チャンスの神様には前髪しかない。あるいは、日常に溢れる偶然を活かす方法について。


世界は出会いで溢れている。
少し目を凝らせば、ありとあらゆる場所に出会いがあり、それは東京でも地方でも変わらない。

私は今でこそハゲ・デブ・おっさんという三重苦の上に、禁欲生活70日以上の女☆断絶社会に生きているが、ここに至るまでの人生で「彼女がいない」時期はほとんどなかった。
信じられないだろう?
人間は変わるんだよ。悪い方にもな。


で、「彼女がいない時期がほとんどない」というは、全く友達のいない地方都市で生活したときも、就職で全然知らない土地に引っ越してきたときも、基本的には変わらない。

常に何かしらの出会いがあった。

それも、素晴らしい出会いのほとんどは

「頑張って街に出てストリートナンパをする」

とかそういうものではなく、もっとありきたりな日常の、偶然の中に溶け込んでいた。
僕はその偶然に目を凝らし、手を伸ばしただけなのである。


世界は奇跡で満ちている。

世界をよく見て、偶然を見つけて、あとはほんの少しの勇気と積極性があればいい。

ギリシア神話にこんな話がある───。


全能の神ゼウスの末子カイロスはチャンスの神様である。
広瀬香美風に言えば、ロマンスの神様とも言える。

チャンスの神様には特徴がある。

それは、

「前髪はあるけれど後ろ髪がなく、誰の前にも平等に姿を現すけれど、両肩両脚には翼がついていて、疾風のごとく一瞬で駆け抜けていく」

というものだ。

カイロスが現れたその一瞬を捉え、彼を掴まえることができれば、その人には大きな幸運がもたらされるという。
しかし、カイロスを掴まえることができるのは、彼が自分の手が届くところまで最接近しているその一瞬、彼の「前髪」を掴んだときだけなのである。

カイロスが目の前を過ぎ去ったとき、光る後頭部(孫正義ではない)はよく目立つので、ほとんどの人が目の前にチャンスが訪れていたことに気付く。
過ぎ去った後に手を伸ばしてもチャンスには手が届かない。

カイロスの教訓は、チャンスは多くの人に訪れるが、訪れたチャンスを掴むには、事前の準備と、一瞬のチャンスを掴みにいく行動力が必要だということだ。


1974年。

大学2年生のビル・ゲイツは、偶然手に取った『ポピュラー・エレクトロニクス』誌にえらく感動した。
雑誌を見たゲイツはすぐに自分と同レベルの天才、ポール・アレンを説得。

「BASIC(初心者向けプログラム言語)をマイクロコンピュータに移植する時期がきた。急ごうぜ」

その年の2月と3月、ゲイツとアレンはハーバード大学の学生寮の小さな部屋に閉じこもって開発部没頭した。
食事をとる時間も惜しんで、ハンバーガーをコーラで流し込む日々。


「いまこそ決定的な時期だ。俺たちが時代を決める瞬間なんだ。

1年早くても、半年遅くてもダメだ。今、やるんだ」

ビル・ゲイツはこの瞬間に全てを賭け、見事にカイロスの前髪を掴んだのである。


さて、ここまで7兆7100億円の資産を持つ世界一の大富豪、ビル・ゲイツがチャンスを掴んだ話をしてきたが、ここからは年収300万。資産総額77万1千円の僕の話である。

僕はビジネスの成功のチャンスは掴めなかったが、性交のチャンスはたびたび掴んできた。

繰り返しになるが、チャンスを掴むためのポイントは、準備である。

この話は単なる自慢話ではない。
思い出語りではない。

いや、嘘だ。
半分は自慢話だ。
しかし、もう半分は準備である。

ストーリーを読むことで、こんな偶然もあるんだな、という準備のきっかけにしてほしい。
人生は偶然に溢れていて、犬が歩けば棒に当たるように、人が歩けば彼女ができるということがわかるだろう。

