煮干しの一押しVOCALOID曲

VOCALOIDの話題や気になった事を書こうと思います

モフモフな VOCALOID曲



今年最後の投稿になります

 

師走の年末を迎え、一年の早さに毎度のことながら驚かされます。ついこの前、正月を迎えたばかりのように感じており、まるで浦島太郎になったかのようです。齢を重ねるというのは、ある種の呪いのように思えることもありますね。

さて、この一年を振り返りますと、僅かながらもこのような底辺ブログを訪れてくださる方々がいらっしゃることに驚きつつ、心から感謝申し上げます。皆さまのご愛顧に励まされ、感激しております。

来年も引き続きブログを更新していく所存ですので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

今回のお品書きになります

 

 

煮干しがお送りするちょっとした物語

 まず始めに、この物語はフィクションです。物語の中に登場する個人名、団体名、会社名は架空の物であり実在する個人、団体、会社とは関係ありません。

※チャットGPTで文書校正をしています

 

 

 人の言葉を理解し操り、姿を変えることができる動物の化け者。あたいは、そんな化け者の中でも化け猫に属している。都内有数の歓楽街である稲荷歓楽街から吹き飛ばされ、この地に来て一日目を終えた。強盗騒ぎの後、濃密な時間を過ごしたせいか、女と共に布団に入るとストンと意識が暗転し、そのまま眠り込んでしまった。

それからどれくらい時間が経っただろうか?布団の中でひんやりとした空気を感じ、あたいはパチリと目を開けた。感覚的には数分しか経っていない気がしたが、外から聞こえる雀のさえずりから朝だと知る。下僕である女の姿はなく、あたいはもぞもぞと布団から顔を出す。眩しい光があたいを迎え、思わず目を細めた。

障子の隙間から廊下に出ると、あたいは鼻をスンスンと動かして香りを嗅ぐ。香ばしい匂いに誘われるように、お勝手場へと向かった。近づくにつれてトントンという包丁のリズムが聞こえ、匂いもますます強くなる。曇りガラスの戸を前足でガララと開けてお勝手場に入ると、台所に立つ老婆と新聞を読みふける老人の姿が目に入った。若い二人の姿はない。

あたいはひょいとジャンプしてキッチンカウンターに飛び乗る。老婆はまな板で何かを切っている最中だったが、あたいの姿を見るとニヤリと笑い、「おはよう、ねごっこ。案外おっせーんだなや。晴美ちゃんがエサ買いさ行っとっから、もうちっと待ってっちゃね!」と言った。ほう、あの下僕・・・感心な行いだ。今度モフモフさせてやろう。

第一下僕である女の帰りを待つことにしたあたいは、老人の膝に乗った。老人は特に嫌がる様子もなく、新聞を読みながら背中を撫でてくれる。お勝手場では特に会話もなく、ゆっくりと時間だけが過ぎていく。グツグツと煮える音や香ばしい匂いを十分に堪能していたあたいの耳に、玄関の開く音が聞こえた。ドタドタと近づく足音。間違いない、下僕一号だ。

期待に胸を膨らませながら、あたいはお勝手場の出入り口をちらりと見る。数秒後、笑顔を浮かべた下僕一号が入ってきた。「買ってきました!」と、コンビニのロゴが入った大きなビニール袋を二つ手にしている。老婆は調理を一旦中断し、手を洗ってタオルで拭きながら、「晴美ちゃん、ありがとねっちゃ。おっかなくて外さ出らんねーのよ。ほんと助かったわ~!」とビニール袋を受け取った。老婆は袋の中身を冷蔵庫にしまい始める。

その光景を老人の膝から眺めると、袋には牛乳や醤油、野菜、卵など生活必需品ばかりが入っていた。老婆の作業を手伝いながら、下僕一号は「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ。何かあったらまた言いつけてください」と謙遜している。品物を冷蔵庫に収め終わると、袋から何かを取り出した。取り出したのは、猫の顔が描かれたキャットフード、いわゆるカリカリだった。

