俺のプログレ最強10選

 文学フリマ東京39の会場で配ったフリーペーパーのブログ記事版です。

 

 

 音楽ファンなら一度は夢想するはず。自分の考えるオールタイムベストアルバムみたいなの。そのプログレ版をやりました。こういうのはいつでも・何度でもやっていいのです。

 自分は別段プログレオタクというわけではないので、軽い気持ちで眺めて楽しんでいただければと思います。文章も、音楽性の説明というよりはただただ自分が書きたいことを書いたって感じになってます。

 順位はないです。選出基準は「自分の好み」と「作品の完成度」、そして「音楽性のユニークさ」かな。いつも通りではある。

 

 掲載順は発表年&アーティスト名順です。それではゴー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Pink Floyd『Atom Heart Mother(原子心母)』 1970年

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 このバンドには『狂気』という有名な作品があるが、そちらではなく本作を選んだ理由は単純にこちらの方が突き抜けた部分があるからだ。
 言葉の意味とイメージがちょっと事故ってる感じがあるが……本作B面の「のどかさ」はまさに突き抜けている。ここまで平和な音楽は他にない。それこそ一度ハマると抜け出せないような魅力がある。
 そののどかさを生んでいるのが環境音などを楽曲に取り込むミュージック・コンクレートの手法と繊細なプロダクションだ。つまりアンビエントとロックを折衷させたものであり、その点で本作はプログレッシブと言える。遠くから鳴らされるサウンドのなんと豊かなことか。Ernest Hoodはおそらく本作の音を聴いていたのだろう。

 

 

 

 

 

Frank Zappa『Waka/Jawaka』 1972年

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 ザッパはぶっちゃけ有名な作品はどれも良いのでなかなか一枚を選べない。本作を選んだ理由には多分に自分の好みが絡んでいて……つまり「入り組んだカンタベリーみ」と「のどかさ」である。
 ジャズあるいはクラシックをプログレの共通要素とするなら、プログレとしてのザッパの個性はブラック・ミュージックからの影響にあると言えるかもしれない。本作にもそれはもちろんあって、特に#2#3でからっとした、レイドバックしたサウンドが聴ける。
 数ある作品の中では毒やアクといったものが少ない、聴きやすい作品である。それでいて作曲はやはり一流で、最後のタイトル曲を筆頭に充実している。つまり「おいしいところだけを味わえる」という意味で入門としても機能する優れた作品である。

 

 

 

 

 

King Crimson『Lark's Tongues In Aspic(太陽と戦慄)』 1972年

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 現代音楽とヘヴィ・ロックの融合。なによりも全体の乾いたサウンドと無機的なフレーズが特徴で、両者が合わさって荒涼とした異様なムードが醸されている。どこの国の音楽か分からない。本当に似た雰囲気の作品が見当たらない。
 その極致がタイトル曲と「Easy Money」で、特に後者はリズムの抜き差し、シンコペーションのおもしろさとギターのイミフさが際立っている。なんなんだこの音楽は。
 #2#3はさすがに英国発と分かる抒情性があるのだが、サウンドが乾きすぎていてこれもまた異質に聴こえる。ジャケからの連想もあるけれど一人孤独に砂漠を旅しているような感じだ。
 天才にしか作れない作品な気がする。あまりに従来の価値観と違いすぎる。どこからこの音の世界観が生まれたのか分からない。居心地のよさなど微塵もない、荒れ果てたところから鳴らされている。

 

 

 

 

 

Mahavishnu Orchestra『Birds Of Fire』 1972年

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 バカテク&ハイテンションジャズロック。すべての楽器が燃えるようなパフォーマンスでぶつかり合う。プロレスを音楽にしたらこんな感じかも?
 聴いているとジャズとは(音で)ケンカすることが許された音楽フォーマットなんだなあと思う。ケンカをそのまま作品としてしまっていいんだ、という。
 とにかくみんながすごい勢いで高みへと昇っていく。聴き手はただその様を見守ることしかできない。唖然とするし、乾いた笑いも漏れる。真面目に聴いたらダイエットにも使えるかもしれません。熱すぎて。

 

 

 

 

 

Weather Report『I Sing The Body Electric』 1972年

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 親しみやすいフュージョンのグループとしても名高いが、活動初期は尖った……それこそプログレッシブな音楽を追究していた。
 電化ジャズの実験を推し進めた1stもいいが、ここではよりロック色の強まった2ndを挙げる。
 ECMの血を継いだ透徹な世界観の曲や、一転して超アグレッシブな(日本での)ライブパフォーマンスがある。なにより1曲目の「Unknown Soldiers」が凄まじい。他で聴くことのできない神秘的な世界が展開される。
 その意味を辞書通りに取るならば、今回挙げた中でももっとも「プログレッシブ」な作品の一つであり、聴いたことのないような音楽を求める向きにおすすめできる作品だ。

 

 

 

 

 

Yes『Close To The Edge(危機)』 1972年

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 いわゆる「プログレ」、その代表となる作品。プログレッシブ・ロックというジャンル/スタイルを掴みたいときはコレとクリムゾンの1stを聴けばいい。
 個性的すぎるプレイヤーたちがぶつかる独特なアンサンブル(ある意味ザッパとは対照的?)とパストラルな歌心がバンドの特徴。その上で楽曲のスケールの大きさと完成度を極限まで高めたのが本作。
 全パートの全プレイが見せ場みたいな、個性とケレン味の塊でありつつ、同時に常にメロディアスでポップという、まさにプログレらしい盛り盛りマシマシな作品。その上で全体の構成はこれ以上なくドラマチック。奇跡か魔法が起こらないとこの作品は越えられないと思う。

