皆さんは普段どれだけ怒っていますか?「怒るなんてかっこ悪い、みっともない」というように、怒ることにデメリットを感じる人も少なくないかもしれません。
でも、「怒る」という感情を持つことは、ネガティブなことばかりではありません。
「怒り」はうまくコントロールすることで、エネルギーやモチベーションに変えることもできるのです。それが「アンガ―マネジメント」です。
今回は日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さんによる講演・ワークショップから、それらのエッセンスを紹介したいと思います。
目次
怒りのメリット、デメリットとは?
▲一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事 安藤俊介さん
怒りの感情コントロール専門家。「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。日本人としてはじめてのナショナルアンガーマネジメント協会、アンダーソン&アンダーソン、MFTNY公認のアンガーマネジメントファシリテーター。ナショナルアンガーマネジメント協会では、1000名以上在籍するアンガーマネジメントファシリテーターの中で15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アメリカ人以外では唯一として登録されている。著書に『この怒り 何とかして!!と思ったら読む本』『イラッとしない思考術』『怒りのマネジメント術』など。
まず、怒ることのデメリットを考えてみましょう。おそらく、「あとで後悔する」「相手と気まずくなる」など、メンタル面を挙げる人が多いのではないでしょうか。でも実は、「身体に及ぼす悪影響」のほうがデメリットは大きいのです。体のあらゆる機能が落ち、通常の7~8倍くらいのダメージがあると言われています。
一方で怒ることのメリットは何でしょう。「すっきりする」「相手にはっきり意志が伝えられる」といったことがありますね。そして意外に思われる方もいるかもしれませんが、「モチベーションにつながる」というメリットがあるんです。
「くやしいから頑張る」「負けたくないから努力する」などの源となるアドレナリンは、怒りのエネルギーがないと生まれません。怒りが向上心を生むことも多々あるのです。青色発光ダイオードの発明でノーベル賞を受賞した中村修二さんが「自分のモチベーションは怒りだった」と言っていたのは有名な話ですね。
とはいえ、怒りをマネジメントするのは簡単なことではありません。それは普段使い慣れているか、そうでないかの違いです。たまに職場では怒ることを押さえてしまい、その反動で家庭で怒りやすくなっている人がいます。また、その反対のパターンの人もいます。
正解はありませんが、大切なのは怒るべきことは怒る、怒らなくていいことは怒らないようにすること。この線引きができることが重要です。「あのとき怒っておけばよかった」「あんなに怒らなくてよかった」…そんな怒りの感情で後悔しないように、アンガ―マネジメントを学んで、怒りを上手に表現できるようになりましょう。
怒りの「衝動、志向、行動」をコントロールする
さて、怒りの感情をコントロールすることは、なぜ難しいのでしょうか?
その理由は「教育として受けたことがないから」です。おそらく誰もが「怒ってはダメ!」といったしつけは受けたことがあるでしょう。でも、「知っている」と「理解する」ということは違います。教育としてきちんと理解できているかどうかで全然変わってくるのです。
例えば、「薔薇」という文字は読める人は多くても、書ける人は少ないのではないでしょうか。「ドラえもん」は誰もが知っているキャラクターですが、絵を描いてみてと言われてもなかなか描けませんね。しかし、技術を学んで練習すればうまくなります。
怒りの感情は誰もが持っているもの。怒りは伝達手段であり、防衛感情とも言われています。動物は敵に攻撃されたとき、生き延びるためにどうするかというと、逆に襲いかかるか逃げるかだけ。その行動は体がリラックスしていたらできません。筋肉を緊張させて、逃げるか襲いかかるかを体に選択させるための命令が怒りという感情。怒りとは身を守る必要なものなのです。
だから、怒りの感情をなくすとか押さえ込むことはやめましょう。怒りの感情自体は悪いものではないのです。まずはそれを理解し、怒りをコントロールする技術を身に付けることが大事です。
強度・持続性・頻度・攻撃性…問題となる4つの怒り
怒りにもさまざま性質があります。問題となるネガティブな怒りの感情としては、以下の4つが挙げられます。
- 強度が高い…激高して怒ってしまう。一度怒り出すと止まらない。
- 持続性がある…いつまでも怒り続ける。根に持つ。
- 頻度が高い…しょっちゅうイライラする。カチンとくることが多い。
- 攻撃性がある…他人を傷つける。自分を傷つける。モノを壊す。
怒りには持続性があり、長いと一生、宗教戦争のように世代や時代を越えることもあります。ストーカーなどは怒りの感情がこじれてしまった現象とも言えます。
怒りは第二次感情と呼ばれています。人間の感情をコップに例えてみましょう。その中に「さみしい、つらい、悲しい、不安」といったネガティブな第一次感情がたまり、それが何かのきっかけであふれると、怒りという第二次感情に変わります。怒りやすい人とそうでない人の違いは、コップの大きさの違いです。
怒りは仕組みさえ知っていれば、こわくはありません。世の中は理不尽なことや不条理なことも多いので、怒りにくくなることも大事ですが、怒られ慣れたほうが絶対楽です。いちいち気にしていたら大変。メンタルを鍛えていきましょう。
アンガーマネジメントのカギとなる「3つの暗号」
アンガ―マネジメントには、「衝動のコントロール」「思考のコントロール」「行動のコントロール」という、3つの暗号があります。この3つの暗号について、それぞれ解説していきたいと思います。
【①衝動のコントロール】最初の6秒をやりすごす
まずは、怒りの感情のピークである「最初の6秒をやりすごす」ということ。人は怒ったときに最初の6秒でアドレナリンが強く出ると言われています。だから、このコントロールできない6秒という時間をやりすごせば、だいたいなんとかなります。
