宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2025年度の打上げを予定している「革新的衛星技術実証4号機」。その一端を担う、「小型実証衛星4号機」(RAISE-4)の完成機体が、10月10日に筑波宇宙センターで報道関係者向けに公開された。

  • 筑波宇宙センターで報道関係者向けに公開された、「革新的衛星技術実証4号機」の一端を担う「小型実証衛星4号機」(RAISE-4)の機体

    筑波宇宙センターで報道関係者向けに公開された、「革新的衛星技術実証4号機」の一端を担う「小型実証衛星4号機」(RAISE-4)の機体

  • 軌道上のRAISE-4のイメージ

    軌道上のRAISE-4のイメージ

RAISE-4 + キューブサット8機からなる「革新的衛星技術実証4号機」

革新的衛星技術実証4号機は、JAXAが提供する「革新的衛星技術実証プログラム」の4回目の実証機会として打ち上げられる人工衛星群を指す。8つの実証テーマを搭載したRAISE-4と8機のキューブサットをあわせた、計9機の衛星(16の実証テーマ)で構成しており、これをまとめて“革新的衛星技術実証4号機”と呼称している。

  • 革新的衛星技術実証4号機の概要

    革新的衛星技術実証4号機の概要

今回、JAXAが機体公開したRAISE-4では、同プログラムで公募・選定された8つの機器の実証テーマを軌道上で実証する。10月10日の記者会見では、実証テーマ提案者である8つの企業から担当者が1人ずつ登壇し、それぞれの実証内容やその意義について説明した。

  • 記者会見場に展示されていた、「小型実証衛星4号機」(RAISE-4)の1/10スケールの模型

    記者会見場に展示されていた、「小型実証衛星4号機」(RAISE-4)の1/10スケールの模型

  • RAISE-4の概要

    RAISE-4の概要

実証テーマ提案者と実証テーマの名称は以下の通りで、軌道上ではそれぞれ実証のためのスケジュールが割り当てられる。最終盤では、アクセルスペースが空気抵抗を利用して運用終了した衛星を大気圏に突入させるために開発した、デオービット機構「D-SAIL」の実証を行うことになっている。各テーマの詳細は追ってレポートする。

  • NTT:衛星MIMO技術を活用した920MHz帯衛星IoTプラットフォームの軌道上実証
  • 三菱電機:民生用GPUの軌道上評価およびモデルベース開発
  • Pale Blue:水を推進剤とする超小型統合推進システム軌道上実証
  • 高橋電機製作所:小型衛星用パルスプラズマスラスタ(PPT)の軌道上実証・性能評価
  • アクセルスペース:超小型衛星用膜面展開型デオービット機構の軌道上実証
  • サカセ・アドテック:Society 5.0に向けた発電・アンテナ機能を有する軽量膜展開構造物の実証
  • マッハコーポレーション:次世代高性能CMOS撮像素子の軌道上実証
  • 三菱重工業:次世代宇宙用MPUを活用したオンボードAI物体検知及び検知精度向上の軌道上実証
  • RAISE-4の実機。手前の各種機器が取り付けられた面が、地球側を向くかたちとなる

    RAISE-4の実機。手前の各種機器が取り付けられた面が、地球側を向くかたちとなる

  • RAISE-4に取り付けられた各実証テーマの機器の配置一覧

    RAISE-4に取り付けられた各実証テーマの機器の配置一覧

このほか、東京科学大学「OrigamiSat-2」など8つのキューブサット(8テーマ)の軌道上での実証も、個別に行われることになる。キューブサットの提案者と実証テーマの名称は以下の通り。

  • 名古屋大学:回転分離を用いた超小型衛星の編隊形成
  • 米子工業高等専門学校:超高精度姿勢制御による指向性アンテナを搭載した海洋観測データ収集衛星の技術実証・持続可能な宇宙工学技術者育成とネットワーク型衛星開発スキームの実証
  • 早稲田大学:衛星筐体の一体成型技術の実証
  • 未来科学研究所:CubeSat搭載用マルチスペクトルカメラの技術実証
  • 東京科学大学:折り紙構造による超高利得展開リフレクトアレーアンテナ技術の宇宙実証
  • 大日光・エンジニアリング:超小型宇宙機用インテリジェント電源ユニットの軌道上実証
  • 日本大学:地震先行現象検知による確率地震発生予測実証CubeSat
  • 青山学院大学:ARICA-2による民間衛星通信を利用した突発天体速報システムの実証実験

失われた「革新的衛星技術実証3号機」以来、3年ぶりの実証へ

JAXAの革新的衛星技術実証プログラムは、国際競争力強化や宇宙産業活性化、ビジネス促進、人材育成などを目的とし、大学・研究機関・民間企業などに宇宙実証の機会を提供するもの。これまでは単独での実証が難しかった部品や機器の実証もできることを特徴としている。

同プログラムは、2年に1回というペースで打ち上げ実証を行う枠組みになっているが、ひとつ前の「革新的衛星技術実証3号機」を宇宙へ運ぶはずだったイプシロンロケット6号機が、2022年の打ち上げで軌道投入に失敗したこともあり、今回は3年ぶりの実施となる。