あたいは老人の膝から床に飛び降り、下僕一号の足元にまとわりつきアピールを開始。少し驚いた様子の下僕一号は、あたいを見下ろしてニッコリ笑い、「こんなところにいたんですね。今、ご飯を出しますので待っててください」と、老婆から渡された食器にカリカリを入れ始めた。カラカラという音とともに、独特な匂いが広がる。下僕一号は人の邪魔にならないようにお勝手場の端に食器をコトリと置くと、あたいにこっちへ来なさいというジェスチャーをした。あたいはさっそくカリカリの前まで行き、スンスンと匂いを嗅ぐ。可もなく不可もないオーソドックスな香りだが、昨日の湯煎しただけのものよりは数百倍マシだろう。

あたいはカリカリと音を立てて食べ始めた。そんなあたいをじっと見ていた下僕一号は、「よかった、食べてる」とほっとした様子でつぶやく。それからしばらくして、憎き宿敵が起きてきて、人間たちの朝食が始まった。

 

土間にある柱時計から12回のオルゴール音が響き、正午を告げた。宿敵と下僕一号、さらに老人は、山向こうの警察署に事情を説明しに軽自動車で出かけて行った。屋敷には、あたいと老婆だけが残る。

あたいは縁側に仰向けになり、空気の入れ替えのために開け放たれた戸から入る新鮮な風に胸毛をなびかせていた。老婆は、昨日警察から説明を受けた際、自身の神聖なテリトリーであるお勝手場が侵入され汚されていたことを知り、シャカリキに掃除をしている。

あたいは縁側越しに見える庭園を眺めながら、誰の目も気にせずリラックスできる時間の素晴らしさを実感していた。冬とはいえ、正午の太陽が真上から降り注ぎ、気温をそこそこ底上げしているため、心地よい暖かさが意識をまどろませる。

視界がだんだんと狭まり、暗転を繰り返す中、あたいはその都度強引に意識を覚醒させた。しかし、再び視界が狭まった直後、縁側の地平線越しにキジトラ猫の顔が現れ、まどろんでいた意識が吹き飛んだ。

じっと睨み合うあたいとキジトラ猫。先に仕掛けてきたのは向こうだった。
「まーう、まーう(お前誰? ここ俺の縄張り)」と、屋敷の縄張りを主張してきた。
あたいは不遜な笑みを浮かべ、「それは昨日までのことにゃあw、ここはあたいの縄張りにゃあw」と、人間の言葉で返した。

すると、キジトラ猫は驚いてひっくり返り、ゴロゴロと転がった。どうやら得体の知れない三毛猫に勝てないと悟ったらしく、古来から猫が負けを認めた相手に示す敬意の作法を行いながら、スローモーションのように立ち去っていく。

その途中で、キジトラ猫は急に動きを止め、こちらを見て何かを考え込むような様子を見せた。そして数秒後、負け猫ムーブをやめて再びこちらへ駆け寄り、
「うにゃにゃ、うーにゃあ?(お前、人間の鳴き声ができるってことは、人間の言葉がわかるのか?)」
と尋ねてきた。

あたいは仰向けの姿勢から香箱座りに移り、
「にゃーん、うーにゃむー(いかにも、あたいは人間の言葉を話せる)」
と猫語で答えた。

あたいの答えに、キジトラ猫の表情はぱっと明るくなり、
「にゃにゃ!、うーなな、むー(頼みがある。近くの親子が様子がおかしいんだ。人間に知らせてほしい)」
と訴えてきた。

親子? つまり、この近くに母猫と子猫がいて、その様子がおかしいということか。どうする? あたいは数秒間の思考タイムに入り、行動に出るべきかを検討した。そして、
「にゃにゃーん、ぶるるにゃ!(場所を教えるんだ!)」
と親子を助ける決断をした。

キジトラ猫は頷き、
「にゃん!、なー!(感謝する。こっちだ!)」
と先導を開始。あたいは縁側から飛び降り、キジトラ猫の後を追い走り出した。

 

疾走するキジトラ猫を追いかけるあたい。集落のメイン道路を横切り、とある家へ一直線に向かう。その家は、お茶っ葉の生け垣がぐるりと囲んでおり、生け垣に沿って数秒走ると、小さな穴がぽっかり空いている。それは猫道。あたい達猫が頻繁に通ることで、枝葉が伸びなくなり自然と空洞ができた、猫専用の道だ。

猫道の手前でピタリと止まったキジトラ猫は、一応警戒してスンスンと匂いを嗅ぎ、じっと猫道の奥を窺う。その緊張感を打ち破るように、「キキーッ!」と自転車のブレーキ音が鳴り響いた。その音に驚いたあたい達は反射的に音の主を見る。学ランを着た、どこか懐かしさを感じさせるリーゼントスタイルの高校生らしき少年だ。

