現代貨幣理論(MMT)を考える(1)
日本の財政赤字(長期債務残高)は政府だけで1000兆円、地方も含めると1200兆円を超える。先進国では最悪の水準だ。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う支援策の拡充と国内経済の低迷で、財政赤字の増大は避けられない情勢だ。
日本の財政は大丈夫か――。そう心配していたら「財政赤字なんて気にする必要はない。まだまだ借金は可能だ」という主張を耳にした。現代貨幣理論(MMT)と呼ばれる米国発の新しい経済理論だ。
MMTは日本を救う特効薬となるのか、はたまた日本経済・財政をさらなる危機に追い込む劇薬に過ぎないのか。関係者を訪ね歩き、その実情を探った。
野党議員と財務官僚が論争
今年に入ってMMTが再び注目を浴びることになったのは、高井崇志衆院議員(国民民主・無所属クラブ)が2月6日にアップしたブログがきっかけだ。
タイトルは「『MMT』に対する財務省のあきれた見解」。そこにはMMTをめぐる高井氏と、財務省の角田隆主計局次長の電話でのやり取りがつづられていた。
高井氏「財務省はMMTについてどのように考えているのか?」
角田氏「財務省はMMTをまともな理論だとは思っていない。『実験的にやってみて失敗した』では済まない」
MMTを全否定する財務省の主張に、ネット上では賛成派・反対派双方の声が渦巻いた。議論が過熱したのは、MMTの理論そのものが、現在常識となっている従来の経済・財政学と真っ向から対立するためだ。
現在主流の経済・財政学では、政府の財政赤字は好ましくなく、歳入(税収)と歳出は可能な限り均衡すべきだと考える。
財政赤字は「将来世代への借金のつ…
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