町山智浩 映画『否定と肯定』を語る

町山智浩 映画『否定と肯定』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でホロコーストの有無についてイギリスの法廷で争った事実を映画化した作品『否定と肯定』を紹介していました。

(町山智浩)で、今回も結構事情がわからないとわからない映画なんですけども。『否定と肯定』というタイトルで12月8日から日本で公開される映画なんですが。これ、『否定と肯定』というタイトルになっているんですが、原題は『Denial』。だから「否認する」っていうことですね。罪状否認とかの否認っていう言葉ですけども。これはじゃあ、なにを否定しているのか?っていうと、ユダヤ人の大量虐殺。ナチス・ドイツが第二次大戦中にやった、いわゆるホロコーストが「ない」と言っている人と、「ある」と言っている人が裁判で争ったという実際の事件ですね。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)2000年にイギリスの法廷で起こったんですけども、それの映画化です。で、これ主人公はデボラ・E・リップシュタットというアメリカの歴史学者ですね。女性なんですけども。これ、写真に出ていますけども。この人が大学でホロコーストについて授業をやっていたら、そこにいきなりこのおっさんが入ってきたんですよ。デイヴィッド・アーヴィングっていうおっさんなんですけども。これはティモシー・スポールっていう俳優さんの写真なんですけども。この人が演じているデイヴィッド・アーヴィングっていう人が入ってきてですね、「ホロコーストはなかった!」って叫んだんですよ。授業中なんですよ?

(海保知里)ええ。

(町山智浩)それなのに叫んで。「なぜなら、ヒトラーは『ホロコーストをしろ、ユダヤ人を虐殺しろ』という命令書を書いていないからだ! 命令書があるって言うなら、それを持ってこい!」って。で、いきなり札束を出して、「ヒトラーの命令書を持ってきたら、この1000ドルをくれてやる!」ってやったんですよ。

(海保知里)はー。

(町山智浩)で、しかもそこにマスコミを入れているんですよ。

(海保知里)用意周到ですね。

(町山智浩)そう。それで記事になっちゃったんですよ。で、彼女……リップシュタットさんは教授ですけども。それに対してその場でちゃんと反論をできなかったんですね。で、マスコミには「やっぱりホロコーストはなかった」みたいなことを書かれちゃうんですよ。で、その後にこの1000ドルを出すと言ったデイヴィッド・アーヴィングはリップシュタットさんを訴えるんですね。っていうのはリップシュタットさんが『ホロコーストを否定する人たち』(『Denying the Holocaust: the Growing Assault on Truth and Memory』)という本を出していたんですよ。で、その本の中でこのデイヴィッド・アーヴィングを「自分自身の半ユダヤ的な思想のために『ヒトラーはホロコーストをしなかった』という風に事実をねじ曲げて書いた嘘つきだ。歴史家としては全く信頼できない嘘つきだ」という風に書いていたんで、それに対して名誉教授の裁判を起こしたんですよ。

(海保知里)はい、はい。

(町山智浩)これね、デイヴィッド・アーヴィングっていう人はイギリスの人なんですよ。で、イギリスの裁判所に出版社(ペンギンブックス)と作家の彼女を訴えたんですね。で、これで大変な事態になったわけですよ。これね、すごく変な話なんですけど、イギリスの裁判所ってそういうことをやった時に、裁判で訴えた側が普通、アメリカとか日本では立証責任を持っているんですよ。訴えた内容がちゃんと事実に基づいているかどうかっていう立証責任があるのは、原告側なんですね。アメリカや日本では。ところが、なぜかイギリスでは訴えられた方に、被告側に立証責任があるわけですよ。

(山里亮太)ええっ?

イギリスの裁判所

(町山智浩)イギリスは変な法律なんですよ。で、普通その訴える時に訴える内容が裁判にあたらないようなレベルの低いものだったら、やっぱり取り下げられたりするわけですよね。でも、イギリスはそうならないんですよ。訴えられた方が立証しなくちゃいけなくなるんですよ。これ、非常に怖いですよね。「この本は嘘じゃないか!」っつって。でも、はっきりした事実を訴えた側は示さなくてもいいんですよ。とにかく、訴えちゃえばいいんです。

(山里亮太)はー! じゃあ、「嘘じゃないですよ」っていうのを……。

(町山智浩)そう。本を出した方がそれを証明しなきゃいけなくなるんです。

(海保知里)ある意味、いい加減なというか、言ったもの勝ちみたいになっちゃいますよね?

