NATROMのブログ

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二重盲検法でオーリングテストの効果を実証したと称する「文献」を読んでみた

オーリングテストはもはや由緒正しいニセ科学と言っていいだろう。指をアルファベットの"O"の字にして指が離れるのに抵抗する力から、薬を選んだり、病気を診断したりできると主張されている。詳細は■『謎解き超科学』のナカイサヤカさんの『「オーリングテスト」とはなにか?【筋肉の反応でなんでもわかる診断法】』の章か、拙著■『「ニセ医学」に騙されないために』の「オーリングテストは科学的? 」の章を参照していただきたい。

オーリングテストが機能することを証明するには二重盲検法による検証が必要である。たとえば、すでに対象となる患者の胃が悪いことを試験者が知っている場合、意図的にあるいは無意識に、胃を指したときに指が離れるようにしてしまうかもしれない。あるいは被験者が知らなくても患者の反応を読み取れば同じことが起こりうる。意図的/無意識に筋肉を動かすことによって、超能力のように未知の情報がわかるように見えてしまう現象は、「こっくりさん」やダウジングと同じ原理である。二重盲検法によってオーリングテストが機能することを証明した研究はほとんどない。

オーリングテストを信じている論者が「こちらの知る文献では、2重ブラインドテストで効果か実証されてます」*1と出してきた「文献」がひどかった。



■O−リングテスト反応の意味とスタンダード医学検査の比較



タイプ1エラーだってあるから、中にはオーリングテストが有効であったことを示す二重盲検試験の結果があってもおかしくはないのだが、それにしてもこれはひどい。日本補完代替医療学会の学術集会のシンポジウムの抄録のようである*2。他にもホメオパシーのシンポジウムも行われていた。

人間ドックの結果とBDORT(バイ・ディジタルO−リングテスト)の結果を突き合わせることで、オーリングテストを検証しようという趣旨はよろしい。ただし、上記したような理由で二重盲検下で行うことが望ましい。この文献では英文部分では"double blind check between BDORT and Standard Laboratory Test"(BDORTと標準的臨床検査の間の二重盲検チェック)とあるが、日本語部分に盲検についての記載がない。盲検化の方法について詳細な記載がないとかではなく、盲検にしたかどうかの記載すらないのだ。どういうこと?

試験者を盲検下に置くのは比較的容易だが、患者(被験者)を盲検下に置くのはどうやったのだろう?人間ドックの結果を開封せずにオーリングテストを受けてもらったのだろうか。それともオーリングテストを受けてから人間ドックを受けた?どちらにしろいろいろと問題があるけど、詳細は不明である。

結果もすごい。


【結果】
BDORT による異常出現率の高いものは、大腸(82%)、前立腺(70%)、心臓(65%)だった。スタンダード医学検査による健康診断(人間ドック)による異常出現率は肝臓(61%)、胃(55%)、心臓(45%)に高かった。

これだけ。オーリングテストは機能してないじゃん。オーリングテストで「大腸が異常だ」と指摘された人の多くが標準的臨床検査では大腸の異常を指摘されていないわけでしょう。だいたい、感度(標準的臨床検査の陽性者の中のオーリングテスト陽性者の割合)とか特異度(標準的臨床検査の陰性者の中のオーリングテスト陰性者の割合)とかを出してないのはどういうことですか。感度と特異度の数字を出すとオーリングテストが役に立たないのがばれてしまうからか、論者が感度と特異度の重要性を理解していないのか、どちらかまたは両方であろう。

結論もすごい。


【結論】
BDORT で異常なしとした中で、人間ドックで異常が発見される割合が極めて低い傾向にあった。また、BDORT で異常を早期に発見するので、著者がガンの自然史で発病予測をするように、ガンが発見されるまで5〜10 年かかる。定期的に BDORT で検査して異常なしとなるようにしていれば、病気に罹患する確率が低いといえる。BDORT の診断・治療及び有効薬剤の決定方法等についても解説する。

「BDORT で異常なしとした中で、人間ドックで異常が発見される割合が極めて低い傾向」とあるけど、具体的な数字は示されていない。【結論】で言及するなら【結果】に記載しなければならない。それに、有意差検定がされているかどうか不明である。「BDORTで異常ありとした中で人間ドックで異常が発見される割合」との比較をすべきである。

「ガンが発見されるまで5〜10 年かかる」という部分は、おそらくは「オーリングテストで異常あり、人間ドックで異常なしだとしても、オーリングテストが間違っているのではなく、5〜10年後にがんが発見されるのかもしれない」と言いたいのであろう。以前、■高価な「先端医療検査」の実力は?でも指摘したが、インチキ検査の常套手段である。インチキ検査で「異常」が出なくなる治療とセットになっていることが多い。

「定期的に BDORT で検査して異常なしとなるようにしていれば、病気に罹患する確率が低いといえる」と言いたいのであれば、「定期的にBDORTで検査して異常なしとしている群」と「そのような処置を行っていない対照群」を5年から10年間追跡して、病気に罹患する確率を比較しなければならない。そのような研究をしていない以上「病気に罹患する確率が低いといえる」と結論で述べてはいけない。

以上のように、この「文献」は医学生のレポートの水準にも達していないが、なんと「日本バイ・ディジタルO−リングテスト協会副会長」によるのだそうである。自分たちで作った学会内で発表したり論文にしたりすることで、お墨付きがあるかのように誤認させるニセ科学があるので注意する必要がある。


*1:URL:https://twitter.com/ahare_asayaka/status/916254369632231425

*2:URL:http://www.jcam-net.jp/data/2010.html