「なんだこいつ?」とあたいが眉を潜めていると、キジトラ猫はその少年の足にまとわりつき、「にゃーご、にゃーご」と愛情表現を始めた。その行動から察するに、キジトラ猫は少年の知り合いらしい。少年はキジトラ猫に微笑みかけながら、「よぉw、だち公w。マブい彼女連れてどうしたw」と軽口を叩き、頭を撫でている。この様子から、少年がキジトラ猫の飼い主だと分かった。

あたいが様子を見守っていると、キジトラ猫があたいの元へ戻ってきて、小声で囁く。「にゃにゃ、うーみゃ、ぐるるにゃ?(俺を呼ぶ時の決まった鳴き声、あれの意味は何だ?)」
あたいも小声で答えた。「うにゃ、にゃん(友、という意味だ)」

キジトラ猫は嬉しそうな顔をして、「にゃんごろ、にゃにゃ(俺、嬉しい。今日は良い日だ)」と少年のくるぶし辺りに強めの頭突きをした。少年は少し戸惑いながらも笑みを浮かべ、「おっw、なんだw。今日は妙にご機嫌だな、キジヲw。彼女を泣かすなよw。じゃあなw」と言い、自転車で走り去っていった。

少年を見送ったあたい達は気を取り直し、猫道へと侵入を開始。生け垣を抜けると、広々とした庭園が広がっていた。作りは、あたいの居候先とほとんど同じだ。キジヲは迷うことなく庭を横断し、縁の下へ潜り込む。あたいもその後に続く。

ひんやりとして薄暗い縁の下の奥に、キラリと光る二つの目が見えた。その光のもとへ近づくと、白地に黒ぶち模様の母猫が現れる。母猫はボロボロで、自分の毛繕いも満足にできない様子。ぜえぜえと荒い息をしている。

あたいは慎重に母猫を観察した。外傷は見当たらないが、出産時のトラブルから感染症を起こしている可能性が高い。ふと気づく。子猫の声が聞こえない。最悪の事態を想像しながら辺りを探すと、母猫同様にズタボロの二匹の子猫を発見。毛並みはボロ雑巾のようで、目は目やにで完全に塞がれていた。思わしくない状態だ。

一刻を争う状況に、あたいはキジヲを見て、「うにゃにゃ! みゃんみゃ(ここで待機して、様子を見ていて!)」と指示する。キジヲは頷きながら、「まーう!(了解!)」と快く従った。

あたいはすぐさま縁の下から出て猫道を抜け、大通りへ出た。化けられるならばすぐにでも動物病院へ連れて行けるが、今のあたいは化けられない。こうなれば、同族の力を借りるしかない。

あたいは目を閉じ、周囲に化け力を持つ者がいないか探る。すると、少し離れた場所から微かに化け力を感じた。その方向へ誘われるように走り出す。集落を抜け、田んぼの平野を越えると、田んぼの真ん中にこんもりとした雑木林が見えた。化け力はそこから感じられる。

雑木林に近づくと、それは雑木林ではなく、大きな屋敷だった。話が通じる相手であればいいが・・・。一抹の不安を感じながら心臓の鼓動が速くなる。

屋敷の門をくぐり、庭園のヒマラヤ杉のもとへ忍び足で向かう。幹に爪を立てて登り、枝を伝って縁側を見下ろすと、茶虎模様の猫が仰向けになり、のんきに昼寝をしていた。その姿からは好戦的な様子は感じられない。

あたいは静かに地上へ降り立ち、縁側に近づくと「おい! 力を貸せにゃあ!」とストレートに人の言葉で話しかけた。突然の声に茶虎模様の猫は飛び上がり、キョロキョロとあたりを見回してから、あたいを見つめた。「な、なんすかあんたは? 僕は昼寝中なんすよ、起こさないでくださいっす!」

のんきな態度に少し苛立ちながら、あたいは簡潔に状況を説明する。「親子が大変なことになっているにゃあ! 男なら協力するにゃあ!」

茶虎模様の猫は首を傾げ、「親子が? でも僕に関係ないっすよ・・・他を当たってくれないっすか?」と煮え切らない態度を取る。一刻を争う状況で、この態度に腹を立てたあたいは、「オスのくせに母子を助ける気概もないのかにゃあ! 情けない奴にゃあ!」と叱責する。

