雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

禁断の木の実を食べた家電業界

今年のCESはつまらなかった.ディスプレイ系でSHARPの108インチ液晶やSONYの有機ELパネルなど,諸々新しいデバイスは出ていたしホームネットワーク花盛りだったが,そろそろ"Device isn't matter"というか飽きた.これらは確かに着実な進化ではあるが,新しい市場を産む可能性が感じられない.
HDDやフラッシュメモリ,液晶,無線LANなど,PCエコシステムを通じてコモディティ化した部品が次々とAVに取り込まれ今日のデジタル家電市場を彩ったが,これは同時に家電がパソコンの複雑さを纏う過程でもあった.パソコンと比べ入力デバイスが貧弱で,利用者層の幅広い家電にとって,これはパソコン以上に深刻な「死に至る病」である.
残念ながら複雑になったAVをどう単純にするかという問題について,答えを模索しているようにみえるのは家電メーカーやITベンダではなく任天堂やAppleだが,彼らはもとよりCESに出展していない.ネットの「あちら側」から世界を単純化しつつあるGoogleは,昨年デビューしたのに今年はCESに出展するのを見送った.大枚はたいて出展した揚句にハードウェアのニュースに埋もれるよりは,時期をずらして面白いプロトタイプをGoogle Labsにでも掲載し,メディアやブログスフィアを席捲した方が割に合うのだろう.
閑話休題.もともと貧弱で一貫性のない操作性であった家電にパソコン並の複雑な機能を載せたものだから,いまどきのデジタル家電は非常に使いづらいものになっている.にも関わらず,それが誰のためのもので,使いこなせるものかを顧みないまま,彼らは双方向コンテンツやホームネットワークなど,今なお次々と機能を付け足し続けている.
パソコンに対抗し,パソコンにできることを次々と取り入れたことで,パソコンの欠点―操作の複雑さや機能の多さ,ユーザーからは分かりにくい無数の入出力,互換性や相性の問題―まで引き受けてしまった.一方でパソコンの特徴であるサードパーティによる機能拡張は頑なに拒否するものだから,誰も欠点を埋め合わせることができない.
松下とSquare-ENIXとの提携など,家電メーカーがこの状況に手をこまねいているとは考え難い.きっと今回のCESには間に合わなかったのだと信じたい.Nintendo DSやWiiの成功,iPhoneに対する高い関心など,世界は明らかに次なるユーザー体験を視野に入れている.AV機器の機能や性能ではなく体験で勝負するプレーヤは,家電業界,IT業界,ゲーム業界いずれから現れるか,しばらくは目が離せない.