Moonshine+

個人的に好きな曲たちについて書いています。

Herb Alpert 「Rise」

Herb Alpert は1950年代から活動しているトランペット奏者であり、アメリカのA&Mレコードの会社設立者の一人として知られています。古くは1960年代に「Taste of Honey(蜜の味)」、「Tijuana Taxi(ティファナ・タクシー)」、「The Maltese Melody(マルタ島の砂)」といった曲をヒットさせ、今でもどこかで聴いたことのあるメロディとして頭の片隅に残っていたりします。(「Bittersweet Samba」はオールナイトニッポンのテーマ曲として知られていますよね。)

 

この曲「Rise」は1979年にAlpertが放ったスマッシュヒットで、ビルボードのシングルチャートの1位を獲得しました。1960年代のAlpertのヒット曲はラテン風味のサウンドが特徴でしたが、この曲は当時流行していたフュージョン音楽を意識したもので、さらにそれにディスコビートを加えたような洗練されたサウンドになっています。ダンサブルなリズムに伸びやかなAlpertのトランペットが印象的です。

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そもそもこのようなインストルメンタル音楽がシングルヒットすることは珍しいとは思いますが、この年1979年にはフランク・ミルズインストルメンタル曲「Music Box Dancer(愛のオルゴール)」も全米1位を獲得したりして、当時洋楽聴き始めだった私としてはとても新鮮だった記憶があります。

 

Herb Alpert / Rise

この曲が収録されたアルバム Rise では、タイトル曲と同じタイプの曲だけでなく、ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」をディスコ&ラテンアレンジした曲や、プロコル・ハルムのリーダー ゲイリー・ブルッカーのソロアルバム収録曲「Angelina」のカバーなどバラエティに富んだ曲が収録されています。

 

こちらはヴィデオクリップ。

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Frida 「I Know There's Somthing Going On」

ゲートリバーブを施したドラムサウンドも1980年代を象徴する音でした。エンジニア/プロデューサーのHugh Padghamとジェネシスのドラマー Phil Collinsによってスネアドラム音に適用されたの最初といわれていて、初期ではPeter Gabriel のサードアルバムに収録された「Intruder」(プロデューサーは Steve Lillywhite。この人もゲートリバーブの流行に強く関与しています)や、1981年リリースのPhil Collinsのファーストアルバム Face Value 収録の「In The Air Tonight」で聴くことができるのですが、そのパワフルなスネアドラム音はその後約10年間はポップミュージックのサウンドの主流となりました。

 

ABBAのメンバーだった Frida (Anni-Frid Lyngstad)のソロアルバムとして1982年に発表された Something's Going On に収録された「I Know There's Somthing Going On(邦題:予感)」。Phil CollinsとHugh Padghamによってプロデュースされたこの曲は、ビルボードの全米シングルチャートの13位まで上昇するヒットとなったのですが、この曲のCollinsが演奏するドラムもゲートリバーブサウンドが強く掛けられているのが特徴でした。このサウンド、当時はまだそれほど流行していなかったように思いますが、この頃から大ブームとなった印象があります。

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この曲/アルバムをPhil Collinsに依頼した経緯としては、Frida がCollinsのアルバム Face Value を非常に気に入っていたということからだそうですが、Genesisの1980年のアルバム Duke のレコーディングが、ABBAのメンバーがオーナーとなっていたスウェーデンの Polarスタジオで行われたということもあり、ABBAGenesisの間でコンタクトしやすい状況にあったのも一因のようです。

Frida / Something's Going On

 

こちらはヴィデオクリップ。Frida演じる女性の恋人のカメラマンの男が浮気をしているという設定が、前年離婚していた Frida と重なって見えてしまうような意味深な作りになっています。

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Kim Carnes 「Bette Davis Eyes」

