議論するならTwitterより2ちゃんねるのほうが向いている
最近のTwitter人気は衰えを知らず、今日も多くのTLで議論が交わされている。しかし、多くの人が感じているように、Twitterはあまり議論に適したサービスではない。むしろ、議論を積み重ねるという観点から見れば、便所の落書きとも揶揄される2ちゃんねるの方が適している部分も多い。本エントリでは、2ちゃんねるとTwitterのアーキテクチャの違いに着目し、その違いが有用な議論を行なう上でどのような効果をもたらすのかについて考えてみたい。
濱野氏は著書『アーキテクチャの生態系――情報環境はいかに設計されてきたか』において、ローレンス・レッシグの提唱した概念『アーキテクチャ』に依拠した上で、ソーシャルウェアを場とみなす立場をとっている。
ここで、アーキテクチャは次のような概念だ。
- 任意の行為の可能性を「物理的」に封じてしまうため、ルールや価値観を被規制者の側に内面化させるプロセスを必要としない。
- その規制(者)の存在を気づかせることなく、被規制者が「無意識」のうちに規制を働きかけることが可能。
たとえば、前者の例としては、飲酒運転を禁止するために、自動車にアルコール検知機能を設置し、呼気にアルコールが検出された場合にはエンジンがかからないようにすることが挙げられる。ユーザはアーキテクチャにより物理的に縛られるため、飲酒運転禁止というルールを破ることが出来ない。
後者の例としては、ファーストフード店の椅子の堅さ、BGMの大きさ、冷房の強さといった例が挙げられる。店側はこれらを巧妙にコントロールすることで、あまり客に長居させず、回転率を上げるようにしている。客は無意識のうちに店側のルールに誘導されているわけだ。これもアーキテクチャのひとつの形だ。
2ちゃんねる、Twitterのアーキテクチャは、ユーザにいったいどのような働きかけをしているのだろうか。
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2ちゃんねるのアーキテクチャ
2ちゃんねるは独特の雰囲気、匿名文化もあり、まともな議論が出来ないと切って捨てる人も散見される。しかし、アーキテクチャに着目すると、不特定多数による議論を成立させるための力学が確かに存在することが分かる*1。
2ちゃんねるアーキテクチャの大きな特徴として各スレッドは1,000レスで強制的に打ち切られ、閲覧不能になるという点が挙げられる。これは実は非常に大きな効果をもつアーキテクチャだ。1,000レスで打ち切られるため、議論参加者にはスレストまでに議論を収束させようという意識が働く。また、次のスレに移ったときに、今までの議論を無にしないために、議論の内容をまとめ、次のスレの先頭に記載するという文化が自然発生的に生まれた。これが議論の結果を凝縮したテンプレだ。
2ちゃんねるにおいて議論が引き継がれる仕組み
各スレでは、終盤が近づくと今までの議論を集約し、合議によってテンプレの作成・改定作業が行われる。このテンプレの存在によって、今まで議論に参加していなかったユーザも、無理なく議論に参加することができ、何度も同じ議論を繰り返すということを防ぐことができる。1,000レスで打ち切るという2ちゃんねるのアーキテクチャは、テンプレという形で議論が積み重なり、受け継がれていく仕組みを作った。
さらにテンプレが肥大化してくると、まとめサイトが作成されることも多く、有用な知の集積所となっている。ユーザはいつ何時でも、テンプレやまとめサイトを見て、今までの議論の結果を吸収し、新たな議論に参加することができるのだ。これは2ちゃんねるのアーキテクチャが生んだ貴重な文化だと言える。
Twitterのアーキテクチャ
一方、Twitterはソーシャルグラフに結びついた顕名性によって、2ちゃんねるに比べて、有意義な議論ができる場と見做される場合が多い。しかし、そのアーキテクチャは必ずしも議論に適しているとは言えない。
Twitterで2ちゃんねるのような不特定多数による議論を行う枠組みとしてハッシュが利用可能だ。しかしハッシュは通常特定のイベントに応じて作成されるものであり、イベントが終わればハッシュも自然消滅する。所望のトピックに適合するアクティブなハッシュがいつも存在するとは限らず、また存在したとしてもそのハッシュを見つけ出すことは現状では困難である。
仮にハッシュが見つかったとしても、多くのユーザが参加するTLに途中から参加することは多くの場合難しい。大部分のクライアントは最新200までのTweetの取得しかサポートしておらず、議論を最初まで遡ることは困難な場合が多いし、取得できたTLも大部分は情報量の無いRTで埋め尽くされていたりする。各ユーザが見るTLにはタイムラグがあり、2ちゃんねるのような引用記号も用意されていないので、話をつなげるためには非公式RTによる引用が不可欠だが、140字制限が邪魔をする。2ちゃんねるのスレストのような、明確な区切りも存在しないため、議論を進め、結論を導き出すモチベーションにも欠ける。結果としてハッシュを使った不特定多数の議論はうまく機能しない場合が多い。
