オリエンタルラジオという実験

11月15日、22日に放送された「ブラマヨとゆかいな仲間たち」のゲストはオリエンタルラジオ。前回のエントリと同じコーナーからになってしまうがあまりにも凄かったので、こちらも記録しておきたい。
中田は収録前、スタッフから「本音でお願いします」と言われ「本音になり過ぎたらあまり笑いにならないかもしれませんよ」と返すと「笑い、いりません」って答えられたというようにあまりにも率直に本音を明かしていた。
(というわけで長くなります。)


過去最高レギュラー本数19本、ゴールデンに冠番組を同時に3本持っていたという全盛期。当時の心境を番組終盤で中田はこう語る。

中田: 正直なこと言うと、どういう感覚なのかっていうと、やっぱり不安ですよね。デビューしてすぐにバーンってF1カーに乗ったような時速300キロで首がもげそうな感じなんですよ。「ムチ打ち!ムチ打ち!」っていう(笑)。
小杉: 免許取り立てやもんね。
中田: でも、それですごい分かったことがあって、1年目とか2年目で「あなたがMCです。ゴールデンです」っていって成立する世界じゃない!ってことが逆に証明されたわけじゃないですか。僕の中での整理の仕方なんですけどやっぱり何か、「吉本興業の中での実験」だったんじゃないかなって思うんですよね。テクニックもキャリアもなくても、それで成立するんだったらビジネスモデルとしては正解じゃないですか。コストがかかってなくてパフォーマンスが得れるわけですから。これが成立したらこれをどんどんやっていくつもりだったんだと思うんです。だけど、それが出来なかった! 促成栽培が出来るもんじゃない。それが芸人なんだ、っていうのを逆説的に証明したのがオリエンタルラジオなんです!

聞いているブラマヨの二人が呆然とし無言になってしまうほどの冷静さ、客観性が逆に当時の深すぎる苦悩を現していて、あまりにも辛い。

ブラマヨはオリラジをどう見ていたのか?

番組冒頭でオリエンタルラジオはブラックマヨネーズに嫌われてるんじゃないか、と二人に問う。
どの先輩も寵愛する「先輩キラー」の藤森になかなか心を開いてくれない先輩の代表格がブラマヨなんだ、と。はんにゃの金田を可愛がっているのを見て藤森は「嫉妬で頭がおかしくなりそう」だと。
さらに中田は「嫉妬の目すら持ってくれない」のではないかと言う。

中田: これちょっと複雑な言い方になっちゃうんですけど。僕ら早めにテレビ出させてもらったんですよ。そのことによって逆風ですとか「なんやねん、お前ら」とか、そういう雰囲気もなきにしもあらずだったんですね。でも、ブラックマヨネーズさんは裏でそういう空気出してきたことがないので、凄く優しい先輩である反面、僕の客観的分析ですけども、ブラックマヨネーズさんは僕らのことを眼中に入れてないだろうな、ってあるんです。
小杉: お前も考えすぎちゃう?(笑)
中田: 慎吾くんは「嫌われてるんじゃないか」って思ってますけど、逆に僕は、「嫌われてるんじゃないよ、眼中に無いんだよ」ってところをぶつけてみたいなって思って。
藤森: すみません、ネガティブで(笑)。
小杉: いや、でも聞いてみな分からへんよな。
吉田: そんなん思ってるって思わへんかった。(俺らが)仕事ないときから(オリラジは)テレビ出てたやん、「武勇伝」って。あんなんホンマ凄いなって思ってたもん。結構メロディもイイやんか。
藤森: え、あれをナンバーとして聞いてくれたんですか?(笑)
小杉: ホンマやで。お前らと喋る前から、(吉田は)あれ歌詞がええって言っうとったんやで。
中田: へえー。
小杉: それの嫉妬的なもんがないっていうのは俺らが何時間考えても思いつかないことやってる系統が違う成功者やから、ただ単純に凄いな、とかカッコいいなとか思って見てた。

中田は番組終盤でも「あの頃、実際問題どう思われてるんだろう?っていうのがあったんですよ。冠(番組)増え始めた。どんなヤツやねん? キャリア2年目だ、それを聞いたときにブラックマヨネーズさんはどう思ってたんだろう」と疑問に思っていたという。「リアルなとこ言ってほしいんです」と訊ねる。

小杉: 俺らがよう言うてたのは「2年目で俺らがあれやれるかって言うたら絶対やれへんな」っていう話をしてた。全国ネットで人前出てちゃんと喋れるかって言ったら普通出来ひんから、やっぱ肝据わってるなって。

藤森慎吾がチャラくなった理由

小杉は、オリラジとブラマヨの2人の性格のバランスが似ているんじゃないかと言い、それに関して聞きたいことがあると話す。

小杉: (中田は吉田と一緒で)パーっとしてへんやん。気楽に何でもわーって感じじゃないやん。だから、すごい細かいところの指示まで出るやろ?
藤森: 出ます。
小杉: ネタにしても。俺らも組み直しやから、コンビ。「なんでやねん」とか言う時に「いや、そこはなんでやんって言われたらテンポがあがらへんから小っちゃい『いや』入れてくれ」って。入れて次の日「いや」入れたら「その『いや』いらんねん」みたいな。日々求めるもんが変わってて細かくて「いィーー」ってなって。だから俺、毛薄なったり太ってきたのって吉田と組んでからやねん。
藤森: ストレスで?
小杉: 過度のストレスで!
吉田: ほなら、そうなったのは細かすぎる俺のせいやって言ってるわけやろ? 俺とあっちゃんがよう似てるって言ったよな? 俺みたいな相方を持ってる藤森はなんであんなエエ感じをキープしてるの?
小杉: そやねん! だからそれが聞きたいの! 細かい注文を受けてるはずやのにそのへんのストレスをどう処理してんの?
藤森: ヤダなーって思いますけど、僕、「あァーー」ってなったらそのまま渋谷のクラブ行って踊ります。
小杉: (笑)。それ無理やー。
中田: 小杉さんの薄毛に加速がついたのは吉田さんのせいかもしれないですけど、慎吾のチャラさに加速がついたのは俺のせいかも(笑)。