(町山智浩)だからどういう法的な思想が背後にあるかわからないんですけど、イギリスではそうなんですね。で、彼女はアメリカ人なんですけど、イギリスに行ってその裁判をしなきゃならなくなって。これは大変な話題になるんですよ。っていうのは、ホロコーストがあるかないかを裁判で決定するという、非常に珍しい事態が起こったので。で、ホロコースト肯定派と否定派っていうのに分かれて、ずっと歴史をめぐる争い、いわゆる歴史戦を行っている状態なんですね。で、両方がバーッと乗っかってきて大変な騒ぎになっていったんですね。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)で、マスコミだけじゃなくて、たとえばスティーブン・スピルバーグという映画監督は『シンドラーのリスト』っていうホロコーストについての映画を作っていますけども。彼はそのリップシュタットさんがお金がないだろうということで裁判費用を出したりしていますね。

(海保知里)へー!

(町山智浩)で、裁判になってじゃあこのリップシュタットさんはその法廷で彼と戦う事ができるのか? ということで弁護士に相談したら、「あなたは絶対に裁判所で証言台に立ってはいけません」って言われるんですよ。

(海保知里)えっ、なんで?

(町山智浩)「それは、彼の作戦なんです」っていう。どうしてか?っていうと、「彼はこれで裁判に勝つか負けるかよりも、あなたを貶めようとしているんです」と。傍聴席とかにマスコミとかが来ているじゃないですか。日本と違って裁判はかなり向こうはオープンですからね。で、「アーヴィングという男はディベートがめちゃくちゃ得意な男なのでみんなの前であなたを問い詰めて、あなたがしどろもどろになっているところで『ほら、やっぱりホロコーストはなかった! この女は嘘つきだ!』みたいなことで、あなたを貶めようとしているんだ。あなたはそれにはまっては絶対にいけないんです」って弁護団から言われるんです。

(海保知里)はい。

(町山智浩)こういう人っているんですよ。これ、最初のところで「ヒトラーの命令書がないだろ?」って言っていたんですけど、ヒトラーの命令書がないのは有名な話なんですよ。っていうのは、ホロコーストっていうのはナチも悪いと思っていたから。やっちゃいけないことだと思っていたから、一切証拠を残していないんですよ。だから、すごく証明が難しいんですよ。命令書を書いたら、それが証拠として残っちゃうじゃないですか。だから、そんなものは書いてないんですよ。ヒトラーは口頭で言っているんですよ。「ユダヤ人を殺せ」と。っていうのは、ヒトラーも最初はユダヤ人をどうしていいか、わからなかったんですよ。つまり、ナチが人気を集めるためにユダヤ人をスケープゴートにして、「あいつらが悪いんだ。あいつらを収容所に入れろ!」っていう風にして、収容所に入れたのはいいんですけど、その後にどうするかを考えてなかったんです。

(山里亮太)ふーん!

(町山智浩)で、ほとんど放置して、病死とか餓死させたんですけど、それだけじゃ足りないわけですよね。特にハンガリーの方で途中から40万人ぐらいのユダヤ人が収容所に送られると、もう収容所が入らないんですよ。で、どうするか?っていったら、これは殺すしかないとなるんですけど、ただそれ自体は絶対にこれはマズい。これは知れたら……ユダヤ人を見つけ出して収容所に送るということに協力している人たちも、「殺す」っていうことがわかっていたら、そこまでしないですよね。だからなぜ、ヨーロッパ中の人たちが、フランス人もハンガリー人もオーストリア人もドイツ人もみんな、ユダヤ人の収容に協力したのか?って言ったら、殺すとは思っていなかったからです。

(海保知里)そうか!

