2020年代に入って半年以上が経過しましたが、なんとか今年中にと思っていた2010年代のベストアルバム記事がようやく(一応)書けたのでアップします。最初は短評つきで100選と考えていたのですが、一気に評まで書き上げるのは時間的に無理と判断し、まずは作品の選定だけでの公開です(一作だけ評あり)。これらの作品はこれから聴き返すことも度々あると思いますし、個々の評はそういったタイミングにでも少しずつ書いていくつもりです。
選定に関してはジャンル、アーティスト、レーベル、リリース年などの偏りを無くそうというようなことはなるべく意識せず、むしろ自分の傾向や聴いてきたものの経路を掴むためにそういった偏りが表れてくれることを期待しながら選びました。結果的にいろいろな意味で偏り(≒好み)はしっかり出ているかなと思います。
選ぶ対象は基本的に2010年代に制作されリリースされた作品としているので、リリースがこの年代であってもいわゆる発掘音源的なものやリイシューは除外しています(ただしライブ録音の作品でいくつか録音がゼロ年代のものがあります……大目に見てください)。
作品はアーティスト名のアルファベット順(コンピレーションは最後)に並べてあり、順位などはありません。またアルバムタイトルの後の[ ]にレーベル、( )にはリリース年を記載しています。
アートワークには試聴や購入のリンクを貼っているので興味あるものは是非チェックしてみてください。
末尾にプレイリストもあります(2/3くらいはサブスクにありました)。
ではどうぞ。
・Akira Rabelais『cxvi』[Boomkat Editions] (2019)
・Alio Die & Zeit『Il Giardino Ermeneutico』[Hic Sunt Leones] (2010)
・Andy Stott『Luxury Problems』[Modern Love] (2012)
・Angharad Davies / Axel Dörner『A.D.』[Another Timbre] (2010)
・Antoine Beuger『Cantor Quartets』[Another Timbre] (2013)
・Apartment House『Laurence Crane: Chamber Works 1992–2009』[Another Timbre] (2014)
・Apartment House & Quatuor Bozzini『Linda Catlin Smith: Drifter』[Another Timbre] (2017)
・Bellows『Handcut』[Biplano] (2010)
・Ben Vida『Reducing Tempo To Zero』[Shelter Press] (2019)
・Carl Michael von Hausswolff『Squared』[Auf Abwegen] (2015)
電子音楽/ドローン。スウェーデンの電子音楽/実験音楽の大家による2015年作。本作は私にとっては何と言っても1曲目の30分以上に及ぶドローン作品「Circulating Over Square Waters」です。私はドローン・ミュージックに対してはラ・モンテ・ヤングなどの古典ではなくゼロ年代後半辺りのアンビエント・ドローン作品によってその魅力を知った人間であり、故にそういった音楽(ひいてはテクスチャーを楽しむような音響作品)に対してはアンビエント的に、例えば寝る時にかけておいて意識の端に存在を感じるような接し方で触れていたのですが、この作品に出会った2015年はそういった接し方で得られるものに行き詰まりを感じ始めていた(もしくはそういう快楽に飽きてきた)タイミングだったように思います。そしてそのようなタイミングで触れた本作の「Circulating Over Square Waters」における鑑賞者をその場に強力に(それこそ身じろぎ一つ許さない程に)縛り付けるような磁場を現出させる音の在り方は、私にとってはアンビエント的な態度とは異なる電子音楽との接し方を、それによって得られる価値の素晴らしさを、一発の体験で深く刻み込むものでありました。2015年というこの年代の中間地点において、私は初めて電子音楽を鑑賞できるようになったのかもしれません。事実これ以降、私はそれまであまり楽しめなかった類の電子音楽(例えばミュージック・コンクレートなど)に対して、徐々にではありますが確実に要所を掴んで接することができるようになってきました。今現在の私のリスナーとしての態度の非常に大きな部分は、この作品との出会いに端を発しているといっても全く過言ではありません。
・Cassius Select『Crook EP』[Unknown To The Unknown] (2015)
・Chiyoko Szlavnics『During A Lifetime』[Another Timbre] (2017)
・Chris Watson『In St Cuthbert's Time』[Touch] (2013)
・Colin Vallon Trio『Le Vent』[ECM] (2014)
・Craig Taborn『Avenging Angel』[ECM] (2011)
・Dan Weiss『Starebaby』[Pi Recordings] (2018)
・Demdike Stare『Passion』[Modern Love] (2018)
・Eli Keszler『Last Signs of Speed』[Empty Editions] (2016)
・Evala『Acoustic Bend』[port] (2010)
・France Jobin『The Illusion Of Infinitesimal』[Baskaru] (2014)
・Francisco Meirino『Riots』[Esoteric Personalities] (2015)
・Grouper『Ruins』[Kranky] (2014)
・Guillermo Klein | Los Guachos『CaRREra』[Sunnyside] (2012)
・Hakobune『Love Knows Where』[Constellation Tatsu] (2015)
・Haptic『Abeyance』[Entr'acte] (2013)
・Henry Threadgill『Tomorrow Sunny / The Revelry, Spp』[Pi Recordings] (2012)
