乳幼児の言葉の発達にみる多様性:保前先生のご発表備忘録

「言葉」が好きです。ブログを綴るのも、言葉と戯れたいからなのでしょう。

過日、日本学術会議フォーラム「乳幼児の多様性に迫る:発達保育実践政策学の躍動」において、首都大学東京の保前文高先生のご発表を伺いました。保前先生は新学術領域「多様な<個性>が創発する脳システムの統合的理解」の計画研究代表者でもあり、「ことばが繋ぐ多様な脳」というタイトルでご講演になりました。(画像は新学術領域のHPより転載)
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生後の月齢とともに子どもは言葉を徐々に覚えていきますが、理解していると思われる(母親による申告)言葉の数は1歳半くらいから劇的に増加します。その理解が①音声としての理解、②意味としての理解、③論理としての理解というように進むということにとても興味を持ちました。音声コミュニケーションが可能な動物は、鳴禽(ジュウシマツなど)、クジラ、コウモリに加え、齧歯類もそうですが、③のところまではなかなか到達しません。賢いチンパンジーのアイちゃんでも、二語文までくらいだったかと思います。音や意味が理解できるというレベルから、なぜ抽象化や汎化が可能になり、例えば、相対性理論を組み立てられるのか(これは、すべての人類では無いですが)は究極の興味の対象です。

子どもの発達は一様ではないので、いわゆる「言葉の早い子」もいれば、そうでない子どももいます。脳内のどのようなメカニズムの違いがこの言語獲得の差異に関わるのかを知ることは、なぜヒトが高度な言語を獲得できたのかの理解に繋がるかもしれません。今後の発展が期待されます。

ところで、フォーラムの折の雑談として、「最近は子どもの言語獲得が遅れているかもしれない」という話も伺いました。あくまで個人的な推測ですが、子どもの周囲の人間(大人も子どもも含む)のリアルな「会話」が少なくなると、上記①の段階としての経験が減ってしまうかもしれません。テレビやiPad等からも音声入力はなされるでしょうが、リアルなヒトの会話の方が言語獲得に繋がるという研究成果を見たことがあります。発達は不可逆的なので、感受性の高い時期(もしくは臨界期)を過ぎると、獲得できる能力に限界が生じます。結果として②や③に支障が生じるという可能性はゼロではないでしょう。

9月の講演会では、作家の瀬名さんが「昔の作家に比べ、現代の作家の作品で使われている語彙の知的レベルが落ちている」というAI分析結果を話しておられました。せっかく「文字」という抽象度の高いコミュニケーションツールを開発したにも関わらず、「絵文字」が多用される現代は、やはり人類の退行現象に繋がっていくのかもしれません。

※追って、フォーラムの報告記事が東京大学発達保育実践政策学センターのHPに掲載される予定です。


by osumi1128 | 2018-11-23 11:31 | サイエンス

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