1980年代のポップミュージックの特徴を挙げるとすると、まず出てくるのがシンセサイザーサウンドかなと思います。1970年代後半以降のシンセサイザーの技術的な進歩に伴って、以前はちょっとした味付け程度に使用されていたシンセが曲のサウンドの中心となってくるのがこの時代。ディスコミュージックでは比較的早くシンセサウンドが導入されてきたのですが、普通のポップ/ロックでの使用は少し遅れてきた印象があります。

そんな時代で、シンセを大胆に取り入れて1981年に大ヒットしたのが、Kim Carnesの「Bette Davis Eyes(邦題:ベティ・デイビスの瞳)」です。もちろんCarnesのヴォーカルの魅力もヒットの要因の一つとは思いますが、このサウンドが当時非常に新鮮だったことは大きかったんじゃないかと思います。

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この曲「Bette Davis Eyes」は1975年にシンガーソングライターのジャッキー・デシャノンが作った曲で自身のアルバムにも収録されていますが、ジャズやカントリー色が強いアレンジの曲でした。

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Kim Carnesはこの曲をカバーしたのですが、大幅にアレンジを変更したのが大成功した形です。サウンドの中心となるシンセはシーケンシャルサーキット社のアナログシンセの名機 Prophet 5。あと、もう一つのポイントは2コーラス目に使用されたエレクトリックドラム。Wikipediaによればこちらはシネア社製のものとのこと。とてもリアルとは言えない音ですが、それを逆手にとってインパクトのあるスネアドラム音として使用しています。

こちらはヴィデオクリップ。エレクリックドラムの平手打ちのような音にインスパイアされた演出になっているのが面白いです。Kim Carnesの堂々とした歌いっぷりもかっこいいです。

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Kim Carnes / Mistaken Identity

Tangerine Dream 「Tangram (set 1)」

私が洋楽を本格的に聴き始めたのは1979年頃で、レコードも(小遣いの範囲内で)買うようになった時期なのですが、80年代前半にレコードショップでちょっと気になるアルバムがありました。それがドイツのバンド Tangerine Dream が1980年にリリースしたアルバム Tangram 。収録曲が「Tangram (set 1)」と「Tangram (set 2)」という2曲のみというのにも興味を惹かれたのですが、聴いたことがないアーティストだったのと、後日ラジオで聴いたアルバム Phaedra 収録の曲がかなり抽象的な電子音楽風だったこともあって買うのを躊躇していました。

結局このアルバムを聴いたのはごく最近のこと、それもストリーミング配信なのですが、あの頃先入観として頭にインプットされていたイメージとはちょっと異なる音楽でした。

特に前半の「Tangram (set 1)」がそうなのですが、混沌とした効果音的なものではなく、クリアでメロディアスなサウンドが印象的です。Tangerine Dreamは現在も活動を続ける歴史のあるバンドで、その歴史の中で様々なサウンドの変遷があったらしく、ちょうどこのアルバム Tangram のころはシンセのシーケンスの上に分かりやすいメロディを乗せたサウンドを目指していたようです。20分ほどの長いインスト音楽にもかかわらず聴きやすい曲だと思います。(ただし「set2」は後半やや抽象的になっているかも・・・)

 

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Tangram(タングラム)とは正方形を7分割したパズルのことで、パズルゲームや造形などに使用されるもの。

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Tngerine Dreamのアルバム Tangram も7つのパートから構成されているらしく、2008年に再録音された Tangram 2008 では7つのトラックに分割されています。それによれば「Tangram (set 1)」は4パート構成の組曲となっているようです。ちょうど起承転結のような分かりやすい構成で、時折ニューエイジ音楽っぽい傾向も感じさせます。(ニューエイジ音楽は1980年代に広まったジャンルなのでそれの先駆けのような印象もありますね)

 

Tangerine Dream / Tangram

バンド名であるタンジェリン色のアルバムジャケットも気にっています。

Orchestral Manoeuvres in the Dark 「(Forever) Live And Die」

なぜか最近よく聴いている曲が、このOMDの「(Forever) Live And Die」。

 

