添い寝してくれる・自転車で美少女が突っ込んで来てくれるなどといった、荒唐無稽な恋愛妄想を引き受けることも困難なのではないだろうか。つまり、オタク的恋愛コンテンツを違和感無く消費するには、(男性主人公キャラにみられるような)ナイーブな童貞メンタリティがどうしても必要になってくるのではないだろうか。
 
 例えば私の場合にも、

・とても奥手で内気で
・女の子に興味があったり恋慕があったりしても、恥ずかしさや自信の無さ故に表明する事が出来ない
・しかも、そんな自分に言い訳するのが大好きで
・告白することが出来ない
・女の子が傷つくかどうかに過剰だが、実は自分が傷つくかどうかにはもっと過剰(当人は気づいてない)
・体育会系は大抵苦手。かと言って、極端に文化系に秀でているわけでもない

 
 といった時代が人生のなかで長かったことが、To heart2の恋愛妄想観を楽しめる重要な原動力になっているような気がする。To heart2やらハルヒやらの男性主人公の、煮え切らない、しかし緊張を帯びた逡巡をみていると、もう思春期が終わってしまった私でさえ、往時の様々な懊悩・「出会いに関する殆ど妄想的な期待」・チキンハートなどが鮮やかに蘇ってくる。エロゲーをはじめとするオタク的恋愛コンテンツに接する時、私は、右往左往していたあの頃の自分に立ち返ってキャラクター達と相対することが出来るのだ。だけどこれは、長期に渡ってオタク然としたライフスタイルを背景とした、オタク的童貞メンタリティを維持していたからこそ楽しめることで、さっさと恋愛市場で勝ち上がって行った人や、体育会系のメンタリティに適応しちゃった人には絶対無理なことのような気がする。現在進行形でオタク的童貞メンタリティを維持しているオタクさんは勿論としても、少なくともある程度の期間にわたってオタクにありがちなあの童貞メンタリティを保持しなければ、To heart2のような作品で胸をかきむしることが出来ないんじゃないかと思う。
 
 To heart2をはじめとするオタな恋愛コンテンツを私がしっかり楽しめるのも、オタク男子によくある童貞メンタリティにしっかり漬かっていたからに違いあるまい。オタクコンテンツをオタク的姿勢のもとに消費して萌えることが出来るのも、オタクであった(そして今でもオタクである)自分自身のライフスタイルと、心的傾向に因るのだろう。オタクにありがちな童貞メンタリティは、こじらせるとリアル女性と恋愛不能になってしまうなどの大きな問題点はあるものの、少なくとも、オタク的恋愛コンテンツでしっかり萌えるには、必須の要素ではないだろうか。
 
 逆に言えば、これからも二十年三十年と萌え続けたいオタクさんは、何らかの形でオタク的童貞メンタリティを温存しなければならないとも言える。ということで「萌えの作法」を継承したいと思う、前途無謀なオタクの皆さん、是非、オタク的童貞メンタリティを自分自身のなかに生き残らせてください。私も温存したいと思っています。