爆笑問題の“逆説”

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今から20年以上前、デビュー後わずか2年足らずで爆笑問題は『60分放し飼い』という枠を任されている。実は『LIVE笑ME』でチャンピオンになった特典として与えられ、その番組タイトル通り、60分自由に使ってもいいというものだったという。
そんな経緯で全編が「テレビの攻撃性」をテーマにした爆笑問題のコントという『爆笑問題スペシャル 黒い電波』は1990年3月4日に放送された。


2014年2月4日の『爆笑問題カーボーイ』によると放送されたコントは以下のようなものだったという。

『ドッキリカメラ』

田中は子供を亡くした父親役。幼い子供を事故で亡くし、その子の遺影がある仏壇の前で泣いている。
そこで電話がかかってくる。
「もしもし。○○病院さんですか?」
「実はお子さんが亡くなったのは間違いで別のお子さんでした。おたくのお子さんはケガはされたけど生きています」
「ホントですか!?」
という子供の死が手違いだったという知らせが父親に入る。父親は喜んで病院に行く。
そうするとそこにベッドがあり、看護婦がいて
「タカシー! 良かった助かって良かった」と布団をはくと、そこにはダッチワイフ。
「え?」と父親が呆然としていると、太田が後ろから『ドッキリ』の看板持って入ってくる。
「お父さん、これ見て。生きてるわけないでしょ!」

『金属バッド』

田中は中学生の少年役。部屋にこもっている、今で言えば“引きこもり”のような少年。カレンダーに赤い丸印をして『決行日』と書いて金属バットを用意している。親を金属バットで殺そうとしているのだ。その日が刻々と近づいてきている。
いざ、決行日の日になって金属バットで母親を殺そうと思うと、いつもいる台所にいない。
「え?」と思うとコホンコホンと熱出して寝ている。
「ユウジ、ごめんね、私、ちょっと調子悪くて」 
金属バットを持ったまま少年が「ああ」と言って結局母親におかゆを作ってしまう。

この二つのコント、どちらもブラックな内容だが、太田はある一方を悪趣味すぎてボツになってしまうと思って台本を見せたところ、スタッフからは意外な反応が帰ってきたという。
皆さんはどちらが“悪趣味”だと思っただろうか?


そもそも太田がこの番組のことを思い出したのは『明日、ママがいない』のクレーム騒動だった。
このドラマは「分かりやすすぎるのが欠点」と太田が言うように「見え見えの逆説」が随所に挟まれている。その「見え見えの逆説」の部分が、正面から受け取った人たちから批判を浴びていることになってしまったのだ。
そこで太田は「世間が感じるものと作り手が考えるメッセージの裏腹さ。逆説っていうものが非常に世の中通じにくい」という例として、上にあげた二つのコントへのスタッフからの意外な反応を振り返っている。

太田: 俺は「金属バット」の方は、ボツになるかなって思ったわけ。ていうのはあまりにも悪趣味で。残酷すぎちゃって。「ドッキリ」の方はいいネタだなっと。会議にかけたら「ドッキリ」のほうが問題になるんですよね。「金属バット」のほうは「太田くん、実は優しいところがあるんだね」って評価された。これ、すごく意外だったんだよね。
田中: これ、すっげー覚えてる。
太田: テレビで初めて企画を考えて、コント作った時に俺の意向としては、そこに含んだメッセージとしては「ドッキリ」のほうは「テレビは下手をすればこんなに悪質なことをやりかねないよ」っていう皮肉なんです。言ってみれば「テレビに対する批判」なんです。テレビ側が倫理観を持たないとこうなっちゃいますよっていう茶化しなんですよ。だから俺にとっては「正義」なんですね。悪趣味なテレビ側(テレビの悪趣味な側面)を茶化してるわけだから。かたや金属バットの方は殺そうとしてた奴がお母さんが病気になったらおかゆ作ってやんの、っていう「おい、殺せよ」っていうツッコミなんですよ。これは俺は倫理的にどうかな?って思ってるわけです。ツッコミどころは「おい、看病してんじゃねえよ!殺せよ!」
田中: そういうヒドいコントなんだよね。
太田: そういう意味合いなんですよ。だからそっちが倫理的にダメかな?って思うわけ。で、「ドッキリ」のほうはテレビの自己批判だからいいかなって思うわけ。ところが逆なんだよね。受け止め方が。その時に世間というか大衆は「ああー、こういう受け止め方なんだ」って思った。いわゆる逆説が逆説として捉えられないんだなって最初にテレビで感じた。