その勢いに少し押されつつも、茶虎模様の猫は「あんたも化け者なら、自分でどうにかできるんじゃないっすか?」と疑わしげな目を向けた。なるほど・・・確かに一理ある。

あたいは深呼吸して、「事情があってあたいは化けられないにゃあ。化けられればお前に頼らず自分で救助しているにゃあ・・・だから頼んでいるにゃあ!」と懇願。

あたいの真剣さに、茶虎模様の猫はため息をつき、「分かったっす・・・母子を病院に連れて行けばいいんすか?」と了承した。

その察しの良さに驚きつつ、あたいは「お、おうにゃあ、建て替えてもらった病院代は必ず返すにゃあ」と約束する。茶虎模様の猫は頷くと縁側からぴょんと飛び降り、二足歩行で縁の下からクッキー缶を前足で抱えて持ってきた。そして、バク転すると音と煙を出し、坊主頭の中学生ぐらいの少年の姿に変化。

彼が持ち出したてきたクッキー缶を開けると、札束がギッシリ詰まっていた。あたいは驚きながら、「お、お前、この金どうしたにゃあ?」と尋ねると、少年に化けた茶虎模様の猫は得意げに答えた。「世の中には色々なものを収集している人がいるっす。野山で集めたものを個人売買サイト・ウルカウで販売して稼いでるっす!」

 

商売の話に興味を惹かれたあたいは、すかさず「例えばどんなものを売るにゃあ?」と身を乗り出して尋ねた。少年に化けた茶虎模様の猫は少し考え込んでから答える。

「例えばっすか? うーん・・・セミの抜け殻、カマキリの卵、珍しいキノコ、苔、石、粘土、色々っすね」

その答えに、あたいは感心しながら、「実際の収集物とかを見せてくれないかにゃあ?」と、さらに突っ込んだ質問を投げかけた。

茶虎模様の猫はジト目をしながら、「母子のことを心配しなくていいんすか?」と冷静に指摘する。その言葉にハッとなったあたいは、慌てて「そ、そうだったにゃあw。一刻を争う状態にゃあ! レッツゴーにゃあ!」と苦笑いでごまかした。

ヤレヤレといった様子で、少年に化けた茶虎模様の猫は「茶吉」と一言だけ名乗った。

反射的に「あ、茶吉?」とオウム返ししたあたいは、慌てて「み、ミケにゃあw」と自分の名前を名乗る。茶吉は人懐こい笑顔を浮かべて「じゃあ、ミケさん、行きましょう!」と言った。その言葉にあたいはニッコリ笑い、「ついて来るにゃあ!」と先陣を切って走り始めた。

 

あたいたちは元来た道を踵返し、母子がいる縁の下まで全速力で戻った。お茶の垣根にある猫道を潜り抜け、縁の下で待機しているキジヲの元に到着。息を切らせながら鼻チューで挨拶がてら報告し、首尾は上々だと伝えた。猫同士では、言葉よりこうした仕草のほうが伝わることがある。特に一刻を争う場面ではなおさらだ。

後ろから来た茶吉もキジヲに鼻チューして挨拶を済ませ、二匹の子猫をあたいとキジヲ、そして母猫は学ラン姿の坊主頭に化けた茶吉に運ばせた。突然の変化にキジヲは驚いて口をぽかんと開けたが、親子の容態が思わしくないためあたいは無視し、さっさと子猫の首根っこを噛んで運ぶ。茶吉も少し抵抗する母猫を抱えて縁の下を出ていく。キジヲも驚きながらも子猫の首元を優しくくわえ、あたいたちの後に続いた。

垣根の猫道を抜け、運んだ子猫たちを茶吉に託す。茶吉は馴染みの動物病院が近くにあると言い、信じて託すことにした。最初は茶吉に任せて待機するつもりだったが、少し不安だったのであたいもついていくことに。

茶吉の馴染みの動物病院は集落の端にあり、比較的近かった。ドアを開けると呼び鈴がチリリンと鳴り、受付には看護師らしき中年の女性がいた。彼女はこちらを見て、「こんにちは。初診ならこちらにお名前と症状、もしくは検査希望を書いてください」とクリップボードを差し出してきた。

