キャラメルヤクザ再び

田中義剛出演「ソロモン流」がもう、たまらない。


北海道民にとっての田中義剛とは何か。それは「一応道民なのに道民扱いされない、したくない“逆名誉道民”」に他ならない。地場産業を盛り上げて北海道に多大な貢献をしているにも関わらず、道民から尊敬もされず、親しみも持たれない。それが田中義剛という男。詰まるところ誰も義剛にそこまで興味がないのでそれ以上深く考えないだけなのだが、自称「義剛ウォッチャー」であるわたくしハトヤは、義剛のドキュメント番組での振る舞い、発言を極力チェックしていき、義剛を義剛たらしめている要素を十分に堪能し、唾棄したいのだ。変わった性癖と言われても仕方がない。


今回の「ソロモン流」でも、十分に義剛イズムを堪能できた。話は7年前の「生キャラメルバブル」前夜の取材から遡る。あれから7年、バブルは過ぎ去り「花畑牧場」は、今の義剛はどうなっているのかというのがテーマだ。まず番組が手を付けたのは「花畑牧場は大丈夫なのか」というところ。一時期あれだけ鬱陶しく、いや華々しく存在していた「花畑牧場ショップ」は軒並み閉鎖し、生キャラメル以降花畑牧場の名前も義剛のメディア露出も減った。経営は大丈夫なのか、という切り口。しかし経営は意外にも(と言っていいのか)堅調らしく、物流も自社で管理するようになったりと、「経営」という面で進化しているようだ。


いやまあ放送されたことは事実なのかもしれないが、自分は「おうおう、言い訳がましいのう」と素直に思った。その最たる部分が「年商非公開」の部分だ。義剛曰く「年商○○億円の社長」と言われることが嫌になった、らしいが、ウソだろう。単に過去の100億という年商が維持できず、数字で見劣りすることの斜陽感を表に出したくないだけだ。そのことを突っ込まれる前に自分から言い訳を作っておくあたりがいかにも義剛らしい。「年商○○億円の社長」と言われることがイヤな人間は、いくら取材だとはいえ牧場の普段着でグッチの黒いTシャツ着たりしないだろ。まあ義剛の私服のセンスは今に始まったことではないので、発言は本当かもしれないけど、どっちにせよ義剛イズムにあふれている。


「地元の産業、雇用の捻出」をうたっていたにも関わらず、従業員はパート含めて2000人いたものが今は300人に。結局生キャラメルバブルだっただけで、地元の雇用を請け負うまでには至らなかったようだ。「従業員は家族だと思って」みたいなことをインタビューで語っていたが、ずいぶんと多くの家族を切り捨てたもんだ。仕方ない部分はあるものの、そういう現実があるうえでそんな大仰なことを言うもんじゃないとは思う。


また、義剛ドキュメントでは毎度おなじみ「商品にダメ出しをする、品質に厳しい男義剛」は今回も健在。槍玉に上がったのはカチョカヴァロ(ひょうたん型のチーズ)の責任者。義剛がふらっと立ち寄った工場でダメ出し。ふらっと立ち寄った義剛がすぐ目につくほどのダメなものを量産している体制に問題があるのか、それとも義剛が不良品を隠し持っていたのかは分からない。ただ、100%出荷できるわけではない商品がひとつ目についたくらいで、義剛アピールの餌食にされてしまった責任者には心から哀悼の念を申し上げたい。*1


そんな「品質に厳しい男義剛」が今手掛けているのがモッツァレラチーズ。「モッツァレラを制するものは、日本中のチーズを制する」という爆笑名言も飛び出していた。で、とても柔らかいモッツァレラを作っているらしいが、その柔らかさの調整が難しいようだ。先ほどひとつの製品の欠陥にダメ出しをしていたが、ひとつどころか1割の廃棄製品が出ることに頭を悩ます義剛。「量産するためには経営手腕が試される」的なナレーションとともにCMへ。そしてCM明けで出てきた答えが「海外で使われている機械を購入する」だった。ズコー。品質にこだわってロスが出にくい調合法とか試すんじゃないのか。てか、それで済むんだったらもっと何か別の「いい方法」があったんじゃないのか。結果オーライだからそれでいいんだろうが、発想が安易。


しかしこの「発想が安易」は義剛イズムに共通するキーワードでもある。愛媛のアイスクリームをその場でつくる店を訪れては「うちでもやりたい」とすぐ飛びつく。たぶん半年後、夏には花畑牧場でアイス作ってるんだろう。「いいものは遠慮なくパクる」という生キャラメルから始まる理念は健在だ。海外進出も「(海外の)地元で採れたもので生産する」「プロデュース」なんてことを言っていたが、それはもう牧場の仕事じゃないけど、海外に販路を求めるのはいまどき正しくて、そして安易。そして安易だからこそ、現地の工場で「異物が混入しても分かるように手袋は青」だとか「ネックレスやイヤリングはしない」だとか、花畑牧場で常識になっている製造過程が現地に全く伝わっていない。誰も技術者や関係者を派遣していないんだろうか。あらゆる場所から漂ってくる「安易」の風。


結局キャラメルバブルの後の義剛も義剛でしかなかった。ブレてない。相変わらず嫌いになれる。自分も義剛も歳を取って、どちらかが丸くなっている可能性はあった。自分はこれでもだいぶ考え方が丸くなったと思ってはいるのだが、そんな自分がガンガン笑い飛ばせるくらいに義剛はブレてない。素晴らしい。


実はこの文章を書いている途中で一回全て消してしまい、かなりへこんだのだが、自分の指が止まることはなかった。素晴らしい推進力。こういうのがあるからテレビはやめられない。今後も定期的に放送を望むので、義剛はネタを切らさないようにしておいてほしい。

*1:もうひとつお馴染みの「俺が牧場を開いた理由」エピソードも健在。漁師になり亡くなった友人も、こんだけ義剛のダシにされるとは生前思っていなかっただろう。