これはTwitterのアーキテクチャが、ユーザがつぶやく為に設計されているからだ。ツィートの文字数は最大140字に制限され、各ツィートの関連性も他人のツィートへの返答(in-reply-to)以外には用意せず、複数のツィートをまたがる長文を記述出来ないようになっている。これは、つぶやくことに対する心理的負荷を下げ、毛づくろい(グルーミング)的なコミュニケーションを活性化させるという効果を生んでいるが、議論を行うという観点では逆効果だ。個々の発言は分断され、不特定多数の発言が入り交じるハッシュTLの中では、各ユーザの一連の発言を把握することを特に困難にしている。ハッシュはあくまでも各個人個人のつぶやきを集めて雰囲気を共有するためのアーキテクチャであって、議論の場を提供するものではない。
Twitterで議論が機能する場合は、むしろ一人か二人のキーマンを中心とした特定少数の議論である。こうした議論は後日Togetterにまとめられることが多く、リアルタイムに議論に参加しなかったユーザも後からそのTLを追うことができるようになっている。Togetterには日々有用なまとめが追加されており、やはりひとつの知の集積所となっている*2。
Togetterによるまとめは積み重ならない
ただ、Togetterにも欠点がある。Togetterは簡単に有用な発言を抜き出してまとめることができるツールだが、基本的には一人が編集を行うものであり作為的な編集が行われることで問題になるケースも散見される。また、あくまでも各ツィートを時系列に並べただけなので、2ちゃんねるのテンプレと比べると、冗長で内容を把握するのに時間がかかってしまう。
そして、最大の欠点は、せっかくTogetterなどにまとめられても、それがTwitter上の別のTLで行われる議論に引き継がれるケースはほとんどないということだ(これはTogetter自体の問題とは言えないが)。2ちゃんねるにはテンプレがあり、前スレ、まとめサイトへの誘導がある。しかし、Twitterにおいてはそのようなものは存在せず、過去の議論の成果が新たな議論において役立てられる機会が少ない。結果として、Twitterにおいて議論は散発的に分散して発生し、個々の議論は基本的に積み重なることがない。こうして、Twitterでは何度も同じ議論が繰り返されることになってしまう。この観点では2ちゃんねるよりも不効率と言えるだろう。
まとめ
以上見てきたように、元来特定のトピックに対する不特定多数による議論を行うことを目的として設計された掲示板である2ちゃんねるは、匿名性というハンデを背負いながらも、効率的に知の集積を続けている。一方で、つぶやきツールとして設計されたTwitterはそもそも議論に向いていない。議論は分散しがちで、2ちゃんねるに比べて知の集積の効率は悪い。議論をするのであれば、議論をするために設計されたアーキテクチャを有するサービスを使うべきなのは明らかだ。
とはいえ、匿名文化の2ちゃんねるはあまりに殺伐としすぎており、まともな議論が行える環境にないと考える人も多い(そして、それはある程度正しい)。うまくTwitterが有するソーシャルグラフを、2ちゃんねる型の掲示板におけるアカウントに結び付けられるような仕組みがあれば良いのかも知れない*3。
議論によって生み出された貴重な成果を広く共有するために、工夫できることはきっとまだたくさんあるはずだ。欠点を克服した新たなサービスの登場に期待したい。
参考文献
- 作者: 濱野智史
- 出版社/メーカー: NTT出版
- 発売日: 2008/10/27
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*1:デジモノに埋もれる日々: 慣習が生み出す情報連鎖 - 2ちゃんねる型スレッド管理のしくみにおいて、2ちゃんねるスレッドの仕組みについて大変わかり易くまとめられている。本エントリを作成する上でも大いに参考にさせて頂いた。ckom氏の有用なエントリに感謝したい。
*2:本エントリに関連するTogetterまとめとしてはTwitterはなぜ2ちゃんねるに比べて使いづらいか?のまとめがある。議論をまとめたものではなく、[twitter:@bobcoffee]氏の一連の考察ツィートをまとめたものであるがやはり非常に参考になった。感謝申し上げたい
*3:TweetShareは、TwitterIDでログインし、定められたテーマに対してディスカッションができるサービスだ。二十歳街道まっしぐらさんが日本語の紹介記事を書いているので参考にしていただきたい。しかし残念なことにほとんど使われていないようだ。また、Twitterの140字制限も残っており、必ずしも議論に最適化されたサービスとは言えない。