茶吉は少し緊張した様子で受付に向かい、あたいも続いてピョンとジャンプして受付に上る。看護師さんはあたいを見て驚き、「何この三毛猫! この子も診察するの? 君が持っている母子と合わせて四匹!? お名前は?」と矢継ぎ早に茶吉に質問を浴びせた。

書類を書いていた茶吉は困惑し、「えっ、名前っすか?・・・えっと・・・」と口ごもった。しまった、名前を考えていない! あたいは茶吉の顔を見上げた。この男が器用に嘘をつけるタイプでないことはメスの勘で分かる・・・。このままでは不審に思われ、診察をしてもらえないかもしれない。どうする?

看護師の眼光が鋭くなり、「君さ・・・うちは野良猫の治療はしないよ?」と言われ、茶吉はビクッと体を震わせた。これはまずい状況。あたいは一か八かで看護師さんの腕にすり寄り、ゴロゴロと喉を鳴らす。猫好きなら、これで何とかなるはずだ。すると、看護師の顔は柔らかい笑顔に変わり、「しょうがないわね。今回だけ特別よ」とクリップボードの名前の欄を指でなぞり茶吉に適当に名前を書く様に促す。

茶吉は慌てて「らら」「りり」「るる」と適当に名前を記入。母猫と子猫たちは看護師さんによって診察室に連れて行かれた。あたいたちは緑を基調とした落ち着いたインテリアの待合室で静かに待機する。少し離れた場所から犬猫や鳥の声が聞こえる中、経験者である茶吉は腕を組み、落ち着いた様子で座っていた。

数分後、「らら、りり、るるの飼い主、瀬田さん、診察室にどうぞ」と声がかかった。あたいは驚いて茶吉に「お前の苗字は瀬田か?」と尋ねた。茶吉は自慢げに「そうっすよ! 瀬田茶吉、それが僕のフルネームっす!」と自慢げに言い、診察室に向かう。

あたいもドサクサ紛れに診察室に続く。診察室は五畳ほどの狭い部屋で、真ん中の診察台には母猫が寝かされていた。茶吉は案内された椅子に座り、難しい顔をしながらパソコンの画面を睨んでいる髭面の白髪交じりの丸メガネの先生の話を待っている。一通り目を通したのか、先生は椅子をこちらに回して向き直り、話し始めた。

「えー・・・各種検査をしました。陰性で猫エイズや寄生虫はいませんでした。ただ、母猫のららちゃんは出産時に感染症になっていて、抗生物質の投与が必要だね・・・。子供たちは清潔にして安静にしていれば大丈夫でしょう。」

そう説明すると、先生はこれからの処置についても簡単に言及した。茶吉は安堵した様子で笑顔を見せ、「ありがとうございます! お薬と診察料はおいくらですか?」と、早々に話を終わらせたくて先を急いだ。

ところが、先生は眼鏡を外して茶吉をギロリと睨みつけると言った。

「君ね・・・、彼女から聞いたけど、飼い猫じゃないんでしょ? 猫好きの彼女なら押し通せるかもしれないけど、私は医者として無責任なことはできないよ。はっきり言うね、飼いなさい。じゃないと私は薬も治療もしないよ?」

その言葉に、茶吉は汗を滝のように流していた。それも当然だろう。「飼いなさい」という言葉は、この茶吉にとって、母猫と子猫たちを引き取り所帯を持ちなさいと迫られているのと同じ意味を持っていた。このヘタレでは即時即断して母子を養うと決断は無理だあろう。

「ぼ、ぼくは独身をもっと楽しみたいっす・・・」と、茶吉は緊張しながらなんとか言葉を紡ぎ出した。想像以上のダメ回答に彼らの足元であたいはガックリと頭を下げる

茶吉の言葉に、先生は不思議そうに看護師の顔を見て首を傾げた。

「き、君、なんで飼う話が結婚の話になっているのかね? ・・・というか気づいたんだけど、君の学ラン・・・私が通っていた中学のじゃないか! もうとっくに閉校した学校のだよ・・・。君、さては中学生じゃないな! 小学生だろ? 白状しなさい!」

思わぬところからボロが出て、茶吉の正体が怪しまれた。あたいは状況が悪化するのを見て、診察室の奥にある薬品棚をギロリと睨みつける。いざとなれば強奪して逃げるプランを頭に浮かべた。

