Amazon Web Servicesジャパンは今年6月、年次イベント「AWS Summit Japan 2025」を開催した。同イベントでは、大和総研 金融システム事業本部 大和証券システム本部 リテールフロントシステム部 部長の久保諭史氏が「大和証券 CRMシステム刷新の勘所~大規模データベース移行と生成AI活用~」というタイトルの下、講演を行った。以下、同氏の講演をお届けする。

パブリッククラウドファーストを掲げた大和証券がAWSを採用した理由

大和総研 金融システム事業本部 大和証券システム本部 リテールフロントシステム部 部長 久保諭史氏

大和証券グループは2019年ごろから、クラウドサービスであるAmazon Web Services(AWS)の利用を開始した。2021年にオンライントレードの一部を移行するなど徐々に利用を進め、2022年にはCRMシステムも移行した。現在ではファンドラップシステムなどもAWSへ移行し、利用は拡大の一途をたどっている。

同グループのシステムを担当している大和総研は「他社に乗り遅れない」という考えから、システム導入時はパブリッククラウドを最初に検討するというパブリッククラウドファーストの原則を掲げている。また、システム開発から運用保守まで一貫したサービスを高いレベルで提供するために、パブリッククラウド上でも共通基盤を設計し、自由にシステムを構築することにより運用フェーズで問題が生じる事態を避ける考えがあった。

「パブリッククラウドファーストを掲げるにあたり、金融機関の導入実績が最も多かったことから、AWSと組むことを考えた」と、久保氏はAWS選定の理由について語った。

  • 大和証券グループがAWSを選択した理由

大規模CRMシステムの構築と刷新の歴史

大和証券のCRMシステムは約5000人の利用者、国内181店舗、320万のアクティブ口座を擁する大規模なシステムだ。株式、投資信託、債券、ラップ口座、保険などの商品情報を提供し、顧客の資産価値最大化という企業目標の下、進化してきた。

顧客情報は2000年まで口座設定書という形で基幹系システムに保存されていたが、支店管理は紙やExcelで行われていた。システム化のためのパッケージ導入が始まったのは2001年からだという。

「元々CRMシステムはあったが、『資産状況をもっと知りたい』『お客様との評価損益や実現損益も知りたい』といった要望が出てきた。2010年に続き、2022年に刷新することになった。この間の変化に対応するのが今回のプロジェクトのスコープ。オンプレミス構築していた環境をパブリッククラウドに移行することが一番の目玉」と久保氏。

2001年にパッケージソフトを導入。当時はWindows NTサーバを約20台利用し、データベースはメインフレームで運用していた。マシンの部品供給終了に伴って2010年にシステムを更改することになり、パッケージソフトの不自由さを解消するため、フルスクラッチで自由度が高いシステムとシンプルなシステム構成をコンセプトに刷新された。

「この時はJavaアプレットを使ったクライアントサーバの仕組みで導入したが、2022年に向かってIEの終了、Javaアプレットのサポート終了となり、更改しなければならなくなった歴史がある」と久保氏はAWS環境へ移行するに至った経緯を語った。

  • 大和証券のCRMシステムの概要

  • CRMシステムの歴史

CRM刷新プロジェクトで生じた課題

更改前のCRMシステムには、ビジネス面とシステム面の両方で課題があったという。ビジネス面では、従来の手数料型ビジネスから資産管理型ビジネスへと大きな変革があった。さらに、コロナ禍で営業活動も電話や訪問を中心としたものからTeamsやZoomを活用したWeb会議へと変わった。こうした変化からCRMシステムに求められる機能も変化していた。

「2010年に作られた単機能のシステムであったため、提案すべきものを調べるのに時間がかかる、情報量は多いが要約されておらずわかりづらいといった課題があった」と久保氏。

システム面では、Javaアプレットの保守終了でシステムが正常可動しなくなるという喫緊の課題があった。また、OSのバージョンアップと Internet Explorerの廃止を受けて、最新OSやEdgeでの動作保証も必要であり、さらにはディザスタリカバリへの対応も求められていたという。

「現在、営業担当者はスマートフォンやソフトフォンなど電話をかけていることもあり、CRMシステムがないと営業活動に支障を来す。災害が起きてもサービスを継続したいというニーズから、DRサイトの構築が必要だった」と久保氏は語った。

UI刷新とハイブリッドクラウド戦略により課題解決

システム更改費用の削減をしたいという要求もあり、すべての課題に対応する方法としてUI刷新とハイブリッドクラウド戦略が採用された。

最新環境で動作し、ビジネス面での課題にも対応できるソリューションとして、Angularを利用したWebアプリケーションを導入。営業ダッシュボードや顧客ダッシュボードを中心としたダッシュボード機能を提供し、営業担当者が活動実績、スケジュール、顧客の資産状況、アプローチ状況などを視覚的に把握できるよう改善している。また、UI/UXを分離することで、メンテナンス性の高い画面開発を実現した。

さらに、CRMシステムの主要機能のほとんどをAWS上に配置。電話連携機能はレイテンシーを考慮してオンプレミス環境に残すハイブリッドクラウド構成とした。DR対策としてマネージドサービスを中心とした構成を採用し、東京リージョンをメインサイト、大阪リージョンをDRサイトとする2拠点体制を構築している。

  • DR環境の構築

「AWSのマネージドサービスを使うことで、自分たちのメンテナンスや保守作業を軽減しようと計画した」と久保氏。

AWS上にVPCを構築し、Webサーバ群はAmazon Elastic Container Serviceを使ってコンテナ化。APサーバサービスを提供している。データベースサーバには、リードレプリカによる容易なスケールアップ、DMSやSCTといったツールによるマイグレーションの容易さ、ライセンスコストの削減からAmazon Aurora PostgreSQLを選定した。

バッチサーバのオンデマンド処理にはAWS Lambda、旧来のデータロード処理にはAmazon EC2を利用している。CI/CDを活用し更改後のビルドから本番資産リリースにかかる時間を7.5時間から3時間へ短縮することにも成功したそうだ。

  • マネージドサービス中心の構成

  • CI/CDの活用