 

 

 

 

 

Emerson Lake & Palmer『Brain Salad Surgery(恐怖の頭脳改革)』1973年

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 名前も怖いしジャケットも怖い(H. R. Gigerによる)。プログレという枠で語られることが少し不憫に思えるような、全ロックファン必聴の作品。「音のジェットコースター」という表現がもしあるとすれば、まさにこの作品にふさわしいだろう。
 目玉は全体の半分以上を占める「Karn Evil(悪の教典)#9」で、もはや常にクライマックスといった様子。ずっとパレードの只中にいるような心地で、消耗するがアホみたいに楽しい。
 はち切れんばかりのテンションを湛えたド派手な音楽で、頭をカラにして楽しむのが一番合うだろう。バカになれる若いうちに出会っておきたいタイプの作品だが、今からでも遅くない、未聴の方はぜひ。

 

 

 

 

 

Henry Cow『Legend』 1973年

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 名作……ではあるけれども、ここで挙げる他の作品たちには及ばない……かもしれないけど、一曲だけ、プログレという枠を超えて魅力的な曲がある。2曲目の「Amygdala」だ。
 例えばSonic Youth「Rain On Tin」のような、楽器のリードをずっと追っていくタイプの楽曲がある。そのスタイルで行くところまで行ったのがこの曲だ。
 バンドの形態でメロディーを煮詰めて濃度を極限まで上げ、エキスのようになった音楽。あるいは「音の迷宮」。アルバム全体の出来としては2ndの方がいい気もするのだが、この一曲のためだけにでも本作を取り上げる価値がある。というかこれ一曲だけで歴史に残ってもいい。もしこれを上回る曲があったら教えてほしい。

 

 

 

 

 

Hatfield And The North『The Rotter's Club』 1975年

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 カンタベリー・ロックの決定版にして最終形。ジャジーなサウンドとコード/ムードをころころと変える複雑かつ瀟洒な楽曲は前提として、メロディーの流麗さで頭一つ抜けている。やはりRichard Sinclairの存在感は大きい。
 音楽における自分のコード偏重趣味を大きく加速させた作品。彼らの良さが分かるようになった頃には自分の感性が変えられている。そういう意味で沼のようなグループなのだが、似たような音楽性で彼らを超えるグループも他になく、沼というか落とし穴というか…。
 これで解散してしまうのもしょうがないと思える完成度の高さ。まず音楽性が端的に現れた#2「Lounging There Trying」あたりを聴いてみて、よければそのままCDを買いましょう(CDが廃れるまでは本作はサブスクに来ない説があります)。

 

 

 

 

 

Jethro Tull『Songs From The Wood』 1977年

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 Ian Andersonのトラッドな歌心とプログレのスタイルをかけ合わせポップにまとめた作品。どこか一つが飛び抜けているわけではない。音楽作品としてとにかく全体の質が高い。
 プログレらしく濃密でありながら難しい印象をまったく与えないのは、楽曲・アレンジがとことん洗練されているからだ。その上でコブシの利いたボーカルを含めパフォーマンスはまさに完璧。非の打ち所がない。
 プログレ全盛期からは少し遅れた時期の作品であり、もし隣に作品を並べるとしたら時代的にSteely Danの『Aja』とかになるのかも。

 

 

 

 

 

 以上でペーパーに書いた分は終わりです。以下は作業の感想とかつらつらと。

 

・結局アメリカ&イギリスのグループですべて埋まってしまった。文フリの会場ではマグマ(フランスのグループ)のグッズを身に着けた人もペーパーを持って行ってくれたのですが。。

 

・「四天王」なんて用語が生まれるだけだけあってやっぱ4枠はそれで埋まっちゃいますね。YesとELPは今回挙げた作品に人気が集中しそうですが、フロイドとクリムゾンは人によって最高傑作がかなり変わってきそうです。

 フロイドは狂気でもよかったのですが、自分の感覚ではあの作品はプログレというよりはより大枠の「ポップ」の枠かな~みたいな印象があります。Nirvanaの『Nevermind』みたいな、ポピュラー音楽全体に影響を与えた作品って感じ。

 クリムゾンは宮殿もREDも最高ですが、ユニークさという指標を採用するなら太陽と戦慄になるのかなと。あとやっぱ「Easy Money」が強くないですか。あんなにリズムがおもしろい音楽他にないです。この曲に絶対に自分の性癖が歪められてる…。自分がRicardo Villalobosとか好きなのってこっから来てるのかもしれない。さらに言えば、『Voodoo』とか暴動などのグルーヴ偏重音楽を楽しむための素地もここで鍛えられたのかも…。

 

・ELPの項でも言ってますが、やっぱ「プログレ」って括りがちょっと枷になってる感はある。ロックファンは全員ここらへんの作品を押さえておいてほしい。どの作品もそれぞれの方向性で極まっている。ジャンルを問わずすごい音楽を探しているなら聴いた方がいい。

 

・小曲が連なった組曲形式の音楽の最高峰として『Abbey Road』を挙げてもよかったな…。今から作り直すとしたらHenry Cowの項と入れ替えるかも。Supper's ReadyよりもUncle MeatよりもAbbey RoadのB面だ。

 

・今の自分が選んだらこうなる、というだけで未来の自分が選んだらまた違った結果になるかもしれません。そんな感じ。楽しかったです。