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本当にAIのせい?なぜいま「原発を最大限活用」なのか

青野由利・客員編集委員
再稼働した東北電力の女川原発2号機(手前右)。エネルギー基本計画は原発の最大限活用を盛り込んでいる=宮城県で2024年10月24日、本社ヘリから
再稼働した東北電力の女川原発2号機(手前右)。エネルギー基本計画は原発の最大限活用を盛り込んでいる=宮城県で2024年10月24日、本社ヘリから

 出席した委員のほとんどが、次々と「原発の最大活用」を評価する。まるで、福島第1原発の事故の前に戻ったような錯覚に陥った。

 経済産業省の有識者会議「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」が2024年12月17日開かれ、第7次エネルギー基本計画(エネ基)の原案が公表された。

 驚くのは、福島の原発事故を機に計画に盛り込まれてきた「可能な限り原発依存度を低減する」との文言があとかたもなく消え去ったことだ。

 しかも、「原発を最大限活用する」という文言が新たに盛り込まれている。

 原発維持どころか、原発推進への大きな転換だ。

 あの過酷事故からまだ14年もたっていない。それなのになぜ、これほど軽々しく方針転換してしまえるのだろうか。

安定した脱炭素電源?

 布石となったのは、政府が2022年夏から開催を始めた「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」と、それに基づく「GX基本方針」「GX推進法」だ。

 ここで当時の岸田文雄政権は、不意打ちのように、それまで封印していた「老朽原発の寿命延長」や「原発の建て替え・新増設」を打ち出した。

 背景として挙げられたのが、気候変動対策としての脱炭素と、ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー危機だ。

 今回はそれに加え、「AIの利用拡大」を論拠に原発推進にかじを切ろうとしている。

 「AIに不可欠なデータセンターや半導体製造で電力需要が大幅に拡大する。それに対応できる安定した脱炭素電源は原発だ」という論法だ。

 しかし、これはあまりに短絡的で、今後のエネルギー政策から柔軟性を奪い、硬直化させてしまう恐れがある。

疑うべき「AI普及で電力需要が急増」

 まず、疑うべきはAI普及に伴う電力需要の「急増」だ。原案は2022年に比べ2040年で1~2割増との予測を前提としている。

 しかし、さまざまな機関が示している2040年度の需要予測は、いずれも不確実性が高い。低成長では…

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客員編集委員

東京生まれ。科学ジャーナリスト。好きな分野は生命科学と天文学。著書に「インフルエンザは征圧できるのか」「宇宙はこう考えられている」「ゲノム編集の光と闇」(第35回講談社科学出版賞受賞)など。20年日本記者クラブ賞受賞。