事態がどんどん悪くなり、茶吉は「・・・あわわわ・・・」と声を震わせ、何も言えなくなっていた。万事休す。強奪プランに変更か、と思われたそのときだった。

 

「すいませんw、後輩に頼んだのは俺ですw」

 

時代遅れのリーゼント頭に学ラン姿という奇妙な格好の、先ほど会ったキジヲの飼い主が突然現れた。

 

なぜこいつが現れる? 訳も分からず、事態を見守ることにしたあたい。リーゼント頭で学ラン姿の少年に、先生はハッとした顔をして声を上げた。

「熊谷さんの拓也君じゃないか!? 君が猫を飼うの? キジヲがいるよね? つまり・・・多頭飼いをするのは親御さんの意思なのかい?」

矢継ぎ早に質問され、少し気後れした様子を見せるリーゼント少年。しかしすぐに切り返し、「いや・・・親はこれから説得しますので大丈夫です! 俺もアルバイトしているので、お金の面は何とかなりますから」と要領の良い受け答えをした。茶吉はポカーンとその様子を見守り、あたいは感心するばかりだった。

先生は少年の答えを聞いて一息つくと、少し苦言を呈した。

「君がそこまで言うなら・・・いいだろう。しかしね、小学生に学ランを着せて時間稼ぎをするのはどうかと思うよ、君?」

その言葉にリーゼント少年は驚き、「えっ!?」と声を上げた。予想外の反応に先生も「えっ!?」とオウム返しをする。しばしのやりとりの後、場はなんとか収まり、母猫と子猫は容体が回復するまで入院することになった。あたい達は病院を後にする。

病院の駐車場にはキジヲが待っていて、飼い主であるリーゼント少年の足にまとわりついた。少年はしゃがみ込み、何やらボソボソとキジヲに話しかける。すると、キジヲはこちらを振り返り「うーにゃあ!(家で待っている)」と言い残して走り去った。リーゼント少年は立ち上がり、こちらを振り返って一言。

「よぉ、面貸せや・・・」

そう言い残し、スタスタと歩き出した。あたいと茶吉は互いを見て、とりあえず素直に後に続くことにした。

地元の人間しか通らない山道に入り、少年はピタリと歩みを止めて振り返る。

「さてと、ここまで来れば人の目も・・・ないよな!!」

そう言うや否や、あっという間に距離を詰め、どこからともなく取り出した刀の切っ先を茶吉の喉元に突きつけた。腰を抜かした茶吉はその場に座り込むと、ボフッという音とともに茶虎模様の猫の姿に戻り、牙をカタカタと震わせた。

 

「猫に戻った!? ・・・って、瀬田さんの家の茶吉じゃねえか!?」

 

リーゼント少年は、次々と押し寄せる情報に翻弄され、パニック状態になっていた。その手に現れた刀、人間離れした素早い動き・・・つまりこれは・・・。

一連の流れを見たあたいは、目の前の少年が神器持ちで供物契約をしている人間だと確信した。そして口を開く。

 

「お前は神器持ちで供物かにゃあ? 探り合いはよせにゃあ。ここは腹を割って話すにゃあ。」

 

あたいの読みが正しければ、敵対関係ではないはずだ。リーゼント少年は驚愕の表情を浮かべる。

「しゃっべった!?、 ・・・話す? 、まあ・・・いいだろう。特に害はなさそうだし・・・茶吉だし・・・来な。」

少年はそう言うと、刀を消して歩き出した。あたいは茶吉を起こし、リーゼント少年の後に続いた。

 

「化け者、神器、供物・・・なるほどねぇw」と、喉を鳴らしながらコーラを飲むリーゼント少年。あたい達は、あれからお土産のペナントやアイドルのグラビアポスターが貼られた、10畳ほどの熊谷拓也の私室に案内される。そこでジュースとお菓子を振る舞われ、情報交換をしていた。

「お前は、本当に何も知らなかったのかにゃあ?」と、あたいは手焼きせんべいをパリッとかじりながら尋ねた。
熊谷拓也は頷き、「マジで何も知らねぇ。氏子の神社掃除当番中に、祭ってた氏子神が突然現れて、刀を差し出し『この土地を守れ、迷いし者を救え』って言っただけだぜ。何の説明もなしだ」と答えた。