・Hisato Higuchi『Kietsuzukeru Echo』[Root Strata] (2017)
・Ingrid Laublock Anti-House『Roulette Of The Cradle』[Intakt] (2015)
・The International Nothing『The Dark Side Of Success』[Ftarri] (2014)
・The Internet『Ego Death』[Columbia] (2015)
・Jakob Ullmann『Fremde Zeit - Addendum』[Edition RZ] (2012)
・Jana Winderen『Spring Bloom in the Marginal Ice Zone』[Touch] (2018)
・Jim O'Rourke『sleep like it's winter』[Newhere Music] (2018)
・Joe Panzner『Tedium』[Noisendo] (2014)
・Jóhann Jóhannsson『Sicario』[Varèse Sarabande] (2015)
・Jóhann Jóhannsson『Arrival』[Deutsche Grammophon] (2016)
・John Butcher『Nigemizu』[Uchimizu Records] (2015)
・John Escreet『Sabotage and Celebration』[Whirlwind] (2013)
・John Tilbury, Sebastian Lexer『Lost Daylight』[Another Timbre] (2010)
・Joshua Bonnetta『American Colour』[Senufo Editions] (2012)
・Kris Davis『Diatom Ribbons』[Pyroclastic Records] (2019)
・Kassel Jaeger & Jim O'Rourke『Wakes on Cerulean』[Editions Mego] (2017)
・KTL『V』[Editions Mego] (2012)
・Lee Gamble『Koch』[PAN] (2014)
・Leon Vynehall『Nothing Is Still』[Ninja Tune] (2018)
・Logos『Cold Mission』[Keysound Recordings] (2013)
・Louis Cole『Time』[Brainfeeder] (2018)
・Lucy『Churches Schools and Guns』 [Stroboscopic Artefacts] (2014)
・Main Attrakionz『Two Man Horror Film』[Not On Label, Mixtape] (2011)
・Mark Fell『Periodic Orbits Of A Dynamic System Related To A Knot』[Editions Mego] (2011)
・Martha Argerich, Christian Arming; New Japan Philharmonic『Schumann / Chopin: Piano Concertos』[KAJIMOTO](2011)
・Mary Halvorson Quintet『Burning Bridges』[Firehouse 12] (2012)
・Matana Roberts『Coin Coin Chapter Three: River Run Thee』[Constellation] (2015)
・Matthew Stevens『Preverbal』[Ropeadope] (2017)
・Meitei『Komachi』[Métron Records] (2019)
・Merzouga『52º46' North 13º29' East - Music For Wax-Cylinders』[Gruenrekorder] (2013)
・Me'Shell NdegéOcello『Comet, Come To Me』[Naïve] (2014)
・Mika Vainio『Lydspor One & Two』[Moog Recordings Library] (2018)
・Miklós Perényi『Britten / Bach / Ligeti』[ECM New Series] (2012)
・Moe and ghosts × 空間現代『RAP PHENOMENON』[HEADZ] (2016)
・The Necks『Mindset』[Fish Of Milk] (2011)
・Oren Ambarchi『Quixotism』[Editions Mego] (2014)
・Peter Evans『Lifeblood』[More Is More Records] (2016)
・Raphael Malfliet『Noumenon』[Ruweh Records] (2016)
・Richard Chartier『Transparency (performance)』[LINE] (2011)
・Ropes『dialogue』[THROAT RECORDS] (2015)
・Ryo Murakami『Sea』[Depth Of Decay] (2018)
・Sarah Davachi『August Harp』[Cassauna] (2014)
・Stephan Mathieu『A Static Place』[12k] (2011)
・Stephen Cornford『Empty Reels』[Vitrine] (2015)
・Steve Lehman Octet『Mise En Abîme』[Pi Recordings] (2014)
・Steve Peters & Steve Roden『Not A Leaf Remains As It Was』[12k] (2012)
・stilllife『夜のカタログ』[Ethnorth Gallery] (2014)
・STUFF.『STUFF.』[Buteo Buteo] (2015)
・Sunn O)))『Life Metal』[Southern Lord] (2019)
・Sylvain Chauveau & Stephan Mathieu『Palimpsest』[Schwebung] (2012)