(町山智浩)「殺す」って言っていなかったから。「殺す」って言ったらたぶん、なかなか協力はできないですよ。でも、言っていないから免罪符を与えられて、ユダヤ人狩りの協力をして(居場所などを)報告していたんですけども。だから、殺すということは秘密にしなきゃいけなかった。で、しかもやりながら、前に『サウルの息子』っていう映画を紹介したんですけども。実態はほとんど外部に漏れないようにしてやっているんですよね。で、戦争に負けそうになると、完全に爆破して証拠隠滅をしている。ただ、実際にそのガス室の手伝いをやらせていたのも、ユダヤ人自身にやらせていたんですよ。

『サウルの息子』

町山智浩 ホロコースト体験映画『サウルの息子』を絶賛する
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(山里亮太)はい。

(町山智浩)あまりにもひどいことだから、ドイツ人もあんまり手を出したくなかったんですよ。だから、殺しもユダヤ人にやらせる。で、その人たちを「ゾンダーコマンド」って言うんですね。で、なぜこのホロコーストが発覚したか、アウシュビッツのガス室が発覚したかというと、このゾンダーコマンドの人たちがこっそりと手紙を書いて、それを瓶に詰めて地面に埋めていたからなんですよ。

(海保知里)ああ、それでわかったんですか!

(町山智浩)そう。ゾンダーコマンドはほとんど殺されているんですけど、脱出した人が証言したりとか、あと隠しカメラを持ち込んで現場の写真を撮ったりして、証拠を残したのでガス室があるということがわかったんですよ。だからそれぐらい証拠隠滅をしたので、出てこないのは当然なんだけども、マスコミとかを集めていきなり、「命令書はないだろ!」ってこのアーヴィングっていう人はやっちゃうんですよ。すると、いま言ったような長い説明をしなきゃならないから、しどろもどろになっちゃうんですね。すごく、俺みたいに口ばっかり達者な人間はいいんですけど。すぐにバーッてケンカできるんですけども(笑)。

(海保・山里)アハハハッ!

(町山智浩)大抵の人はそうじゃないから、そういう風にやらると、しどろもどろになってちゃんとした反応ができないんでやられちゃうんです。だから『朝まで生テレビ』なんかがそうで。あれなんか、見ると本当にそうなんですけども。本当に知識を持っている人とか、本当に論理がある人が勝つんじゃなくて、ディベートが上手い人が勝つでしょう?

(海保知里)ああー。

(町山智浩)橋下徹さんとかね。僕、本当にやった時に思ったけど、「ああ、この人は証拠を固めていって論証するタイプじゃなくて、その場で勝とうとする人だな」って思ったけども。あれは弁護士のやり方なんですよ。法廷は、あれじゃないと勝てないんですよ。

(海保知里)そうなんだー!

(町山智浩)『リーガル・ハイ』ってそうだったじゃないですか。その場のアドリブで勝つっていう。もう倫理的な部分であるとか正義はないじゃないですか。『リーガル・ハイ』って。その場でディベートに勝てりゃいいやっていう世界で。あれは弁護士の、法廷のやり方なんですよ。で、それをやられたらたまらないから、このリップシュタットさんには「証言台に立たないように」って弁護士から言われるんですよ。それだけじゃなくて、生存者の人たち。実際にホロコーストの、アウシュビッツとかに入れられていた人たちもおじいさん、おばあさんになっているんですけど。「否定されたらたまらない。我々は殺されるところだった。だから、私が証言台に立ちます!」って来るんですよ。そしたら、それも弁護士は「絶対に彼らを法廷に、証言台に呼んではダメだ!」って言うんですよ。

(海保知里)えっ、なんで?

(町山智浩)それはね、過去にアーヴィングはそういうホロコーストから生き残った人たちって、入れ墨が入っていたんですよ。番号の。まあ、殺された人たちもみんなそうなんですけど、番号の入れ墨されていたんですよ。人間扱いじゃないですよ。家畜扱いだったんですよ。で、それを出して、「私はアウシュビッツに入れられました」っていうことを証明するんですけど、それに対してアーヴィングは「あのばあさんたちは、いくらもらってあの入れ墨を入れたのかね?」とかって言っていたんですよ。

(海保知里)ええーっ!

(町山智浩)だから「もし、そのおじいさん、おばあさんたちを法廷に出したら、たぶん歳を取って記憶とかが曖昧になっているから、そこのところをアーヴィングは徹底的に突いて、彼らを『カネ目当ての嘘つき野郎』と言って冒涜して。彼らは本当に、地獄から生還したにもかかわらず、みんなの前で本当に傷つけられることになるから。絶対に出してはいけない」って言われるんですよ。

(山里亮太)でもそうなると、戦い方がわからないですよ。

(町山智浩)ものすごく大変な戦いになってくるんですよ。この裁判は。どうしたらいいのか?っていう。そこで出てくるのがね、弁護士さんなんですけども。リチャード・ランプトンっていう弁護士さんが出てくるんですね。

(山里亮太)いい助言をずっとくれている?