あたいは苦笑しながら、「それは災難だったにゃあw。でも、もう一度聞くけど、本当に何も指示されてないのかにゃあ?」と再度確認すると、熊谷拓也は首を横に振り、「無いぜ」と返す。

神器は、大抵ろくでもないものばかり。有用な場合でも、何らかの目的で授けられることが多い。特に、明確な武器類は要警戒。神同士の争いで相手側に差し向ける鉄砲玉として利用される場合があるからだ。しかし、今回のケースは珍しい。おそらく代々氏子の一人に神器を与え、外敵と戦わせる役目を担わせていたのだろう。初代の契約者と氏神である土着神が近しい関係にあり、何らかの約束を交わしていたと推測できる。

熊谷拓也はチラリと茶吉を見て、「お前が化けられて喋れるなんて、全然分からなかったぜw」と笑った。
茶吉はポテチをパリパリ食べながら、「僕も、拓也さんが刀をいきなり出してきたのにはビックリしたっす!」と返す。普通の猫であるキジヲは、そのやり取りを羨ましそうに眺めていた。

そんな和やかな空気の中、ギシッと床がきしむ音がしたかと思うと、何の前触れもなく襖が開いた。「なんだぁ~、猫だけがぁ~。女の声が聞こえだがら、ついに彼女でもできだんだべって思ったのによぉ~」と、熊谷拓也そっくりの年老いた女性が乱入してきた。あたい達は猫らしからぬポーズでお菓子やジュースを食べていたが、すかさずオーソドックスな猫的な姿勢に戻った。

「おっかぁ!!入るときゃノックしてけろって言ったべ?はやぐ行げってばぁ!」と、拓也は母親に怒鳴った。
母親はムッとした顔で、「なんだや、その口のきぎかだは!せっかぐお菓子持ってきたっていうのによぉ」と言いながら、お菓子を差し出した。拓也はそれを乱暴に受け取ると、「はやぐ行げよっ!」と顔を真っ赤にして怒鳴った。あたい達と話すときは標準語だったのに、身内と話すとなまるその仕草に、なんだかほっこりしてしまう。

母親は息子の部屋をぐるりと見回し、「なんでコップがこんなにあっぺな?もしかして、猫さ?おめぇ・・・変な薬とかやってねぇべが?」と疑う。拓也は顔を真っ赤にして、「やってねぇっちゃ!んなわけねぇべ!」と怒る。母親は追求の手を緩めず、「いちごミルクさ青ぐなんまで風邪薬混ぜでオーバードーズすんじゃねぇべが?」と、具体的な一例を出す。
拓也は吹き出し、苦笑まじりで「具体的すぎっちゃ!なんだよそいづ?w やってねぇがら、安心しろって!」と返す。
「ほんとけ?」と母親は確認するが、拓也はウンザリした顔で「ほんとだっちゃ!」と言い切った。「彼女ぐれぇ連れ込んで、私さ安心させでけろっちゃ!」と捨て台詞を残して母親は退散し、拓也は「うっせぇ!ばばぁ!」と罵声を浴びせた。

先程とは一転、その光景を見た一応母親であるあたいの心情は複雑なものだった。散り散りになった子供たちを思い出し、どこか感傷的になる。そんなあたいの心の内を知る由もなく、母親が持ってきたお菓子をあたいたちが囲む机に広げていた熊谷拓也が、「悪ぃw、化け物になった化け者って元に戻れねぇんだよな?」と突如真剣な目つきであたいに尋ねた。
あたいは頷きながら答える。「残念ながら、化け物になった化け者は元に戻れないにゃあ・・・。食欲の権化になって、動くものをひたすら貪る悲しい存在になるにゃあ」と。そして、あたいの言動に茶吉の顔を曇った。

化け者には危険な時期がある。それは、初めて人に化ける時だ。大抵は他の化け者の指示のもと、慎重に行われる。しかし、もし指示する者がいなかったら? 事故が起きる。どの生物にも似つかわしくない異形となり、他の生物を襲うようになるのだ。稲荷歓楽街では厳重に管理されているが、それでも年間に3件ほどの事故が発生する。田舎ではさらに管理が甘く、事故率は都内の倍以上にもなる。

そこで、あたいの育ての親であり、稲荷歓楽街の女王である所長は、定期的に視察部隊を田舎に派遣し、化け物の駆逐を行っている。この国が平穏を保てているのは、そうした影の努力があるからなのだ。