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純度の高いエレクトロポップバンドとしてスタートしたOMDサウンドが、徐々にエレクトロ色や実験的な部分が後退していき、それと反比例するかのようにヒットを連発していった時期の曲で、映画「プリティ・イン・ピンク」で使用されたヒット曲「If You Leave」の後にリリースされたシングルでした。

この曲が収録された1986年リリースのアルバム Pacific Age からはバンドメンバーに管楽器奏者を迎え、この曲の間奏部でも大々的にブラスサウンドをフィーチャーしていて、跳ねるリズムとポップなメロディが印象的な曲です。エレポップバンドの面影はかなり薄くなったのですが、それでも彩りとして添えられたシンセやサンプラーの音色がOMDらしさを滲ませていています。

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Orchestral Manoeuvres in the Dark  / Pacific Age

Rick Wakeman 「Yessonata」

超多作で知られる Rick Wakeman の新作アルバム Yessonata。収録曲は2曲のみでそれぞれ20分のピアノ演奏による組曲なのですが、タイトルトラックの「Yessonata」は彼が過去メンバーだったYesの楽曲をメドレー形式で演奏したものです。

過去 Wakemanは自己のアルバムでYesの曲を何度か取りあげて、ピアノバージョンの形で録音したことがあるのですが、今回はちょっと違っていて、彼がYesで演奏した楽曲の一部分をアレンジしたうえで繋ぎ合わせる構成となっています。散りばめられたYesの曲の断片を繋ぎ合わすために新たなフレーズを挿入している関係で、聴いているとふっとYesのフレーズが浮かび上がってくる感じがなかなか面白い仕上がりになっています。

 

今のところ数回ざっと聴いただけですが、使用されているYesの曲は以下のようなものが入っているようです(複数回出てくるものもあり)。ほとんどが1970年代のYesの Wakemanが参加していた曲ですが、「The Meeting」だけは、Anderson Wakeman Bruford Howe名義の曲ですね。

・Awaken
・Long Distance Runaround
・Close To The Edge
・South Side of The Sky
・Wounderous Stories
・Heart of The Sunrise
・And You and I
・Roundabout
・The Meeting (ABWH)

 

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全般的にWakemanのピアノの手癖が前面に出た演奏なので、これが気にならなければBGM的にも楽しめると思います。

 

Rick Wakeman / Yessonata

The Alan Parsons Project 「Don't Answer Me」

「Don't Answer Me」は、The Alan Parsons Project (以下APP)が1984年に放ったヒット曲。APPの代表曲としても知られていますよね。私もこの曲が好きで今でも時々聴いています。

この曲の特徴といえば、フィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」のスタイルを取り入れたオールディーズ風のサウンド。当時、APPがまさかこんな曲を作るとは思っていなかったのでビックリしたのを記憶しています。

元はといえば、APPでParsonsとコンビを組んでいた Eric Woolfson がウォール・オブ・サウンドが好きだったらしく、この曲でこのサウンドを再現したいと思っていたようです。一方のParsonsはフィル・スペクターがプロデュースしたビートルズのアルバム Let It Be でアシスタント・エンジニアを務めていたこともあって、見事にWooflsonの希望に叶うウォール・オブ・サウンドの曲に仕上げています。

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間奏部の Mel Collins によるサックスソロが個人的には特に好きな箇所です。

 

このヴィデオクリップも有名ですよね。

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アルバム Ammonia Avenue に収録されています。

The Alan Parsons Project / Ammonia Avenue

 

ちなみに、2008年に発表されたリイシュー盤には、ボーナストラックとして「Early Rough Mix」が収録されています。ここではウォール・オブ・サウンド特有の深いリバーブを施す前の演奏を聴くことができるのですが、興味深いのは最初の部分にちょっとだけ挿入されたテイク。リズムがシンプルなエイトビートになっていてなんとなくAPPの次作アルバム Vulture Culture に収録された「Sooner or Later」に似ています。

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曲の構成も似ているので、この2曲は兄弟のようなものなのかも知れませんね。

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