屋台に現れた美女


地方都市の屋台は人が温かい。
その土地に生まれて初めて引っ越して、誰も友達がいなかった頃。

僕は一人で屋台に行ってみた。

一人で屋台に行って、一人でラーメンを頼むと、おっちゃんが話しかけてくれた。

「あんちゃん、一人かい?」

みたいに。

「いい男だねぇ。飲みねぇ飲みねぇ」

と言って、別に僕はいい男でも何でもないのだが、とにかくビールを奢ってくれた。
人の優しさが温かかった。

おっちゃんと和んで気持ちよく酔っ払っていたら、フワッといい香りがした。

いい香りがする女性がのれんをくぐるやいなや、

「お姉ちゃん、ボインだねえ」

とおっちゃんが言った。

ボインという言葉を久しぶりに聞いて、僕は笑った。
お姉さんも微笑んでいた。

「お姉ちゃん、ボインだし、この若いお兄ちゃんと飲み!飲み!」

みたいな感じで、おっちゃんのなすがままにボインと飲み、ボインと仲良くなり、その日、ボインの家で優勝した。


警察に捕まったのではなく、警察で捕まえた

警察署に住所の変更の届けに来た。
その日はよく晴れた日で、夏の陽射しが気持ちよかった。

警察署で住所変更用の紙をもらった。

ボールペンが置いてある机に座り、住所を書いていると、フワッといい香りがした。
女性だった。色が白い。

チラチラと見ていると、何かで迷っているようだった。

「何か困っているんですか?」

「え」

「いや、すごい困ってそうな顔してるから」

「今って、平成何年でしたっけ?」

みたいな話をした。

その後、僕の方が警察署を先に出て、なんだか美人で気になったので、少しだけ警察署の近くで時間を潰し、出てきたところで話しかけた。
今振り返るとナンパである。


「平成何年かって迷いますよね」

「いやいやお恥ずかしい」

なんて話をしながら、お茶に誘い、仲良くなり、後日優勝した。

運転免許試験を受けに行く途中で、お姉さんに秘訣を教わる

教習所での教習を終えた後、免許を取るには試験を受けなければならない。
過去問を何度か読み、万全を期したつもりではあったが、少し不安もあり、電車の中で復習していた。

細かい問題は覚えていないんだけど、バックミラーの確認のなんとかの答えがよくわからなかったので、年上っぽいお姉さんに聞いてみた。
たしか、22歳だとかそれくらいだったと思う。

「すみません!今から免許取りに行くんですけど!」

「この問題って、答えこれで合ってますか?」

みたいに聞いた。
お姉さんは少し驚いた顔をして、その後で優しく微笑み、僕に答えを教えてくれた。

それから試験場までの間は、免許に関係ない話で盛り上がり、

「免許取れたらドライブ行こうね」

「結果出たら教えてね」

なんて言われて、メールアドレスを交換して電車を降りた。

平日の午前中にそんな時間があった大学時代を思い出して、なんだか無性に懐かしくなって、僕は今すぐにでも家を飛び出そうかと思ったけれど、僕からは既に、あの頃の若さは失われていた。

その他にも、銀行の窓口で話した人との出会いや、ビアガーデン、学校祭、結婚式...etc。
無数の偶然の出会いがあった。

意図して出会いに行ったもの。
たとえば、クラブだったりストリートナンパだったりすると、もっとたくさんあるんだけど、僕の経験上、頑張って街に出会いに行くよりも、偶然で出会う人の方が美人率が圧倒的に高かった。
それは考えてみると当たり前の話で、偶然出会った人達は元々は出会うつもりなんてなくて、あまりにも美人だったから「話しかけなきゃ後悔する」と自分を奮い立たせて話しかけた人ばかりだからだ。

で、偶然の出会いを活かせたときはほぼ決まって、

ちゃんと準備して出かけたとき

だけであった。

髭を剃り、髪をセットして、まともな服を着て、外に出る。

これが大事。

出会いに関する「チャンスの神様」を掴むコツは、常に人と話しても恥ずかしくない格好で外に出かけることなのである。