「そうか・・・これまで6体の化け物を始末してきたけどよぉ、時々、人の言葉を話した奴もいて・・・もしやと思ってたけど、踏ん切りがついたわ」と、拓也の力強く濁りのない瞳があたいを見つめる。

あたいは熊谷拓也の学習机にぴょんと飛び乗り、置いてあったメモ帳と鉛筆を見つけると、鉛筆を咥えてさらさらと番号の羅列を書いた。それを破り取って、拓也の元へ持って行く。
「これは?」と尋ねる拓也に、あたいは答える。「あたいの携帯番号と勤め先の番号にゃあ。何かあったらそこに連絡するにゃあ!」
拓也はニコリと笑い、「サンキューw。恩に着るぜ!」と礼を述べた。母子を引き取ったせめてもの恩返しだ。

それから、あたい達は別れ、それぞれの家路に着いた。日が暮れて辺りはすっかり暗くなっていた。あたいは焦りながら居候先の屋敷に向かう。屋敷が見えてきたところで、「猫ちゃーん! 出て来なさい! 美味しいごはんがありますよー!」という下僕一号の声がした。どうやら、あたいを探しているようだ。

若干焦りを感じつつ、屋敷の庭園を駆け抜けると、土間で靴を脱いで上がろうとしている人間たちの背中に向かって「にゃあ!(ただいま!)」と声をかけた。人間たちは一斉にこちらを見て安堵の表情を浮かべ、下僕一号は駆け寄り、「どこ行ってたの? 心配したんだから!」と抱きしめてきた。
その胸の中で、少し心配をさせたと感じたあたいは目を細め、「うにゃ(すまない)」と猫語で謝罪した。

日は暮れ、あたいにはカリカリしかなかったが、この日はお菓子やジュースをたらふく食べ、親子を助けた充実感もあって、人間たちが食べているご馳走にも心は動かなかった。そんな満足感に包まれながら、あたいは自分の体からあるシグナルが発せられているのを感じ取った。それは――恐らく明後日あたりには化けられるという予兆。

そろそろ、都内に連絡を入れる時期かもしれない・・・。寝室にて、あたいはスキンケアをしている下僕一号のスマホを見つめながら、居候生活の二日目を終えた。

 

ーつづくー

 

 

384曲目の紹介

 

 

2024年最後にご紹介する曲はにゃんです

 

本曲はMARETUさんの作詞作曲による曲です

 

「猫のような性格」「ドロボウ猫」「猫を被っている」など、「猫」を含む言葉には、どれもあまり良い意味がありません。これは、古来から野性的で本能的な振る舞いをする猫と接した人々の印象が反映された結果なのでしょう。本曲では、そんな高ぶる本能的な衝動や子供じみた我が儘な振る舞いをする猫を、挑戦的かつ野心的な言葉遣いで表現しています。この曲を、初音ミクさんがキュートな猫なで声で歌い上げます。

 

本曲の題名である「にゃん」は、おそらくそのまま猫の鳴き声を表した言葉だと思われます。たった一言で共通のイメージを浮かべさせるこのパワーワードは、あえて「猫」と書かず「にゃん」と表現することで、猫の印象をより強烈に与える狙いがあるのではないでしょうか。

 


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本曲を聴くと、猫耳姿で挑発的な表情をしているミクさんの姿が思わず浮かんできますw。曲中の歌詞はあえて直接的な「猫」という言葉を避けていますが、不思議と曲全体から猫らしい仕草が感じられ、聴いているうちに「これはまさに猫だなあ・・・」と思ってしまいますねw。

 

本曲「にゃん」は、聴き手に猫らしい本能的な仕草を思い浮かべさせ、猫好きならほっこりと癒され、猫好きでない人でも新たな扉を開き、思わず猫好きになってしまうような大変素晴らしい曲です。肌寒いこの季節、人肌よりもモフ肌の温もりを求めているそこのあなた! 本曲を聴けば、お手軽に猫と触れ合う気分を味わえます。本動画を視聴して、精神的なモフモフ体験を楽しんでみてはいかがでしょうか?

 

お借りしたMMD 

Tda様より

Tda式初音ミクV4XVer1.00

 

文書校正   チャットGPT

 

クリプトン・フューチャー・メディア様より

ec.crypton.co.jp

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