(町山智浩)ああ、もう1人の弁護士さんが出てくるんです。その人をトム・ウィルキンソンさんっていう俳優さんが演じているんですけど、この人が本当に名優でね。本当に出てくるだけでいい味を出すんですよ。のんびりした感じの人なんですけど。で、この人がなんかやる気なさそうにその弁護団につくんですけど、だんだんこの人がいい味を出してくるっていう。ちょっと泣けるところがあるところなんですけども。

(海保知里)へー!

(町山智浩)たとえば、この男がどういう風にして「ホロコーストはない」っていうことを言っているのか?っていうと、さっきみたいな「ヒトラーの命令書はない」っていうことを言ったり、あと、ホロコーストが起こったガス室にはガスを送るための空洞になった煙突みたいな柱が4本あったんですね。で、そのことを、ホロコーストが実際にあったんだということを建築の部分から証明しようとしている建築学者が出てくるんですよ。で、「私はガス室を完全に再現して、どういうシステムなのかを証明した」と言っていると、そこに対して、「でもそれだと、4つの柱があるはずなんだけど、爆破されて倒壊した残骸の屋根には4つの穴はないですよね?」っていきなり法廷で言うんですよ。そうすると、その建築学者は「ん、ん、ん? あったっけ? なかったっけ?」ってなっちゃうんですよ。

(海保知里)ああーっ!

(町山智浩)で、そこで「ないですよね? ないですよね? ないですよね? 穴がなければ、ホロコーストもない!」って言うと、その日の夕方の新聞にはもう「ホロコーストはない」って書かれちゃうんですよ。

(海保知里)いやーっ!

(町山智浩)で、その後に弁護団が「写真を調べたら、ちゃんと4つの穴はありました。その時に手元になかったので、わからなかっただけです」って。でも、もう記事は出ちゃいました。そうすると、ずーっと「ホロコーストはない」ということを、「ホロコーストはない」と信じたい人たちの間でグルグルと回っていくんですねっていう。

(山里亮太)上手い! 敵ながら……嫌なやつ!

(町山智浩)だからものすごいそこのへんがね、裁判っていうのは別のものなんですよね。歴史的な論証のし合いっていうのは時間があってゆっくりと互いに反論しあってやっていくものなんですけど、裁判っていうのはその場でのスタンドプレーの戦いんですよ。だからこれでね、またもうひとつ大きな問題があって。「ホロコーストがない」と信じる人が「ホロコーストがない」と言うこと自体は法的には何の問題もないんですよ。

(海保知里)えっ、もう1回、言ってください。ホロコーストが……?

(町山智浩)もし、このアーヴィングっていう人が「ホロコーストはなかった」と本当に信じて、その通りに書いたんだったら、別にそれはなんでもないんですよ。法律的にはそれは言論の自由なんですよ。で、この裁判は「彼は本当は『ホロコーストはある』とわかっているのに、証拠を捏造したり、引用の仕方をねじ曲げたり、歪曲したりすることで、ホロコーストはなかったかのような事実をでっち上げた嘘つきだ」って彼女が書いたので、それに対する名誉毀損で争っているんです。

(海保知里)ああーっ!

(山里亮太)そうか!

(町山智浩)そう。すっごいややこしいことなんですよ。だから、彼が嘘つきであることを証明するためには、たとえばひとつの書類があったとして、その書類から彼がAという部分を引用していて、「ホロコーストはない」と言っているとする。でも、書類の何行か後にはBということが書いてあって、Bには「ホロコーストはある」っていうことが書いてあった場合、そのBを彼が引用しなかったらこれは完全に事実の歪曲なんですよ。

(山里亮太)なるほど。

(町山智浩)彼が参考とした資料の中にホロコーストはあるということを決定づける記述があるのに、彼がそれをわざと隠していたらそれは、彼が嘘つきであることの証明になるんですよ。そういうことを証明しなくてはならない裁判だったんです。

(海保知里)難しいじゃないですか、それ!

