東京大学(東大)は2月27日、世界各地の地層から産出した化石骨格の姿勢の比較解析を行い、鳥類の翼の前縁に張った膜状構造「前翼膜」は、恐竜の「マニラプトル類」で進化し、それが子孫の鳥類へと受け継がれて翼となったことを見出したと発表した。
同成果は、東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻の宇野友里花大学院生、同・平沢達矢准教授らの研究チームによるもの。詳細は、動物学に関して分類学からバイオインフォマティクスまで幅広い分野を扱うオープンアクセスジャーナル「Zoological Letters」に掲載された。
鳥類は、およそ1億5000万年前(中生代ジュラ紀末期)までに、恐竜から進化したことがわかっている。そしてこれまでの研究から、祖先である恐竜の段階で羽毛や鳥類型の呼吸器(気嚢系)などがすでに進化していたことが見出されている。
一方、中生代(三畳紀~ジュラ紀~白亜紀、約2億5190万年前~約6600万年前)に生息していた初期の鳥類では、翼の先端にカギ爪が生えた3本の指があり、羽ばたき飛行の際に肩関節の動きを補助する靭帯はまだ発達していなかったことが確認されている。近年このように、鳥類の身体構造が、恐竜から初期鳥類にかけて徐々に進化してきたことについての研究が進展している。
鳥類の翼が進化する中で新たに獲得された構造(進化的新規形質)の1つに、前翼膜がある。この前翼膜は、翼の前縁に張った膜状の構造であり、その内部には肩と手首を結ぶ筋肉「前翼膜筋」がある。この前翼膜筋は、肩関節、肘関節、手首関節の3つの関節をまたぐ筋肉であり、脊椎動物の手足の筋肉としては非常に珍しいものだという。実際、現存する脊椎動物の中には、このような前翼膜および前翼膜筋を持つものは鳥類以外にはいないことがわかっている。
このことから、前翼膜は恐竜から鳥類へと進化する過程のどこかで獲得された進化的新規形質と推測されていた。ところが、筋肉や腱などは軟組織であり、通常は化石として残らないため、あまり研究が進んでいなかったという。ただし例外的に、軟組織の痕跡も残っている非常に保存状態の良い化石も発見されており、前翼膜のような構造を持つ恐竜の化石として2例が知られていた。しかし、それらが鳥類の前翼膜と同じものであるかどうかについては、これまで証拠がなかったとする。