・Tanaka/Lindvall/Wallumrød『3 pianos』[Nakama Records] (2016)
・Taylor Deupree『Faint』[12k] (2012)
・Thomas Ankersmit『Live in Utrecht』[Ash International] (2010)
・Thomas Brinkmann『A Certain Degree Of Stasis』[Frozen Reeds] (2016)
・Tigran Hamasyan / Arve Henriksen / Eivind Aarset / Jan Bang『Atmosphères』[ECM] (2016)
・tricot『A N D』[BAKURETSU RECORDS] (2015)
・Tyshawn Sorey『Pillars』[Firehouse 12] (2018)
・Valerio Tricoli『Vixit』[Second Sleep] (2016)
・Vanessa Amara『Like All Mornings』[Posh Isolation] (2017)
・Vijay Iyer Trio『Accelerando』[ACT] (2012)
・Vince staples『FM!』[Def Jam Recordings] (2018)
・Voices From The Lake『Voices From The Lake』[Prologue] (2012)
・Wanda Group『Central Heating』[Opal Tapes] (2016)
・William Basinski『Cascade』[2062] (2015)
・Xopher Davidson & Zbigniew Karkowski『Processor』[Sub Rosa] (2013)
・Yann Novak『Ornamentation』[Touch] (2016)
・Yuji Takahashi and Kazuhisa Uchihashi『U9』[Innocent Records] (2012)
・5lack『情』[Not On Label, Mixtape] (2012)
・今井和雄『the seasons ill』[Hitorri] (2017)
・毛玉『新しい生活』[HEADZ] (2014)
・田我流『Ride On Time』[Mary Joy Recordings] (2019)
・徳永将豪 高岡大祐『Duo / Solo』[solosolo] (2013)
・橋爪亮督グループ『Acoustic Fluid』[tactilesound records] (2012)
・『Wandelweiser und so weiter』[Another Timbre] (2012)
〈あとがき〉
最後までご覧いただきありがとうございます。ここからは総論みたいなものを少しだけ。
2010年代というのは1990年1月生まれの私にとってはそのまま丸ごと20代にあたるので、これらの作品は20代に気に入って聴いていた音源リストでもあります。
この記事ではアルファベット順に並べているため意識し難いかもしれませんが、リリース年で作品数を見ていくと2012年が17作、2014年が14作、2015年が14作といった辺りが特に多く、これらの年は自分にとって豊作だったのかなと思います(特に2012年凄い)。作品を選んで俯瞰的に見る前のなんとなくの印象では、記憶に新しいこともあってか2018年(10作)、2019年(6作)はもっと豊作な印象あったんですが、選んでいく中でどれを残してどれを外すかとなった場合に、リリースされてから時間が経ってる作品の場合は何度も聴き返してはそれまでに気付いていなかった良さを見つけて再度ハマるみたいなことを繰り返してるものが多く、今回はそういったものを優先的に残したくなったのでその段階でいくつか外した影響が出ているかなと思います。特に直近の2019年の作品なんかはそういった意味では自分の中でまだ “一周目” な作品が多く、2010年代前半の作品と比べると新鮮さは格段にある一方で作品から得たもの、記憶や思い入れなどの厚みにギャップはどうしても感じるので、このような主観的なセレクトであっても判断は難しいところでした。
レーベルの偏りに目を向けてみると最も多いのがAnother Timbreの7作、次いでEditions MegoとECM(New Series含む)の4作、12kとTouch、Pi Recordingsの3作といった具合です。これらのレーベルは他にも入れようと思って数の関係で外した作品がいくつもありましたし、必ずしも変わらぬ熱量で追い続けたわけではないものの、自分にとって重要なレーベルであることは確実です。他にもShelter Press、PAN、Modern Love辺りは結果的にそれほど多く入ってはいませんが入れようか迷う素晴らしい作品が多いレーベルでした。
Another Timbreが飛び抜けて多くなってしまうのは一時期めちゃくちゃハマってた(2012~2015年の途中辺りまで新しく作品出る度ほぼ全部買ってた)こともあってまあしょうがないです。このレーベルの音楽に対して自分はかなり歪んだ楽しみ方をしている自覚があるので、真正面からの愛好家とはとてもいえないんですが、その辺りについては短評書く時にでも言及します。
ジャンル(?)でいうとなかなかカウントは難しいんですが、多分ドローンとかアンビエントとかビートのない電子音楽とかそういうのが多いんじゃないかと思います。まあ当然ですね。
あと掲載作にはリリース年を振っていますが、もちろんそれらすべてをリリースされたタイミングで聴いたわけではなく、何年も後になってから存在を知ったものだったり、リリース時に聴いたけどよくわからなくて後年に良さに気付いたり、みたいなものも沢山あります(当然ですが念のため)。
10年という長いスパンで聴いてきたものを振り返りまとめるといった作業は初めてだったんですが、いろいろなところで難しさは感じながらも単純にそうない(というか10年に一度しかない)機会だったのでとても面白かったです。特に2010年代前半のものをしっかり思い返すのはこの時期が自分のリスナーとしての嗜好を形作る時期だったんだなと改めて意識させられることの連続でした。しっかり選ぼうと思うと時間も労力も結構かかりますし正直面倒だと思いますが、これ読んでくれた人は余裕あったらやってみてほしいなーとは思います。特に年齢が近い方のとか見てみたいです。
〈プレイリスト〉