(町山智浩)難しいんですよ。だから映画を見ただけじゃ、これはなにを争っているんだろう?っていうのがわからない人が多くて。下手すると、「ホロコーストはなかった」と言うことが許されないという言論の弾圧が行われているって勘違いする人もいると思います。でも、そうではないんです。

(海保知里)違うんですね。

世界中で歴史戦が行われている現代

(町山智浩)違うんです。そこではないんです。だからこれはね、なぜいまここで映画化されて見なければならないのか?っていうのは、これはいま、本当に世界的に歴史戦が行われているんですよ。世界各地で。あらゆる歴史戦が行われているんですよ。だからたとえば、日本だといま問題になっているのは従軍慰安婦の問題ですよね。他にも南京事件の問題だったり、関東大震災の時の朝鮮人虐殺だったりするわけですよ。これはもう、出版社によっても全然違うことが書かれていたりするわけですよね。

(海保知里)はい、はい。

(町山智浩)で、それが本当なのか?って、言ったもの勝ちになっちゃっていて。Aというものを信じる人はもうBということを言う人のことを全く聞かないという状態になっているじゃないですか。だからこれは、いまいちばんひどく進んでいるのがアメリカですね。

(海保知里)ああ、そうなんですか。アメリカが。

(町山智浩)トランプ大統領ですよ。もう、あまりにもいろんなことを言うから、なにが本当だかわからなくなってくるんですよ。もう嘘も本当も……嘘が多いですけども。それをものすごい勢いでやっていて。トランプを信じている人たちは全部それを信じますからね。だからもう、彼自身がセクハラをやったかやらないかっていうこともわからなくなってきていますよね。なにがなんだか。

(海保知里)ちょっと問題になっていましたよね。

(町山智浩)わからなくなってきちゃったじゃないですか。だからこれ、全世界で。そういう風にヨーロッパでも行われているし。本当に続いているフェイクニュースとの戦いみたいなことになっているので。本当に、これが戦いなんだ。こういうものと戦うには、こういうところでやっていくしかないんだというのが、つまり、歴史をねじ曲げている人たちは絶対に自分はねじ曲げているという自覚があるということなんですよ。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)そこを突くことしかないんですよ。で、この原題タイトルが『Denial』っていう、「否認」っていう意味のこれ、本来は心理学用語ですよ。

(海保知里)ああ、そうなんですか。

(町山智浩)目の前に事実があるのを見ても、それを認めないことをそう言うんですよ。だからたとえば、ある女性が好きだったりすると、彼女が「あなたなんか嫌いだから出てこないで!」って言っても、「そう言いながら、彼女は本当は俺のこと好きなんだよな」って。これはまさに、否認(Denial)なんですよ。自分が信じたいことを信じるために、目の前に完全な事実があってもそれを否定することなんですよ。それをしているかどうかなんですよ。歴史戦における戦いの本当の勝ち方っていうのはそこでやっていくしかないんですよ。だからそこで嘘をついているかどうか……大抵の人は自分に嘘をついているんですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)歴史をねじ曲げている人たちはね。だから、そこを突いていくっていう話になっているんで。そうじゃないとね、勘違いして。「これはユダヤの人たちの陰謀の、ホロコーストをでっち上げようとする裁判なんだ!」みたいな、そういう次元じゃないんですよ。そうじゃないんです。嘘をついている人は大抵、自分にも嘘をついているんですよ。本当に経歴詐称とかしている人なんか、典型的にそうですよ。経歴詐称っていうのは自分の歴史を嘘をつくことじゃないですか。

(海保知里)はい、はい。

(町山智浩)それって絶対に嘘だと知っているじゃないですか。その人は。でしょう? だから経歴詐称の人は絶対に僕は信じられないんですよ。

(海保知里)はー!

(町山智浩)完全な嘘だから。絶対に嘘つきだから。根本的な嘘つきだから。だから俺はそういうのと戦い続けているんですが、それは置いておいて……。

(海保知里)町山さん!(笑)。

(山里亮太)うわーっ、その話も聞いておきたいけど……(笑)。

(町山智浩)いま、いっぱいいるんですけどね。本当に経歴詐称の人だけは気をつけてください。自分に嘘をついている人たちは本当の嘘つきです。

(海保知里)うわっ、もう見たくて見たくてたまらない!

(町山智浩)そういうのが『否定と肯定』っていう映画ですね。12月8日から公開ですね。

(海保知里)また今日も本当に面白いお話、ありがとうございました。

(町山智浩)いえいえ、どうもでした。

<書き起こしおわり>

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