まだブラマヨが大阪でしか仕事が無い頃、オリラジはすでに東京で売れていた。
ブラマヨがやっている大阪の番組で吉田が体育教官みたいな格好で、竹刀持って「東京で売れてる後輩」オリエンタルラジオにやっかみに行こうというロケがあった。

吉田: まずあの時に俺が思ったのは、竹刀叩きながら「すっごい絡みやすいな」って(笑)。で、カバン見せろって言って開けたら手帳が入ってて「何曜日爆笑問題さんのラジオ何時から、何曜日ナインティナインのラジオ何時から」って。「これ何?」って聞いたら(藤森が)「(ラジオを)聴いて勉強してるんです」って。で、僕ら竹刀持って「そら売れるよな!」って言って帰った(笑)。ああいう時ってすごい真面目だったイメージなんですよ、藤森は。(今の藤森に)ストレスとか貯まらへんの?打ち合わせとかで。
中田: どうですかねえ。彼の良い所と悪い所っていうのは長年見てきてリアルな話、表裏一体なんですよね。だから悪い所と思ってみれば慎吾くんって、軽薄でチャラくて、何も考えてない、ただただ楽しいことが好き。で、逆に良い所はどこだろうって探したら、軽薄でチャラくて、何も考えてなくてどうしようもない所なんですよ。それを受け入れてくれる人と、それはあかんやろってなっちゃう人がいるんですね。
藤森: 当時、自分の中でも無理してたのかなっていうのはありますね。
一同: (笑)。
藤森: ホントに芸人になる直前まで大学でテニスサークルをやってたもんですから、そういう人間だったんで急に「お前、ツッコミで仕切り進行やれ」って言われて……。そんなん経て経て、6年経ったら意外と大学時代の僕がまた出てきたな、みたいな感じで。だから、僕、(昔の真面目だった頃より)これが本来だったりするんですよ(笑)。無理して、こうとかじゃないんですよ。
小杉: なるほど! 分かりやすかった、今の。
藤森: だから、今はすごっく楽しんです、生きてて!

吉本興業の実験

そして全盛期の頃の心境を問われ、中田はこのエントリの冒頭に引用したように「吉本興業の中での実験だったんじゃないか」と語った。
さらに中田は続ける。

中田: だらか、そん時すごく辛かったです。(番組が)増えていくとき。怖かったですね。「じゃあ、お前らで」ってなってもやっぱ周りのスタッフとしても僕らのことを面白いと思って「じゃあ、オリエンタルラジオで」って言ってくれてるわけじゃないですし……、何か孤独だったんですよ。
小杉: え、そんなことまで感じて仕事してたん?
中田: そう思いますよ。
小杉: バリバリ辛いやろ、そんなん。
中田: 「なんでお前らそこにいんの?」って思われながらやってる感じが……、
小杉: ストイックに考えすぎてるからそういうふうに見えるんじゃないの?
中田: ですかねえ? その当時は全員敵だと思ってたんですよ。
小杉: えぇー、、、(唖然)。
中田: あの頃はもう、誰が俺を騙そうとしてるんだ、とか、誰が俺を憎んでるんだ、とか思うばっかりで。
吉田: 130キロしか投げられへんの分かってるけど、160キロ求められてるような感じやろ?
中田: そうですね。
            (略)
吉田: 色々与えられて、これも無理や、怖い、怖いっていう状態やったわけでしょ? それが無くなります、無くなりますっていうのはホッとするっていうわけでもないの?
中田: ホッとするでもないですね。そこはまだ、覚悟できてなかったというか、怖いけど、落ちるのもっと怖いって。そんな中でマネージャーに呼び出されて「ああ、これ終わるわ」みたいに話をされて。で、パッと見渡したら全部の城が炎上してるみたいな(笑)。

“吉本興業の実験”という得難い経験の果てに、彼らは深いトラウマを抱えたと共に、一方で逆に大きな夢を持つことができたと中田は振り返る。

中田: 逆に僕はホッとしたんですよね。これでこのまま「お前ら、冠だ、ゴールデンや」って言われて、そのまま視聴率もバーンって高くてずーっと続いてたとしたら俺、この世界に夢持ってなかったと思うんですよ。「え?何これ」って思うじゃないですか。僕らが夢見た世界、うわ、カッコいいなって憧れたお笑いの世界って、そんなポンってゴールデン行けって言われて大人の力でジャンボジェットで飛び続けられるとしたら「僕らってなんなの?」って多分、目の前が真っ白になってたと思うんですよね。だけど、(失敗したから)逆に夢あるわって。だっていくら評価されなくても、されても本物しか残らない世界なんですよ! このテレビって。なんであいつおんねんって人が何年もいれる世界じゃないってことが証明されたんだとしたら、じゃあ、俺がんばってもう一回やろうよって思えたんです!


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