イラッとしたりむかつくことがあったら、指でそのことを書いてみましょう。体を使って待つことを覚えるのが一番効果的です。慣れてくれば頭の中で待つのもいいのですが、体で作業して待つほうが効きます。
次にその怒りに、0は穏やかな状態、10は人生最大の怒りというふうに10点満点の点数をつけてみます。点数をつけることで冷静になれるし、対処法が考えられる。これがアンガ―マネジメントの第一歩です。
さらに、怒りの表現方法、ボキャブラリィを増やすこと。最近の子供は怒りに関するボキャブラリィが「ヤバい」「キレる」「ふつう」の3つしかないと言われています。何があってもたいがい「ヤバい」という言葉で表現し、その範囲を超えると「キレる」という言葉を使う。その言葉通り、行動もキレやすくなります。言葉で表現できないと行動で示してしまうのです。
怒りを表現する言葉のボキャブラリィが3種類しかなければ、怒りは3種類でしか表現できませんが、種類の数が増えれば表現方法も広がります。以下の例に挙げたように、怒りを表現する言葉は数多くあります。怒りを表現するボキャブラリィを増やすことで、コミュニケーションを円滑にすることが可能となります。
【②思考のコントロール】「べき」の境界線を広げる
自分が怒っていても相手に伝わらないことは多々あります。それは、自分と相手との言葉に対する温度感が違うからです。コミュニケーションする相手と言葉のラベルに対しての共通認識を整えておく必要があります。
私たちは自分が考えるこうある「べき」という考えに対して、相手とのギャップができると人は怒りを感じます。例えば、夫は手伝ってくれる「べき」、子供は宿題をやる「べき」など。すべて「べき」に対して怒っていると考えると説明ができます。「べき」とは、私たちを怒らせるものの正体であり、自分の願望・希望・欲求を象徴する言葉です。自分の「べき」は何か、相手が思う「べき」は何か、周囲の「べき」を理解しておくと、相手の怒りが理解できるようになります。
世の中の「べき」は信じている人にとってはすべて正解なのですが、状況によって変わってきます。小さいときは「誰にでもきちんと挨拶すべき」と教えられてきたけど、都会では「知らない人に声をかけたら危ない」と言われます。小さいときのべきをかたくなに大人になってから守り続けてもつらいですよね。
怒る必要があることと、ないことを区別する。それがアンガーマネジメントです。怒って後悔するなら怒らないほうがいいですよね。そのためには、自分と相手のべきの境界線を知ることです。簡単にそれをチェックできる方法があります。三重丸を書き、相手と「1.自分と同じ」「2.少し違うが許容可能」「3.自分と違うので許容できない」を同時に指し示してみます。
例えば、みんな時間を守るべきだと考えていると思いますが、実際に10時集合と言われたときに、何時に来る「べき」かは、人によって感覚が違います。ある人は10分前、ある人は時間ぴったり、ある人は5分くらい遅れても許容範囲だったりします。気が早い人、のんびりしても怒らない人、べきは同じなのに、その感覚は人によって違うのです。また、日によって気分や機嫌が変わり、許容範囲が変わることもあります。
その感覚の差が理解できないと永遠に話が合いません。だったら、価値観を一緒にすればいいと思いがちですが、世の中すべてが同じ価値観だと社会が成り立ちません。
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違う価値観を持った人を許容できるようになることが望ましいのですが、自分の許容範囲は他人には見えないし、他人の許容範囲も見えません。だからこそ自分の許容範囲を広げる努力をし、かつ人によって境界線を変えてはいけません。
具体的には「そもそも」「ちゃんと」「しっかり」という言葉を使わない、相手に「せめて」「少なくとも」「最低限」どうしてほしいかを具体的に伝えることが挙げられます。
【③行動のコントロール】できるものだけコントロールする
怒りの感情は身近にあることほど大きいといわれています。皆さんが、最近「怒ったこと」を以下の表の4つのカテゴリでどこに当てはまるか考えてみてください。怒ったことに対して、「いつまでに」「どのように」「どのくらい変わったら」自分が気が済むがを決めておけば、怒りをコントロールすることができます。しかしそれが決められないと、ずっとイライラし続けます。
怒ることで変えられるならばコントロールすべきです。しかし変えられないことや、コントロールできないことや、重要でないことはほっておいていいのです。問題は重要だけど、自分では変えられないし、コントロールできないこと。例えば、急いでいるときに渋滞にはまったとしても、自分では渋滞をどうすることもできませんよね。そのときは現実を受け入れて、自分でできる選択肢を探すこと。例えば行き先に連絡したり、音楽を聴いて気を紛らわせることですね。自分が変えられないことは、受け入れる。そして「あきらめる」「がまんする」という表現は使わないこと。よけいイライラします。人生にはそういうことがあるんだと、受け止めるだけでいいのです。
「怒り」をコントロールするアンガーマネジメントまとめ
アンガーマネジメントとは、できることとできないことを選別して、できることは努力する、できないことはそれを受け入れる勇気を持つこと。怒ってしまったら、上記で述べたように以下の順番で行動すればコントロールすることができます。
- 手のひらに書く
- 6秒待つ
- 三重丸を書く
- 怒らなくていいことは怒らない
- 怒るなら制御する。ただし念じない
怒りは身近な対象者ほど強くなり、高いところから低いところへ流れる伝染しやすいエネルギーです。アンガーマネジメントができるようになると、自分で解決できるので人に連鎖しにくくなります。一方でエネルギーにも変えることもできる。ぜひ、毎日少しづつでもトレーニングしてみてください。
>>安藤俊介・澤円・野呂エイシロウがアドバイス!仕事に活かせるアンガーマネジメント【後編】に続く
取材・文:馬場美由紀 撮影:刑部友康
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