数々のドラマ・映画・舞台に出演し、NHK連続テレビ小説『あんぱん』で主人公の母役を好演したことも記憶新しい江口のりこ。10月11日に開幕する舞台『また本日も休診 山医者のうた』では、山中で一人暮らしをしている村人・民代を演じる。主演は、自身が所属している「劇団東京乾電池」の座長である柄本明だ。江口にインタビューし、本作への意気込みや、劇団東京乾電池への思いなどを聞いた。
見川鯛山氏による『田舎医者』シリーズを原作とする同舞台は、那須高原の山奥にある診療所で、医師・見川鯛山(柄本明)が村人たちと繰り広げる日常を描く物語。2021年上演の『本日も休診』から装いも新たに、2度目の舞台化を果たす。今回は、前作からの続投となる柄本、佐藤B作、笹野高史に加え、渡辺えり、江口らが加入する。
江口は、オファーを受けたときの心境を尋ねると、「明治座だったり博多座だったり、歴史のある劇場で芝居ができるというのはうれしいなと思いましたし、脚本・演出の田村(孝裕)さんとは10年以上前にご一緒させていただいたことがあって、また一緒にできるというのもうれしかったです。あと、喜劇の大先輩方たちとご一緒できるというのもすごく魅力的だなと思いました」と明かした。
江口が演じるのは、他人とのコミュニケーションが苦手で、山中で一人暮らしをしている村人・民代だ。
「とてもほんわかとして温かく柔らかいお話なので、自分もその一員としてやっていけたらいいなと思っています。一癖ある役ですが、村人との交流のシーンもありますし、面白くやれたらいいなと。笑えるところもたくさんあるので、そういうところはちゃんと、楽しんでもらえるようにしていけたらと思います」
所属する東京乾電池の座長である柄本明が主演を務めるが、江口は「柄本さんは私の芝居の先生でもあるので、先生がそばにいるというのはやりづらいですよね(笑)」と率直な思いを吐露しつつ、「勉強になることがたくさんあると思うので、しっかりやっていけたらと思います」と意気込む。
2000年に東京乾電池に入団してから今年で25年となるが、入団したいと思ったきっかけを尋ねると、「その頃、日本映画をよく見ていて、よく柄本さんやベンガルさんが出演されていたので、乾電池に入ったら何かいいことがあるんじゃないかと思いましたし、岩松了さんの戯曲を読んで面白いと思い、岩松さんがいたところだからきっと面白い劇団なんだろうと思って入りました」と明かした。
「芝居って面白いな、楽しいな」と感じる瞬間を明かす
劇団で柄本から教わったことは「企業秘密です」としつつ、劇団での日々が自身の礎となっているという。
「初めて芝居を教わったところが東京乾電池で、今も所属しているので、影響を受けているところがすごくあると思います。乾電池に入ったからこそ、芝居ってこんなに面白いものなんだと思えましたし、こうやって仕事が広がっていき、そのきっかけを作ってもらえた場所なので。私が違う劇団に入っていたら、今、全然違う芝居をしていると思いますし、そこで最初に芝居を習った影響は大きいと思います」
さらに、「自分の仲間というものもできて、大切な場所です」と劇団への思いを語る。
東京乾電池で育ち、いまや数々のドラマ・映画・舞台で活躍する存在となった江口。役者として大切にしているモットーを尋ねると、「特にないですけど、与えられた仕事をちゃんと責任持って一つ一つやっていく。それだけです」と答えた。
そして、こうなっていきたいという目標や願望はないとのことだが、「芝居は自分にとって社会とつながる手段でもあるので、ずっと続けていきたいです」と語る江口。
芝居が楽しいという瞬間は「自分でも聞いたことないような声が出たりするとき」だという。
「私たちは、『この役だからきっとこういう声を出すのかな』『このシーンはこういう感じかな』と頭の中で考えて演じているわけですが、そういう戦略なしにポンと出るときがたまにあるんです。それは芝居がとてもうまくいっているときだと思いますが、そういうときに、芝居って面白いな、楽しいなと思います」と話していた。
『また本日も休診 山医者のうた』の福岡公演は10月11日~15日に博多座にて、東京公演は10月23日~11月2日に明治座にて、宇都宮公演は11月6日に栃木県総合文化センターにて、山形公演は11月22日にやまぎん県民ホールにて上演。
1980年4月28日生まれ、兵庫県出身。2000年に東京乾電池入団。2002年、『金融破滅ニッポン 桃源郷の人々』で映画デビュー。2004年、『月とチェリー』で映画初主演を務め、注目を集める。その後、ドラマ、映画、舞台など、多くの話題作に出演し活躍の場を広げている。2021年、『事故物件 恐い間取り』で第44回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞、2025年、『愛に乱暴』で第38回高崎映画祭最優秀主演俳優賞を受賞、2024年『リア王』、『ワタシタチはモノガタリ』で第75回芸術選奨文部科学大臣新人賞を演劇部門で受賞。主な出演作に舞台『パラサイト』、映画『愛に乱暴』、『あまろっく』、『お母さんが一緒』、連続テレビ小説『あんぱん』などがある。