  • 軌革新的衛星技術実証3号機の概要。イプシロンロケット6号機の打ち上げ失敗により、これらの実証機会は失われてしまった

    軌革新的衛星技術実証3号機の概要。イプシロンロケット6号機の打ち上げ失敗により、これらの実証機会は失われてしまった

イプシロンロケット6号機の打ち上げ失敗で、3号機の実証機会も同時に失われてしまったため、今回の4号機は希望のあった実証テーマの再チャレンジが多くを占め、8機器のうち実に6機器が再チャレンジ(改良含む)となる。

短期・低コスト開発と信頼性確保の両立は、小型実証衛星にとって重要な開発課題だ。RAISE-4では、失われたRAISE-3のリピート開発を前提に、システム設計を早期に確定し、システムでの試験・検証期間を最大限確保して信頼性向上に取り組んだという。

RAISE-3からの主な変更点として、実証テーマ機器の数が7から8へと増えており、うち新規機器は2つ。これは余剰スペースに搭載することで対応した。また、投入軌道(降交点通過地方太陽時)も15:30へと変更したため、放熱面の見直しを行っている(RAISE-3の投入軌道は10:30を予定していた)。

打ち上げロケットはイプシロンS→エレクトロンに変更

革新的衛星技術実証4号機を打ち上げるロケットが変更された点も、注目ポイントのひとつといえる。

革新的衛星技術実証4号機(9機の衛星)は当初、イプシロンSロケットでまとめて打ち上げる予定だったが、2024年11月の第2段モータ再地上燃焼試験時の燃焼異常事象により、2025年度内のイプシロンSの打ち上げは困難となった。

JAXAで実証テーマ機関への影響を調べたところ、2026年度以降になると実証の意義・価値に影響が出ることが分かったため、打ち上げるロケットを米Rocket Labの「Electron」(エレクトロン)に変更。まずRAISE-4を宇宙に送り出し、続いて8つのキューブサットをまとめて打ち上げることにした。

  • 革新的衛星技術実証4号機の打ち上げは、米Rocket Labの「Electron」(エレクトロン)ロケットを使い、2度に分けて宇宙へ運ぶことになった。なお今回のプロジェクトとは別枠の、QPS研究所の衛星がイプシロンSロケットに相乗りする予定だったが、こちらもエレクトロンロケットでの打ち上げに変更されている

    革新的衛星技術実証4号機の打ち上げは、米Rocket Labの「Electron」(エレクトロン)ロケットを使い、2度に分けて宇宙へ運ぶことになった。なお今回のプロジェクトとは別枠の、QPS研究所の衛星がイプシロンSロケットに相乗りする予定だったが、こちらもエレクトロンロケットでの打ち上げに変更されている

RAISE-4の打ち上げは、11月25日から12月24日のあいだに実施する予定だ。エレクトロンロケットでニュージーランド・マヒア半島 第1発射施設から打ち上げ、高度540kmの太陽同期軌道へ投入。ミッション期間は初期運用2カ月、定常運用13カ月となっている。8つのキューブサットについては、2026年の1〜3月にかけて、同じロケットと射場で打ち上げる。いずれも具体的な打ち上げ日や時間帯等については確定次第、公表するという。

  • 革新的衛星技術実証4号機の打ち上げの詳細

    革新的衛星技術実証4号機の打ち上げの詳細

RAISE-4は三軸姿勢制御方式で、地球指向や太陽指向といった姿勢制御を行う。同機には、Pale Blueによる水を推進剤とする超小型統合推進システム「KIR-X」と、高橋電機製作所による小型衛星用パルスプラズマスラスタ「TDS-PPT」というふたつの推進系の実証機器を積んではいるが、これらはあくまで実証のために用いられるとのこと。

  • RAISE-4の諸元

    RAISE-4の諸元

JAXA 研究開発部門で超小型・小型衛星宇宙実証研究ユニットのユニット長を担当する小松雄高氏は、打ち上げロケットの変更について報道関係者からの質問に応えるかたちで、「本来このプログラムは日本の基幹ロケットを優先する方針だが、今回のミッションは各者の実証の価値を最大限発揮することが1番の目的。なるべく早期に実現するための最適な手段を検討した結果、エレクトロンロケットで打ち上げるという判断になった」と説明。

ロケット変更による計画への影響は避けられないが、衛星の設計を大幅に変更せず、試験検証の部分だけで対応できるようにすることも考慮したうえで、今回のロケット選定に至ったとのこと。コスト面についても全体では大きく変わらないよう調整した、と小松氏は述べている。ちなみに、打ち上げるロケットが変更になっても各衛星のミッションを確実に進められるよう、衛星の分離機構には実績のある海外からの購入品を使うことになるそうだ。

  • RAISE-4の開発状況

    RAISE-4の開発状況

  • 打ち上げのときを待つRAISE-4

    打ち上げのときを待つRAISE-4