『死者予言』

ちなみにこの番組の映像は12年7月9日に放送された『世界まる見え!テレビ特捜部』でも一部が放送されている。
それは番組の最初と最後に前編と後編に分けて放送されたコント「死者予言」だ。
太田扮する"死神預言者ラッキイ忌野"が死者を次々に予言していくというコントだ。
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リポーター(田中): 番組冒頭でラッキイ忌野(太田)さんが死者予言するとおっしゃいました。今夜中に死ぬであろう人を当てるという。そして番組冒頭でラッキイさんは電話帳の中からお二人の名前をランダムにお選びになりました。そしてそれから何事も無く番組は進行していたわけなんですがたった今、そのお二人が亡くなったという知らせが番組に届いたのです。
(会場戸惑いの表情で「えーー」と悲鳴)
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リポーター: ヒラオカ○○さん87歳。死因はくも膜下出血。そしてもうお一人は千葉県にお住まいのタカダ○○さん76歳。死因は急性肝炎ということであります。ラッキイさん、あなたの予言通りになったわけですが…。今のご感想は?
ラッキイ(太田): まああの…予言があたって非常に嬉しいです、いや、嬉しいって言っていいんだか悲しいって言っていいんだかわからないですけどね。
リポーター: そうですね……。この後、亡くなる方の予言をお願いします。
ラッキイ: 分かりました。

その後、ラッキイが予言の儀式をして最後に口から小さいボールを吐き出し、「え?」と戸惑うリポーターに「ジョークです」と言う、リポーター同様「え?」と思ってしまう落とし方で『世界まる見え!テレビ特捜部』の紹介映像は終わる。番組では映像紹介の前に「ほぼノーカットで」と言っていることから、おそらくはオープニングの「死者予言(前編)」のオチはこの意味不明なものなのだろう。
もちろん、このコントには続きがある。スタジオではこのコントについて以下のように振り返っている。

所: あれはもっとお客さんが笑うはず?
田中: お客さんも一緒にコントしているんです。
太田: 仕込みなんです。
所: ああいう暗い顔をしてくれと。
太田: 僕が今夜死ぬ人をいちいち予言してそれがバタバタ死んでいって最後地球が絶滅するっていうコントなんですよ(笑)。

「ブラック」さは強烈だが、同時にある種の青臭さも強く感じるコントである。

デフォルメの仕方と大衆性

前出の『爆笑問題カーボーイ』でもそういう“逆説”が通じないのは「最終的には書き手の技術の問題」ではないかと太田は振り返っている。

結局、逆説が通じないのも書き手の技術不足だったんだって。俺のあの時の「ドッキリ」コントが「ヒドいことするね」って言われて、「金属バッド」が「太田くん、優しい」って言われちゃうのは、あれを「優しい」って思われちゃうくらいのことしか書けてなかったんだなって思うんですよ。もうちょっとデフォルメの仕方が違うんだって思うんです。
それが(『明日、ママがいない』にとって)やっぱりテレビでゴールデンで番組をやるってことの洗礼なんだよな。あの枠で脚本を書けるっていうのはよっぽどの立場だし、それなりの腕がなきゃダメだし。だけどそれには文句を言わせないくらいのわかりやすさ。もっと分かりやすくしないとダメっていうのが俺はテレビはまだまだ信頼できるなって結論に達したってことです。
たとえば村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』なんてもっとエグいですよ。捨てられた子どもたちがテロを起こすわけですから。それは倫理的にはもっとエグいことやってますよ。だからテレビっていうのは逆にそこまではやらなくていい分野だって俺は思う。つまり大衆性がものさしになっていく。そこがテレビの良さだと思う。