耳を掻けど一匹(ひとり)

 

飼い犬タロになっているつもりで詠む「犬短歌」、2023年下半期の歌です。
まあまあのも今ひとつのも全部上げました。気に入ってる歌の最後には*マークをつけてます(/サキコとあるのは私名義の歌)。俳句も少々あります。

 

◆ 七月

 

仲直りするには一におやつだよ二によしよしでおやつを付ける

 

めんこい子見たら待ち伏せしてるけど来る確率は三割くらい

 

リビングで岩合さんのネコ歩き見てるな俺と遊ぶの忘れ

 

ひとくちで食べるおやつを「ふたつね」と割ってくれても量は変わらぬ

 

AIは向日葵の色知ってるか  *

 

雨雲の切れ間の散歩あちこちで人はいそいそ犬はのんびり

 

一匹の蟻が仲間に君たちはどう生きるかと問う庭の隅  *

 

うだる夜早くビールが飲みたくて散歩は短いコースにしたね

 

苦瓜の木陰は涼し気持ち良し今宵はここで月眺めたし

 

雨上がり夜風と月と街灯に伸び縮みする我らの影と

 

青い鳥消すならせめて柴犬に戻してくれりゃよかったのにね

 

キラキラと青い尾光る蜥蜴の子つるりと呑めば冷たいだろな

 

夕焼けは空襲思い出すと言う母に夕焼け画像見せれず/サキコ

 

スコールが来たら路上に飛び出して水も滴るいい犬になる

 

 

◆ 八月

 

奥深く昏き洞窟隠すよな老母の尻にシャボンをつける/サキコ  *

 

ブラッシングしながら「気持ちいいなあ」と俺のかわりに呟くおばさん

 

手ブレした夜の写真に写ってる変な光はすべて妖精  

 

この甲羅もういらないわとコルセット外した母の胸の薄さよ/サキコ

 

向日葵は目覚めて伸びをする猫のように咲くのかニャアと鳴きそう

 

ご主人がお暇を出してくれぬゆえ浪犬になる望み捨てたり

 

仲良しの子がイケメンの奴といて皆吹き飛べばいい台風で

 

夜も更けて蛙の声と虫の音の交響曲は田園に満つ

 

筆先のかたちに鳥が列なして夕焼け雲は水彩になる  *

 

おばさんは活動的ではありません食っちゃ寝するのが理想の暮らし

 

家中でトップの活動家は俺で次はルンバだ連帯しよう

 

ベトナムの犬になりたい春巻きを食べてグエングエンと吠えたい

 

自然は球・円錐・円筒形だとかほんとなのあの月は平たい  *

 

塊のササミ出るまでストライキするので差し入れササミでよろしく

 

飼い犬にとってのストは飼い主の言うこと一切聞かないことだ

 

飼い主の言うこと聞かない犬は皆ササミで懐柔されるものだよ/サキコ

 

ちっぽけな肉で手なづけられる身に生まれたは幸それとも不幸

 

丸まったティッシュをササミと間違えるタロという犬に会えたは幸/サキコ

 

 

◆ 九月

 

夕闇に溶けても君はヒト俺はイヌの濃度で佇んでおり  *

 

雨の日に散歩に行って雨宿りする場所探す人生だった

 

次に来る台風の名がコイヌだと聞いて出迎え態勢になる  *

 

くっきりと毛色の薄い両肩はいつか天使の羽生えるとこ

 

脱毛がそんなに好きか人間はもふもふペット愛でてるくせに

 

あのポメも俺には興味ないらしい 草の匂いはまだ夏のまま

 

対談の告知に俺が出てたから参加しようと待っていたのに

 

大根の苗は小さい約束のように並んで厳冬を待つ  *

 

「雨降ってくるよ」に「ごはん食べなさい」混ざって「ごはん降ってくるよ」と

 

あの猫が避けているのはおばさんで俺は嫌われてないとおもう

 

お散歩の相手代わったシーズーよ あのおばあさんどうしているの

 

この草はすてきな秋の肌触りぜんぶおうちに持ち帰りたい

 

 

◆ 十月

 

半枯れで夏を弔う道の草 黒いレースの影を落として  *

 

甘くないプリンタルトを秋の夜俺と分けたら甘い関係

 

耳を掻けど一匹(ひとり)  *

 

今日気分いまいちたぶん一回分おやつがnothingひとりでgrooming

 

少しだけ甘い生活夢見たが甘さほどほど人生だった/サキコ

 

モンブラン栗から芋へ南瓜へと変わり秋めくコンビニスイーツ

 

キャッサバの芋は苦いかしょっぱいか葉陰でひとり前足を噛む

 

公園の鉄棒くぐって犬歩く 人(馬鹿)はくぐれず頭ぶつける

 

犬になる前の記憶を呼び覚ます金木犀の甘い香りよ

 

整然と並ぶキャベツはそれぞれの芯で小さく拳を握る  *

 

あの雲は老いた天使が横切ったあとにたなびく長い白髪

 

飼い主よごはんを完食してあげてお腹ヨシヨシさせてあげよう

 

ゴミ箱の蓋の重石じゃもったいない この丸石の才能を見て

 

◆ 十一月

 

天日干しされた稲穂の下歩む 米が光って俺も光って  *

 

落ち葉だけ撮ってる前に出てモデルしようとしたら邪魔と言われた

 

敷きたての舗装は熱い 肉球を守って回り道するが吉

 

爆音にたまげたブルーインパルス落ちないでくれ空のサーカス

 

疲れてる人よ文字校正してるときの目つきで俺を見ないで

 

校正が済んだら犬の毛の本数かぞえてるひと頭おかしい

 

十歳になる年末に「おやつ量アップ宣言」期待している

 

青空の羊の群れはみな迷子 犬のかたちの雲がないから

 

あのひとのまわりぐるぐる駆け回りバターになった自分を舐める  *

 

薔薇の咲く場所に行けない僕たちは冷えた地面を見つめて歩く

 

 

◆ 十二月

 

雲間から魔王が追ってきて僕に囁いてるよ馬を飛ばして

 

百舌鳥はいつ食べに来るのか早贄の蜥蜴の青は冬空の色  *

 

新しいゴムの匂いのコンバース少し汚して少し怒られ

 

新品のシューズわざわざ踏んだのはオマジナイだよ怪我せぬように

 

犬死には人だけのもの目的のために僕らは死んだりしない

 

犬たちでおやつリレーをして遠い国で飢えてる犬に届ける

 

世界一著名な犬は新しい躾のような名だねデコピン

 

側溝の闇から誰か呼んでいる 道になりたい猫かもしれぬ  *

 

オシッコも凍りそうだよ雪の朝

 

戌年のおじさんなんかほっといて犬のおじさん構ってほしい

 

犬小屋はからっぽ今は人間の小屋にいるのね遊べないのね

 

 

 

これまでの犬短歌はこちら。

 

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