2000億枚普及したCDは原音の美しさを記録できない

CD(Compact Disc)が2007年8月17日をもって製造開始から25周年を迎えたという。世界初のCDが作られてから現在までに累計2000億枚を超えるCDが販売されてきた。CDはそのランダムアクセス性に代表される使い勝手の良さから圧倒的に支持されてきたが、音質が優れているという評価は現在では正しくなく、むしろLPの方が優れていたと言える。

2007年8月15日付エントリ『デジタルコンテンツは現代病を誘発する?』で記載したように、CDが切り捨てる20kHz以上の高周波成分が、原音が持つ美しさや快さなどのコンテンツの魅力を再現する上で極めて重要な役割を担っている知見が得られたからだ。20kHz以上は単独では聴こえないが、20kHz以下の楽音と混ざることによって臨場感や雰囲気や気配として心地良い影響を与える、音楽の魅力を伝える上で決して切り捨ててはならない成分だったのである。

これに関しては某大手メーカーOBからごく最近に聞いた「今だから言える裏話」が興味深い。

某大手メーカーOBからごく最近に聞いた「今だから言える裏話」です。CDが誕生したのは1982年10月ですが、その2年後に大橋力(つとむ)筑波大教授(芸能山城組を率いる音楽家の山城祥司氏でもある)から20kHz以上が必要という論文(日本音響学会視聴覚研究会資料H-84-42,1984年10 月22日)が発表されました。ちょうどCDが普及しはじめた時期なのでオーディオ業界はとても困りました。このため大手のオーディオメーカーたちは非公式に何回か集まって、この対応について協議をし、EIAJにおいても会合が開かれました。結論として、反論すると騒ぎが大きくなりそうなので反論しないことを申し合わせました。結果としてこの策はおおむね成功し、大騒ぎには至りませんでした。そしてCDはLPを駆逐するほどに大成功を収めました。

AHS

CDの誕生月の解釈に若干の違いがあるが、CDのフォーマットの制定の2年後に発見されたハイパーソニック・エフェクトに関して、オーディオ業界でも議論を呼んだことが分かる。今となっては、高周波成分をカットしたことはCDのフォーマット上最大の失敗だったと言えるだろう。2000億枚のCDは原音の持つ魅力を切り捨てたサウンドしか記録できないのだ。

メディアの方で高周波成分が記録できないのであれば、出力段で失われた高周波成分を補完すれば良いという発想は極めて自然なものだ。どうせ高周波成分は耳に聞こえないのだから、可聴音に基づいて上手に欠落した高周波成分を生成してやれば、ハイパーソニック・エフェクトが発現するかもしれない。原音のままである必要はないので(どうせ聞こえないので分からない)、それほど困難無く補完可能であるような印象がある。

高音域修復技術は多く存在するが、FIDELIXAH-120K (アコースティックハーモネーターシステム)は、失われた高周波成分を合成して補うオーディオ機器で、CD、MD、MP3であっても120kHzまでの高音域を再生し、リアルな臨場感を演出するという。ハーモネーターは音楽信号の6kHzから20kHzのレベルに見合うよう、失われた20kHzから120kHzまでの超高域ランダム波をダイナミックに発し、原音のスペクトルに酷似させる。これによって、今まで見えなかった音場や感じなかった演奏のダイナミズムが再現されるらしい。次は修復された高周波成分のスペクトルアナライザの出力結果である。20kHz以上の高周波成分が補完されている様子が分かる。




AH-120Kはオーディオ銘機賞2007の審査委員特別セレクションを受賞しているとのことで、購入者の評価も総じて高いようだ。AH-120K カタログからオーディオ誌の視聴記事の一部を抜粋すると次の通りだ。

レコード芸術2006 年3 月号 (308P)★江川三郎氏のコメント(前略)今回フィデリックスで発表した新製品は通称アコースティック・ハーモネーターと呼び、CDの信号を一般のステレオ装置のスピーカー端子から取って合成している。今回の方法はステレオ装置の信号の流れの途中に装置を割り込ませるのではなく、スピーカー・システム端子に接続するのでオーディオ・マニアの純粋性を重んずる気分に逆らわない。さらに今回の製品は専用アンプと専用のスーパー・トウイーター(テイクT)の使用で120kHzの超高域まで再生する。実際の作業としては、左右のスピーカー端子に結線することとレヴェルあわせだけで済む。この装置のおかげで今まで気付かなかった演奏家のダイナミズムの特徴があらわれる。また演奏の音場感によるリアリティーはレコード愛好家にとってかけがえのないことと言える。 (308P)★編集者のコメント 今回のハーモネーターは、音のグレード・アップ度がかなり高い。「ニア・フィールド・リスニング」をしなくても、部屋の外からでも音の違いが分かるほど。このハーモネーターをつけると音の通りが全然違い、音楽も勢いを増して伸びやかになる。とくにレガートがなめらかになり、デジタルの点だったものが線になったかのように感じた。

AH-120K カタログ

SACDやDVD audioはCDに比べて高音域まで記録可能なフォーマットになっているが、録音時のマイクロフォンの性能等により、実際に高音域まできっちり録音されている例はまだまだ少ない。そのため、出力段で高周波成分を修復するアプローチの方が、メディアを問わず効果を確実に実感できるようだ。

なんてことを考えると、記録メディアにおいて高周波成分をカットするという考えは実は理にかなっていたのかもしれない。記録しなくても出力できるのだから。もちろん適切な出力手段があって初めて成り立つ話なのだが。